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第二話 老齢な世話役
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私がこの世界で目覚めてから数日が経過した。今のところカイルの人格が目覚める気配はまだ無さそうだ。
朝の鍛錬は欠かさず続けている。少しずつではあるがこの身体が鍛錬に慣れ始めている。
鍛錬を始めた翌日などはひどい全身の痛みに襲われたが、これこそが身体を鍛えた反応というもの。この痛みも次第に消えていくことを私は経験で知っている。
鍛錬終わりの水浴びは未だ身体が震え上がるが、その度に喝を入れている。
メイド達は毎日のようにずぶ濡れで帰ってくる私を見て、今や着替えを最初から用意するようになった。相変わらずよく教育されており優秀な者達だ。
食事は結局出されたものを甘んじて食することにした。その道の職人が丹精を込めて作っているものだ。
だからこそ注文をつけるのは野暮というものだ。堕落するかどうかは己の信念で打ち勝つのみである。
今や私は子龍ではなく、カイルなのだ。カイルの立場というものを尊重すれば折れるのは私であるべきだと理解した。
今日は身体にも少し余裕が出てきている。そろそろ次の段階へと移るとしよう。
▽ ▲ ▽
「ふむ……算術に経済学……これは農学か。これは民族学……ううむ。誰の選出かはわからぬが、えらく内政的な本棚であるな。軍学や武芸書などは一つも無いのか?」
部屋の中にある本棚を何やらぶつぶつと言いながら物色している子龍。
生前は鍛錬終わりの午後は兵法書を読み過ごすことが多かった。カイルの記憶を探ってみるが本の表題すら気にもしていない状態であったようだ。
それにしてもこうも内政的な書物ばかりが並んでいると誰かの意図が介入している気がしないでもない。
それはさておきと子龍の目当てのものはこの世界における兵法書や武芸書であったが、どうやらお目当てのものはこの棚にはなさそうである。
「これは……。魔道学?はて、この書物だけが何やら異質な雰囲気を醸し出しておるな。……仕方ない、これにしてみるか」
何やら怪しい本であったが、たまたま目を引かれ、何気無しに掴むとそれを片手に席につく。
「さてと……」
そう呟きながら、子龍は手の平、手の甲をと見つめ、開いては閉じ開いては閉じを行い、手の具合を確かめている。
「改めて見るとなんとも貧弱たる拳だ。大福の如き柔らかさよ。このような拳で殴ればこちらの拳が先に砕けてしまうであろう」
やれやれといった様子で本を片手に持ち読み始めると、空いた片手は拳を作り、ゴンッ、ゴンッと机に打ち付けていく。
ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ、ゴンッと鈍い音が一定の間隔で部屋にこだまする。
拳は次第に赤くなり、皮が剥けていくが子龍は気にする様子も無く、ただただ拳を打ち付ける。これも子龍が生前行っていた鍛錬の一つである。
戦場においてもし武器を持たず徒手となった場合にどうするか。
子龍が辿り着いた答えは、『己が拳で相手の目を抉り潰すこと』であった。それを為すためには何が必要か。即ち強靭な拳である。
実際、この鍛錬によって破壊と修復を繰り返すことで拳は少しずつ頑強に変化していった。
生前の子龍はイガ栗をそのまま握りつぶすことさえ可能になっていた。
まずは500回の木刀の打ち込みから始まったカイルの手はマメが出来ては潰れを繰り返している。
そこに更にこの鍛錬を追加する事で頑強さはより増していくのである。
それからしばらくの間、ゴンッ、ゴンッと音を響かせながらの読書が続く。右に左にと定期的に拳を変えつつも、あくまで意識は本の中だ。
そこに不意に扉が開き、中へ入ってくるものがいた。本の脇からチラリと確認すると、白髪の厳格そうな顔つきをした使用人の姿があった。執事長のロブである。
「カイル様、失礼します」
一礼をし挨拶をするロブだが、眼光は鋭く、顔つきは険しいままだ。カイルはこのロブの事が苦手であったようだ。
