2週間と200余年と。出会って変わったふたりの始まり。~ハロウィンダンションで

なかむ楽

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02. ハロウィン仮装でパリピになろう!②

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「男性向けはタキシードや着ぐるみがあるのに、女性向けは布面積が小さいんだよ」

 ハロウィン特別フィールド・デルタの出口……イプシロンの前にある村の防具屋でフィーリーは妖精に聞いた。

「ハロウィンですから」

 いやいや、なにがハロウィンですから、だよ。こんなドスケベな仮装は子供たちに見せられんし、着させられない。

「ほかにないのかって聞いてんだけど?」

「これはどうです? 布面積はありますよ」

 出されたのが、サキュバスじゃないかとを目を疑う布面積の紐だった。いや、サキュバスだってこんな紐だけの服を着ない。
「もっと布面積を多くしろや!」「えぇ、めんどくさいな、お客さん」というやり取りを何度かして、ようやくゲットしたのが、悪魔装備。

 黒いエナメルのオペラグローブ。同素材のロングブーツに蜘蛛の巣柄のガーターストッキング。ガーターベルトの後ろには悪魔のしっぽ。コウモリ翼が横についているミニミニショーツ。おっぱいの半分はモロ出しのブラジャー。ご丁寧にブラの後ろにはコウモリ翼がついている。頭には悪魔っぽい黒いツノカチューシャ。この以上である。
 これに低級吸血鬼が着ていそうなマントを手渡された。
 これにいつもの魔法の腰鞄ウエストポーチを腰に着けて、真夜中の焔という名の大剣を背負う。
 膝丈のマントの下さえ見られなければ大丈夫。だが、剣を振ればモロ出し不可避である。

(あとは……)

 村の宿屋でレベルが高そうで人が良さそうなヒーラー職を探す。防具が布だから、当然ケガをする。攻撃呪文が得意だが、神聖術になる治癒呪文は初級のものしか会得してないだけに、たいへん心もとない。これだから魔法剣士は器用貧乏と呼ばれるのだ。
 いくら探しても、こんなところにソロのヒーラーがいるはずない。だいたいが、どこかのパーティの白魔法使い、悪魔祓い、修行僧、治癒師や薬師だった。しかも仮装していて見分けがつきにくい。
 今から彼らのパーティに加入したとしても、目的が合わなければフィーリーが手に入れたいナイトランタンは手に入らない。ソロでジャック・オー・ランタン希少種を狩り続けなければならないのは決定だった。

(ふつうに考えれば。聖騎士か前職が戦士系か魔法使い系じゃない限り、ソロでここまで来られるヒーラーはいない、な)

 ところが。である。
 宿泊先の食堂で、ある珍妙なパリピパーティがケンカしていた。

「このとんま! おまえみたいなクズ、司教やめちまえ! うすらばか!」

 キレているのは男5人であった。そのうちガチギレしているのがパーティリーダーのようだ。付けているバッジはS級を表す同じ銀だが、『司教やめちまえ』と言っている本人が司教服である。

「す、すみません」

 キレられている本人は、金髪で白いタキシードに天使の翼を背負ってしょんぼり肩を落としている。
 司教に叱られる天使の図のようでなんだかおかしい。

「ベータでウロウロしてたからスカウトしたけど、マージーでー使えねぇ! これで何回目だよ! ヒールだってのに闇魔法ぶちかましやがって! クビだ、クビ! このクズ!」

 リーダーが言うや、集団で「クービ、クービ!」の大合唱だ。聞いている方の気分が悪くなってくる。フィーリーの他の客も嫌そうであるし、宿屋の妖精たちもオロオロとしている。
 だんだんイラついてきたフィーリーは立ち上がった。

「ちょっと。やめてくんない? 大勢が寄ってたかって、イジメですかぁ? クソガキのイジメですかぁ?」

 フィーリーが口を挟むと、男たちがぎろりと睨む。が、そのマントに付けている銀のバッジと青い髪を見て、顔色を変えた。

「青髪のS級バッジ女……。青髪のくそったれバスタードフィーリー!?」

 青い髪のフィーリーと決闘した者は地に這いつくばり『くそったれ!』と罵るしかできない。
 いくつかのパーティと組んで超大型モンスター攻略を繰り返すうちに『モンスターの破壊者』と呼ばれ、エンペラーステー塔に通う頃には、ムン・ラノク・タミドを追いかけるあまり、青髪のバスタードフィーリーから、青髪の駆逐者デストロイヤーフィーリーに変わっていた。強そう感ハンパない。

「久々に聞いた呼び名」

 それでも友人(魔法剣士・既婚者)の方がもっとひどい。周りを気にせず派手な攻撃魔法をよく使うため、破滅の女王ディストラクションである。ちなみに、彼女は男運もなくパーティを4つほど破壊しているのも揶揄されている。よく結婚できたものだ。

「わあ、ファンなんです!」「エンペラーステー塔の中層で見かけました!」「握手してください」

 わっと言われて、フィーリーは彼らのテーブルを思いっきり叩いた。

「う・る・さ・いって言ってんだよ」

 ブチ切れ寸前だが笑顔を作る。ビキビキの笑顔だ。怖い。

「アヤつけてるんじゃないんだよ。すこぉーし、静かにしてもらえる? って言ってんの。わかる?」

「ワァ……迫力……ハワァ……かっこいい」なとど彼らのパーティ女子メンバーたちや宿屋の妖精たちが零している。
 すると、司教の姿のリーダーは「チッ」と、舌打ちをして、「行くぞ!」とフィーリーに見とれている男たちに怒鳴り、ドカドカと食堂から去っていく。
 取り残された天使の姿の男が気になったが、そこで中途半端な情けをかけるのはよくないと判断した。
 へたに因縁をつけて、イプシロンのフィールドで邪魔をされるのは嫌だった。



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