時代錯誤の大剣豪、異世界を駆ける 〜目覚めたら第二王子だったのだが、私はこの身体を立派な武士に仕立ててから持ち主に返すつもりである〜

さいぞう

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第十七話 村を建てる場所はどこ

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 情報屋ゲヘラはカイル暗殺に失敗し、追い込まれ自らその命を絶った。

 子龍はその最後を看取ると亡き骸を警備兵に引き渡し、城へと戻る。本当の名も知らぬ飄々とした男であったが、なんだかんだゲヘラの事は嫌いではなかった。

 その殺意は明らかに子龍が情報提供を行った時から発せられはじめていた。殺気の理由までは察することはできず、ただこの殺気が気の迷いであって欲しいと願っていたのだが、結局ゲヘラはそれを行動に移してしまった。

 早計であったか……。子龍は少なからず後悔の念に駆られている。あの話をしなければこんな結果にはならなかっただろう。

 ゲヘラはこの国の情報屋であると思い込んでしまっていたが最後の忠告から考えると、恐らくは他国の諜報員だったのだろう。だが、他国の諜報員であれば何故ゲヘラはわざわざあんな忠告を残したのだろうか。

 疑念を抱えつつも、最後のゲヘラの言葉がやけに耳に残っている。

「嫌いじゃなかったか……私の事が嫌いでないならばまだ他に道はあったであろう」

 まさか自ら死を選ぶとは思っていなかったことにも自分の認識の甘さを痛感させられている。恐らくはこれは情報戦を含めた戦というものの経験が足りていないのだろう。

「私もまだまだ精進が足りぬな……」

 戦は既に始まっていると考えておくべきだ。もっと用心深く、より狡猾に立ち回らなければならない。情報こそ全ての基本であると頭では分かっていたはずだ。

 賊の情報を入手するという目的は達成したものの、どこかすっきりしない気持ちを抱えながら子龍は帰路につくのであった。

 ▽     ▲     ▽

 それから数日後。

 子龍の自室にてロブ、ルディ、ボッツが一同に顔を揃え、机の上に広げられた地図を囲うように並んでいる。思えばこの4人が同じ場所に集まるのは初めてかもしれない。

「今日は村を作る場所を決めたゆえに皆と共有しようと思って集まってもらった」

 子龍のその言葉を聞き、ルディとボッツは待ってましたと言わんばかりの反応を見せている。どうやら二人は新しい村を心待ちにしているようだ。ちなみにロブには事前に共有済みである。

「まずはこの地図を見てくれ。みんなには私と同じ認識を持ってもらわねばならない。そのために今から説明をしよう」

 ロブ、ルディ、ボッツは子龍が信頼する数少ない配下である。そのため、どんな考えで選んだ場所なのかだけでも知っておいて欲しかったのだ。

「ここが首都バロックヘルム。そして、対ペルシニアの防衛拠点として北東にルズベリー、南東にハイランドがある」

「へー。ルズベリーとハイランドは対ペルシニアのための街だったのか。そんな事、考えたこともなかったぜ」

 ルディは感心するように地図を眺めている。ルディの境遇を考えると地図自体見る機会も少なかったのかもしれない。

「そんなの地図見りゃ誰にでもわかんだろ。この北西のヘブリッジと南西のチェスターが対アテナティエって訳だな」

 何やら得意げな様子でボッツが語り出した。ボッツはルディに対してはことあるごとに優位に立とうとする。

 今回もルディが地図を珍しがっているのを見て、抜かりなく優位に立とうと知ったか振りを始めたのだ。
 
「お前には聞いちゃいねーんだよ!黙ってろ!」

「なんだとこの野郎!」

 そんなボッツに対してルディは必ず悪態をついて返している。そして始まる睨み合い。このやりとりにはもはや飽き飽きしている。

 子龍はおもむろに机をドンッ!と殴りつける。その音に反応して二人は子龍の方を見る。

「黙ってきいてろ。馬鹿ども」

 そこには逆らってはいけない獣がいた。すぐに睨み合いをやめ、二人は定位置にと戻っていく。

「――話を続けよう。私が見るに現状もっとも手薄なのは、ここ南西のチェスターだ。当初、このチェスターとバロックヘルムの中間地点に村を建て防御を増強しようと考えたのだが……それはやめた」