ロブは事あるごとにあれはダメ、これはダメとあれこれと注意をしてくる為にカイルはロブの事を避けるようになっていた。
今も、まさに苦言を呈するぞと言わんばかりの顔つきをしている。
「何用か?」
そんなカイルの苦手意識は子龍には関係ない。本を読む事を辞めぬままそう返事をした。もちろん、拳の鍛錬も目下継続中である。
「何をされているので?」
「見ればわかるだろう。……読書だ」
「そちらではございません。何故机を叩いておられるのです。手が赤くなっておられます」
用件があって入ってきたロブであったが、どうやら目の前の光景を無視することができなかったらしい。
「あぁ、これか。ただの鍛錬だ。気にするな」
ゴンッ、ゴンッと音を立てながらも、変わらない調子で子龍は返答する。それ以上の説明はする必要がない。
「……左様で。ゴホンッ――カイル様。ここ最近早朝より稽古されておられるのは立派なことですが、あの奇怪な声を出すことは即刻お辞めくだされ」
なるほど、ロブが今回注意しに来たのはそれであったか。それにしても奇怪な声とは失礼なやつだ。何もわからぬ奴が口出しをするな。
「何故やめる必要がある」
止めろと言われようが簡単にわかりましたなどと言うつもりは無い。あれは必要だからこそやっていることである。
私が行うことに無駄なことなど唯の一つもない。
「近頃、城内で噂になっております。カイル様が気でも触れられたのではないかと。誰も直接そのようなことはお伝えにならないでしょう。――なので、私が申しております」
ロブの言葉に耳がピクリと反応する。相変わらず本を読むのは辞めてはいないが少なからず動揺が走っていた。
(なぜそのような話になっておるのだ。ただ鍛錬をしておっただけではないか。一国の王子である者が狂人扱いは流石に不味いのではないか。まるで、かつての信長公のようになっているとは……)
この事態は正直想定外である。生前であればあのような鍛錬は剣術道場ではよくみられる光景だ。
しかし、どうやらこの世界ではそれが奇怪に映るらしい。過去、早朝からうるさいなどと文句を言われたことはあったが、今はその時のようにただ黙っておれと突っぱねて終わりにする訳にはいかない。
立場も何もかもが違っている。この身体はカイルのものであり、余計に狂人という烙印はまずかろう。
しばしの沈黙の後に子龍が静かに口を開く。
「……あれは鍛錬を濃密にするために必要な事だ。中途半端にやっても何も身にはならん。私としては止めるわけにはいかぬのだが……どうすればよい?」
子龍はまだこの世界の常識に慣れていないと知り、この老齢な世話役に助けを求めてみようと言う気になっている。
「……左様ですか。……ふ~む」
どうやらロブもこの返しは想定していなかったらしい。ロブはその場で顎に手を当てその場で何やら思案し始めた。
「……では、同じ鍛錬を行う者を増やしてみてはいかがでしょうか」
「ほお、それに何の意味があると言うのだ」
この提案には思わず読書を一旦辞めロブの方を見た。さて、この老人が用意した解のお手並拝見といこうではないか。
「一人でなされるから余計に奇怪に映るのです。複数人で同じように行えば、そのような鍛錬であると周りからは映るのではないでしょうか。一人よりかは幾分かマシかと思います」
ロブの提案はそう言われると確かにそうであると感心するものがある。
「――わかった。そのようにしよう。それで?誰が共に鍛錬をするのだ?まさか自分がやると申すのではあるまいな」
鍛錬の相手と言うのは重要なことである。周りからの目眩しのためとは言え、腑抜けた相手とは共に鍛錬をする気にもならない。
「私は見ての通りの年齢ゆえ鍛錬にはついていけないでしょう。――しかし、そうは申したもののあのような早朝から奇怪な声をあげて共に鍛錬をしようなどと言う人物が果たして居られますかな。嫌々やってもカイル様はお叱りになるでしょうし、そうなってはかえって鍛錬の邪魔になります。適役がいないのでは、諦めるしかないのではと存じますが……」
こやつ。計りおったな。結局はそこに行き着く訳か。白々しくもそこまで思案していたのだな。
「……ふんっ、続けたければ自分で見つけよと申しておるのだな。――わかった。考えよう」
