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魔王城の地下には人間が1人、監禁されている。
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魔王城の地下には人間が1人、監禁されている。城で働くものにその事実を知らないものはいない。しかし、なぜ脆弱な人間をわざわざ監禁しているのか、その理由を知っているものも、またいない。同僚のラックコックは「人間の国の王族か何かだろう」と言っていたが、どうもそういった様子ではない。
というのも、私の仕事はその人間が囚われている地下室の見張り番であった。だからその人間の容姿や実態を知ってはいる。ただ、サボり癖のある上司から「俺よりもっと上からの厳命だ」と押し付けられ、盲目的に職務を遂行しているだけだ。
正直、いる理由のわからない人間の存在など、都市伝説好きくらいにしか興味を持たれないので、私もこの仕事をし始めるまでは、ついその人間のことを忘れかけていた。
「おはようございます。お疲れ様です」
早朝、私は深夜帯を担当しているルガーノフさんの眠たそうな顔を拝み、交代を知らせる。
「ん?もう朝か…」
彼は魔王城の中でも指折りの戦闘力を誇る魔物で、1万人もの人間の軍隊を単独で捻り潰した方だ。ただ、指揮官の素質は認められず、私と同じ見張り番という地位に収まっていた。とはいえ、夜の見張りをそんなルガーノフさんに任せるということは、それなりに重大な人物なのであろう。
「ここは日の光が届かん。とっとと地上に上がらせてもらうな」
「はい。お疲れ様でした」
私はルガーノフさんと入れ替わるようにして、地下室の扉の前に立ち、大欠伸をして帰るルガーノフさんの背を見送った。
「さて」
そもそも人間が囚われている地下室は魔王城の最深部にあり、途中には幾重にも厳しいセキュリティがかけられている。よって、ここに来るのは見張り番くらいだし、セキュリティが突破された段階で下っ端の私が対処できる範疇を越える。
つまり私の仕事は武器を構えて地下室の前に立ちはだかることではない。
「失礼しますよっと」
私はそう言うと、地下室の扉に鍵を差して、ゆっくりと扉を開けた。
「うわっ…」
すると、早速私を襲ったのは鼻がひん曲がるような糞尿の臭いだった。小鬼の巣穴の方がまだマシに思える。
「あー…あー…」
この地下室は無駄に広く、奥の方は灯りもないので、どこまで広いのかはあまりわからない。けれど、その中央にいつもいるのは、椅子に拘束された全裸の人間だった。
目隠しに口枷をされて、その無理やり開けられた口からはいつも涎が垂れていた。それだけならいいが、この人間を便所に連れていくこともないので、椅子の周囲には糞尿が溜まっていた。
「まったく…」
私は水魔法を用いて、床を水圧で洗いながら、ついでとばかりに人間の身体も水で洗い流す。そして、一時的に汚いそれらを部屋の奥に押し留める。
それから私は腰に下げていた小瓶を2つ片手に、空いている手でその人間の顎を掴み上げる。
「ほら、餌よ餌」
口枷の空いた穴に小瓶の中身を注ぐ。確か、栄養面に配慮された流動食と自我を奪う強力な薬だったか。薬の影響で人間はただ入れた分だけ糞尿に変える肉塊となっていて、これが人間の国の王族なら…さすがに酷い仕打ちだろう。
「おっ…おっ…おぇ…」
「うわわっ!吐かないでってば!汚いなもう!」
椅子に拘束し、口枷を装着させ、自我を奪う。察するに、殺してはいけないのだろう。自殺もさせてはいけないのだろう。わかることは…どんな状況でも生かさなければならないと言うことだけ。
「ねぇ…君は何者なの?」
人質というわけでもないだろう。魔王様は苛烈な方だが、残虐非道な方ではない。
私は小瓶に残った最後の一滴まで人間に流し込み、喉を通り抜けていくのを確認し、顎から手を放す。
すると、今日はいつもと違うことが起きた。
「あ、う…あうええ…」
薬がキマっているのに、言葉のようなものを発したのだ。
「薬が効いてない?」
薬を調合している薬師によれば、薬への耐性がつく場合があるから、異変があれば報告するようにと言われていた。この手の異変を探るために私がここにいるのだ。
しかし…なんて言ったのだろう。
私は思わず口枷に手が伸びるが、すぐに反対の手で叩き落とす。
口枷を外したが最後、舌を噛んで死ぬなんてことになったら、責任の取りようがない。
「ごめんなさい。口枷を外すことはできないの」
「あうええ…うああい…」
今度は顔が私の方を向いた。声に反応している。意識がはっきりとしてきたのか?
