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06.アプデでピンチ
♤・01-37・♤
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ウェインは、暇な昼中にあらかじめ、銀座のハイブランド店を予約し、貸切にしていた。
ふたりで普通のペアリングを選び、サイズを測った。
これだけで帰るのはもったいないからと、千綾にシンプルなネックレスをプレゼントし、お揃いのリングピアスを購入した。
近くのカフェで消毒したピアスを装着した。ウェインには洗浄コットンも消毒薬も必要ないけど、千綾には必要だ。
ランチを食べ終えた今は、コーヒーと紅茶がテーブルに乗っている。
千綾は頬を上げて楽しげに話しているし、ウェインは相づちを打つ。が、ブランド店の紙袋が目に入ると、別のことを考えてしまう。
(なんなら、店の物全部買ってあげたいし、ブランドごと買ってあげるのに。欲がないな)
嬉しそうな千綾。彼女の笑顔のためならなんだってしてあげたいし、する。
彼女の笑顔は、〈幸せにする〉契約よりも、大切なことだと感じるようになっている。
精気搾取も大切だが、生きる上の必要不可欠なもので。千綾は、ただの食糧ではないし、愛玩動物でもない。
大切でだいじな、愛しい人だ。
「ふふっ。ウェインとのペアリングっ。楽しみ~」
セミオーダーのペアリングはひと月ほどでできるらしい。工業化された現代なのに、貴金属になると時間がかかるのか。
ならば、フルオーダーのエンゲージリングは、もっと時間がかかるだろう。スマホで調べる項目がひとつ増えた。
早めのディナーは、千綾が予約してくれていたアメリカンダイナー風のレストランだった。本場アメリカの物よりおいしいと感じるのは、食を追い求める日本らしい。ハンバーガーのサイズも日本人らしいサイズだ。フライドチキンとボイルシュリンプ、オニオンリングフライ、ローストビーフも注文した。
「秋はお月見って言ってたね。もう冬だけど。冬はお月見じゃないんだ?」
スマホで調べたことだが、あえてトークのネタにする。こういうあざとさも時には必要だ。
千綾はクラムチャウダーを食べながら、月見に関して話してくれる。よく動く唇が可愛らしくて、つい注視してしまう。今夜はどうやってあの唇を味わおうか。
「──……でね、 お月見って三回見られると縁起がいいんだって」
中秋の名月とやらは、来シーズンに千綾と見上げることになりそうだ。
その時には、結婚しているのだろうか。悪魔・淫魔的には永遠の契約、結婚。エンゲージリングうんぬんの前に、然るべき場所で最高のプロポーズをしたい。という、考えは顔には出さないで、会話を続ける。
「俺的には、満月と新月は歓迎だけどね」
「上弦の月や下弦の月はだめなの? 赤い三日月を背に夜空を飛ぶってイメージもあるけど。ほら、狼男とか……。あ、満月で変身するんだっけ?」
なんと説明するべきか。太古の昔より、そう、としか説明しようがない。現代科学で説明できるなら、神だの悪魔だの存在しなくなるのと同じように。
「満月は太陽の力を夜に降り注がせるし、新月は生まれたばかりの新しい力だから、パワーがあるんだよ。大潮だと魚が取れやすい、みたいな?」
「なにゆえ、釣りで例えた? 月の引力かぁ。ある意味神秘的だけど、もっとこう、ロマンのある表現や比喩があってもよくない?」
「ロマンの定義は時代で変わるでしょ」
変化のないものはない。この世は常に流れていて、移り変わりが激しい。それは、物流の流れが早くなればなるだけ、変化が早い。とくに言葉。近代の文学の言い回しや言葉選びが現代文学や口語では伝わりにくい。よもすれば、古臭い表現になる。
変わらないものはない。普遍的なものは、争いと死だけ。
そんなことを軽く説明して、千綾にカリカリのオニオンリングを咥えさせる。
「それもそうか」
納得した彼女は、サクッと音を立てて食す。ウェインは、ハンバーガーを包んでいた紙の底に溜まったチリソースにポテトをつけて、パクッとひとくち。
千綾はこそっと話す。
「こんなこと言ったらいけないんだろうけど。ウェインが作ってくれたローストビーフの方がおいしいね」
「ありがとう。材料を厳選してるからね。レストランで提供するものって一定の物で利益と数字を出さなきゃだめでしょ。個人なら利益ナシで味だけを追求するから青天井。好きなものを好きなだけ、だよ」
そう、心を満たすため追求をし、好きなものを好きなだけ、満足いくまで求める。
ウェインは唇に付着したソースを舐めつつ、真の意味で舌なめずりをした。
・・・✦・✧︎・✦・・・
それから。夜の街を腕組んで歩く。ウェインとしては、腰を抱き合って密に歩きたいのだが、千綾はそれを困ったように断る。若い子じゃないから、と。恋に年齢は関係ないし、いちゃいちゃするのに場所は関係ない。
日本人は変なところで照れ屋だ。それとも、千綾が、なのだろうか?
「月がきれいですね。セックスしよう」
「それは文豪も怒るよ?」
千綾は額に手を当てている。
「愛してますっていう意味でしょ? 逢う? 逢いにける?」
「ん? んん?」
「大昔の日本人の歌の詞? 逢うってセックスっていう意味なんだよね?」
「日々、なにをスマホで調べてるのかな?」
千綾の呆れた目つきと声。それすら愛しいと感じる。ころころ変わる表情と雰囲気、声。なんて愛らしいのか。
「昔から出合茶屋とかある日本だし、どうやってラブホにちいを誘おうかなって考えていたんだ」
「ハッ……! ラブホ街の近くじゃないのっ!」
「露骨なラブホ街じゃなくてもわかるんだね。来たこと、あるの?」
「さすがにこのへん界隈は……って、なに言わせるのよ」
千綾の頬が赤くなる。それは、過去に対してなのか、現在の状況に関してか。後者だと思いたい。
心は読まない。そう約束したからには、勝手に流れ込んでくるもの以外は、読まないようにしている。
「ちいは、他の男とラブホに行ったくせに、俺と行くのは嫌なんだ。ひどい」
冗談交じりだとわかる範囲で傷ついたフリをする。でも、千綾は「うっ」と胸を押さえた。
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☽・:*
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