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第二章 アウゼフ王国義勇軍編

第十八話 野盗集団

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「舐めたガキが調子に乗りやがって!」

野盗のアジトでカイルはお頭と面会し、大勢の野盗に囲まれていた。
洗礼の儀式のつもりなのか野盗達がカイルに向かって迫り来る。

「剛力」

弥助の固有スキルを発動し、拳を構えた。

「ハッ!」

正面の男のボディに拳を打ち込むとそのまま勢いをつけて腕を伸ばした。
男は更にその後方にいた男達を薙ぎ倒すように吹き飛んでいく。

その動作終わりに後ろから誰かに襟首を掴まれたが、すぐにその腕を掴み取り力任せに振り回した。

剛力の効果なのか屈強な体格の男を軽々と振り回すことができ、最後にはそのまま投げ飛ばす。

野盗達は思わずたじろいでしまい、足の動きが止まった。

「どうしたの?来ないなら、こっちからいくよ~」

そう言いながら、正面の男に一歩で距離を詰め、アッパーで上方に跳ね上げた。

今度は左にいた男の喉に素早く拳を突き立て、動きを硬直させると足を払いながら地面に叩きつける。

その直後に右からの迫るパンチを掻い潜りながら肘を突き刺し、くの字になったところを膝蹴りを食らわせた。

段々一人ずつ相手をするのが面倒になり、回し蹴りで複数の男をまとめて薙ぎ倒し、更には水面蹴りで足を刈り取った男に対して追撃でパンチを食らわせ吹き飛ばした。

カイルの怒涛の攻撃に野盗達はなす術なく倒されていく。

「待て!」

声の主はお頭と呼ばれている男だった。
その一言で、すぐに野盗達は動きを止める。

「俺の名前はジェイク。お前、強いな。今度は俺とやろうぜ。俺もスキル持ちだ。武器を使うがお前も好きにしろ」

なんだか嬉しそうな顔でジェイクが構えたのは双剣だ。強いやつと戦うのが楽しいと言った様子だった。

「俺は、カイル。じゃあ、武器はこれにしようかなぁ。」

カイルはポーチから短剣とカランビットナイフを取り出すと右手に短剣、左手にカランビットナイフを装備する。

「セット 服部半蔵」

武士スキルの武将は服部半蔵でいくことにした。

「さぁ、存分に楽しもうぜ!カイル」

笑いながらジェイクが飛びかかってきた。
右に左に次々と剣撃を繰り出し、それをカイルはガードを交えながら避けていく。

双剣というのは連撃が多いみたいだ。上下にうまく攻撃を散りばめ、更には回転しながらどんどんと斬りつけてくる。

「はっはー!どうした!受けるだけで精一杯か?」

「後ろにも注意を払った方がいいよー」

カイルの言葉にジェイクが首だけチラッと後ろを振り向くと、そこにはもう一人のカイルがいた。

「なっ!!」

ジェイクが驚いたのと同時に分身が思い切り蹴りを浴びせるとヨロッとふらつき膝をつく。

「解除」

カイルの言葉に分身はすぐに姿を消す。

「お、おいっ!何をした?!ありゃ、なんだ。」

何が起きたのかわからない様子でジェイクが問い詰めてきた。不意打ちだったからか、まだダメージは大きいようで膝はついたままだ。

「何ってスキルだよ?あんたが魔獣だったら、今ので斬りつけて終わりだよ。」

「こんなスキル聞いたこと、、クソっ!」

ジェイクが何かを言おうとしたが、再度分身を出現させジェイクを地面に押さえ付けた。

「初めから仲間になるつもりなんかないよ。
今のアウゼフ王国の状況知らないの?こんなところで悪さなんかしている場合じゃないんだよ。」

カイルは周りの野盗達にも警戒を払いながら、腕を組み、ジェイクを見下ろす。

「それで俺達をどうするつもりだ。町の自警団にでも連れてくのか?」

ジェイクの言葉に野盗達もざわつき出す。

「あ~、治安は良くなるしそれがいいかもね。」

「ちっ、もったいぶんじゃねーよ。何か要求があんだろ。さっさと言え。」

ジェイクはカイルがただ自分達を捕まえに来た訳じゃないと察していた。

「それか、もう悪さはしないって言うならジェイクを俺の配下にしてあげてもいいよ。」

にっこり笑いながらカイルは答える。

「はっ!俺がお前の配下だと?笑わせる!配下になって何するんだよ」

「戦うんだよ。魔王軍と。」

「あっ?正気か?てめー。」

その言葉にジェイクの表情が変わる。

「あぁ、本気で言っている。見ての通り、俺は特殊なスキルを持っている。でも、戦うには人数が必要でしょ?ジェイクがうまく纏めてくれるなら、全員纏めて俺の配下ってことで開放してもいいよ。」

「断ったら?」

ジェイクの言葉に今度はカイルが表情を変えた。

「お前ら人も簡単に殺すんだろ?なら、人族にとって邪魔な存在なんだよ。今すぐここで全員殺してもいいかもね。」

その声のトーンと表情からは、本気でそう思っているような凄みがあった。

「要は、今すぐここで死ぬか。魔王軍と戦って死ぬか選べって言ってんのかよ。」

「極端な言い方をすればそうだね!でも、できるだけ死なせない様に努力することは約束するよ。」

カイルはまたにっこりとした笑顔に戻っている。

「はぁ~。わかった。俺はお前につく。だから、こいつを解いてくれ。」

ジェイクの言葉にカイルは分身を解除する。
だが、警戒自体はまだ解いていない。
悪党というのは、最後まで油断ならないからだ。

ジェイクは立ち上がり、周りの野盗を見渡す。

「テメェら。聞いてただろ。俺はカイルの配下になる。恐らく逃げても無駄だ。スキルで見つけられて殺されるだけだ。自警団に捕まるか、カイルにつくか決めろ。

ーーーーあとは、カイルについたとして悪さをしたやつがいたら俺が責任を持って殺す!あとはどうするか自分で考えろ。」

流石、お頭と呼ばれていただけのことはある。
人を纏めるのが上手い。ジェイクの言葉に野盗達はオロオロとざわついている。

「おいっ、これでいいかよ。」

「あぁ、期待以上だよジェイク。」

それから、野盗達には一緒に来たいやつだけ会いに来いと伝えカイルとジェイクは一旦その場から離れる事にした。

アジト内のジェイクの部屋に向かい、椅子に腰をかける。

「俺から提案なんだが。」

そう切り出したのはジェイクだ。

「今、最前線はラシュタールらしい。何人集まるかわかんねーが、ぞろぞろ引き連れるのも具合が悪いだろ。ガラが悪いのは自覚している。
そこでだが、別行動でラシュタールで合流でどうだ?」

「それを信用しろと?」

さっきまで自分を袋叩きにしようとしていた連中だ。虫が良すぎる気がしてならない。

「こればっかりは信用してもらうしかないな。
まぁ、野盗の頭に間違われてもいいってんならみんなでついて行くがな?」

痛い所をついてきた。確かにガラが悪い連中を連れ回すのは、今後動きにくくなるのは明らかだ。

「わかったよ。でも、まだ完全には信用しない。逃げたり、また悪さをしだしたら。わかってるよね?」

実際のところ、カイルにはそれを見つけ出すスキルなど何もない。だが、分身を見せたことで未知のスキルを保有していることを意識付けることができたみたいだった。それを利用しない手はない。

「わかってるよ。それは誓おう。実際、俺も魔王軍と戦いたくない訳じゃねー。ただ、環境に流されて今の立場にまでなっちまった。いい機会だと、今はそう思ってんだ。」

ジェイクにも色々と思うところがあったようだ。
やけにあっさりと配下になると言い出したのはそういう部分もあったのかもしれない。

「地図はある?」

カイルの問いにジェイクが棚から地図を引っ張り出してきて机に広げた。

「ラシュタールはどこにあるの?」

「ラシュタールはここだ。アウゼフ王国を横断しているルプゼナハ山脈の近くの町だ。ついでに、今俺達がいるのがここだ。」

ラシュタールの位置を確認し、改めて8割侵略されているという状況が理解できた。ラシュタールはそれぐらいに位置しているからだ。

「わかった。とりあえずジェイクを信用することにするよ。あとは旅に必要だろうからこれを渡しておく。」

カイルはアイテムボックスから、昨日イザベルから商談で手に入れたポーチを取り出した。

「ポーチなんかいくらでもあるぞ。」

「ただのポーチなら渡さないよ。アイテムボックスだ。」

カイルは商談後にポーチにアイテムボックス付与を行なっていた。
カイルからアイテムボックスと聞き、ジェイクが驚きの表情を見せる。

「こんな高価なもん簡単に渡していいのかよ。」

「あぁ、これは俺からジェイクに信頼の証として渡すんだ。旅には必要だろ?」

「あぁ、わかった。ありがたく頂いておく。」

ジェイクと話をしていると野盗達が集まり、結局全員がカイルの配下になると言うことで話は纏まったらしい。

それからしばらく今後についての説明などを全員に行った。

「じゃあ、ジェイク。あとは任せたよ。ラシュタールで合流しよう。」

「あぁ、約束しよう。」

二人はお互いの意思を確認する様に顔を見合わせ
、そしてカイルは野盗のアジトを後にする。

カイルのガラの悪い私兵団が誕生した。
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