「なんでだよ。別に守りを固めるのは悪くはないだろ」

 黙っていろと言われても疑問に思ったことは普通に聞いてくるあたり、なんともルディらしい反応だ。

「理由は防御を固めているというのがあからさますぎるからだ。隣国には基本監視されていると考えた方がいい。このルズベリーとバロックヘルムの中間というのはアテナティエを刺激する恐れがある」

 この考え方に至れたのはゲヘラの忠告があったからこそである。その忠告がなければ、子龍は間違いなくこの場所に村を立てていただろう。

「じゃあ、どこに決めたってんだ?手薄なチェスターは守るつもりなんだろ?」

 ボッツの問いに子龍はニヤリと笑う。

「それはな……ここだっ!!」

 勢いよく子龍が指差した場所。それはバロックヘルムと北東ルズベリーの中間地点に当たる平野であった。

「はっ??ほぼ真反対じゃねーか?――俺には意図がさっぱりわからねーや」

「ふははは。それだ、ルディ。意味がわからないだろう。ここはどこの守りにもならないちょうど一番意味がわからない場所なのだよ」

 何故か自身満々の様子の子龍。考えすぎてヤケクソになったのかとルディは苦笑いをし、ボッツは子龍に釣られるままに笑っている。

「場所にこだわるのは辞めた。我々はそれを移動力で補うのだ」

「移動力……。そうか!身体を鍛えるんだな!走り続けてなんとかしようって腹だろっ!」

 ルディは考えを見切ったぞと言わんばかりに声を張り上げた。

「違う!それでは流石に限界が――いや、待てよ。もしもの時に備えてそれもできるようにして置いたほうがいいか。ふむ……走る鍛錬か。やるならば一番日差しの厳しい時間帯に行うのがより効果的であろうな……。国の端から端まで走るというのは……ふふふ……いいやもしれぬ」

 ルディの何気ない一言が何やら恐ろしい計画に発展していってしまっている。思わずルディも顔が引き攣りだしている。

「ルディ、馬鹿野郎!余計なこと言うんじゃねーよ!」
 
 ブツブツと鍛錬の虫が騒ぎ出した子龍の横でボッツがルディを肘で突つき、なんとかしろと合図を出す。

「カ、カイル。結局、正解はなんだったんだ?教えてくれよ」

 なんとか話を逸らしたいルディは普段しない笑顔で正解を言うのを促し始めた。

「ん?……あぁ、そうだったな。――騎馬だ!人数分の騎馬を揃え、移動を騎馬で行えば王国の全域を補えるだろう。――私は騎馬隊を作ることにした!」

 これが子龍が導き出した結論であった。この考えに至れた時、子龍はゲヘラのおかげであると感謝した。神出鬼没の騎馬隊。これほど心躍る策は無い。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。……ってことは俺達も馬に乗るのか?」

 鼻息を荒くしている子龍を尻目に馬に乗れないルディは焦り出していた。

「あぁ、そうだ!」

「おいおいおい。じゃあ、もしかして始まるのか?乗馬の鍛錬が……」

 同じく馬に乗れないボッツも焦り出している。

「あぁ、そうだ!」

「まさか。明日からとか言わねーよな?」

「あぁ、明日からだ!」

 子龍のとびきりの笑顔が有無を言わせぬ恐怖を二人に振り撒いている。嬉しそうに笑う子龍。床に崩れ落ちるルディとボッツ。

 この一連のやりとりを見ていたロブは、このおかしな主従関係を微笑ましい視線で見守っていた。



「ロブ。お前もだからな?」

「えっ??」
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