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第二章 アウゼフ王国義勇軍編

第四十一話 レオパルド王

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カイル達がキャンプで祝宴をあげている中、突然の来訪者が現れる。それはアウゼフ王国の現国王であるレオパルド・アウゼフだった。レオパルド王は断りを入れながらカイルの横にドカッと座り込んだ。

「楽しい祝宴の中、突然お邪魔してすまなかったな。あぁ、すまないが私にも酒をくれないか?」

いきなりやってきたレオパルドにカイル達はまだどうしていいかわからない様子で困惑している。

「国王様がどういったご用件で?」

カイルが恐る恐るレオパルドに話しかける。

「あぁ、敬語も不要だ。レオでいい。今は完全に個人で来たからな。形式ばったやりとりは本当は嫌いなんだ。」  

「そんで、レオ。なんか用か?」

レオパルドのその言葉を聞いてバロウがいつもの調子で話しかける。

「おいっ!バロウ!流石に砕けすぎだ。」

その言い方に思わずルーカスがバロウをたしなめる。

「はっはっはっ!いや、いい!気に入った。今日の戦いの報告を聞いた。実に見事だった。特にカイル。お前の声は私の元にも届いていたぞ。戦いを勝利に導く男。あれは実によかった。話を聞いてるうちにどうしても会いたくなってな!抜け出してきたって訳だ。」

笑いながら話すレオパルドの言葉にカイルが思わず恥ずかしそうな顔をした。

「もうそれについては触れないでほしいな。段々恥ずかしくなってきた所だよ。」

「はっはっはっ!何を言う!あれで士気は上がった筈だ。いい演説だったぞ。」

恥ずかしがるカイルの背中をバンバンと叩きながらレオパルドは嬉しそうに笑っている。

「それで。わざわざ自ら会いに来てまで何かを確かめたかったのか?」

嬉しそうなレオパルドに向けて、ジェイクはあまり興味なさそうな感じで酒を飲みながら質問をする。ジェイクは何か裏があると初めから勘ぐっていた。そのジェイクの言葉を受け、レオパルドがさっきまでの笑顔から真面目な顔に切り替わる。

「鋭いな。私が話を聞きに来たのはお前達のスキルについてだ。」

レオパルドが突然雰囲気を変えたため、カイル達も思わず表情を引き締める。

「報告内容から考えると、カイルとカイル隊の面々は明らかにスキルを共有している。それに間違いないか?」

「あぁ、合っているよ。正確に言うとそれは俺のスキルだけどね。俺は設定した人のスキルを100人に共有させることができるんだ。」

レオパルドの問いにカイルはすぐに隠す事なく自分のスキルの事を話した。

「本当にそんなことが。歴史上も含めそんなスキルは聞いたことがない。あっ、いや、実際に戦場で見せているから存在していることは疑いようがない。だがな、どうしても直接確認せずにはいられなかったのだ。」

レオパルドは報告を聞くだけでは信じきることができなかった。軍編成はそれほど特異なスキルだったのだ。そして、今カイルの口から軍編成スキルのことを聞き、改めてその性能に驚いている様子だ。

「レオパルド陛下。信じがたいのは私にも分かります。しかし、カイルのこの力は必ずやアウゼフ王国にとって重要な力となるはずです。」

ルーカスがレオパルドにカイルの重要性を説く。

「其方は名は何と言う。」

レオパルドはルーカスのこの喋りに何か国に関係する人物ではないかと感じとっていた。

「私はルーカス。賢者の子孫と言えば分かりやすいでしょうか。」

ルーカスは忌み嫌っていた呼び名をあえて出すことにした。レオパルドにおいてはその方がいい気がしたからだった。

「そうか、賢者の子孫か。ルーカス。君の報告も受けている。見事に募集兵を動かしたそうだな。ははっ!お前達は本当に面白い」

レオパルドは嬉しそうな顔で酒を飲み出した。

「それでレオは聞きたかった話は全部聞けたのかな?まだ何か聞きたいことがあれば答えるけど。」

カイルがレオパルドにそう言うと少し考えてからレオパルドが口を開く。

「100人に共有できると言ったな。そして、共有する人物はカイルが設定すると。何人まで設定できる?」

レオパルドはある意味核心をついた質問をした。
それは国としてカイルの力を当てにしたいと言っているのに近い。

「設定できるのは俺を含めて全部で10人。今は俺、バロウ、シルビアの3人が設定されているから残り7人だよ。」

カイルが答えるとレオパルドがまた何かを考えている。

「カイルよ。その7枠を私に任せてくれないか。これは個人としてもだが、この国の王としてもお願いしたいことだ。頼む。」

レオパルドはそう言いながら頭を下げた。一国の王が頭を下げるというのは基本的にあってはならないことだった。敢えてそれをしてまでカイルに頼み込んでいることからもレオパルドの本気度が窺えた。

