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第二章 アウゼフ王国義勇軍編

第五十三話 アウゼフ王国の希望

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カイル、バロウ、シルビアが城壁の上で他愛もない話をしていると、そこに軍兵がやってきた。

「おぉ、こちらに居られましたか。軍議を開くとのことで招集が掛かっております。どうぞ、お集まり下さい」

「わかった。すぐに向かうよ」

軍兵に返事をし、三人は要塞内の軍議部屋に向かう。

そこには既にみんな集まっており、カイル達が最後だったようだ。すぐに席に座ると

「みんな、集まってもらってすまない」

そう切り出したのはレオパルド隊副長のティーガーだ。レオパルドがいない今、一時的に取り仕切る役をやっている。ティーガーがユシアに目配せをするとユシアが喋り出した。

「集まってもらったのは他でも無いわ、レオパルド様のことよ」

「容体に進展があったの?!」

ユシアの言葉にカイルが反応するとユシアは静かに首を振った。

「いいえ、傷はカイルの薬で治ってる。少し日を置いて待ってみたけれど一向に目覚める気配がないわ。目覚めない原因が分からないの」

「そうか……」

原因不明という話に軍議部屋に重い空気が流れ出す。

「でも、全く希望が無いってわけじゃない──アルフヘイム王国にある世界樹よ。そこから取れる実は万物を治す力を持つと言われているの。もはやこれに賭けるしかないと言うのが私達の出した結論」

「そんな大層な代物をエルフ達が簡単に渡すとは思えないが」

シルビアがユシアの話を聞き、疑問を口にする。

「その通りね。渡して貰えるかは正直予測が付かないわ。エルフ族はこの世界樹と霊薬を守るために必死に戦っているようなものですもの。きっとそれなりの対価が必要になるはず」

「俺達に出せるもの……か。軍か?金銭?」

カイルの問いに一同が考え込む。軍を派遣する余裕などもちろん無く、金銭についてはそもそも有効性が怪しい。

「将軍枠だ」

腕を組みながらルーカスが静かに呟いた。

「カイルの軍編成スキルの枠を渡す。それでも恐らく最低でも2枠は渡す覚悟をしておいた方がいい」

「ルーカス、本気でいってるのか?それは俺達の戦力低下を意味してるんだぞ」

将軍枠という案は確かに交渉の余地がありそうな提示に思える。しかし、それと同時に起こる戦力低下は今後に響きかねない。

「あぁ、私は本気だ。はっきり言って中途半端なものは提示するだけ逆効果だ。戦力低下を覚悟してでも将軍枠で交渉するべきだと思う。レオパルド様が目覚めなければ我々は道を失うのと同じだ。──それに、エルフ族に枠を渡すことは悪いことばかりではない。これによりエルフ族との繋がりが大きくなる。更にエルフ達が戦況を変えれば我々も楽になる可能性もある」

