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・・✦・13・✦・・〈終〉

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 ──とある、城館の夫婦の部屋。

「マーリィ。うまくいったみたいだぞ。あのメルヴィルくんが二週間も休んで子作りに励んでくれていたらしい」

 フェリスの父──国王・セオドアはガッツポーズで、テーブルに置いた銀の髪留めを眺めている妃のマーリィに話した。
 彼らの次男・ジュードがメルヴィルの親友であり、事業仲間なのだから、婿・メルヴィルと末娘・フェリスの話は筒抜けなのである。

「ほんとうによかったですわ。お婆さんに変装した甲斐がありました。産まれたての孫を抱っこしたいわ。おしめも替えたい~」

「ところで、マーリィ。どうやって媚薬を手に入れたんだ?」

「うふふ。昔、あなたと出会った舞踏会のときみたいに、榛の木のフェアリーにお願いしたのですよ」

 あの頃より三十四年歳を重ねたセオドアの目は、チェストに飾ってあるガラスの靴だ。

「メルヴィルさんもフェリスも初恋同士だったもの。幸せになってほしいのは心からの真実ですわ。わたくしはお節介を焼いただけですの」

 うふふと微笑うマーリィは、あの頃より三十四年歳を重ねてなお、美しい。
 ジュードの親友に恋をした愛娘を十四歳で婚約させた。婚約当時、公爵になりたてだったメルヴィルに拒否権のない、王と王妃からのお願いだった。真面目そうな青年だったから、婚約させておけば愛人すら作らない・作れないだろうという腹積もりもあった。
 初恋を知ったばかりの無垢な少女がどうやって青年に振り向いてもらえるのか、恋愛対象になるのか、王妃ははは娘に恋の試練を与え続けていた。

 婚約してから二年目。当時二十二歳の若造のメルヴィルが結婚を早めたいと申し出があった。元々真面目だった彼は良き領主になり、とくに福祉に力を注いでいるので領民に慕われている。無愛想だったが、公爵になってからは彼なりに努力を重ねて社交的になり人間関係を円滑にしている。忙しい身でありながら、貿易商になったジュードの補佐もしてくれている。セオドアとマーリィはメルヴィルの申し出を快諾した。
 条件はひとつ。フェリスを幸せにすること。

 メルヴィルが真剣に想っているから、少女から大人の女性へと変わっていく過程のフェリスを妻にしたかったのだろう。
 快諾したあとで、現在はないが古来あった潤沢な花嫁支度金をメルヴィルは用意していた。男のケジメだとセオドアは受け取った。
 女性が夢見る豪勢な挙式も花婿が挙げ、エレガントなカットのダイヤモンドの結婚指輪はふたりで選び、風習通り花婿が支払った。
 甲斐性のある婿だと、セオドアはメルヴィルを買っていたし、現在も信頼している。
 結婚後、すれ違っていたようなのでヤキモキさせられたが、小さなきっかけひとつ与えれば、変わるものだ。
 ただ、マーリィ本人はあの媚薬の強さを知らない。

「まだ独身の息子二人と娘がいるのが悩みの種だね」

 結婚したのは長男と末娘。長男の子供たちはすくすくと育って、若いじぃじと若いばぁばになっている。孫は手放しにかわいい。

「ふふ。恋は突然ですわよ?」

 自由結婚をしたセオドアとマーリィは極力子供たちにも自由に恋愛をしてもらいたい。(相手には婚約を迫るが)

「私たちの恋も突然だったね。きみを射止めて探し回ったのが懐かしい」

「わたくしも。今でもあなたに恋をしていますわ」

「私もきみを愛しているよ、マーリィ」

 結婚して三十四年。それなりに波風があった。歳を重ねるごとに魔法にかかったように互いのことがよくわかる。



 〈了〉


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