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第13話 仲直り
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俺は今とても辛い。
肉体的にも、精神的にもとても辛いのだ。
「魔王様、自分で走り出したんですから、最後まで歩いてくださいよ...」
「もう疲れたのじゃ...スピノ頼んだぞ」
魔王の我儘を背に、俺はため息をついて足をすすめた。この魔王は小さいが為に大した重荷にはならないが、何にせよ山が遠い、遠すぎる!
これを今日だけで往復し、今また戻っているのだ。足がもう棒のようだ...
俺にのしかかる辛さはこいつらだけではない。俺は今必死でスピーチを考えている。そう、スライム達と仲直りをするためのものだ。
薬を作るためとは言ってもうんこをあんな形で強要してしまったのだ。変態にも程があるのかもしれない。さらに、仲間にするとなると仲直り以上のことを要求されるだろう。自分達が如何にいい魔物で、彼らに利益を与えると言うことを示さなければならないだろう。
あぁ...憂鬱だ。
自分で山に向かっているのに山が近づいて欲しくないと言う願いがある。
スラ子ちゃんにこんなに会いたくない日が来るなんて...
「そろそろじゃないかの、ハッカのようなにおいがしてきおったな」
そう言うと魔王はちょこんと俺から飛び降り、周りをキョロキョロ見渡した。
何か様子がおかしい。ほんの数時間空けただけであるはずなのに、周りの雰囲気が全く違う。どこか薄寒い。
「スピノよ。先ほどお主が倒したドラゴン、死体はこの道にあったか?」
「この道にあったはずですね。そういえば、こちらにくる途中見かけませんでしたね」
死体が移動する、そんなことはあり得ないだろう。どんなに強い魔物でも死者蘇生はすることが出来ない。加えて、死体を動かす魔法も存在しないのだ。
となると物理、この森にいる肉食獣がどこかに引っ張っていったと言うのが1番有力だ。それにしてもあのドラゴンはかなり大きかった。もしかしたらその肉食獣はかなり大型なのかもしれない。
「魔王様、デカい肉食獣がいるかもしれないので厳重の注意を払って...魔王様?」
彼女は黙って俺らの前の方向を指差した。
スライムの匂いに混じる嫌な匂い。鼻に入っては肺を侵すかのようなこの刺激臭は、その光景を見なくても事態を知らせてきていた。
山が燃えている。
「かなりの広範囲じゃな。これじゃ山の生態系もクソも、全て滅んでしまうな」
「止めましょう」
彼女は一回頷くと、森の奥へ足をすすめはじめた。
「お主水の魔法は使えるかの?」
「まぁ、一応。使ってみます」
俺は頭の上に魔力を込め、水の塊を作った。
ボール、人間、木、そして家くらいの大きさになった頃、俺はその水の塊を火の中に投げ込んだ。
一部は消えたが、その周りは燃え続け、どんどん広がっていった。
「ダメじゃの。ここらの木は背が高い。その魔法では木の足元しか濡らすことが出来ないのじゃ。もっと頭を濡らさなくてはの」
「だとしたらどうすれば...」
「気候変動じゃ。雨を降らせなさい」
彼女の方を見る。その魔王はいたって普通の顔をして空を見上げていた。
何言っているんだ、この魔王。 気候変動?
そんな高度な魔法できるわけが...
「いいか? スピノよ、魔物は胸の中にある核を中心に魔法を作り出すのじゃ。したがって、胸の辺りに魔力を込めてじゃの、思いっきり魔力を放出すると、普段より強力な魔法が使えるのじゃ」
「それもまた学校では教えてもらえない知識ですか?」
彼女は空を見上げながら首を横に振った。
「この世界で三人しか知らない。お主含めての」
誰かが言っていた気がする。物事はほどほどに信じるのが1番だと。科学も歴史も迷信も、全てほどほどに信じておけばどうにかなると。
俺は、ほんのすこーしだけこの魔王の言うことを聞いてみることにしてみた。
俺は胸の辺りに意識を集中させた。
だんだん体が暖かくなり、頭がふらふらしてくる。酔いの感覚に似ているかもしれない。
両手を上に上げ魔力を放出する。空にばら撒くように。
__ポツ ポツポツ
「うそ...」
「ふふふ、どうじゃ? 凄いじゃろ」
山の一部に巨大な雲がかかる。それと同時に冷たい水滴が顔にかかった。
__ザー
雨が降ってきた。
俺の、俺だけの魔力で雨が降ってきたのだ。信じられない。
みるみるうちに山の火が消えてゆく。
「どうじゃ、どうじゃ? 凄いじゃろ! 妾を褒めるんじゃ!」
彼女は胸を突き出し、ドヤ顔でこちらをみている。
「いや、凄いですけど、本当に三人しか知らないんですか?」
「そうじゃよ! 妾とお主とあと一人だけじゃ」
本当か? このへっぽこ魔王がなぜそんな凄いことを知っているんだ?
