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6-13.こんなところでっ!? ②

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 彩葉がアトリエを出ると、表情が乏しい仕事モードの七瀬が玄関の脇に立っていた。

「あらま。聞いてたの?」

「一部始終聞いていました」

「そちも悪よのう……って、なになに?」

 その手首を摑まれて、アトリエの裏に連れ込まれた。誰からも死角になっている場所で、壁を背にした彩葉は七瀬を見上げる。
 メガネの奥の熱が灯った瞳に捉えられた。両頬を大きな手で包まれて、おとなしく瞼を下ろす。キスをされたと思ったら、性急に深く濃厚なキスになった。
 七瀬の匂い。性急さ。野外であること。舜太郎がいるアトリエの裏。

(こんな、ところで。こんな、キス……)

 急速に息も心拍も上がる。早々に、はぁ、と彩葉から吐息が零れた。

「今日来るってアポ取ってませんでしたよね?」

「買い物の、ついで、で」

「買い物のついでで、舜太郎さまを励ましに来てくれたんですか? もっと前から考えていたのでしょう?」

 言葉遣いも彩葉を戸惑わせて興奮させる。
 乱暴にセーターをたくし上げられ、冬の外気で鳥肌が立つ。それ以上に体温が上がって、高熱を出したかのよう。頭はふわふわするし、足元はふらふらする。

(野外で……、舜太郎くんがいるアトリエのそばで……、ななくんに、酔ってる)

「イロ。彩葉。好き。好きです」

 小尻を揉んでいた手が、彩葉のワイドパンツを下ろし、冬用のインナーを陽射しのなかに晒させる。

「待って。だめ、こんなところで」

 言いながら触ってもらいやすいように腰を突き出し、インナーを下ろす手つきを手伝う。野外で強引に求められるのが初めてで嬉しい。それに、彼は仕事モードで、いつもみたいにリラックスしていなければ、口調も違う。他人みたいだ。

「ハンカチを銜えていてください。誰にも聞かせないで。彩葉の声」

 ポケットから出されたハンカチ。同じ柔軟剤の香りと七瀬の香水の香りが鼻腔をくすぐる。
 久しぶりに触られて歓喜する身体は、素直に愛液をだくだくに溢れさせている。七瀬の指が陰唇を掻くたびに、粘着質な音と彩葉のいやらしい匂いが強くなる。

「んっ♡ ふっ♡ ……ぅうんん♡」

 小さく小さく声を出す。シンとした住宅街だから、自分たちが出す音が大きく感じる。それも、彩葉を興奮させる。
 七瀬もすっかり興奮した目をしている。

(なのに、仕事してる顔つき、なんて、ズルいよ、ななくん。好きがデカすぎるよ、スーツぅ♡ 仕事モードで、されるの、初めて♡ 好きぃ♡)

「はぅ、ぅ、ぅ~~~~っ♡」

 首筋を噛まれながら、ショーツの隙間から侵入してきた指を腟内にぐっぽぐぽ呑み込む。彼の片手は、刺激を待っているクリトリスをめちゃくちゃにぬりゅぬりゅ扱く。
 いつもの愛液の量よりも多く出ているのは気のせいじゃない。

(あ────っ♡ いく、いく♡ 野外で、人の家で、指でイカされ、ちゃぅぅぅ♡ すっっごく、えっち♡♡ はぁぁ、ヤッバ♡)

「彩葉のドスケベ。野外も好きなんですか?」

「な、ななくん、が、好き。なな、くんとなら、どこでも、いいの♡」

「こら、ハンカチ落としたらいけないでしょう?」

 ぱさりと落ちたハンカチはふらふらする足元で、土がついてしまった。

「キスがしたくて、落としたなら、策士ですね」

 くるりと後ろを向かされ、壁に手を着く。すると、口に七瀬の指が入ってくる。愛液の味がする指を銜えさせられ、酔ったみたいにくらくらする。

「ん、は……んんむぅ♡」

 唾液で顎が濡れていく。きっと、七瀬の袖を汚している。この後で、どういう顔でこの人は仕事をするのだろう? 少し想像するだけで愛液がだくだくと出てくる。指を締めてしまう。