カイルはルーカスの方をチラッと見る。ルーカスは静かに頷いた。

「わかったよ。俺としても当てがある訳じゃないから、レオに任せられるならこれ以上ないことだ。ぜひ、よろしく!」

カイルの言葉にレオパルドがバッと顔を上げた。

「ほんとか!そうか。人選は任せてくれ!今からカイル隊はこの国の中枢部隊になるだろう。もちろんそれ相応の褒美も出そう。3日くれ。3日後に領主館まで来てほしい。いいか?」

「了解!」

レオパルドとカイルは握手をし、3日後に会うことを約束した。

「今日は来てよかった。邪魔したな!」

レオパルドはそう言うとコップの中の酒を一気飲みし去っていった。去っていくレオパルドの背中はどこか嬉しそうだった。

「わざわざこんなところまで来るなんて、変わった王様だね。」

カイルがレオパルドの背中を見ながら笑顔で言う。カイルの中でレオパルドの印象は悪くない。むしろ好感を持つぐらいだった。

「俺は結構好きだな!国王だからってスカしてないからな!」

バロウは両手を頭の後ろで組みながら笑っている。

「良かったな。わざわざ向こうから来てくれるとは。売り込みに行く手間が省けた。」

ルーカスは売り込みに行くつもりだったらしく、予期せぬこの状況だったが手応えを感じていた。

「さて、宴の続きと行こうかね。」

ジェイクも先程はつっけんどんな態度を取っていたがレオパルドの本音を聞き出すためにしただけであり、レオパルドに悪い印象は持たなかったようだ。それよりも褒美という言葉に気分を良くしている。

その日は夜遅くまでみんなで談笑し、勝利の宴を楽しんだ。

ーーーーーーーーーーーー

3日後

カイル達はレオパルドとの約束通りに領主館までやってきた。

門番に声をかけると少し待つように言われ門番が確認に向かう。少し待っていると門番が戻ってきて国王の元に案内をしてくれた。

立派な扉の部屋の前につき、軍兵が扉をノックをすると「入れっ!」と返事がある。

部屋の中ではレオパルドが執務机の椅子に座っていた。

「よく来てくれた。おいっ、もう下がってよいぞ。」

レオパルドが軍兵を下がらせ、部屋にはカイル一同とレオパルドのみになる。

「国王陛下。約束通りに参陣致しました。」

カイルが膝をつき挨拶をすると、レオパルドが嫌そうな顔をした。

「やめてくれ。ほら、兵はもう下がらせただろ。この前の感じでいい。」

改めて気を遣わなくていいとレオパルドが言う。

「いやー、あれはもしかしたらキャンプだけでの特別な話かもしれないと思って一応ね。さて、約束の3日が経った。今日は楽しみにしてきたんだ!」

「うむ。結構俺も人選に悩んだが決まったぞ!ちょっと準備がいるが、みんなにも会わせたい。少し待ってくれるか。」

レオパルドはそういうと立ち上がり扉の外に出る。

「おいっ!準備をはじめろ!」「ハッ!」

扉の外でそう指示を出してレオパルドが席に戻る。

「まぁ、とりあえずはゆっくりしてくれ。」

それからしばらくレオパルドと雑談をしながら待った。色々話す中で、レオパルドが自分の事を話してくれた。歳は18。バロウとシルビアの少し上だ。王都が陥落した際に前国王は死亡し、代わりにレオパルドが若くして国王になった。

「劣勢なのは私も十分分かっている。だが、必ずや王都を奪還する。これは私の悲願だ。だから、そのためにもカイルの力が必要だ。協力してくれて本当に感謝している。」

レオパルドのその言葉には強い意志が込められているのを感じた。

「国王陛下!準備が整いました!」

その時、扉の先から軍兵が声をかけてきた。
レオパルドはわかったと返事を返す。

「さて、準備ができたみたいだ。参ろう。」

執務室を出てレオパルドについていく。

(ついにここまで来たな。精鋭軍の誕生の瞬間だ。)

カイルは期待に胸を膨らませていた。
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