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02.現代の叡智(ウェイン視点)
♤・04-12・♤
しおりを挟むタクシーが向かった先は、ハイクラスのホテルのレストランだ。
人間の女はこういうのが好きだ。千綾ももれなくそうだ。人間の女は、ほとんどがロマンチストでリアリスト。ウェイン独自の経験則だが。
たいていの人間は、食事に清潔で上質なものを求める。古代から変わらないそれは、人間の本質に刷り込まれているのだろう。
「どうしてレストランに? ビックリしちゃった」
高級感のある上質なフレンチレストランで、ソムリエが選んだ上等なワインをふたりで楽しむ。
「人間は記念日を大切にするよね? スマホで調べたよ」
「記念日を?」
「過ぎちゃったけど、出会って半年記念。それから毎日一緒にいる記念」
小さな紙袋から小さな花束を出して、悩んで選んだネックレスが入った小箱を渡した。
ネックレスの小箱を嬉しそうに開けた千綾は、目を潤ませて麗しい笑みを溢す。中身は普段でも使えそうな控えめなサファイアのペンダントトップのただのネックレスだ。良質なサファイアの色はウェイン自身の瞳の色によく似た物にした。
それも購入したウェイン自身も謎だった。
召喚者に金品や宝石を与えることはあった記憶がおぼろげにある。精気搾取の見返りとかなんとかで。でも、わざわざ探すことはなかったし、記念日などと人間の真似事をしたのは初めてだ。
「こういうのなら、仕事していても使えるでしょ」
みずから選んだ宝石を贈る相手は千綾が初めてだ。だから、千綾の嬉しそうな笑顔を見て安堵した。
(安心? どうして? 笑顔が見られたから?)
「すてき。素敵すぎる。ありがとう、ウェイン」
「ちいを幸せにするっていったよ」
その見返りに良質な精気を得るのだが。千綾が嬉しそうに笑うと満更でもない。だからといって、人間の心を理解しようとは微塵も思わない。
千綾だから、理解したい。その他の人間はどうでもいい。
「幸せだよ」
「欲がないな」
億万長者にもなんだってなれるのに、千綾の願いはささやかだ。
「欲、深いよ。ウェインがいるから幸せって思えるの。ウェインがいなきゃ、幸せじゃないの」
「でもね」と千綾は続ける。
「ウェインといると幸せだよ。好きだし。でも、恋はしてないの」
ウェインのモヤモヤはどんよりとして、針の雨を振らすように胸にチクチクチクチク刺さる。それはもう、すごく刺さる。
(魅了されない? あれだけ欲する快感を与えているのに。……なんだろう、この痛覚……。ちいの嬉しそうな顔を見ているのに、胸が、痛くて、喉が苦しい)
部屋はジュニアスイート。スイートルームでもよかったのだが、落ち着いた内装が気に入ったほうにした。
千綾の部屋などすっぽり入ってしまう広いジュニアスイート。寝室のふたつ並んだクイーンサイズのベッドを見て、千綾がそわっとしたのを、ウェインは見逃さなかった。
「……お風呂に」
振り返った千綾をウェインが通せんぼし、その柔らかな身体を抱きしめた。
「そのままの千綾がいいな」
「仕事してきたし……汗もかいてたし……」
「どうされるか期待して想像するためにお風呂に入るんでしょ? 今日はそんな暇あげない」
ウェインは持っている紙袋からネックレスの小箱を取り出して、千綾のほっそりとした首につける。
千綾はサファイアを指先で触り、頬を染めてふわりと笑む。
だから、顔を近づけて、素直に気持ちを言葉にした。
「かわいい」
ちゅっと音を立てて軽くくちづけてから、噛みつくようにキスをした。舌をねじ込み差し入れ、千綾の咥内を征服する。そして、好むところを重点的に舌先や舌全体を使ってくすぐり、唾液を出させる。
久しぶりの濃厚でウェインの一方的な舌使いに、千綾はすぐに応えられず、なすがままになっていた。
「……ふ」
吐息すら忘れていたのか、高揚した浅い息をするようになり、ようやくウェインの舌に応え、彼女からもウェインの咥内に小さく薄い舌を差し込む。
