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6.ロゼッタとふりかえり
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しおりを挟む明日説明するから自室へ戻れと言われたが、ロゼッタは居残った。
仕方がないとマシューは長い前髪をかきあげて、書類を一枚手に取った。
「火災事故が起こる半年前。イメリアさんとジョージ・ライアード──以下、ライアードと略す──が出会ったのが発端だ」
教会で出会った二人。イメリアはその日にライアード邸のお茶会へ誘われる。
「ライアードは美術品詐欺の沙汰が静かになるようセラドンから逃げてきた。傷ついたであろう安っぽい自尊心をぶら下げてな。そして、閑静な田舎でおとなしそうな美女に出会う」
「マシューさんの補足には推測が多いですよ。ライアードがなにを考えていたのかわからないでしょう?」
「単純でわかりやすい男だからそんなもんだろ」
イメリアがライアードの屋敷へ向かうかたちで、二人は頻繁に会うようになる。
しかし、外で二人が会うことはなかった。
「ハリーから聞いたことだ」
「外でデートもしないなんて、ライアードの都合ばかりじゃないですか? 」
「実際そうだろ」
およそ三週間ほど後、イメリアが質屋に通い、フリューズ邸に古物商を呼ぶようになる。
この頃にクレアとよく口論するようになった。
「ウェストサックスフォードの公益質屋に通った、とハリーが言っていた。明日、質屋に連絡してみようと思う。古物商はどこの店なのか、クレアさんとハリーにはわからなかった」
「あやしいですね。美術品の詐欺をしていたくらいですし、古物商はライアードの知り合いだったりするんでしょうか?」
「こういう商いは横のつながりが強いが口が固い。セラドンのどこかの古物商に聞いても一筋縄ではいかないだろうな」
二週間ほどライアードと会わない日が続いたが、イメリアは呼ばれてセラドンに向かった。これが最初。後にセラドンへ頻繁に向かうようになる。イメリアの滞在先は古い高級住宅地の一角にある集合住宅のフリューズ邸。
その後、メイズベリーに戻ったイメリアは、地下室から万物を黄金に変えてしまうエレクシルを、ワインボトルに詰め替えて持ち出し、セラドンのライアード邸へ運んだ。
その一週間後、イメリアはライアードと夜のパーティへ向かう。
それから連日パーティや夜会、商談へ。セラドンで長期滞在をするようになる。
イメリアの日記にも葛藤が書かれ、クレアの証言でイメリアは泣いたり怒ったり、精神的に不安定だった。
「これまで守り続けていて魔術師の秘密を持ち出したんだから、相当なストレスだっただろう」
「でも、……姉さんから手紙で結婚を申し込まれたと聞いたのもこの頃です」
メイズベリーに帰ったイメリアは、ライアードに言われてセラドンへ。
その五日後の昼間にライアードが会いに来たが、すぐ帰った。
同日、夜。ライアードはアデラード公の娘の誕生日会に出席していた。
一方の同時刻、火の手が上がるアパートからハリー(駐車場で待機するようにイメリアから魔術で言いつけられていた)が倒れていたイメリアを救出し、火災を通報。
火災の原因は魔導具ランタンのティールの不始末。
二十四時間かけてメイズベリーに戻る。
すぐにロゼッタに電報。
王立魔術大学にいたロゼッタは、取るもの取らずに慌てて、蒸気機関車でメイズベリーの実家に丸一日かけて帰宅。
「アデラード公爵閣下のパーティにライアードはずっといたのでしょうか?」
「出席者や雑誌記者にでも聞けばいいだろうが、やつは確かにパーティ会場にいたんだ。証言よりも証拠、これが誕生日会を書いた雑誌だ。ここにライアードが写り込んでいる」
「……よく見えません。あっ!」
「なにか見つけたのか?」
「わたし、ライアードの顔を知らないんでした」
「そんな予想はついてた。それでよくイメリアさんが騙されたってよく気がついたな」
「日記を読めばわかりますよ。ライアードへの恨みつらみは魔力を通すまで読めませんでしたが。それに……わたしも思ってたんです。貴族が田舎町の女に手を出す意味。それがわからないほど子供じゃありませんよ。
疑わしげな目、やめてくださいよ」
「いや、驚いた。
日記にエレクシルを渡したことも書かれていたようだが、嬢ちゃんはどの時点でエレクシルの存在を知っていたんだ?」
「魔術を姉さんと一緒に父さんから習っていた頃、よく聞かされていいたんです。絶対に秘密にしてフリューズ家に残すものだと。隠し場所までは教わりませんでした」
「火災事故、倒れたイメリアさん、残された日記に書かれたエレクシルのこと。クレアさんとハリーとの断片的な証言。よくそれだけでライアード家に乗りこんだのは愚行か蛮勇か。そりゃあ、追い返されるな」
「はは。我ながら無謀無策で捕まらなくてよかったです。……頭に血が上ってたんですよ。見舞いに来てほしいと何度手紙を送っても無視、屋敷に行っても門前払い。それしかできない、わたし自身に腹が立ったんです。考えることもぐちゃぐちゃで、まとまらなくて、そんなことでひと月を無駄にした自分自身に。姉さんと向かって食事ができないくらい、わたしは自分に怒りを向けていたんです」
(魔術を使って秘密結社に行き着いてよかったです。……この数日で……考えることができるようになったのは、マシューさんのおかげです)
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