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第三章:椿は艶やかに落ち濡れる
六
しおりを挟む英嗣に無理矢理寝室に連れ込まれ、ベッドに押し倒された和泉は嫌だと涙を流し抵抗をした。解かれた帯紐で手を拘束された時、心は恐怖などではなく悦びで支配された。
なんて愚かな女なのだろう。三年も騙し欺いていた男に抱かれるのが嬉しいなど狂気の沙汰だ。
愚かな浅ましさを悟られぬよう、口先で嫌だと泣いた。
着物を半ば剥ぎ取られただけのぞんざいな愛撫でも、英嗣に慣らされた身は受け入れる準備をしていた。四つん這いにさせられ、和泉は尻を高く上げさせられた。
口先だけの抵抗があからさまになったことに、和泉はおおいに恥じた。
しかし秘所は湛えるほどまだ潤っていない。それなのに、英嗣は強引に反り勃った楔を打ち込んだ。
和泉は痛みで涙を零す。それが悦びの涙に変わるのは程なくだった。
「あなたが貞淑な淫婦でよかったと、思っています」
酷い言われようなのに愛の言葉に聞こえるのは、慣らされた果てか。
英嗣の腰に合わせ和泉も動く。淫猥な音のたびに快楽が腹の奥を抉る。
「和泉さん。あなたは不義なんて最初からしていないのですよ」
「なにを……あっ!」
「あなたの伴侶は僕です」
それは真実だろうか。立会人が大勢いた結婚式は誤魔化せない。英嗣が夫だったならばと望んでいたのに、今は素直に喜べない。
騙す必要なんか最初からなかったのに。三年前の結婚式の日に会った時から、和泉は英嗣に惹かれていたのに。
英嗣となら、すぐに打ち解けて心通わせあう夫婦になれただろう。
罪悪感と背徳感にまみれ、人目を気にすることなく真っ直ぐ愛し合えただろう。
「……なにを……そんな、嘘ですよね?」
「ええ、本当ですよ。僕はあなたが不幸を背負って俯いている姿に惚れたのです。いつでも惚れた姿を見ていたいと思うのは、正しいことだと思いませんか?」
そのために偽りの結婚をさせて、不義の罪悪が働くようにさせていたの──。和泉の喉まで出かけた言葉は、最奥をぐりと突かれ、甲高い声に変わってしまった。
二年近くの月日をかけて、和泉の弱い部分を教え込んだのは英嗣だ。どこをどうすれば和泉が気をやるかとうに知っている。
「あ……ぁあっ」
「実にいやらしいな。こんなにも僕のかたちを覚えて、僕なしでは生きられなくなってしまった」
荒々しく無遠慮に突かれているのに、膣内は淫らに痺れてたまらなく気持ちがいいと和泉は声をあげる。英嗣の陽根が好いところに当たるよう、腰をくねらせて快感を貪っている。手首の拘束は、もはや戒めではなく和泉を悦ばす淫具だった。
「女なら誰でもよかったわけじゃないのですよ。あんな莫大な借金を肩代わりしてやったのは慈善じゃありません。あなただからですよ」
英嗣の言葉は今の和泉には届かない。
愉悦でまつげを震えさせている和泉は、英嗣が寄越す快楽の虜なのだ。
「あぁ、お願い……もうだめ……そんなにおくばかり……」
「僕に嘘を吐くなんていけませんね。腰を動かして悦んでいるじゃありませんか」
和泉の揺れる胸の先を英嗣がきゅうと抓み上げた。膣内がこれ以上なく悦び、英嗣を締め上げようとした。けれど、入口まで引き抜かれている彼を包み抱きしめることが叶わなかった。
切なくて苦しいのだと訴えようとした矢先、英嗣が最奥めがけ力強く穿つ。
「――ひ、あ、ぁ、あぁ――……っ」
目の前が眩むほどの大きな絶頂と浮遊感で和泉の身体はベッドに沈む。同時に全身の毛穴から熱が吹き出した。
ガクガク足の先まで痺れているのに、英嗣は休む暇も与えず、攻めるのもやめない。続く責め苦に、和泉は泣きながら喘いで悦んでいる。
「あなたのすべての愛を、あなたから差し出すよう仕向けた甲斐がありました」
絶頂を続ける和泉は、ほとんど英嗣の言っていることが理解できていない。
ただ、英嗣に捧げた何もかもが余すことなく奪われているのを感じ取っていた。
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