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第二章 アウゼフ王国義勇軍編

第四十話 凱旋

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カイル達はついに魔族指揮官ザールを打ち倒した。後方では未だカイル隊、軍兵、募集兵達がゴブリンと激しい戦闘を続けていた。

「カイル、指揮官を倒したことを全軍に告げてくれ。」

ルーカスの言葉にカイルが号令の指輪をはめて声を張り上げた。

「敵将魔族指揮官を討ち取ったぞー!あとはゴブリン達だけだ!全軍気合を入れていけぇ!」

カイルのその声に義勇軍全体が歓喜に湧き、鬨の声を上げた!

「「「ドオオオオオオ!!」」」

まさに怒号のようなその声にゴブリン達が怯み出す。あとは、完全に一方的な展開となった。
指揮官を失った魔王軍側は総崩れし、逃げ惑うものまで現れる。

しばらく掃討戦が続き、ついには義勇軍が魔王軍の襲来を退け完全勝利した。

「勝ち鬨をあげろー!!」

「えい!えい!おー!えい!えい!おー!!」

いつの間にか仕切り出したチェスター大隊長の掛け声で全員で勝利の鬨の声をあげる。
義勇軍の勝ち鬨の声は、街にも届いていた。
それを聞き、街中が歓喜に湧く。

「勝った!義勇軍が勝ったんだ!」

街中の誰もが義勇軍の存在を認識していた。
最前線の街で立ち上がったこれが最後とも思える編成軍。もはや人族における最後の希望。それが義勇軍だった。

悲観的なことを言う人も多くいた。
無駄死にだ。もう終わっている。そう言う人の
多くはこの世界に絶望していた。しかし、その義勇軍が魔王軍の侵攻を退けたというこの吉報は鬱々としていた人々の心に僅かながらも希望をもたらした。

そして義勇軍が街に戻り入場した時、それは賛辞となり一気に開放される。義勇軍は街中から喝采を浴びた!色んなところから義勇軍に向かって声をかけられる。

「ありがとうー!」「義勇軍バンザーイ!」
「助かったぜ!」「カイルー!お前の声俺たちも聞いてたぜー!」

カイルは名前を呼ばれてびっくりした。
号令の指輪の効果は街中にも及んでいたらしい。
しかも、声質から若さが滲み出ていたようで、
なんとなく自分がカイルだとバレている気がする。

「おいおいっ!英雄の誕生かっ?!」

ジェイクが笑いながらからかってきた。

「やめてくれよ。ザールにとどめを刺したのはバロウだよ」

カイルが気恥ずかしそうに答える。

「あれはたまたま俺がいい武器持ってただけだよ。俺は何回も死にかけたしな。シルビアがいなかったら死んでたぜ。」

バロウが腕を頭の上で組みながらシルビアをチラ見する。

「あぁ。俺らを導いたのはカイルだよ。バロウが英雄なんて笑わせる。」

シルビアのバロウに対する扱いは相変わらずだ。

「みんなが英雄ってことだな。」

ルーカスが満足そうな顔で言う。


義勇軍は、チェスター大隊長の掛け声と共に解散した。口元にちょび髭を生やしたこの人は、戦場では途中から空気と化した。なぜ大隊長という立場にいるのか不思議でならない。考えてもしょうがないが変えて欲しいと思うのが本音だ。

