運命の恋人

皆木 亮

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運命の恋人

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「お母さん! 私、結婚を前提ぜんていに紹介したい人がるんです! 今日、その人を連れて来ました! どうか会って下さい!」

 はなが鮮やかに咲き、薄桃の花も、そろそろ色をして来る頃。
 そう、真摯しんしな表情で、娘は私に向かって大きく頭を下げた。



「顔を上げて。オマエの仕草で、オマエが本当にその人を想ってるのは伝わったわ。こちらこそ、お願いするわ。その人に母さんを会わせて。」

 そう告げた私に向かって、娘の顔は、この季節の名だたる花々にも負けない程、『ぱぁ~っ』と咲き乱れた。



 そして、

「ありがとう、お母さん! 直ぐに彼に会わせるね!」

 そう言った娘は、この居間いまのドアを開けて、その人を連れて来るかと思えば、何故かゴソゴソとカバンをあさり始めた。
 そして、一つの携帯用ゲーム機と思われるモノを出し、そのスイッチを入れたかと思うと、少し操作してから、その画面をつつましやかに私に向けた。



「お母さん、はじめまして。娘さんと、お付き合いをさせて頂いている者です。」
 と、画面の中にうつ映る、アニメの様な3D絵の美男子を見せ、

「この人なの…ッ! この人が…ッ! 私の…ッ! 『でぃすてぃに~』な…ッ! 『ふぉ~りんらば~』なの……ッッッ‼」
 爛々らんらんと目を輝かせて、そう叫ぶ娘に、私は『意味が分からない』状態だった…。


 そう、激しい動揺に、顔にあせりの色を濃く見せてしまった私に対して、その『彼』がさらに話し出す。

「今回は、ボクたちの事を紹介させてもらう事を承諾しょうだくしていただいて、ありがとうございます。 ボク……話下手はなしべたで……。 上手うまくは言えませんが……。 こんな『バーチャル』なボクですが…! 絶対に…ッ! 娘さんを…幸せにします…ッ‼」
 そう『彼』は、画面の中で、さっきの娘にも負けないくらいの真摯しんしな表情で深々ふかぶかと頭を下げた…。


 そこでさらに、
「『彼』ね! ホントひかえめで口下手くちべたなんだけど…。 でもでも! とっても! とっても…‼ とっても…ッ‼ とっても…ッッ‼ 私を想ってくれているの…ッッッ‼」
 そう語気ごきを激しく強めて鼻息はないきあらく力説する娘に、私は『アレ』な『苦笑い』しか出なかった…。

 さらに『苦笑い』の『苦さ』がす私…。
 ああ…時代は『電子化』時代って言うけど…これは…ちょっと進歩しんぽぎなんじゃないかな……?
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