【R18】電子書籍から淫魔男子を召喚したアラサー女子がおいしく食べられて溺愛されて幸せになる話

０１．電子書籍だとっ？

❦・08-08・❦ 〈続〉

　


　スマホのアラームが大音量で鳴り響く朝。千綾は、人生で初めて、寝起きから驚いていた。

（──……すっごいえっちな夢見ちゃった。どんだけ溜まっんの？　わたし……）
　 
　気だるい身体は、激しい運動の後みたいだ。お腹の中にとてつもなく大きなものが入っていた感覚すらある。それに、いつの間にか全裸だ。しかも太腿の内側が濡れている。
　 
（あんなすごいえっちな夢見たんだし、濡れててもしかたないよね。……なんか、虚しい……）
　 
　ゆっくりと起き上がる──と、隣に裸の金髪男子がいた。その頭にはにょっきりツノがはえていた。
　 
（……は？　え？　夢？　夢、じゃない？　え？）
　 
　ウェインの髪を触り、そのツノの付け根を見る。ばっちり生えている。
　 
「ふあ……。おはよ、千綾」
　 
　夢に出てきた良質なバリトンの持ち主。起き上がる彼は、素肌に朝日を思いっきり浴びている。
　 
「……太陽、平気なの？」
　 
「第一声がそれ？　太陽が苦手っていうのは人間の勝手な創作だよ」
　 
　寝起きでもイケメンはイケメンらしい。ちょっと気だるげにふわっと微笑まれ、好みのストライクゾーンのど真ん中にストライクする。
　滑らかな肌の上半身のどこを見ていいかわからなくて、視線がさまよう。
　 
「説明、いる？」
　 
「はい。それは、はい」
　 
　千綾の額に彼はシャープな額をこちんと当てた。寝起きだというのに、一切不快な匂いがしない。むしろ、自分が汗臭いのでは？　朝の口臭ヤバいのでは？　と、千綾が不安になった。
　そして、いつ以来か、心臓が、とくんとくんとときめいた鼓動を刻む。
　 
「話した気がするけど。説明するよ。ちいがダウンロードして読んだ電子書籍えろマンガは、淫魔の召喚用のものなんだ。今は魔族の世界も電子化進んでるんだよ。……元から、魔族や魔術って電気と相性がいいのかな。心霊写真や動画撮れるのと似てるのかな。磁場というか……。難しい話は置いといて。
　んで、ドスケベにしか見つけられないように魔術式プログラムをWebに刻んだんだよ。需要と供給がぴったりマッチングできる現代ってすごいよね」
　 
　その昔、ドスケベ人間が簡単に見つからなかった時代は、真面目な人間を襲ってドスケベに作り替えたと話すが、それは淫魔の本来ではないと、ウェインは困ったように眉を下げて話したし、ウェインはそのやり方をしたことがないと真面目に語る。
　無理やりや強引が好きな淫魔もいるが、ウェインは同意あった方がお互い気持ちいいしね、と笑う。
　 
（そりゃ、淫魔なら、初めからドスケベとえっちしたほうが話は早いよね。というか、わたしは同意した覚えない……、と、思うん、だよね？　あんな激しくて濃ゆいセックスしたから、前後の……泣いちゃった後の記憶があやふやというか……）
　 
　ストレスで泣いたのを心のデトックスだとウェインは優しく言ってくれた。淫魔のくせに。
　 
「ね、しばらくちいと暮らしてもいいかな？」
　 
「暮らす？」
　 
「ちいの精気が気に入っちゃった。こんなに濃厚で深い甘みのあるおいしい精気は何百年以上ぶりかも。ひょっとすると、もっと前ぶりかも」
　 
　ウェインはふふっと笑う。２．５次元イケメンの笑顔が眩しい。
　 
（何百年ってサクッと言った）
　 
　千綾は悩む。いくらイケメンとはいえ、ウェインは淫魔だ。いいのか？　一緒に暮らしても？　こっちはアラサーで、婚活を……。
　 
（なんで婚活したいんだっけか。……将来のこと考えると……。別に、自分の世話をさせたいから、子供がほしいんじゃない。仕事を辞めたいから？　転職すればいい話よね。普通の幸せ？　普通ってなに？）
　 
「家事くらいしてあげるよ。凝りという凝りを取るマッサージもえっちな気分が盛り上がるマッサージも。俺の体液に治癒効果があるから、マッサージなんかしなくても、凝りや悪いところも治っちゃうよ。
　それに、ドスケベなちいが満足するまでドスケベで濃厚なセックスをしてあげられるよ。俺の基本的な食糧はちいのドスケベな精気だから、俺の世話とか考えないでいいよ」
　 
