俺、最弱魔王の配下になったんすけど、世界征服の手伝いってどうやればいいんすか?

桜木開花

文字の大きさ
上 下
4 / 15

第4話 町

しおりを挟む
「あの、魔王様。まずは住居を...」
「あぁ、そうじゃの。じゃあまずは火を起こすぞ! 薪をもってこい」

 この世界には建築魔法というものがある。とても高度な魔法で、それこそ魔王クラスの魔物しか使えないのだが...この様子だと使えないようだ。
 俺は「ははっ」と笑いながら炎の魔法を使った。目の前に背丈ほどの火の玉が出来る。これくらいであれば暖を取れるだろう。少し難易度は高いが、このくらいの魔法なら魔物学校を上位で卒業していれば誰でも...

「ふふ、すごいのぉ」

 あれ、この魔王すごく恍惚顔で見てる。

「わ、妾にも出来るぞ! そんな、変な顔しないでもらいたい」

 彼女は「えいっ!」と言って両腕を前にかざした。
 すごく小さな火の玉が出来た。可愛い火の玉、まるで魔法初心者だ。

「ほらほら!」

 嬉しそうにこちらを見てくる。
 なるほど、事態は想像以上に深刻だった。

 仕方がないので、俺は簡単な魔法を使って二つの岩を出した。膝程度の高さのものである。これがあれば椅子の代わりになるだろう。
 俺らは対になるように座り、これからの予定を話し合うことにした。

「先ずは住居ですね。これがないと何にも始まりません。そういえば魔王様、いつもはどのようにして寝床を確保していたんですか?」
「ん? 原っぱに寝ておったぞ」

 ん? 魔王が平原の真ん中で寝ていた? そんなに危ないことがあっていいのか!?
 魔物達の大柱である魔王の一人、常に人間に命を狙われている重役が、野ざらしにされていたってどう言う状況だ?

「しかし、魔王様! 人間などに見つかったりしないのですか?」
「あぁ、数回あったな。冒険者にみつかったわ」
「え!? いや、どうやって逃げたのですか? それとも、戦ったのですか?」
「なんか、保護されての。『お嬢ちゃん、大丈夫かい?』など馬鹿にしおって、町に連れて行かれたわ。あぁ! 思い出しただけでもイライラしてくる」

 あぁ、なるほど、分かります。冒険者の皆さん。本当にありがとうございます。俺も同じことしようとしたしな。
 あれ、保護されて町に行った? てことはこの近くに町があるのか。

「あの、その町というのはここからどれくらい先にあるのですか?」
「大体10キロほどかの...あ! クエストの途中であったことすっかり忘れておったわ...」

 少し涙目になりかけている顔をこちらに向けて来る。

「スピノ...クエスト手伝ってくれないかの...?」

 クエスト? もしかして、この魔王...

「あの、魔王様。クエストってもしかして...人間のギルドに所属しているのですか?」

 彼女はしょぼくれ顔で小さくこくこくと頷いた。

 ギルド、一般的に人間たちの同業組合のことを指すが、最近は対魔物組織のことを意味するようになっている。
 そして、ギルドの最終目標は、魔物達の殲滅。

「あの、魔王様...」
「分かっておる...でも、やむを得ない事情があっての...」
「はぁ...と言うと...?」
「お金が...無い...」

 暫くの沈黙が続いた。彼女は泣きそうな顔を下に向け、その場を凌ごうとしている。泣きたいのはこちらの方だ。
 世界征服とか言っておきながら、自ら魔王討伐に加担しているのだ...あぁ、気が滅入る...。

「だが、だがの? スピノ。妾は魔物討伐は受け合ってないぞ! 今日はモンシロチョウ三匹の捕獲じゃ!」
「じゃあ、まぁ。いいと思います」
「だからの、スピノ。手伝っておくれ、クエスト」
「じゃあ、明日ですね。今日は寝ましょう」
「ふふ、宜しくの。スピノ」

