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第二章 アウゼフ王国義勇軍編

第二十九話 ラシュタールの街

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「見えた!あれだ!ラシュタールだ!」

先行していたバロウが森を抜けた先でテンションが上がった様子で叫んでいる。少し前にカイルから森を抜けた先に街があると聞き、一人走り出していたのだ。

「おーい、あんまり先にいかないでよー!」

カイルが声を掛けながらも3人は特段急ぐ様子もなくペースを変えずに笑いながら進んでいる。バロウの自由奔放な振る舞いは、どちらかというと落ち着いた雰囲気の3人にとってムードメーカのような存在になっている。

「おぉ、結構大きな街だね!」

森を抜けた先に見えた街は大きく、街の周りには外壁がぐるりと囲われていた。

そのまま街に向かって進んでいき、街の入口らしき門に到着する。

「へー、門も大きいなぁー!」

門の作りをマジマジと観察しながら門を見上げていく。前世でも城を見に行ったときにはよく門や扉を観察したなと思い出していた。
門の作りなどはみるだけでも面白い。

門を見上げていると門兵に話しかけられた。

「おいっ、街に入るなら入門証を見せてくれ。」

なんだか厳しそうな顔をした門兵だ。
とりあえず門兵のそばにいたカイルが代表として答えることにした。

「入門証はもってないんだけど、この街は入門証が無いと入れないの?」

「なんだ他の街から来たのか?どこから来た。ここには国王様が居られるからな、入門証で管理しているんだ。」

門兵の話からどうやら国王はこの街にいるらしいことがわかる。最前線の街で指揮を取っているのかもしれない。

「俺達はリプルダの町から。最前線を目指して北上してきたんだ。」

「リプルダだと?かなり南の方じゃないか。義勇軍に参加しに来たんだな。わかった、入っていいぞ。街に入ったら必ずギルドで入門証を貰うように。」

なんとか街に入ることができそうだとホッと胸を撫で下ろす。門兵にお礼を言い、無事門を通過する。

「今、義勇軍って言ってたね。」

「あぁ。もしかしたら一般兵を募集しているのかもしれないな。」

門の下を通過しながら、カイルとルーカスは先程の門兵の話を整理している。こういう面に2人は抜かりがない。

「まぁ、とりあえず情報収集からかな!」

「でけーなー!これがラシュタールの街かぁ」

カイルの話にかぶさるようにバロウが街並みを見ながら叫んでいる。バロウの奔放ぶりは相変わらずだ。

「まずはギルドを探して、次に宿を見つけようか」

門兵に言われた通りに入門証を貰いにギルドを目指す事にし街を歩く。街には多くの人が出歩いており活気があった。道行く人に場所を聞きながら4人はギルドに辿り着いた。

ギルドに入ると、正面の少し進んだ先にカウンターがあり、女性が座っている。
右手側には掲示板があり何かがたくさん貼ってある。左手側は酒場が併設されているのか、多くの人が酒を飲み騒いでいる。ギルドの作りはリプルダと変わっていなかった。ただ違うのは酒場にいる連中がなんか全体的にガラが悪いことだ。

酒場側には階段があり、2階に続いているようだが2階部分はよく見えない。

とりあえずカウンターに行き女性に話しかける。

「あのー、門兵さんにここで入門証を発行して貰えって言われたんだけど」

「登録ですね。はいっ、こちらで承ります。」

笑顔で応対してくれる。かわいい女性だ。

「では、こちらの用紙に記入ください。」

用紙には名前、年齢、出身地を書けばいいだけらしい。カイル、10歳、リプルダととりあえず記載した。出身地のリプルダは他に思いつかなかったからだ。

「あれ?カイル、文字読めなかったんじゃなかったか?」

バロウとリプルダの町の掲示板の前で読み書きできないという話をしていたのをバロウは覚えていたようだ。カイルは直江兼続の言語理解スキルのおかげでこの世界の文字が読み書きできるようになっていた。