（端々にドスケベって言われてるけど。家事してくれるんだ。仕事で疲れて帰ってくると家事どころじゃないし……）
　 
　大学生の頃からひとり暮らしの身には、家事をしてくれるという言葉がとても沁みる。
　 
「ちい。俺が幸せにしてあげるよ」
　 
「幸せって……」
　 
　幸せってなに？　カレシがいること？　結婚すること？　平凡で平穏な暮らし？　有り余る巨万の富？　苦しさのない生活？
　ウェインは千綾の悩みを見透かしたように言う。
　 
「笑って、苦しい悩みが少なく、健康でいられる毎日。ちいに約束するよ」
　 
　その笑顔と条件にグラッとした。
　 
「成立～。それじゃ、えっちしよっか」
　 
　引き締まった全裸のウェインに軽く押し倒された。
　 
「今は性欲ない、かな？」
　 
「そう？　それじゃ、淫紋に魔力注ぐね」
　 
「いん、もん？」
　 
「ここ」
　 
　ウェインが千綾の下腹部を撫でる。下腹部にマンガやなんかで見かける淫紋がタトゥーのように刻まれている。
　 
「俺の魔力でえっちになるし、ちいの性欲が溜まったら光ってドスケベになっちゃうんだよ。ポイントカードみたいに溜まったぶんだけキックバックあるからね」
　 
「人体になんてことしたんだ、あんた」
　 
「大丈夫、他の人には見えないから。それとも、ここ、見せて外出したりオフィスワークしてるの？」
　 
「たまげた痴女だなッ、それはッ！　そういうのじゃ、なくて！　……ん、ぅ。なに？　おなかが……ぁ」
　 
　これまで感じたことがない疼きが、子宮のあたりをぐるぐる渦巻く。
　かぁっと発熱したようで、違う。雄を欲しがる雌になった気分だ。
　はぁ、はぁと息をする唇を、ウェインの指がなぞる。
　 
「ふふっ。いっぱいイかせてあげるね」
　 
　２．５次元からやってきたような、金髪青眼で黒いツノのある、完璧なイケメンが、千綾に微笑む。
　甘やかに。
　 
　 
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「ただいま」
　 
　リビングダイニングにつながるドアを開ける前から、トマトと魚介の香りが仕事で疲れた千綾の食欲を刺激している。
　 
「千綾、おかえり。今日はブイヤベースだよ。手を洗ってうがいしてね」
　 
「はぁい」
　 
　２ＬＤＫの千綾の家マンションに住み着いたウェインは、普段はツノを隠している。
　そして、朝ご飯、色鮮やかでかわいいお弁当、晩ご飯まで作ってくれる。バランスのよい食事のおかげか肌ツヤがよくなった。代わりに胸とお尻、太腿がむちっとしてしまった。
　掃除も洗濯も。あらゆる家事をウェインがしてくれている。もはや主夫である。出かける前のチェック『ハンカチ持った？』などをしてくるし、もはやお母さんである。
　でも、出かける前と帰宅したあとはキスをしてくれるから、お母さんではないし、食費家賃光熱費も払ってくれるからヒモでもない。淫魔兼主夫か。
　 
「ねぇ、ウェイン。そろそろお金受け取ってくれないかなぁ？」
　 
　一緒に暮らして三カ月。食費家賃光熱費だけじゃなくて、日用品やちょっとした買い物でもウェインが黒色のカードで支払ってくれるのが後ろめたい。淫魔がどのようにして黒色のカードを取得してたのかは聞にくい話題だ。後ろめたく禍々しいお金ではあるまいな。
　仕事をして真っ当に稼いでいる千綾としては、金銭の受け取り拒否は心苦しい。
　 
「千綾の精気もらってるから。そんなの気にしなくていいんだよ」
　 
　きらきらの笑顔で言われると、眩くてときめいてしまう。

（スパダリ？　スパダリなの？　って、相手は淫魔だってば。利害の一致でいるだけなんだから）
　 
　ウェインはエプロンを外し、千綾の手を取る。男らしく整った手まで千綾の好みのどストライクだ。
　 
「そんなに遠慮してるのなら、今から精気もらおうかな」
　 
　ずくんっ。刻まれた淫紋が、疼く。この三カ月でウェインがどう触り、自分がどうなるのか。
　千綾の目は、自然にウェインの形がいい唇に向いている。その唇が愉しげに笑う。
　 
「おいで、千綾。いっぱい幸せにしてあげる」
　 

　 
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