「なるほど。共闘も視野に入れて枠を渡すって訳か……」

ルーカスの説明を聞くと納得する部分が多かった。むしろ、これ以上の代案を出すことができそうにないほどだ。

「──決まりみたいね。提示するのは将軍枠。あとは誰が行くかだけど、カイルはスキル的に必須になるからカイルに選んで貰おうと思うんだけど」

「俺?──うん、わかった」

カイルは誰にするか考えながらみんなを順々に眺めている。そんな中でバロウと目が合うと一緒に行かせろと言わんばかりに目で訴えかけられ少し笑いそうになってしまった。

「──わかったよ。バロウとシルビア。あとは出来ればユシアにも来て欲しいんだけど、4人抜けるのはきついかな?」

「そこは心配するな。あの山城さえあればいくらでも魔王軍を防いでみせるさ」

カイルの問いかけにルーカスがすぐに答えた。どこかこの人選になることを予測していたかのような雰囲気で笑っている。

「ティーガー、私も行ってもいいのかな?」

「聞いてたろ?こっちは心配するな。本当はいてもたってもいられないんだろ。行ってこいよ」

ユシアの問いかけにティーガーも後押しをする。

「よーし、決まりだ!俺、ユシア、シルビア、バロウでアルフヘイム王国に行く。それで必ず世界樹の実をもらってくる!」

「よっしゃああ!!やってやろうぜ!」

カイルが高々と宣誓し、バロウが気合十分に叫ぶ。それを見ながらシルビアとユシアはやれやれと言った様子で微笑んでいた。

───────────────

「カイル。相談があるんだがもうちょっといいか?」

軍議が終わり、部屋を出ようとしたところでルーカスに呼び止められる。ルーカスはティーガーにも声を掛け、軍議部屋には3人だけとなった。

「今回の魔王軍の動き。何か違和感を感じるんだが私だけだろうか。ちょっと二人の意見を聞きたくてな」

ルーカスは戦いが終わった後もずっと考察を続けていた。腑に落ちないといった様子で今も難しい顔つきをしている。

「違和感?んー、そうだなぁ」

ルーカスから違和感を問われ、カイルとティーガーは改めて魔王軍との戦いについて考え始めた。

「じゃあ、とりあえず状況整理からしてみようか。俺達はザール率いる1万のゴブリン軍を破り、そのまま直ぐに軍を整えて要塞ゴルドを奪還した。翌日、麓の街ポルダに向かうと既に10万の大軍が待ち構えていて、そして三つ目の魔族がレオを殺そうとし、10万の軍を侵攻させ自らはどこかに去って行った──こんな感じか」

「あぁ、そうだな。大体そんなもんだろ」

カイルの状況整理を聞きながらティーガーも内容に同意する。

「この状況から考えると、魔王軍は事前に俺達が来ることを予想して10万を準備したって話になるのか。そもそもあんな短期間で10万なんて準備できるのかな?」

「それだ。一つ目の疑問は10万を準備するのが早すぎるってことだ。というより、大軍の行軍は時間がかかるからあの期間ではほぼあり得ないんだよ」

「となると、あの大軍は元々あそこにいたってことになる……」

そこでティーガーが何かを思い出したように腕を組んでいた状態から身体を起こした。

「そう言えばあの魔族。あの時10万の大軍を使い捨て呼ばわりしてたぞ」

「うん、言ってたね。確かにまるで見向きもしない感じでどこかに行っちゃったし。──そもそもこの一連の魔王軍の進行は兵力が異常過ぎないかな。だって、多方面に同時進行している訳でしょ?その状況で10万を捨て駒のように使うのはやっぱり異常だよ」

状況を整理していくうちにカイルとティーガーも、ルーカスが抱く違和感に気づき出す。

「この戦争自体が始まったのが大体5年前くらいだ。それまではある程度拮抗していたはずだ。──それが突然一気にバランスが崩壊した。この異常な兵力も何か裏があると見て間違いないだろう」

魔王軍に一体何が起きているのか。考えれば考えるほど謎は深まるばかりであり、そしてその謎を解くには圧倒的に情報が不足していた。

「とりあえずはレオを復活させることが先決だ!ティーガーとルーカスはこっちで情報収集を続けてくれないか?俺もアルフヘイム王国で情報を探ってみるよ」

カイルの言葉に二人が頷き、改めて今後の方針が定まった。

カイル、バロウ、シルビア、ユシア
アルフヘイム王国へいき世界樹の実を持ち帰る+魔王軍についての情報収集

ルーカス、ティーガー、義勇軍
要塞ゴルドの防衛+魔王軍についての情報収集

物語はアウゼフ王国から世界に向けて動き始めた。
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みんなの感想(4件)

crazy’s7@体調不良不定期更新中

【見どころ】
この物語は、今まで読んだことのある異世界ものとは、少し毛色や方向性の違う物語だなと感じた。そこが魅力でもある。彼が創造神に選ばれた理由が、物語に反映されているのである。
彼は生前”なんか面白いことないかな~”と何気なく呟いている。そして、おまけの人生を楽しんでくると言って、異世界に旅立った。まさしく彼の飛び込んだ世界は”主人公が楽しむ、楽しめるため”の世界なのだ。
そもそも楽しいとは何なのか? それは自分の想い通りになることでも、無敵になることでもないと思う。
彼が好きなのは戦国武将である”可児才蔵”。彼の思想や戦い方、生き方などに感銘を受けており、憧れや尊敬の念を抱いていたと思われる。ファンタジー世界×戦国、上手くできた世界観だと思う。ダンジョンなども存在し、報酬の宝箱から出てくるものがかなり粋だ。戦略を立て、知恵を使い、計画を立てて道を切り開いてくのが実に楽しそうである。そして宝箱を空けた時に出て来る者に対しての喜びが伝わって来る。主人公のとても生き生きとした作品。