「ぎっちぎち。イキたいんですか?」

 彩葉はこくこく頷くと涙がポロポロと落ちる。

(ななくんので奥を掻き混ぜてほしいよぉ♡ いっぱいいっぱい突いて、突きまくって、膣内射精ドクドクしてほしい♡)

 それでも七瀬は指しかくれない。でも、彩葉の限界が近い。
 ヨダレだらけの指が離れたので、振り向く。きっとキスをしてくれるから。
 希望通り七瀬はキスと舌で彩葉の口を押さえる。だけど、空いた指がクリトリスを爪弾いていやらしく扱く。

「は、ひ♡ んんん~~~~♡♡♡」

 充分触ってもらえていない乳首と蜜洞の奥をじんじんさせながら、絶頂する。
 ぢゅる、ぢゅ、ぢゅるると、唾液を吸われながら。
 自然に向き合った彩葉は七瀬の首に手を回す。
 カチャカチャと音がしたと思ったら──

「んッ♡♡」

 ぬるり。ぐずとろになった秘裂に生々しい雄の肉を久々に感じて、彩葉はそれだけで達してしまう。
 ぬりゅっぬりゅっと行き交うそれは、角度と硬度は臨戦態勢のモノとは違い、ちょびっと元気がない。でも、ここまで硬くなるのは事件が起こる前だった。

「ハァッ♡ ァ♡ ……──~~♡♡」

 挿入れてほしいと、腰が動いてしまうし、うんと背伸びをしてしまう。ぐいっと腰を掴むまれると、踵が完全に浮いたてしまった。
 乱暴にされているのに、感じてしまう。腟内と子宮が切なくてギュンギュンするし、胸の高鳴りも半端ない。

「ンッッ♡♡♡ ぁ────ッ♡♡♡」

 解されていない腟内にぐぢゅんっと挿入され、彩葉はボロボロと涙を流しながら背をしならせて達する。

「声。出したらいけない、でしょう?」

(だってぇ! 久々だし、野外だしで、むりだよぉ!)

 彩葉は七瀬の首に手を回す。大きく足を開脚させらると、こつこつ最奥をリズミカルを穿たれて、喘ぐ声を殺すのに必死だった。
 いつの間にか背中に壁がある。歓喜の涙で滲んでいる青い空と、木々と、七瀬が見える。小尻を摑まれていて、完全に足が浮いている。ワイドパンツも冬用のインナーもいつの間にか脱げていたし、気にしていられなかった。
 彩葉の足は、七瀬の腰を抱くように絡んで無自覚で射精を促す。

「……は、は……彩葉っ。彩葉」

 キスの合間から七瀬の色っぽい声が耳をも犯してくる。野外で。他人の家の敷地内で。青空なのに。冬の入口なのに。

(……だめぇ♡ いくってる♡ 野外でいきまくってる♡ 犯されてるのに♡ しゅごい感じてるッ♡♡ お星さまとハートが目の前でチカチカしてぅぅ♡♡ ななくん♡ ななくぅん♡ こわれぅ♡♡ 射精してぇ♡♡♡)

 ガツッ♡ 最奥を突かれたタイミングで、ぢゅるっと舌を吸われて、彩葉は瞬間頭のなかが真っ白になったし、息も忘れた。



 しかし、七瀬は射精に至らなかった。戻ったわけではなさそうだ。深イキした彩葉がひうひうしているうちに、腟内をいっぱいにしていた肉棒が緩やかに硬度と長さを失っていく。
 満たされたような、そうでないのはなぜだろう。

「…………は、ぁ、ぁ……。こんなところで、ななくんの、どすけべ」

 うらめしく睨めつける。真に望むものは七瀬はくれない。あの日からイチャイチャしていても、七瀬くんは元気がないから。
 それなのに、求められて、彩葉の心の中は満ち足りた。本音をいえば、お腹の奥はキュンキュン悶えて切ないが。気持ち的にはスッキリしている。