咥内で、口先で、離れて、舌を絡ませて唾液と体温を交換し合う。
じゅ、じゅうっと千綾の唾液を啜り、嚥下する。
(想像より……甘くて、おいしい)
淫魔にとって、召喚者の体液という体液、欲情し発する熱、魂から立ち上る匂いは糧だ。
柔らかな新芽、香りよい花のジャム、瑞々しい果実、よく熟れた果実、取れたての新鮮な肉、熟成させた肉──人間も食材の旨味を味わうために鮮度や熟成期間を設けるように、淫魔も同じように新鮮さや瑞々しさ、熟成など手間暇をかけることもある。
ウェインは千綾を気に入っいる。魂は清らかだし、ウェイン好みのかわいらしさを兼ね揃えている。三十歳には見えない日本人らしい童顔にバランスよく配置されている顔立ちも、小柄で華奢で守りたくなるのもいい。
恋や男性経験は少なく、多くの〈初めて〉を千綾からもらった。
三週間前の、生理になるまでの数回は、後ろの窄まりもちょこっとずつ弄っている。いつか、その処女も奪いたい。というのを、おくびにも出さずに、キスを続ける。
「ちいがずいぶん前から発情してるの、知ってるんだよ」
「発情じゃないし」
「淫紋の下の膣が疼くんだよね? 職場のトイレやうちのお風呂でオナニーしたのも知ってるよ」
「なっ……!?」
オナニーうんぬんはカマかけだったが、図星だったようだ。
「千綾から欲求不満の匂いが漂ってきて、たまらなかったな。三週間でこんなにも性エネルギーが大きくなるって思わなかった。すごく、おいしそう。我慢した甲斐があったよ」
「え? ……その、ためなの?」
千綾は、驚いた表情から安心したように息を吐く。
「よかった……」
淫紋が強く光り、欲求不満が熟したから『よかった』と、言っているのではない、くらいの分別はあるが、なぜ『よかった』のかわからなかった。
「なにが?」
「ウェインがしてくれないから、飽きちゃったのかな、それとも電子書籍に帰っちゃうのかなって……すごく悩んでたんだよ」
「ちいに飽きる? ないない。ありえないよ。俺にとって、ちいは最高の女性なんだよ。スキンシップが少なくて、寂しくさせたんだね。ごめんね」
「いいの。わたしも聞けばよかったんだよね。……でもね、飽きたよって言われるのが、正直、怖かった」
「もう怖がらせないし、寂しくさせないよ。幸せにするって誓ったんだから。スキンシップ以上に、言葉を大切にするよ」
千綾はふうわりと微笑う。心臓がきゅんと締まった気がして、ウェインは覚悟を決めた。
「やっぱり、ウェインがいるから幸せなんだよ」
目に涙をためて微笑むから、ほろりとガラス粒のように涙が滑り落ちた。
(きれいだ)
「ちいは欲がないな」
(性欲はすごくあるけど。って言ったら雰囲気がぶち壊しだ)
「ちい。俺はちいが思ってるより、ちいが好きだよ」
頬の涙を吸い取るキスをする。涙。千綾の涙は幾度となく舐めた。その都度、美味だと感じていた。が、どうだろう。この涙は神々が飲む酒のように澄んでいる美酒そのものだ。
頬にキスをし、瞼やまつ毛の先を濡らす微かな涙すら丁寧に吸い取る。
(美酒だ。俺が、酔いそうになる)
まるい額に、こめかみに、プレゼントしたピアスが輝く耳にキスをし、再び頬へ。彼女の唇が待っている。キスされたいとふるふる震えているさくらんぼみたいだ。
ちゅっと軽くキスをする。今日の食前酒があまりにも美酒だったため、前菜をどう味わうか悩む。
(食べ物に置き換えて表現したくない。ちいは、そういうのじゃない)
ならば、なんだというのか。
(とっくにわかっている。それは、人間だけの感情で、他の動物にはない。淫魔や悪魔にそれを持つヤツはイカれたヤツだ)
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☽・:*
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