カイル達は、どうしようと相談しとりあえずはキャンプに戻ることにした。

道中でも声をかけられるので手を振って対応する。

「そうだ。鏑矢を2本使ってしまった。また作ってもらえるか?」

「あぁ、お安い御用さ!」

シルビアが鏑矢のことを思い出しカイルに補充を依頼する。鏑矢は実際に連絡手段として機能することを今回の戦いでシルビアも実感した。

「そういえば、2本目の鏑矢あっただろ?あれで何で軍を後退って伝わるんだ?」

シルビアは気になっていた事をカイルに質問する。自分が使う時に参考にしたいという気持ちもある。

「あぁ、あれか。結構感覚的な話だよ。実際俺も迷いながらだったしね。」

カイルは教えるのを少し迷った素振りを見せる。あまり参考にならないと思っているようだ。

「それでもいい。あの時何を考えて判断したか教えてくれ。」

シルビアはそれを分かった上でも聞いておきたかった。あの状況で実際に意図が伝わっていたのは事実だったからだ。

「まずあれを放ったのは何かの意図があるとすぐに分かった。そして、後方に弓なりに放たれた矢。こういう使い方をするのはルーカスだ。
ルーカスが誰かに何かを伝えたいのだと。あの時は戦場で中央で激しい爆発がいくつも起こっていた。後方に弓なりに放たれた矢。直線ではなく弓なりだ。後退。ゆっくりと。それを指示して欲しいんだと判断した。だから、号令の指輪を嵌めて少し後退だと指示を出した。自分でもあっててよかったと思うよ。」

カイルがあの時何を考え、どう判断したかを矢継ぎ早に説明する。それを聞いたシルビアは驚いた顔をした。

「あの時そんなに間が開かずカイルは指示を出していた。あの一瞬でそこまで考えていたのかと思うと少し驚いたよ。」

シルビアは今回の戦いで判断力の重要さを痛感していた。それもありカイルの判断力に素直に感心している。

「いや、間違ってたら意味ないしね。あれはどう見てもルーカスの無茶振りだったと思うよ。」

カイルが苦笑いしながらルーカスの方を見る。

「すまなかったな。あの時俺も言っただろ?伝われば儲けもんだってな。あれで伝わってしまうカイルがどうかしてるんだよ。」

「無茶振りしといて俺がおかしいって言うの?ひどいなー!ジェイクもなんか言ってあげてよ!」

笑いながら言うルーカスに対してカイルがジェイクに援護を求めた。

「あぁ、カイルはおかしい。そして、あれで伝わるかもと思ったルーカスもおかしい。シルビア、変人達を参考にする必要ないぞ。」

「だははは!確かにな!聞いたけど何にも参考にならねー!」

ジェイクがバッサリとカイルを切り捨て、バロウが笑う。シルビアはやれやれと言った様子でみんなの話を聞いている。

カイル隊はキャンプに到着し、そのままカイルが挨拶をすることになった。

「みんな!今日はお疲れ様!」

カイルがそう言うとカイル隊の面々も嬉しそうな顔でこちらを見ている。今回の戦いは、カイル隊にとっても自信につながるものなっていた。

「今日はみんなよく頑張ってくれた。すごく頼もしかったよ!間違いなくあの軍の中で中心になったのは俺達だ!今日は存分に勝利の祝杯をあげよう。みんなご苦労様!」

カイルがそう言うと歓声が湧き上がる。ジェイクがすぐに酒を出せと部下に指示を出し、そのまま祝杯が始まった。カイル達も焚き火を囲みながら祝杯をあげることにした。あたりを見渡すとみんな自分達の活躍を自慢げに話しながら酒を楽しんでいるようだ。

「みんな今日はそれぞれ大変だったと思う。よく生きて帰ってきてくれた。ありがとう!」

カイルが改めてシルビア、バロウ、ルーカス、ジェイクに向かって声をかけた。4人もお互いを労うように笑い合い勝利の余韻に浸っている。それからしばらく楽しい祝宴が続いた。

そんな中、カイル達のキャンプを訪れるものがいた。

「ここにカイルとその仲間達がいると聞いてやってきたのだが。」

その男は馬鹿騒ぎしている男達に話しかけ、カイルの居場所を聞いている。

「あぁ?隊長ならあそこだ!あんたも飲めよ!楽しもうぜ!」

酒を勧められるも笑いながら断り、その男はカイル達の元に辿り着く。

「ここにカイルはいるかな?」

焚き火を囲むカイル達の後ろから声をかけた。
カイル達は声をかけられ振り返ると驚愕した。なんとそこに立っていたのは国王だった。

「なっ?!えっ?!こ、国王様がなんで?」

流石のカイルも慌てふためき平伏をしようとした。

「あぁ、いやよせ!平伏はいい。勝手に私が来たのだからな。隣に座っていいか?」

国王は形式ばった挨拶は不用と言った様子でドカッとカイルの隣に座り込む。突然の予期せぬ来訪者にカイル達も流石に困惑していた。

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