「話を聞いていたら、愛しさが爆発したんです」

 ズレたフレームレス眼鏡の奥の熱っぽい瞳。こめかみに浮いたうっすらとした汗。少し乱れたオールバック。
 まだ快感が抜けきっていない手で、眼鏡の位置をちょいっと直してあげる。

「……袖とスラックス、どうすんの?」

 服を着直しされながら、キスを繰り返す。大好き。七瀬が好きでたまらない。

「ここにも着替えがあるので、従業員室で着替えます」

「口調~! どうにかなりません?」

「こういう趣向もいいかな?」

「落っち着かねぇー。はー。仕事モードのななくんも超特盛で大好きなんだから。やめてよぉ。まだドキドキする~」

「仕事モードのイロも、同人モードのイロも大好き。大好物。俺のバウムクーヘンは?」

「……かばんと一緒にそこに落ちてる紙袋のなか。意地悪したから、あげない」

「キスはくれるのに?」

「それはそれ、これはこれ」

 ぎゅうっと抱きしめられ、彩葉は愛しい夫の香りで肺を満たす。久しぶりに充足感がある。

「ああ、イロに俺の匂いをつけたい。閉じ込めて、俺だけを見て、俺のためだけに生きるようにしたい」

「うわ、監禁ものになっちゃうじゃん」

「舞衣と三人で、山奥か孤島に引っ越したいくらい。イロ。彩葉。愛してる。言葉にできないくらい、好きだ。なのに……」

 落ち込む声。一緒に気持ちよくなりたい気持ちは、彼の方が大きいのかもしれない。

「あたしだって、ななくんを閉じ込めて暮らしたい。煩わしいことひとつなく、すべてから守ってあげたい」

 目を合わせてひっそりと笑い合い、同じタイミングで言う。

「現実問題、リームー」

 監禁ものなんて現実的じゃないから、旨みが凝縮されているんだと、七瀬が色っぽいまま笑う。だから、彩葉も笑う。

「それな。働かねばお金の供給はないし、オタクはリアイベに弱い」

「わかる。わかるが深い。海外暮らしとかマジ苦行だよな」

「舞衣とのクリスマスもあるし、オタクは冬コミに向けて生きなきゃだしね」

「今年、企業ブースに冬コミ限定品があってさ。限定品出るんだよな」

「ほおほお。経済を回すチャンス到来ですな」

「朝イチ並んでも無理かも。抱き枕は最推しのカワパヤ先生にします」

「急にハンネで呼ぶのやめちくり」

 完全に服を直してもらったが、履いたままいたしたショーツと鼠径部と尻は愛液でべったべたのまま。まだとろとろ出てしまう。

「スケベな顔してるから、畠山はたけやまさんに送ってもらってくださいね」

「やだー! 正和まさかずさんにモロバレすんじゃん!」

 畠山正和というのは、この湖月邸の雑務から舜太郎の運転手までこなす、現代のイケおじ執事さんだ。そして、とっても穏やかな人柄で思慮深い。

「じゃあ、タクシー呼びますね。女性運転手さん指名で」

「……ん」

 彩葉は、七瀬のスーツの裾をつんとつまんだ。まだ離れたくない。

「ね、ななくん。ななくんは……」

 一抹の不安。
 ふと七瀬が微笑わらう。彩葉が好きだよと書いてある表情で。そして、背を屈めて彩葉に耳打ちをする。

「気持ちよかった。野外で大興奮してドインランになってるイロの腟内に無許可射精して、それからしゃぶってもらって、顔射したいってまだ考えてる。射精なかったけど、いつもよりどちゃくそ興奮したし、気持ちよかったよ」

「ひぇあっ!? えっちえっちだ! 卑猥!」

「治ったらキャンプ行こうな。きちっと野外姦したい。そのときは嫌がってね。無理やりごっこしたい」

「ち、ちかんや! ド変態や!」

「いろいろしたいプレイあるんですよ。今度、資料にまとめておきます」

「いらな……くはない、かな?」

 くすくす笑いあう。密やかな蜜色の笑い合いも久しぶりだ。
 それから、従業員スペースで着替えた七瀬とともに、湖月邸の数奇屋造りの門でタクシーを待っていた。付き合いたての恋人同士のように。



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