いや、嘘だな。他にもいっぱい知っている人がいるんだ。きっと
「なんじゃその目は。信じとらんじゃろ!」
「まぁ、本当ってことにしておきますよ」
彼女は頬をぷっくりと膨らませ、弱い力で俺の腕を殴ってきた。
まぁ、でも。もっと敬った方がいいのは確かだ。この魔王のおかげで火が消せたわけだし。
「おい、お前ら...まさか、今のお前らがやったのか...?」
突然、後ろから声がしてきた。ただの声ではない。独特なプルプルボイスだ。
「しかも...さっきのうんこ泥棒!?」
後ろを見ると、大量のスライムがこちらをみていた。十数匹いるのだ。
その中に一匹、ピンク色もいた。
「あ、あの。スピノくん。君が助けてくれたの...?」
スラ子ちゃんが前に出てくる。
どうしよう、ここで上手く返事をしなければ、好印象を与えられない。
ここは頑張るしかない...!
「あ、えっと...」
「そうじゃよ! 敬えこのピンクやろう!」
は?
「お主達の命はこの妾達が救ったのじゃ。
つ・ま・り じゃ、お主達は妾達に服従する義務がある。そう思わんかの?」
「は、はぁ...」
え? え? 嘘でしょこの魔王
「ふっふっふっ、はっはっはっ! お主達を強制的に仲間にするぞ! 逆らえば、分かるよなぁ?」
「「「ひ、ひぃ...!!」」」
「お主達の今後の拠点は町の近くの森の中じゃ。そこでありったけのうんちを妾達に提供してもらうぞ!」
圧政するの!?
「そ、そんな...スピノくん...酷い!!」
「ち、違うんだよスラ子ちゃん!」
「ふっふっふっ、はっはっはっはー!」
俺が逃げるスラ子ちゃんを追いかける最中、山の中には魔王の高らかな笑い声が響いていた。
肉体的にも、精神的にもとても辛いのだ。
「魔王様、自分で走り出したんですから、最後まで歩いてくださいよ...」
「もう疲れたのじゃ...スピノ頼んだぞ」
魔王の我儘を背に、俺はため息をついて足をすすめた。この魔王は小さいが為に大した重荷にはならないが、何にせよ山が遠い、遠すぎる!
これを今日だけで往復し、今また戻っているのだ。足がもう棒のようだ...
俺にのしかかる辛さはこいつらだけではない。俺は今必死でスピーチを考えている。そう、スライム達と仲直りをするためのものだ。
薬を作るためとは言ってもうんこをあんな形で強要してしまったのだ。変態にも程があるのかもしれない。さらに、仲間にするとなると仲直り以上のことを要求されるだろう。自分達が如何にいい魔物で、彼らに利益を与えると言うことを示さなければならないだろう。
あぁ...憂鬱だ。
自分で山に向かっているのに山が近づいて欲しくないと言う願いがある。
スラ子ちゃんにこんなに会いたくない日が来るなんて...
「そろそろじゃないかの、ハッカのようなにおいがしてきおったな」
そう言うと魔王はちょこんと俺から飛び降り、周りをキョロキョロ見渡した。
何か様子がおかしい。ほんの数時間空けただけであるはずなのに、周りの雰囲気が全く違う。どこか薄寒い。
「スピノよ。先ほどお主が倒したドラゴン、死体はこの道にあったか?」
「この道にあったはずですね。そういえば、こちらにくる途中見かけませんでしたね」
死体が移動する、そんなことはあり得ないだろう。どんなに強い魔物でも死者蘇生はすることが出来ない。加えて、死体を動かす魔法も存在しないのだ。
となると物理、この森にいる肉食獣がどこかに引っ張っていったと言うのが1番有力だ。それにしてもあのドラゴンはかなり大きかった。もしかしたらその肉食獣はかなり大型なのかもしれない。
「魔王様、デカい肉食獣がいるかもしれないので厳重の注意を払って...魔王様?」
彼女は黙って俺らの前の方向を指差した。
スライムの匂いに混じる嫌な匂い。鼻に入っては肺を侵すかのようなこの刺激臭は、その光景を見なくても事態を知らせてきていた。
山が燃えている。
「かなりの広範囲じゃな。これじゃ山の生態系もクソも、全て滅んでしまうな」
「止めましょう」
彼女は一回頷くと、森の奥へ足をすすめはじめた。
「お主水の魔法は使えるかの?」
「まぁ、一応。使ってみます」
俺は頭の上に魔力を込め、水の塊を作った。
ボール、人間、木、そして家くらいの大きさになった頃、俺はその水の塊を火の中に投げ込んだ。
一部は消えたが、その周りは燃え続け、どんどん広がっていった。
「ダメじゃの。ここらの木は背が高い。その魔法では木の足元しか濡らすことが出来ないのじゃ。もっと頭を濡らさなくてはの」
「だとしたらどうすれば...」
「気候変動じゃ。雨を降らせなさい」
彼女の方を見る。その魔王はいたって普通の顔をして空を見上げていた。
何言っているんだ、この魔王。 気候変動?