とんだ食わせ者である。食わせ者であるが、この返しに対してはむしろ好感すら覚える部分もある。
どうやら出来る男なのだろう。メイド達の徹底された教育振りにはこの男の存在が透けて見えてくる。
「今後は周りの目というものにもご配慮頂ければと存じます。では、これにて」
ロブは言いたい事を伝えて満足したのか一礼をして、扉の方へ振り返る。
「――ロブよ。一つ聞きたいのだが……」
子龍が呼び止めたためにロブは改めてこちら側へと向き直る。
「この本は魔道なるものについてのやり方や鍛練法について書いてあるのだが本当にこのような事が体現できるのだろうか?」
子龍はこの怪しげな本の内容が気になっていた。そこには妖術かのように火や氷などを操る様が描かれている。
「魔道は古の技術と言われており、書物も残っておりますが実際に体現できるものとは考えられておりません。魔道に興味がおありで?」
なるほど。どうやら絵空事であるらしい。世界は変われど結局は似たようなものかと納得する。
「いや、それほど興味があるわけではないな。ただあったから読んでみただけだ。――すまない、ありがとう」
子龍の返事を聞き、ロブは一礼をして部屋から退出する。部屋には再び、ゴンッ、ゴンッと机を叩く音だけが鳴り響いている。
「古の技術か……」
ロブの言葉を思い出しながら、本の表紙や裏表紙を眺め見る。誰が執筆した本なのか何もわからない。
本の中身は全て手書きだ。恐らくは写本されたものだろう。その労力を考えれば、これは一般的には出回ってない書物なのかもしれない。
「――よくよく考えれば、書物が残されているという事であれば絵空事と決めつけるのは早計か。体現できる可能性があってもおかしくはないとしておくべきか。自ら使おうとは思わぬが、万が一相手に使われた際のために知っておいて損はなさそうではあるな」
本を眺めながらそう呟くと、子龍は再び本に目を通し始める。
これを相手が使用してきたらどう躱すのか。この技の対処法はと、あるかどうかもわからぬことに対しても相変わらず備えの姿勢を取る子龍なのである。
しかし、子龍は既に大事なことをすっかり忘れてしまっている。明日からの共に鍛錬を行う者を探さねばならないということを……。
朝の鍛錬は欠かさず続けている。少しずつではあるがこの身体が鍛錬に慣れ始めている。
鍛錬を始めた翌日などはひどい全身の痛みに襲われたが、これこそが身体を鍛えた反応というもの。この痛みも次第に消えていくことを私は経験で知っている。
鍛錬終わりの水浴びは未だ身体が震え上がるが、その度に喝を入れている。
メイド達は毎日のようにずぶ濡れで帰ってくる私を見て、今や着替えを最初から用意するようになった。相変わらずよく教育されており優秀な者達だ。
食事は結局出されたものを甘んじて食することにした。その道の職人が丹精を込めて作っているものだ。
だからこそ注文をつけるのは野暮というものだ。堕落するかどうかは己の信念で打ち勝つのみである。
今や私は子龍ではなく、カイルなのだ。カイルの立場というものを尊重すれば折れるのは私であるべきだと理解した。
今日は身体にも少し余裕が出てきている。そろそろ次の段階へと移るとしよう。
▽ ▲ ▽
「ふむ……算術に経済学……これは農学か。これは民族学……ううむ。誰の選出かはわからぬが、えらく内政的な本棚であるな。軍学や武芸書などは一つも無いのか?」
部屋の中にある本棚を何やらぶつぶつと言いながら物色している子龍。
生前は鍛錬終わりの午後は兵法書を読み過ごすことが多かった。カイルの記憶を探ってみるが本の表題すら気にもしていない状態であったようだ。
それにしてもこうも内政的な書物ばかりが並んでいると誰かの意図が介入している気がしないでもない。
それはさておきと子龍の目当てのものはこの世界における兵法書や武芸書であったが、どうやらお目当てのものはこの棚にはなさそうである。
「これは……。魔道学?はて、この書物だけが何やら異質な雰囲気を醸し出しておるな。……仕方ない、これにしてみるか」
何やら怪しい本であったが、たまたま目を引かれ、何気無しに掴むとそれを片手に席につく。
「さてと……」