 俺は「はい」と一言言って炎を小さくした。



「スピノぉ、もっとゆっくり歩いてくれぇ...」
「ダメですよ。納品今日の10時まででしょ? 結局全部取ったの俺ですし...魔王様はずっと寝てたし...」

 後ろから「うぅ...」とうなっている声が聞こえて来る。でも仕方ない、受けた仕事は完遂しなくては。
 ギルドのある町は先ほどいたところから北に約10キロほど。残り3キロで現時刻は9時30分、割と危ない。

「魔王様、小走りしますよ!」
「えぇ...! 待ってくれぇ...!」

 俺は悪魔の象徴であるツノと尻尾を隠し、進める脚を速くした。

 案外早く町には着いた。町はそこそこ大きいく、商店も多数あり、食料や衣服、武器装備などは一通り手に入れることができそうであった。また、町の周りに柵などはなく、外敵もほぼいないことが容易に想像できた。

 ギルドは町の重要な施設らしく、中央に立地していた。しっかり手入れされているようで、外装は町の中でも1番綺麗であった。
 中に入るとすぐにカウンターがあり、一人の女性が中にいた。

「ご用件は何でしょうか?」
「あ、えっと。納品したくて。あ、二人で一緒にやったんですけど」

 俺がそう言うと後ろから魔王がひょっこり顔を出した。

「あー! シルクちゃんの! あれ、二人はどう言った御関係で?」
「妾の僕じゃ! さっき平原で出会った」
「あー、また迷子になってたんでしょ? 本当にすみませんね、この子こう言うこと多くて...」
「お気になさらず」

 俺はこの女性に話を合わせることにした。魔王に乗っかると色々と厄介なことになりそうだ。
 後ろを覗くと頬をぷっくりと膨らませている魔王がいた。

「では、納品の手続きをしますね」
「あ!!」

 魔王がいきなり叫んだ。そうかと思えば後ろでカタカタ音を立て

「居ない...1匹逃げられた...どうしようスピノ」

 ふるふるした腕で俺の裾を引っ張り、虫籠を見せてきた。
 確かに2匹しかその中には居なかった。恐らく走っている間に隙間から逃げられてしまったのだろう。申し訳ないことをしてしまった。

「すみません、この場合ってどうなりますか?」
「そうですねぇ、本来であれば遂行出来なかったということで罰則があるのですが、今回は特別に無しにします。でも、報酬はあげられませんね」

 後ろから哀愁がしてきた。かなり落ち込んでいるようである。

「あの、どうされますか? お金もらえない様ですが」
「お金が必要じゃ...」

 確かに、今後魔王軍を作っていくとなると資金が必要になって来る。ここで得られるお金は限度があるだろうが、多少のお金でも今後の様々な可能性に繋がっていくわけだ。この機を利用するのも悪くは無いのかもしれない。

「あの、俺が受けますよ。クエスト」
「分かりました。では先ずステータス確認からですね。こちらのボードに手をかざしてください」
「え? それって個人情報どこまで分かっちゃいますか?」
「そうですねぇ、体力、攻撃力、魔法適正に賢さ、スキルだったり。強さに関することですかね。あとは年齢、種族なんかも分かりますよ?」
「あー、年齢わかっちゃうんですかー...」

 あー、種族わかっちゃうんですかー...

 まずい、とんでもない地雷踏んだかもしれん。ここで俺が悪魔族であることが分かってしまったら、ここにいる人達が俺のことを攻撃しようとするだけではなく、この魔王も攻撃の対象になってしまうかもしれない。そうなったら、この町は滅ぼすしか...

「どうしたんですか? 早く登録しちゃいましょう」
「あー、やっぱり今日はやめておこうかな...」
「何言ってるんですか。ほーらこうして」
「あ、ちょ!」

 彼女が強引に手をひき、俺の手はボードの上に乗ってしまった。
 文字がボード上に現れる。



ステータス『スピノ』 種族 悪魔族
           年齢 18

体力 S
攻撃力 S
素早さ S
賢さ S
魔法適正 SS +

スキル 無し


 まずい、気付かれたか...!?

「これって、貴方...そんな...」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

【第1章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む

凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...