そんな高度な魔法できるわけが...
「いいか? スピノよ、魔物は胸の中にある核を中心に魔法を作り出すのじゃ。したがって、胸の辺りに魔力を込めてじゃの、思いっきり魔力を放出すると、普段より強力な魔法が使えるのじゃ」
「それもまた学校では教えてもらえない知識ですか?」
彼女は空を見上げながら首を横に振った。
「この世界で三人しか知らない。お主含めての」
誰かが言っていた気がする。物事はほどほどに信じるのが1番だと。科学も歴史も迷信も、全てほどほどに信じておけばどうにかなると。
俺は、ほんのすこーしだけこの魔王の言うことを聞いてみることにしてみた。
俺は胸の辺りに意識を集中させた。
だんだん体が暖かくなり、頭がふらふらしてくる。酔いの感覚に似ているかもしれない。
両手を上に上げ魔力を放出する。空にばら撒くように。
__ポツ ポツポツ
「うそ...」
「ふふふ、どうじゃ? 凄いじゃろ」
山の一部に巨大な雲がかかる。それと同時に冷たい水滴が顔にかかった。
__ザー
雨が降ってきた。
俺の、俺だけの魔力で雨が降ってきたのだ。信じられない。
みるみるうちに山の火が消えてゆく。
「どうじゃ、どうじゃ? 凄いじゃろ! 妾を褒めるんじゃ!」
彼女は胸を突き出し、ドヤ顔でこちらをみている。
「いや、凄いですけど、本当に三人しか知らないんですか?」
「そうじゃよ! 妾とお主とあと一人だけじゃ」
本当か? このへっぽこ魔王がなぜそんな凄いことを知っているんだ?
いや、嘘だな。他にもいっぱい知っている人がいるんだ。きっと
「なんじゃその目は。信じとらんじゃろ!」
「まぁ、本当ってことにしておきますよ」
彼女は頬をぷっくりと膨らませ、弱い力で俺の腕を殴ってきた。
まぁ、でも。もっと敬った方がいいのは確かだ。この魔王のおかげで火が消せたわけだし。
「おい、お前ら...まさか、今のお前らがやったのか...?」
突然、後ろから声がしてきた。ただの声ではない。独特なプルプルボイスだ。
「しかも...さっきのうんこ泥棒!?」
後ろを見ると、大量のスライムがこちらをみていた。十数匹いるのだ。
その中に一匹、ピンク色もいた。
「あ、あの。スピノくん。君が助けてくれたの...?」
スラ子ちゃんが前に出てくる。
どうしよう、ここで上手く返事をしなければ、好印象を与えられない。
ここは頑張るしかない...!
「あ、えっと...」
「そうじゃよ! 敬えこのピンクやろう!」
は?
「お主達の命はこの妾達が救ったのじゃ。
つ・ま・り じゃ、お主達は妾達に服従する義務がある。そう思わんかの?」
「は、はぁ...」
え? え? 嘘でしょこの魔王
「ふっふっふっ、はっはっはっ! お主達を強制的に仲間にするぞ! 逆らえば、分かるよなぁ?」
「「「ひ、ひぃ...!!」」」
「お主達の今後の拠点は町の近くの森の中じゃ。そこでありったけのうんちを妾達に提供してもらうぞ!」
圧政するの!?
「そ、そんな...スピノくん...酷い!!」
「ち、違うんだよスラ子ちゃん!」
「ふっふっふっ、はっはっはっはー!」
俺が逃げるスラ子ちゃんを追いかける最中、山の中には魔王の高らかな笑い声が響いていた。
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