そう呟きながら、子龍は手の平、手の甲をと見つめ、開いては閉じ開いては閉じを行い、手の具合を確かめている。
「改めて見るとなんとも貧弱たる拳だ。大福の如き柔らかさよ。このような拳で殴ればこちらの拳が先に砕けてしまうであろう」
やれやれといった様子で本を片手に持ち読み始めると、空いた片手は拳を作り、ゴンッ、ゴンッと机に打ち付けていく。
ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ、ゴンッと鈍い音が一定の間隔で部屋にこだまする。
拳は次第に赤くなり、皮が剥けていくが子龍は気にする様子も無く、ただただ拳を打ち付ける。これも子龍が生前行っていた鍛錬の一つである。
戦場においてもし武器を持たず徒手となった場合にどうするか。
子龍が辿り着いた答えは、『己が拳で相手の目を抉り潰すこと』であった。それを為すためには何が必要か。即ち強靭な拳である。
実際、この鍛錬によって破壊と修復を繰り返すことで拳は少しずつ頑強に変化していった。
生前の子龍はイガ栗をそのまま握りつぶすことさえ可能になっていた。
まずは500回の木刀の打ち込みから始まったカイルの手はマメが出来ては潰れを繰り返している。
そこに更にこの鍛錬を追加する事で頑強さはより増していくのである。
それからしばらくの間、ゴンッ、ゴンッと音を響かせながらの読書が続く。右に左にと定期的に拳を変えつつも、あくまで意識は本の中だ。
そこに不意に扉が開き、中へ入ってくるものがいた。本の脇からチラリと確認すると、白髪の厳格そうな顔つきをした使用人の姿があった。執事長のロブである。
「カイル様、失礼します」
一礼をし挨拶をするロブだが、眼光は鋭く、顔つきは険しいままだ。カイルはこのロブの事が苦手であったようだ。
ロブは事あるごとにあれはダメ、これはダメとあれこれと注意をしてくる為にカイルはロブの事を避けるようになっていた。
今も、まさに苦言を呈するぞと言わんばかりの顔つきをしている。
「何用か?」
そんなカイルの苦手意識は子龍には関係ない。本を読む事を辞めぬままそう返事をした。もちろん、拳の鍛錬も目下継続中である。
「何をされているので?」
「見ればわかるだろう。……読書だ」
「そちらではございません。何故机を叩いておられるのです。手が赤くなっておられます」
用件があって入ってきたロブであったが、どうやら目の前の光景を無視することができなかったらしい。
「あぁ、これか。ただの鍛錬だ。気にするな」
ゴンッ、ゴンッと音を立てながらも、変わらない調子で子龍は返答する。それ以上の説明はする必要がない。
「……左様で。ゴホンッ――カイル様。ここ最近早朝より稽古されておられるのは立派なことですが、あの奇怪な声を出すことは即刻お辞めくだされ」
なるほど、ロブが今回注意しに来たのはそれであったか。それにしても奇怪な声とは失礼なやつだ。何もわからぬ奴が口出しをするな。
「何故やめる必要がある」
止めろと言われようが簡単にわかりましたなどと言うつもりは無い。あれは必要だからこそやっていることである。
私が行うことに無駄なことなど唯の一つもない。
「近頃、城内で噂になっております。カイル様が気でも触れられたのではないかと。誰も直接そのようなことはお伝えにならないでしょう。――なので、私が申しております」
ロブの言葉に耳がピクリと反応する。相変わらず本を読むのは辞めてはいないが少なからず動揺が走っていた。
(なぜそのような話になっておるのだ。ただ鍛錬をしておっただけではないか。一国の王子である者が狂人扱いは流石に不味いのではないか。まるで、かつての信長公のようになっているとは……)
この事態は正直想定外である。生前であればあのような鍛錬は剣術道場ではよくみられる光景だ。
しかし、どうやらこの世界ではそれが奇怪に映るらしい。過去、早朝からうるさいなどと文句を言われたことはあったが、今はその時のようにただ黙っておれと突っぱねて終わりにする訳にはいかない。
立場も何もかもが違っている。この身体はカイルのものであり、余計に狂人という烙印はまずかろう。
しばしの沈黙の後に子龍が静かに口を開く。
