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5.番外編③
66-12.きみをどんなに好きか(舜太郎視点)〈終〉
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翌昼すぎ。元旦のテレビはお正月ムードの番組を流している。
「おはよう」にプラスして「あけましておめでとおございます」が挨拶だった。その遅い昼食は、昨晩の残り物。夜に雑煮とおせちを食べる予定だ。腰を痛めた藍に代わって舜太郎が昼食のあと片付けがした。料理はできないが、あと片付けは好きな分野だ。
片付けが終わり、コーヒーとカフェオレを入れて、リビングへ。
とくに面白そうなテレビ番組は流れていないのに、藍はいたずらめいた笑みを浮かべている。
「? なにかついてます?」
「あっ、と、そういうんじゃないんです。隠しきれてないので、どうぞ」
藍は背中から一冊のアルバムを出した。青袋鼠色の触り心地のいい上質なキャンバス地には、昨年の大晦日の日付が箔押しで──藍の字で書かれている。
表紙扉を開く。グレーの中厚手のトレーシングペーパーもぺらりとめくると、海辺のレストランに出かけた時に自撮りしたふたりの正方形の写真が貼ってあった。
「もうひとつのプレゼントに、ふたりのアルバムを作りました」
スマホで撮った写真データをオンデマンドプリントでアルバムにする話を耳にしたことがある。たしか、七瀬が娘のアルバムをそうやって作ったとか、話していた。
このアルバムは、一枚一枚プリントしている。写真によって光沢紙、マット紙をわけて、出先の地図やカフェの名刺、何気ない日常がコラージュしてある。配色センスもいいが、なにより写真とコラージュ素材の配置やバランスがいい。空間をうまく使っている……という、目で見てはいけないのだろうが。
藍は美術はさっぱりだと言っていたが、コラージュはハイセンスだ。
「思った以上に写真を撮っていて、選ぶのに苦心しました」
ある一枚は、起きがけで頭がもじゃもじゃの舜太郎が眠たそうに歯磨きをしている。ある一枚は、紅葉の前で藍が串カツを頬張りながら片手にビールを持っている。
のぞえのこしあんパンを食べる舜太郎、浴衣を着ているふたりの自撮り。
デートもたくさんしたのに、日常の写真の方が多い。
「これ、聖子さんが撮ってくれてたんですよ」
「先日の?」
ふたりで同じポーズをしてリビングのフローリングで昼寝をしている。陽射しが暖かくて、昼食後に寝転がったら、いつの間にか寝ていて、起きたら藍が隣ですやすや眠っていた。掛けてあった柔らかな毛布は、聖子が掛けてくれたらしい。
「普段、寝ている時もポーズがシンクロしてるのかもですよね」
藍が微笑う。何気ない日常を愛してくれる彼女に対して、胸がきゅうと締めつけられた。
(今すぐ、抱きしめたい)
心から愛が溢れて止まらない。
愛してもらえている。こんな短期間のうちに、気持ちを、心を寄せてくれているのが嬉しい。
(僕ばかり、好きなんだと思ってた)
藍がページをめくろうとするその手を取って、重ねる。隣に座って肩がくっついているのに、もっと近くで藍の体温もを匂いも感じたい。
「?」
藍は首を傾げている。舜太郎が感動しているのがわかっていないのか、わからないフリをしているのか。
舜太郎は藍の腰に手を回して、膝の上に座るように促す。
アルバムの最後のページには、昨晩撮った誕生日会の集合写真。舜太郎が朝食の片付けをしているあいだに、プリントアウトをした写真を貼ったのだと、藍は嬉しそうに話す。
「こんなにも心温まるプレゼントは初めてです。ありがとうございます」
「毎年一冊ずつ増やす予定です。……家族は、家族のアルバムを、作るので……。ふたりだけのアルバムという意味ですね」
えへへと笑う妻が愛しくて、抱いている腕に力を込める。髪から香るヘアオイルの甘い香り。最近は、家にいる時の藍は香水をつけない。出かける時には目的に合わせて香水を選んでいるが、家だとつけないのは、リラックスしている証拠だ。
もっと話しがしたい。お喋りを楽しんで、笑いあってすごしたい。でも、抱きたい。朝方まで抱いたのに。
心と身体が直結する生き物だと、内心で苦笑いする。
「お礼をさっそくしてもいいですか?」
愛を感じて硬くなりつつあるそこを、弾力に富んだお尻にくっつけると、藍は慌ててアルバムをローテーブルに置く。
「リ、リビングは……」
「明るい場所で藍を余すところなく乱れる藍が見たい」
「……もう。わたしが断らないのを知っているんでしょう?」
「そうなんですか?」
「だって。……わたしも、舜太郎さんのとの……、その、好きだから。……抱かれるたびに、こんなに感じていいのかって怖くなるんですけれど。抱いてくれている時の舜太郎さんは、わたしだけのもの、ですし」
「嬉しい」
ふたりは手をつなぎ、指を絡ませ合い、じゃれる。ゆっくりと振り向こうとする藍が動きやすいように、腕を広げる。
やがて正面を向いた藍の柔和な頬を両手で包む。伏せ目がちな藍に色香が漂い、スポーティさが薄くなっていく。これも好きな瞬間だ。
キスをしようとし──止まった。藍は「?」と、ゆっくりブラウン系のアイシャドウがのったキラキラとした瞼をあげる。
「今年の目標を言ってませんでしたね」
ふと笑んで、ぱちくりしている妻の頬にキスをする。つないだ手を互いの口元に持ってくる。ペアリングが元日の陽光照り返しているのが縁起いい。
「丁寧口調から、もっと砕けた口調で会話して、ケンカをして、愛し合う、です」
「……ふふっ。それもいいですね」
「藍は?」
「わたしは……舜太郎さんとのふたりの時間を大切にしたい、です」
互いの手の甲にキスをして、くすくす笑いあった。
〈終〉
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ぐるもりさん
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掛け合いを褒めてもらえて嬉しいです😊
引き続き呼んでやってください♡