年下の彼は性格が悪い

なかむ楽

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2、八千代15歳、菊華21歳─冬

12.ライオンハート④

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 八千代にまだ暗い内に起こされて、眠たい目を擦っているのに露天風呂に閉じ込められた。
 歯がガタガタするほど寒かったのに、湯気が煙のように立ち上る湯船に身を沈めてしまえば、身体がジンジン温かくなってくる。
 贅沢に温泉が木枠から掛けっぱなしだ。ヒノキ造りの湯船に新鮮な湯が流れ菊華を温めては、ヒノキのヘリからザァと流れ出ていく。
 こじんまりとした広さの露天風呂は貸切だろうかと、辺りをを窺っていると湯気に人影が現れた。こんな時に旅先の怖い話をパッと思い出してしまい、喉から悲鳴が出そうだった──が、なんのことはない、八千代だった。

 貸切露天風呂で混浴だったんだ。よかった……よくないー!
 タオルを巻いているわけではないから、隠すべきところ隠せない。
 菊華は身を縮めて浴槽の端で固まってしまった。胸を張ってさらけ出せるほど、ナイスボディではない。俯いてしまいたかったのだが、八千代の下半身を知らない身として好奇心でチラッと見てしまう。

 昔より広くなった肩、スラリと長い腕、バスケで鍛えられた程よい筋肉の胸と腹筋。その下の小さく引き締まった腰は競泳水着で太ももまで覆われて、長い膝下が続いている。
 イマドキの子って手足長いよね……あれ?

 静かに八千代が湯船に長い足から浸かり始めた。とてつもない違和感が菊華に残る。
 ここは温泉だ。貸切露天風呂だとしても、マナーがある。タオルを湯船に入れてはいけないとか、水着で入ってはいけないとか。
 
「水着!?」
 
 浮力のせいで、簡単に八千代に引き寄せられた菊華は、水着の八千代のすぐ隣。お湯よりひんやりとした肌に触れて、ぶわりと熱が身体の芯から沸き上がった。

「ここの露天風呂、水着や湯浴み着着用OKなの、知らないの?」

 耳のすぐ横で、クスクス笑う八千代の声が落ちる。

「ちゃんと教えてよ」

 やられた! と思っても、すでに時遅し。八千代の手が菊華の腰を掴んで、更に密着する。自分だけ裸なのがより恥ずかしい。

「見て、空が赤くなった」

 菊華が群青色の空を見ると、赤い絵の具を滲ませたように水平線から暖系色が上に伸びている。雲すらも赤く染め上げる朝焼けが始まろうとしていた。

「キッカ。明けましておめでとう、今年もよろしく」

 明け始めの陽の光が、八千代の輪郭を浮かび上がらせる。シルエットにはほとんど少年らしさが残っていない。

「明けましておめでとうございます。今年もよろしくね、やっくん」

 空の赤から朱色が伸びてオレンジ色と群青色の境目をなくす。大人と子供の境がなくなりつつある八千代みたいだと、変わりゆく朝焼けを見て菊華は思う。
 お互いの手をぎゅっと絡めて、今年初めてのキスを交わす。
 八千代が朝日を見ながらキスがしたかったのぐらい、ぽやぽやしている菊華にだって分かっていた。
 初日の出を見ながら……えっちするのかな。
 

 朝日が昇ってもキスだけだった。繋いだ手が解かれても菊華の身体を触ることもなく。お湯でピンク色に火照った身体は全裸なのに。



 朝食もチェックアウトもすませて、ワンボックスのレンタカーに乗り込んだ。
 菊華の隣で八千代は、親の前でも隠すことなく手を繋ぐ。機嫌だっていい。
 悶々としているのは菊華だけだ。
 八千代なりの節度を守った行動は、菊華を悩ませる。


 やっぱり魅力がないのかな。えっちが嫌いとか……? でも、キスするよね? 私が言えないことがあるから? 待ってくれるって言ったのに? それはそれこれはこれ?



 レンタカーが着いたのは初詣先になる神社だ。人の波に揉まれてたどり着いた拝殿の前。菊華は八千代と仲良く並んで手を合わせる。

 神様っ! 今年はダイエットとバーゲン頑張りますから、やっくんともっと仲良くさせてください! やっくんの受験がうまく行きますように。それから、就活も内定もらえますように! あと、卒論が間に合いますように! それと、コンサートのチケットの先行に漏れませんように!

 などと、神様が頼まれても困る願いをする欲張りな菊華だった。
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