この先、隠し要素も沢山ありそうな印象。例えるなら、ゲーム実況を見ているようなワクワク感も得られる物語だ。世界ありきで、主人公が世界を救うという作品は沢山あるが、主人公ありきで世界が構築されているスタイルは、少ないのではないだろうか。そのうえ、主人公もそのことを知らないのだ。だからこそ、ワクワクしながら冒険をすることができるのだろう。
彼の目的は、この世界のバランスを変えること。もしくは人類の勝利。読了部分はまだ冒険の序盤であり、目的までは程遠い。しかしこれからどんな出会いや新しい発見があるのか実に楽しみである。
あなたもお手に取られてみてはいかがでしょうか? お奨めです。

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crazy’s7@体調不良不定期更新中

・楽ではないからこその面白さがある。物語にはダンジョンがあり、ダンジョンと外ではシステムが異なる。創造神が作った世界ということもあり、不思議に感じる部分に違和感はない。ダンジョンにはゲームでなら一番ワクワクするであろう、宝箱も存在。罠があったりしないのだろうか? と序盤ではハラハラする場面もあるが、主人公の楽しそうだったり嬉しそうな様子に、読み手としてもウキウキしてしまう。(物語を読んでウキウキするのは珍しいケース)
・主人公は順応性が高く、とにかく前向き。生き生きとしており、読んでいるだけで楽しくなってくる。
・タイトルは暗そうに感じるが、キャンプ、ダンジョン探索、お宝発見、仲間ゲット! 特殊な設定による成長システムなど、全体的に明るく進んでいく。(だんだん暗くなるのかも知れないが、現時点では楽しそう!)

【備考(補足)】12ページ目まで拝読。
続く

解除
crazy’s7@体調不良不定期更新中

【主人公と登場人物について】
主人公は自身でも口にしている通り、熱血派ではなく頭脳派。創造神とのやり取りから慎重派という面も伺える。ゲームで例えるならアクションRPGよりも、戦略シミュレーションに向いているという印象。本編に入っていくと、閃きや知識により、目の前の問題と向き合っていくという印象も受ける。

創造神と主人公には似た部分を持ちわせているようだ。

【物語について】
彼をこの世界に呼んだのは、自分を創造神と名乗る少年。何故ここに呼ばれたのが自分だったのか? それは生前彼が何気なく呟いた言葉にあったようである。ここでこの物語オリジナルと感じられるのは、彼を異世界に呼んだ創造神とどんなスキルを貰うかを話し合い、吟味するという部分にある。その中で、主人公がどんな戦い方を想像しているのかも明かされ、これからどんなことが起きるのかワクワクしてしまう。

簡単な説明を受けた主人公はいよいよ異世界へ送り出される。そこで最初にあったのは狼であった。攻撃されるかと思いきや、懐かれる。まずは状況把握し、スキルや自分の見た目などを確認した彼だったが、何もない川の近くにいた。町が近くにあるのかもわからず、何とか狩りで勝った一角ウサギを原始的な方法で、狼こと蘭丸と食すのであった。果たしてこれからどんな生活が待ち受けているのだろうか?

【良い点(箇条書き)】
・主人公が異世界に馴染んでいく、自分で道を見つけていく前向きな姿勢がとても良い。(一部、神の恩恵もあるが、チートレベルではない)
・冒険と探索、閃きなどのバランスが良い。
・戦いは実際にアクションを行うものではあるが、戦略や閃きによって主人公が色んな技(切り抜け方)をあみ出していく。スキル自体はあるが、どう戦うかに自由度があり、アイデアなどによってピンチを切り抜けていくのがハラハラドキドキする。

続く

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