3 / 45
1章.嘘つきたちの想い。
03.非英雄は砂漠をゆく
しおりを挟む✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。
昨夜の天変地異およびカオスについて、わたしはひとつ大いなる覚悟をした。
その覚悟を、ベランダでタバコを吸っているセキに打ち明けた。
「セキ、こうなったら一緒にお兄ちゃんを犯そう!」
セキはぶはっとタバコの煙を吐き出したあと、盛大にため息をついた。チキン野郎め。
お婿さんに行けない身体にしてやるにしろ、犯すにしろ、大きな肉体を持つお兄ちゃんを拘束するのは一般人には高難易度だ。
ヤマトタケルがクマソを倒した時と同じく酔わせるにしろ、お兄ちゃんはザルを超えてワクである。うわばみであるヤマタノオロチのほうが可愛いのではないかとすら思う。
ヤマトタケルやスサノオ──わたしは英雄ではない。それゆえ、大きなお兄ちゃんをひとりで拘束するのは至難の業だ。譲歩をし、わけまえ(後ろの穴)をあげるからと提案したのだが、彼は乗り気ではなかった。
「身体だけが欲しいわけじゃないでしょ」
「そりゃあ、そうだけど。好きな人に幸せになってほしいなんて綺麗事だよ」
「綺麗事でも抜かさなきゃ、自分を慰めても納得できないでしょ」
わたしとセキは精神も身体も満たされない片思いをしていた。
わたしは実兄に。セキは同性の親友に。好きだと一言でも伝えられない相手。虚しいとわかっていても、好きなのは好きなのだから仕方がない。
それが禁忌としても。いいや、人はタブーであるからこそ破りたくなるのだ。見るなのタブーと言うではないか。やはり犯すしかない、お兄ちゃんを。
「綺麗事なんて言わないよ。だって、ずっと好きだったもん。一晩でも夢を見たい」
「俺らには夢でも、譲にとっちゃ地獄だよ。親友と実の妹に犯されちゃうってさ。一生モノの傷を付けるような愛し方は俺のスタンスじゃない」
上品でキレイな顔のセキ。そうやってお上品な優等生をしてるから、ホモセクシャルにもなれない。愛は戦争だ。とはいえ、タブーを破れない非英雄のわたしになにが言えようか。
「地獄に落ちるなら諸共だよ。万が一妊娠してもわたしは平気。お兄ちゃんとの子供を永劫に愛していくもん」
「はいはい。若さゆえの無謀無策。現実を見ていないからだよ、キユチャン」
「うっさいな。わたしだって」
「ダイガクセーはモラトリアムの中で夢を見てなさい」
「すでに未来はデストピアだよ。世紀末だよ。世も末だ。だって、お兄ちゃんが、結婚する……うっ、うぇっ……うぇええんっ」
お兄ちゃんの結婚を聞いてから目玉が溶けるくらい泣いたのに、わたしは鼻の奥をツンと痛くさせて涙をボロボロ零した。
ああ、涙雨というもので地上を浄化してやりたい。75日間は雨を止めずに……あれ? 1年以上だったかな? とにかく、この世を儚んでおうおう泣いていると、セキがタバコを灰皿で揉み消してわたしを抱きしめた。
「はいはい。泣け泣け」
タバコ臭くて、ナントカっていう香水に包まれて、わたしは大変ご機嫌が悪くなり、涙雨は雷をともなった。
「セキのばかー。あほ。おたんちん。なんであんたがお兄ちゃんじゃないんだー」
「そうだね。俺からすれば……キユはきゆでよかったと思ってるよ」
「なにそれ」
わたしがわたし? 哲学であれば大いなる主題・命題である。が、理数能のセキが哲学なんてへそで茶が沸くわ。ちゃんちゃらおかしい。
「……慰めてほしい? 代替のセックスしたい? それとも擬似セックスがいい?」
「……それ、いつもやってるやつじゃん」
あれ? オナニーって言わないな。へんなの。愛がない、お互い好きな人のことを思いながらするから、これはセックスじゃないって、セキはずっと言っていたのに。