「へへ、キングロックバードを倒した時にスキルで手に入れたんだよ。」

「なんだそりゃ、文字までスキルかよ!」

呆れ顔でバロウにツッコミをいれられたので笑いながら誤魔化している時にふと思いつく。

「そうだ!バロウ、俺の配下だと考えてみてよ!」

カイルの提案にバロウも気づいたようで、考える仕草を見せたと思ったらすぐに光を放った。
バロウはカイルの配下兵になったのだ。

「うおおお!読める!読めるぞー!!」

興奮するバロウに今度はシルビアがやれやれといった様子で呆れ顔をしていた。

4人は無事用紙を書き終わり提出するとすぐに入門証が発行される。こんな簡単でいいのかと疑問に思う部分もあるがやるだけまだマシというものかもしれないと思い直す。

「よ~!大将!」

入門証をアイテムボックスに入れ、どうしようか考えていたら酒場にいるガラの悪い男から話しかけられた。

シルビアは警戒を強め眉間に皺を寄せ、バロウは明らさまにガンを飛ばしている。

「何?おじさんに大将って言われる覚えはないんだけど。」

二人を静止しながらカイルが返答をしたが、カイルも警戒しながら話している。

「なんだよ!覚えてないのかよ。俺だ!ランドルだよ。荷馬車を襲おうとしてアンタを頭(カシラ)のとこに連れていったろ?」

不信感をもっているのがわかったのか焦った様子で説明をしだすランドル。カイルもその説明ですぐに思い出した。ジェイクの部下の元野盗だ。

「なんだ。酒場のガラが悪いと思ったら、さきに到着して集まってたんだね。ジェイクはどこ?」

ランダルはあの時気に入らなければ殺すと発言していたこともあり元々印象が悪い。カイルの対応にまだその不信感が滲み出ている。

「つれねーなぁ。もう改心したからあの時の話は勘弁してくれよ。頭は情報収集するって言って出かけてるよ。」

申し訳なさそうな顔をしながら話すランダル。どうやら本当に改心しているようだ。

「わかった。あの時の話はもう忘れるよ。じゃあ、酒場でジェイクを待つ事にしようかな」

「そうか!じゃあ、頭を探しに行ってくるぜ!」

カイルが態度を軟化させた事に喜んだ様子で、ランダルはジェイクを探しにギルドから出て行った。

「カイルが前に話していたジェイクと野盗の一味ってやつか?」

「うん、そうだったみたい。もしかしてこれ全員そうなのかな。」

シルビアの質問にカイルが答えながら周りを見渡す。ガラの悪そうな男達で酒場はいっぱいになっている。

「いい加減にしろ、お前ら!毎日毎日たむろいやがって!お前らのボスは誰だ?話がある!」

突然酒場の二階から叫ぶ声がした。
30代くらいで髪をオールバックにしている男と、
その横にいるのは受付をしてくれた女性だ。

2階からの怒鳴り声に酒場内がざわつきだし、ガラの悪い男数人がカイルを指差した。
よく見たら野盗のアジトで見た顔だ。

(うそだろ。このタイミングで俺がボスになっちゃうの!)

そう思いながら、恐る恐る2階を見上げると男と目があう。男はまだ怒っている様子だ。

「バカを言うな!そんな子供がボスのわけないだろ!いいか、俺はギルドマスターだ。話がしたいだけだ。早く出てこい。」

男は怒りながらも少しだけ冷静になったのかギルドマスターであることを名乗る。

「こいつらのボスは俺だ。話は俺が聞く。」

ギルドの入り口で叫ぶ声がした。ジェイクだ。後ろにランダルの姿もある。どうやらランドルがジェイクを連れてきたらしい。

「お前か!ちょっと2階に来い!」

そう言うとギルドマスターは2階の奥に引っ込んでいった。ジェイクは通り過がりにカイルの肩をポンと叩き、任せろと言った感じで2階に向かっていく。

しばらく待っているとジェイクが2階から降りてきた。ジェイクはそのままカイルの元へやってくる。

「ジェイク、久しぶりだね!話はなんだったの?」

「あぁ、ようやく合流できたな。話は後で説明する。とりあえず街の外にキャンプを張ってるからそこに行こう。ーーーおい、お前ら!いくぞ!」

ジェイクが声を掛けると酒場にいた男達が一斉に立ち上がる。そのままギルドを出て一同はジェイク達のキャンプへ向かうことにした。
こうしてカイルとジェイク及び元野盗達が無事合流を果たした。
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