「……あれは鍛錬を濃密にするために必要な事だ。中途半端にやっても何も身にはならん。私としては止めるわけにはいかぬのだが……どうすればよい?」
子龍はまだこの世界の常識に慣れていないと知り、この老齢な世話役に助けを求めてみようと言う気になっている。
「……左様ですか。……ふ~む」
どうやらロブもこの返しは想定していなかったらしい。ロブはその場で顎に手を当てその場で何やら思案し始めた。
「……では、同じ鍛錬を行う者を増やしてみてはいかがでしょうか」
「ほお、それに何の意味があると言うのだ」
この提案には思わず読書を一旦辞めロブの方を見た。さて、この老人が用意した解のお手並拝見といこうではないか。
「一人でなされるから余計に奇怪に映るのです。複数人で同じように行えば、そのような鍛錬であると周りからは映るのではないでしょうか。一人よりかは幾分かマシかと思います」
ロブの提案はそう言われると確かにそうであると感心するものがある。
「――わかった。そのようにしよう。それで?誰が共に鍛錬をするのだ?まさか自分がやると申すのではあるまいな」
鍛錬の相手と言うのは重要なことである。周りからの目眩しのためとは言え、腑抜けた相手とは共に鍛錬をする気にもならない。
「私は見ての通りの年齢ゆえ鍛錬にはついていけないでしょう。――しかし、そうは申したもののあのような早朝から奇怪な声をあげて共に鍛錬をしようなどと言う人物が果たして居られますかな。嫌々やってもカイル様はお叱りになるでしょうし、そうなってはかえって鍛錬の邪魔になります。適役がいないのでは、諦めるしかないのではと存じますが……」
こやつ。計りおったな。結局はそこに行き着く訳か。白々しくもそこまで思案していたのだな。
「……ふんっ、続けたければ自分で見つけよと申しておるのだな。――わかった。考えよう」
とんだ食わせ者である。食わせ者であるが、この返しに対してはむしろ好感すら覚える部分もある。
どうやら出来る男なのだろう。メイド達の徹底された教育振りにはこの男の存在が透けて見えてくる。
「今後は周りの目というものにもご配慮頂ければと存じます。では、これにて」
ロブは言いたい事を伝えて満足したのか一礼をして、扉の方へ振り返る。
「――ロブよ。一つ聞きたいのだが……」
子龍が呼び止めたためにロブは改めてこちら側へと向き直る。
「この本は魔道なるものについてのやり方や鍛練法について書いてあるのだが本当にこのような事が体現できるのだろうか?」
子龍はこの怪しげな本の内容が気になっていた。そこには妖術かのように火や氷などを操る様が描かれている。
「魔道は古の技術と言われており、書物も残っておりますが実際に体現できるものとは考えられておりません。魔道に興味がおありで?」
なるほど。どうやら絵空事であるらしい。世界は変われど結局は似たようなものかと納得する。
「いや、それほど興味があるわけではないな。ただあったから読んでみただけだ。――すまない、ありがとう」
子龍の返事を聞き、ロブは一礼をして部屋から退出する。部屋には再び、ゴンッ、ゴンッと机を叩く音だけが鳴り響いている。
「古の技術か……」
ロブの言葉を思い出しながら、本の表紙や裏表紙を眺め見る。誰が執筆した本なのか何もわからない。
本の中身は全て手書きだ。恐らくは写本されたものだろう。その労力を考えれば、これは一般的には出回ってない書物なのかもしれない。
「――よくよく考えれば、書物が残されているという事であれば絵空事と決めつけるのは早計か。体現できる可能性があってもおかしくはないとしておくべきか。自ら使おうとは思わぬが、万が一相手に使われた際のために知っておいて損はなさそうではあるな」
本を眺めながらそう呟くと、子龍は再び本に目を通し始める。
これを相手が使用してきたらどう躱すのか。この技の対処法はと、あるかどうかもわからぬことに対しても相変わらず備えの姿勢を取る子龍なのである。
しかし、子龍は既に大事なことをすっかり忘れてしまっている。明日からの共に鍛錬を行う者を探さねばならないということを……。
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