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第二章 アウゼフ王国義勇軍編

第三十話 元野盗達のキャンプ

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ラシュタールの街から西エリアにジェイク達はキャンプを張っていた。カイル達は南から北上してラシュタールに到着したのだが、そこからは丁度見えない位置にあった。

キャンプにたどり着き、辺りを見渡すといくつかのテントが張ってありちょっとした居住区のようになっている。

中央に設置された焚き火を囲むようにカイル達は座り、話をしながら晩御飯にしようという事になった。辺りは陽が沈みかけ、夕焼け色の空になっていた。

「ジェイク、改めて紹介するよ。治癒士のバロウに弓士のシルビア。あとは戦術担当のルーカスだ。」

カイルが3人を紹介するとそれぞれがジェイクに向かってよろしくと挨拶をしていった。

「みんな、以前話をしたジェイクだ。あとはその部下達って感じかな。」

今度は3人に向かってジェイク達のことを紹介する。

「ジェイクだ。聞いているとは思うが野盗だったんだがカイルに無理やり改心させられた。」

ジェイクはカイルの方をチラッと見ながらニヤッと笑いながら言う。

「一応今は部下達も含め悪さはしてないからそこは安心してくれ。」

ガラの悪さは自覚しているところであり、悪さはしていないと言う面は改めて言及した方がいいと考えたようだ。

バロウ、シルビア、ルーカスの3人はそのジェイクの意図を察したようでわかった。と笑顔で返事をする。

「それで?ギルドマスターの話はなんだったの?」

ギルドマスターはかなりの剣幕で怒鳴っていた。
改心したとはいえ元野盗だ。一体何をしてしまったのか気になってしまう。

「あぁ、俺らが酒場にたむろするから他の客から利用できないって苦情がたくさん来たらしい。だから利用するなとは言わないから人数を減らしてくれって話だった。」

「なんだ~、そんなことか」

その説明を聞き思わず苦笑いが出る。

「入門証を発行しに必ずギルドに寄る事になるのが分かったから、何人かに酒場に待機する様に指示したんだが。結果がこの有り様だ、すまない。」

ジェイクもやれやれと言った様子だ。カイルを待つと言う大義名分を得た部下達が酒場に入り浸った経緯が容易に想像できた。

「なるほど、あれは俺のためか。まぁ、ギルドマスターも配慮してくれているみたいだし深く気にしなくていいさ。」

「今後は酒場には交代で行かすようにするさ。見ての通り馬鹿どもが多いからな。面倒だから俺達は拠点をキャンプに選んだって訳だ。」

流石のジェイクも荒くれ達を大人しくさせ続けるのには苦労しているようだ。周りを見渡すと酒を飲んで騒いだり、喧嘩をしだす連中もいる。確かにこれでは夜はキャンプで適当に騒がしておくのが楽だということだろう。

「話の途中ですまない。ちょっと聞いていいか?」

ルーカスが会話に割って入ってくる。

「なんだ?ルーカス」

「カイルの話では50人程度と聞いていたのだが、ここには100人以上はいるんじゃないか?」

人数の違いについて気になったらしい。確かにキャンプの規模からしても人数が多い気がする。

「俺達はカイルと別れた後、いくつかの野盗集団を潰しては吸収を繰り返してここまで北上して来た。大体150人くらいまで増えている。」

詳しく話を聞くとジェイク達は野盗独自のネットワークを駆使し、各所の野盗の居場所を突き止め潰し回りながら北上してきたらしい。強さで力の違いを見せつけた上で、従うか死ぬかの2択を迫るというカイルのやり方を繰り返してきたのだ。

「すごいね!課題だった人集めまでこなしちゃうなんて、ジェイクってなんで野盗だったのか不思議に思うくらいだ。」

ジェイクの計画性と行動力には感心させられるものがあり、野盗とは思えない優秀さだ。
それは隣で聞いているルーカスも同感という様子だ。

「俺は育った環境が既に野盗だったからな。なるべくしてなったってのは間違いないさ。」

謙遜するジェイクだったが、悪い気はしていないように見えた。

「それより街に看板が出されているのを見た。どうやら国が兵を募集しているらしい。報酬付きだ。集合は3日後に領主間前って書いてあったぞ。」

「そうか。門兵が言ってた義勇軍ってのはそれだろうね。」

(義勇軍に参加したとして一般歩兵だろうな。配属とかがどうなるかわからないし、バラバラになる可能性もあるな。)

考えながらふとルーカスの方を見ると目が合った。

「ルーカスはどう思う?単独で戦うのか軍に入るのか。」

ルーカスなら色々情報を加味した上で判断してくれそうだと思い聞いてみることにした。

「俺は義勇軍に参加するべきだと思う。」

考えは既に決まっていたようでルーカスは即答だった。

「理由を教えてもらえるかな。」

「恐らく敵の規模から考えると俺達150人程度だとまだ数が足りない。まず、軍に参加してそこでカイル隊として活躍して国に強さを認めさせるんだ。」

「うん、なるほどね。うまくいけば軍兵を従えて更に兵を増やせるかもしれないってことか。」

「そういうことだ」

単独で戦った場合、兵を追加で補充する当てがなく減っていくばっかりだろう。確かに軍に入って活躍する方が多く兵を持てる可能性がある。

2人のやりとりをジェイクはじっと見つめていた。ジェイクにはルーカスという名前にどこか聞き覚えがあった。

「なぁ、まさか賢者の子孫か?」

ジェイクが隣に座っているバロウに小声で聞く。

「あぁ、そうだよ。仲間にしちゃうんだから驚くよな。」

ニシシと笑いながらバロウが答える。

「全く。色々巻き込んでいく不思議なやつだな。」

呆れた様子でカイルの方を見るジェイクだが、その口元は緩んでいる。ルーカスもいい意味でカイルに振り回された仲間なんだとジェイクはそう感じていた。

「じゃあ、三日後に領主間前集合で義勇軍にみんなで参加しよう!シルビアとバロウもそれでいい?」

話が纏まり、カイルはバロウとシルビアに確認をとる。2人の意思も尊重したいという思いがあったからだ。

「あぁ、問題ない。」
「いいぜ!」

「じゃあ、決まりだね!」

2人の合意があり今後の方針が定まった。

その後出来上がった晩御飯を食べながら今後の予定について話し合う。

三日後までにやることは3つに纏まった。
①将軍と配下兵の割り振りを決める
②配下兵用に必要な武器の調達
③スキルの訓練
 
①の割り振りはカイルとルーカスが担当する。
明日には決めるつもりだ。
②の武器の調達はジェイクが担当することになった。部下と一緒に明日行くと言う。
③は①と②が終わってからのため明後日からに決まった。

バロウとシルビアは明日はギルドの依頼をこなし、明後日から一緒に訓練を行うことになった。

「よし!じゃあ、みんな明日からよろしく!」

カイルの締めの言葉で擦り合わせは終了になる。
その後はそれぞれ思い思いに夜を過ごした。
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