「じゃあ、キユ。セックスしようか。うんといいやつ。おしっこ漏らしちゃうくらいの」
「それは次の日身体がしんどいからいいよ。むしゃくしゃしてるから乱暴なのがいいな」
タバコとセキくさいカットソーに顔をぐりぐりしてやって、涙を拭いた。
「俺は優しくしたい気分なのですよ」
「じゃんけんしよ。勝ったほうのやりたいコースで」
「お手軽だなぁ」
セキは困ったように笑って、わたしを抱きしめたまま、器用にタバコを吸った。
じゃんけんの結果、わたしが勝った。セキはいつもチョキを出すから、初動はグーだ。まれにアイコになるのが憎たらしい。
「いつもみたいにお互いお兄ちゃんの服を着よう。今日はわたしに目隠しをして。優しくしないで。絶対だよ」
「はいはい。わかりましたよ」
人はこれをイメージプレイと呼ぶかもしれない。
お兄ちゃんを想像しながら、別の人間で気持ちよくなる。何も満たされることがない、底抜けのコップに水を汲む労力の虚しさたるや。
でもその時だけは、いい。
絶頂へ向かう中、わたしはお兄ちゃんに愛されて。セキはお兄ちゃんを愛する幻想と妄想を満たす。
底抜けのコップの下は砂漠だから、すぐに乾いて愛をほしがる。
砂漠よりもカラカラ。蜃気楼を抱いて幻の都・楼蘭で眠る。結局それは、夜の街でおねーさんに夢と幻想を見るオッサンと同じ。
見えないもので満たされないから、満たされようと繰り返す。
キャバクラのポイントカードが貯まるのと同じなのである。
1
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
【完結】Mにされた女はドS上司セックスに翻弄される
Lynx🐈⬛
恋愛
OLの小山内羽美は26歳の平凡な女だった。恋愛も多くはないが人並に経験を重ね、そろそろ落ち着きたいと思い始めた頃、支社から異動して来た森本律也と出会った。
律也は、支社での営業成績が良く、本社勤務に抜擢され係長として赴任して来た期待された逸材だった。そんな将来性のある律也を狙うOLは後を絶たない。羽美もその律也へ思いを寄せていたのだが………。
✱♡はHシーンです。
✱続編とは違いますが(主人公変わるので)、次回作にこの話のキャラ達を出す予定です。
✱これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【R18】青き竜の溺愛花嫁 ー竜族に生贄として捧げられたと思っていたのに、旦那様が甘すぎるー
夕月
恋愛
聖女の力を持たずに生まれてきたシェイラは、竜族の生贄となるべく育てられた。
成人を迎えたその日、生贄として捧げられたシェイラの前にあらわれたのは、大きく美しい青い竜。
そのまま喰われると思っていたのに、彼は人の姿となり、シェイラを花嫁だと言った――。
虐げられていたヒロイン(本人に自覚無し)が、竜族の国で本当の幸せを掴むまで。
ヒーローは竜の姿になることもありますが、Rシーンは人型のみです。
大人描写のある回には★をつけます。
ドS彼氏と上手にお付き合いする方法
イセヤ レキ
恋愛
釣った魚はドS彼氏でした──。
女子高生の梶谷蘭(かじやらん)は、兄の結婚式で出会った兄の親友、凱逘(かいじ)に交際を申し込まれるが、その場ではお断りをする。
その凱逘との出会いから付き合いはじめるまで、付き合いはじめてから明らかになった、彼の性癖に翻弄される蘭のお話。
全6話完結済み。
ギャグ /ほのぼの /女主人公 /現代/ 日常/ スライム/ハッピーエンド/ 溺愛 /ヤンデレ /ドS /緊縛 /ローター/ ノーパン /目隠し/ 猿ぐつわ /バイブ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる