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第一章 はじまりのダンジョン編
第十四話 ダンジョンクリア
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フンババを何とか撃破し、カイルはエリクサーを飲んでいる。
「ぷはー!もうお腹がタプタプだ。飲みすぎた。。」
フンババ戦だけで何本飲んだろうか。それほどの激戦を制したのだが、もはや胃は限界を迎えていた。
「んよいしょっと。さてと。」
重い身体を槍を支えにしながら立ち上がり、フンババが消滅したあたりに向かっていく。
戦闘の後の報酬タイムという訳だ。
地面を見ると、予想通りカードが落ちている。やはりフンババはクラムが新たに作った新武将の魔獣だったのだ。
カードを拾い上げ、どんな武将なのかを確認すると異国の武士が刀を抜き叫んでいる様子が描かれている。
「おっ、弥助じゃないか。」
カイルは絵柄をみてすぐに弥助だとわかった。
戦国時代において異国の武士という存在自体かなり珍しい。もはや弥助しかいないといっても過言ではないのだ。
服部半蔵の時と同じく、カードは光を放って消え去り、その後ウィンドウが現れる。
[弥助を入手しました]
「やっぱり弥助か。どれどれ、スキルオープン」
武士ウィンドウを開き、とりあえず弥助がどんなスキルを持っているのか確認する事にする。
弥助(やすけ)
固有スキル:剛力
スキル:格闘術
説明:戦国史上唯一の異国の武士。宣教師がアフリカから奴隷として連れて来たのを信長に気に入られ取り立てられる。長身であり、怪力無双。
「なるほど。持ってて損は無いって感じでいいスキルだね。」
武器が使えない状況も今後あるだろうと思うと格闘術はあると便利なスキルだと素直に喜んだ。
とりあえずはスキルの確認だけ済ませ、今度は部屋の中央に向かうことにする。撃破報酬の宝箱が出現していたからだった。
「流石フンババは強かったからなぁ。カードだけじゃなくて宝箱まであるなんて。」
今回はかなり自分でも頑張ったと思っている。これぐらいのご褒美はあっても不思議では無いと自分を労いながら宝箱を開けた。
中には金色の指輪が入っている。宝石などがあしらわれているわけでも無く、シンプルな金の指輪だ。
「これは、、正直1番困るやつだなぁ。」
説明があるわけもなく、名前もわからない。装備したとしてもステータス表示もないため全く効果はわからない代物だった。
とりあえず指にはめ、少し手を振ってみたり動いてみたりするが特段身体に変化は見られない。
「「「なんだこれ」」」
突然のでかい声に思わず耳を塞ぐ。
聞こえたのは自分の声だったが、とんでもなく大きかった。
カイルが呟いた瞬間、部屋中から「なんだこれ」という言葉が反響し、音が幾重にも重なり大きくなっていったのだ。明らかにこの指輪の効果だとすぐに気づく。
ふと横を見ると蘭丸も耳あたりを塞いで屈んでいる。耳がいい魔獣にはかなり応えたみたいだ。
「「「蘭丸!ごめ、、」」」
思わず指輪をつけたまま喋ってしまった。すぐに指輪を外し、ポーチにしまう。
「あ!あー!」
試しに声を出してみるがいつもの声に戻った。
「蘭丸、ごめんごめん!」
頭を撫でながら謝罪すると、立ち上がり身体を擦りつけてきた。気にするなとでも言ってくれているようだった。
「さっきの指輪は、たぶん拡声器みたいな効果かな。こんなとこで使ったから反響しまくっちゃったけど。」
このタイミングで拡声器の効果を持つ指輪にどんな意味があるのか。なんとなく思いついたのは合戦で[突撃ー!]と唱える指揮官の姿くらいだ。
「よくわからないけど、号令の指輪と名付けようかな。」
なんとなくその名前の雰囲気が気に入り、自分でも満足だった。
報酬を取り終え、先の階があるのか確認すると階段ではなく魔法陣が出現していた。
やはりこの階層が最後だったんだと察した。
なんとなく、もうここには来ない気がしている。
魔法陣に入る前に振り返り、ダンジョン内を眺める。短くも、結構濃密な時間だった。
階層毎のボス戦ももはや懐かしくもある。
「楽しかったぜ」
誰にいうでもなく、自然とそう呟き、蘭丸を引き連れカイルは魔法陣の中に足を踏み入れた。
ーーーーーーーーーーーーーー
魔法陣を超えた先に広がっていた光景は新たなボス部屋だった。
魔法陣が出陣する流れはてっきり地上にワープするものとばかり思っていため、カイルは一瞬パニックに陥る。
「なんだってんだ、この部屋は。。」
部屋を見渡し天井まで確認したが、特にボスらしき存在もいない。
この部屋にはカイルと蘭丸しかいないのだ。
先に進めそうな階段も魔法陣も見当たらない。
予期せずこの部屋に閉じ込められた形となってしまった。
「何かがあるはずだ。」
そう呟きながら槍を構え、警戒は解かないでいる。何が起きてもいいように重芯をわずかに下げ、辺りの警戒を続けていた。
すると、いつもは後ろに控えている蘭丸がおもむろにスタスタと中央に向かって歩き出していく。
あまりにも無警戒なその後ろ姿を見ていると段々と不安になってきてしまった。
「お、おいっ、蘭丸。お前、嘘だろ?」
嫌な予感がしてしまい、思わず中央に進む蘭丸の背中に向かい手を伸ばそうとした。
中央に辿り着き、蘭丸が振り返りこちらを見た。
まるでここに来るのが当然の流れかの様子で中央に鎮座する蘭丸。
相対し、目が合っているが敵意は感じない。
いつもの蘭丸の雰囲気は変わっていなかった。
恐る恐る蘭丸に近づくも襲ってはこなかった。
ホッと胸を撫で下ろし、
「悪ふざけにも程があるぞ。」
そう言いながらいつものように頭を撫で、顔を近づけると頬を舐められた。
「ははっ!やめろって。」
(よかった。ボスになるのかと思った。いつもの蘭丸だ。)
そう思っていると、突然蘭丸が光を発し、身体が段々と薄くなっていく。その薄くなる様子は、ダンジョンで見てきた魔獣が消滅していく感じと重なった。
「お、おい!待ってくれっ!」
そのことに慌て、蘭丸を思わず抱き締めたが消滅を止めることはできない。
次第に消えていく蘭丸は、焦るカイルに向かって微笑んでくれているように感じた。
「蘭丸!うそだろっ!」
必死に蘭丸に語りかけるも、返事は無くただただ存在が薄くなり透明になっていく。そして、ついには蘭丸は完全に消え去り、抱きしめていた腕が空中に取り残され、床にカードが落ちた。
「蘭丸。。」
カイルは下を向き、カードを眺め呟いた。
蘭丸はカードが魔獣化された存在だった。
クラムが自分のために転生と共に創造したのだろう。
この世界に来てすぐ側にいたのが蘭丸だ。
共に過ごす中で相棒のように感じ始め、寝る時もいつも一緒だった。気づけば唯一の心の拠りどころとも言える存在になっていた。
それがこんなにもあっさりと別れが来るなんてまったく予想もしていない。
目の前のカードを見ると、寂しさが溢れ出してくる。
「そうか、お前。この場所でこうなる使命を持ってたってことか。そうクラムに作られたのか。
俺のために。そして、使命を果たしたんだな。」
ゆっくりとカードを手に取り絵柄を確認する。
白い頭巾をかぶった武将が描かれており、手には指揮をとる采配を持っているカードだった。
「勝手に蘭丸って呼んでたけど、大谷吉継(おおたによしつぐ)だったんだな、お前。」
なんだか少しおかしくなってきて、このカードに特別な愛着が湧いてくる。
カードは光を放って消え去り、その後ウィンドウが現れた。
[大谷吉継を入手しました]
カードを入手し、カイルは立ち上がる。
蘭丸は消えてしまったが、カードとなり自分のスキルの一部となった。自分の中で生きているのだとそう思うことにし、先に進む決意をした。
前を見ると魔法陣と宝箱がある。
魔法陣は今度こそ地上に向かうものだろう。
先に宝箱をあけ、中身を確認すると手紙がはいっている。
手紙は日本語で書かれている。すぐに書き主がクラムだと気づいた。
~クラムからの手紙~
ダンジョン攻略おめでとう。
君のオリジナルスキルの仕組みをなんとなく理解できたかな。でも、まだまだそのスキルは色々仕掛けを組み込んであるから楽しみにしておいてね。ダンジョンクリア報酬として[マップ]のスキルを付与しよう。それと地図上にマーキングをしておいたから、そのポイントにはぜひ行ってみてほしい。君が僕の作った世界を楽しんでくれることを願っているよ。
~~~~~~~~~~~~~~~
手紙を読み終わると同時に感覚的に新たなスキルを覚えたことがわかった。手紙にあったマップのスキルだろう。
「なんだかなぁ~。」
手紙は嬉しいには嬉しいが、蘭丸のことがなにか引っかかった。神の思考というものは人間味が薄いところがあるのだろうか。蘭丸が消え去った悲しみのことなどはまるで気にもしていない感じに思えた。
それとも蘭丸を可愛がりすぎた自分が悪いのだろうか。一瞬そう思ったが、1ヶ月近く共に過ごしたのだ。誰だって情が湧くし、愛着を感じるものだ。
なんとも言えない気持ちを抱えながらも、先に進むことにし、カイルは魔法陣に足を踏み入れた。
ーーーーーーーーーーーーー
ワープした先は地上だった。
ダンジョンの入り口前に転送され、辺りを見渡した。既に夕刻になっているようだ。
一応もう一度ダンジョンに入れるかを確認したが、入り口は閉ざされており入ることはできないようだ。ある意味予想通りであり、エリクサーをたくさん集めておいたのは正解だった。
一度拠点に戻り、ポーチから蓄えておいた食料で晩御飯にすることにした。狩りをする気分でもなかった。
ご飯を食べながら大谷吉継の説明を確認する。
大谷吉継(おおたによしつぐ)
固有スキル:アイテムボックス 小付与
スキル:生活魔法
説明:豊臣家の家臣。関ヶ原の戦いでは病気で失明しながらも輿(みこし)に乗り指揮を取り活躍する。豊臣秀吉から計数の才有りと見込まれ政治の要となる。
「蘭丸、ずいぶん非戦闘的なスキルじゃないか。でも、こういうスキルの方が生活感があっていいかもな!ありがとう!」
武士ウィンドウで大谷吉継をセットし、ついで弥助をセットする。
スキルウィンドウ画面に戻り、スキルを確認した。
~スキルウィンドウ~
スキル:槍術4、忍流短剣術2、格闘術1、マップ、生活魔法、索敵
固有スキル:武士、剛力
「マップ」
スキルを発動すると目の前にウィンドウ画面が現れ、そこにはこの世界の地図が描かれていた。
この地図は以前にクラムに教えてもらったので大体はわかる。
自分がいるだろう位置にマーカーがついている。
アウゼフ王国のかなり南側にいることがわかった。そして、世界中にクラムがマーキングしたであろうポイントが点在しており、更には魔大陸にまでポイントがある。
「これがなんのマーキングなのかだなぁ。」
想定される内容を考える。
①クラムが見せたい風景がある。
②武器や防具などの宝箱がある。
③仲間がそこで待っている。
④魔獣化されたカードがある。
「やっぱ、④かな。うん、④な気がする。」
次にマップの機能を確認することにした。拡大や縮小ができるみたいだ。
山や川、地形などの情報も地図上に反映されている。
最後に自分のいる位置から一番近い街と、一番近いマーキングポイントを確認し、進行ルートを考え地図を閉じた。
「とりあえず明日から出発するか。マークがなんにせよ行ってみればわかることだ。」
食事を終え、明日からの出発に備え早めに寝ることにした。少し寂しさを感じる簡易小屋でカイルは一人眠りにつく。
こうして転生してからずっと過ごしてきた拠点での最後の夜が更けていった。
「ぷはー!もうお腹がタプタプだ。飲みすぎた。。」
フンババ戦だけで何本飲んだろうか。それほどの激戦を制したのだが、もはや胃は限界を迎えていた。
「んよいしょっと。さてと。」
重い身体を槍を支えにしながら立ち上がり、フンババが消滅したあたりに向かっていく。
戦闘の後の報酬タイムという訳だ。
地面を見ると、予想通りカードが落ちている。やはりフンババはクラムが新たに作った新武将の魔獣だったのだ。
カードを拾い上げ、どんな武将なのかを確認すると異国の武士が刀を抜き叫んでいる様子が描かれている。
「おっ、弥助じゃないか。」
カイルは絵柄をみてすぐに弥助だとわかった。
戦国時代において異国の武士という存在自体かなり珍しい。もはや弥助しかいないといっても過言ではないのだ。
服部半蔵の時と同じく、カードは光を放って消え去り、その後ウィンドウが現れる。
[弥助を入手しました]
「やっぱり弥助か。どれどれ、スキルオープン」
武士ウィンドウを開き、とりあえず弥助がどんなスキルを持っているのか確認する事にする。
弥助(やすけ)
固有スキル:剛力
スキル:格闘術
説明:戦国史上唯一の異国の武士。宣教師がアフリカから奴隷として連れて来たのを信長に気に入られ取り立てられる。長身であり、怪力無双。
「なるほど。持ってて損は無いって感じでいいスキルだね。」
武器が使えない状況も今後あるだろうと思うと格闘術はあると便利なスキルだと素直に喜んだ。
とりあえずはスキルの確認だけ済ませ、今度は部屋の中央に向かうことにする。撃破報酬の宝箱が出現していたからだった。
「流石フンババは強かったからなぁ。カードだけじゃなくて宝箱まであるなんて。」
今回はかなり自分でも頑張ったと思っている。これぐらいのご褒美はあっても不思議では無いと自分を労いながら宝箱を開けた。
中には金色の指輪が入っている。宝石などがあしらわれているわけでも無く、シンプルな金の指輪だ。
「これは、、正直1番困るやつだなぁ。」
説明があるわけもなく、名前もわからない。装備したとしてもステータス表示もないため全く効果はわからない代物だった。
とりあえず指にはめ、少し手を振ってみたり動いてみたりするが特段身体に変化は見られない。
「「「なんだこれ」」」
突然のでかい声に思わず耳を塞ぐ。
聞こえたのは自分の声だったが、とんでもなく大きかった。
カイルが呟いた瞬間、部屋中から「なんだこれ」という言葉が反響し、音が幾重にも重なり大きくなっていったのだ。明らかにこの指輪の効果だとすぐに気づく。
ふと横を見ると蘭丸も耳あたりを塞いで屈んでいる。耳がいい魔獣にはかなり応えたみたいだ。
「「「蘭丸!ごめ、、」」」
思わず指輪をつけたまま喋ってしまった。すぐに指輪を外し、ポーチにしまう。
「あ!あー!」
試しに声を出してみるがいつもの声に戻った。
「蘭丸、ごめんごめん!」
頭を撫でながら謝罪すると、立ち上がり身体を擦りつけてきた。気にするなとでも言ってくれているようだった。
「さっきの指輪は、たぶん拡声器みたいな効果かな。こんなとこで使ったから反響しまくっちゃったけど。」
このタイミングで拡声器の効果を持つ指輪にどんな意味があるのか。なんとなく思いついたのは合戦で[突撃ー!]と唱える指揮官の姿くらいだ。
「よくわからないけど、号令の指輪と名付けようかな。」
なんとなくその名前の雰囲気が気に入り、自分でも満足だった。
報酬を取り終え、先の階があるのか確認すると階段ではなく魔法陣が出現していた。
やはりこの階層が最後だったんだと察した。
なんとなく、もうここには来ない気がしている。
魔法陣に入る前に振り返り、ダンジョン内を眺める。短くも、結構濃密な時間だった。
階層毎のボス戦ももはや懐かしくもある。
「楽しかったぜ」
誰にいうでもなく、自然とそう呟き、蘭丸を引き連れカイルは魔法陣の中に足を踏み入れた。
ーーーーーーーーーーーーーー
魔法陣を超えた先に広がっていた光景は新たなボス部屋だった。
魔法陣が出陣する流れはてっきり地上にワープするものとばかり思っていため、カイルは一瞬パニックに陥る。
「なんだってんだ、この部屋は。。」
部屋を見渡し天井まで確認したが、特にボスらしき存在もいない。
この部屋にはカイルと蘭丸しかいないのだ。
先に進めそうな階段も魔法陣も見当たらない。
予期せずこの部屋に閉じ込められた形となってしまった。
「何かがあるはずだ。」
そう呟きながら槍を構え、警戒は解かないでいる。何が起きてもいいように重芯をわずかに下げ、辺りの警戒を続けていた。
すると、いつもは後ろに控えている蘭丸がおもむろにスタスタと中央に向かって歩き出していく。
あまりにも無警戒なその後ろ姿を見ていると段々と不安になってきてしまった。
「お、おいっ、蘭丸。お前、嘘だろ?」
嫌な予感がしてしまい、思わず中央に進む蘭丸の背中に向かい手を伸ばそうとした。
中央に辿り着き、蘭丸が振り返りこちらを見た。
まるでここに来るのが当然の流れかの様子で中央に鎮座する蘭丸。
相対し、目が合っているが敵意は感じない。
いつもの蘭丸の雰囲気は変わっていなかった。
恐る恐る蘭丸に近づくも襲ってはこなかった。
ホッと胸を撫で下ろし、
「悪ふざけにも程があるぞ。」
そう言いながらいつものように頭を撫で、顔を近づけると頬を舐められた。
「ははっ!やめろって。」
(よかった。ボスになるのかと思った。いつもの蘭丸だ。)
そう思っていると、突然蘭丸が光を発し、身体が段々と薄くなっていく。その薄くなる様子は、ダンジョンで見てきた魔獣が消滅していく感じと重なった。
「お、おい!待ってくれっ!」
そのことに慌て、蘭丸を思わず抱き締めたが消滅を止めることはできない。
次第に消えていく蘭丸は、焦るカイルに向かって微笑んでくれているように感じた。
「蘭丸!うそだろっ!」
必死に蘭丸に語りかけるも、返事は無くただただ存在が薄くなり透明になっていく。そして、ついには蘭丸は完全に消え去り、抱きしめていた腕が空中に取り残され、床にカードが落ちた。
「蘭丸。。」
カイルは下を向き、カードを眺め呟いた。
蘭丸はカードが魔獣化された存在だった。
クラムが自分のために転生と共に創造したのだろう。
この世界に来てすぐ側にいたのが蘭丸だ。
共に過ごす中で相棒のように感じ始め、寝る時もいつも一緒だった。気づけば唯一の心の拠りどころとも言える存在になっていた。
それがこんなにもあっさりと別れが来るなんてまったく予想もしていない。
目の前のカードを見ると、寂しさが溢れ出してくる。
「そうか、お前。この場所でこうなる使命を持ってたってことか。そうクラムに作られたのか。
俺のために。そして、使命を果たしたんだな。」
ゆっくりとカードを手に取り絵柄を確認する。
白い頭巾をかぶった武将が描かれており、手には指揮をとる采配を持っているカードだった。
「勝手に蘭丸って呼んでたけど、大谷吉継(おおたによしつぐ)だったんだな、お前。」
なんだか少しおかしくなってきて、このカードに特別な愛着が湧いてくる。
カードは光を放って消え去り、その後ウィンドウが現れた。
[大谷吉継を入手しました]
カードを入手し、カイルは立ち上がる。
蘭丸は消えてしまったが、カードとなり自分のスキルの一部となった。自分の中で生きているのだとそう思うことにし、先に進む決意をした。
前を見ると魔法陣と宝箱がある。
魔法陣は今度こそ地上に向かうものだろう。
先に宝箱をあけ、中身を確認すると手紙がはいっている。
手紙は日本語で書かれている。すぐに書き主がクラムだと気づいた。
~クラムからの手紙~
ダンジョン攻略おめでとう。
君のオリジナルスキルの仕組みをなんとなく理解できたかな。でも、まだまだそのスキルは色々仕掛けを組み込んであるから楽しみにしておいてね。ダンジョンクリア報酬として[マップ]のスキルを付与しよう。それと地図上にマーキングをしておいたから、そのポイントにはぜひ行ってみてほしい。君が僕の作った世界を楽しんでくれることを願っているよ。
~~~~~~~~~~~~~~~
手紙を読み終わると同時に感覚的に新たなスキルを覚えたことがわかった。手紙にあったマップのスキルだろう。
「なんだかなぁ~。」
手紙は嬉しいには嬉しいが、蘭丸のことがなにか引っかかった。神の思考というものは人間味が薄いところがあるのだろうか。蘭丸が消え去った悲しみのことなどはまるで気にもしていない感じに思えた。
それとも蘭丸を可愛がりすぎた自分が悪いのだろうか。一瞬そう思ったが、1ヶ月近く共に過ごしたのだ。誰だって情が湧くし、愛着を感じるものだ。
なんとも言えない気持ちを抱えながらも、先に進むことにし、カイルは魔法陣に足を踏み入れた。
ーーーーーーーーーーーーー
ワープした先は地上だった。
ダンジョンの入り口前に転送され、辺りを見渡した。既に夕刻になっているようだ。
一応もう一度ダンジョンに入れるかを確認したが、入り口は閉ざされており入ることはできないようだ。ある意味予想通りであり、エリクサーをたくさん集めておいたのは正解だった。
一度拠点に戻り、ポーチから蓄えておいた食料で晩御飯にすることにした。狩りをする気分でもなかった。
ご飯を食べながら大谷吉継の説明を確認する。
大谷吉継(おおたによしつぐ)
固有スキル:アイテムボックス 小付与
スキル:生活魔法
説明:豊臣家の家臣。関ヶ原の戦いでは病気で失明しながらも輿(みこし)に乗り指揮を取り活躍する。豊臣秀吉から計数の才有りと見込まれ政治の要となる。
「蘭丸、ずいぶん非戦闘的なスキルじゃないか。でも、こういうスキルの方が生活感があっていいかもな!ありがとう!」
武士ウィンドウで大谷吉継をセットし、ついで弥助をセットする。
スキルウィンドウ画面に戻り、スキルを確認した。
~スキルウィンドウ~
スキル:槍術4、忍流短剣術2、格闘術1、マップ、生活魔法、索敵
固有スキル:武士、剛力
「マップ」
スキルを発動すると目の前にウィンドウ画面が現れ、そこにはこの世界の地図が描かれていた。
この地図は以前にクラムに教えてもらったので大体はわかる。
自分がいるだろう位置にマーカーがついている。
アウゼフ王国のかなり南側にいることがわかった。そして、世界中にクラムがマーキングしたであろうポイントが点在しており、更には魔大陸にまでポイントがある。
「これがなんのマーキングなのかだなぁ。」
想定される内容を考える。
①クラムが見せたい風景がある。
②武器や防具などの宝箱がある。
③仲間がそこで待っている。
④魔獣化されたカードがある。
「やっぱ、④かな。うん、④な気がする。」
次にマップの機能を確認することにした。拡大や縮小ができるみたいだ。
山や川、地形などの情報も地図上に反映されている。
最後に自分のいる位置から一番近い街と、一番近いマーキングポイントを確認し、進行ルートを考え地図を閉じた。
「とりあえず明日から出発するか。マークがなんにせよ行ってみればわかることだ。」
食事を終え、明日からの出発に備え早めに寝ることにした。少し寂しさを感じる簡易小屋でカイルは一人眠りにつく。
こうして転生してからずっと過ごしてきた拠点での最後の夜が更けていった。
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