本当は薬師にこのことを早く伝えなくてはならないが………気になる。
「ねぇ…私の声が聞こえてるなら頷いて」
人間はゆっくりと首を縦に振った。
どうする?
「…あなたは、何者なの?」
違う。
「あなたは王族か何か?」
今度は横に振った。
「じゃあ凄腕の冒険者?」
また横に振った。
この人間を生かす価値はどこにあるのか。あるいは拘束する理由…魔王様が危惧する何か…
「勇者?」
曰く、邪神の加護を得て、いくつもの理不尽な力をその身に宿す強欲な怪物だと聞いたことがある。
しかし人間は首を横に振る。
「まさか一般人だとでも?」
縦に振る。なるほどわかった。
「あなた、嘘を吐くのね」
一番あり得ない答えだ。一般人のために…私はいいが、ルガーノフさんまでも見張り番をさせられているのか。
やはり人間は姑息だ。私を騙そうとしたのか。
「そっちが答える気ではないのなら、それでいい」
「ああ…あーあ」
人間は勢いよく首を横に振る。まだそんな気力があったのか。長いこと薬漬けにされて、こうも気力が残っているというのなら…ますます一般人ではない。
が、時間はある。
一般人だということを信じてみよう。利用価値はどこにあるのか…
実は、都市伝説好きな連中から仮説をいくつか教わっていた。その中で一般人でも立証可能なものを選ぶと、2つに絞られる。
1つは魔王城の養分としての生贄説だ。魔王城は生きている、という都市伝説をもとに構築された説。魔王城を機能させるために、何かしらの生命力を捧げる必要があり、魔王様は減っても困らない人間を用いている。
しかし、魔王城が生きているとしても…人間1人の養分で機能するだろうか。それに1人ということも謎だ。私が生まれるずっと前から魔王城の地下には人間を1人監禁していて、目の前の人間で64人目だそうだ。養分にするならもっと大勢の人間を用意すればいいのに、なぜ1人だけなのか。提唱者は「魔王城は偏食傾向にある」と説明していたが…
もう1つは臣下に与える褒美説だ。魔王城より北方には人間を好んで喰らう大蛇将軍がいたり、西方には負の感情を好む絶望王がいる。そんな方々への褒美として、負の感情を抱いた人間を育てているという説。1人だけとする理由は希少価値を上げ、本当の本当に手柄を立てた臣下にのみ与えるためだ。過去63人も、歴代魔王様が最終的に臣下に処理を命じていたという記録が残っている。これが処理ではなく褒美なのだというわけだ。
しかし、わざわざ魔王城の地下で育てる理由はどこにあるのか。これもまた伝統であるといえば簡単だが…1人目の人間が監禁されたのは賢王と言われた第56代魔王様が統治なさっていた約3500年前、今から7代遡るだけだ。人間の監禁は絶えることなく63人も行われていたことと照らし合わせると、褒美である人間は老人か死体ということになる。褒美ならば…やはり若い肉、若い精神の方が好まれるだろう。
「ふむ…」
説得力に欠けるか。ただ、どちらの仮説も共通点として、何かしらの糧となることが挙げられている。
生命力や精神力…そういえば、この人間の身体を検分したことがなかったな。何かわかるかもしれない。
「せっかくだ。乾かしてあげる」
いつもなら、糞尿を水で洗い流したら放置をしていたが、今日は魔法で熱風を当ててやる。
日光に十数年と当たっていないこの人間は、細く、青白く…あまり美味しそうには思えない。
「というか…あなた女だったのね」
大蛇将軍が食べたいとは思わないだろうな。そもそも、薬漬けにされた肉など…どんな肉でも普通に美味しいとは思わない。
「精神力…ねぇ、あなた…」
質問のしようがないな。感情を読み取るには…顔か。表情を見れば何かわかるかもしれない。
私はまた人間の顎を掴み上げるが…目隠しと口枷をされていては表情などわかったものではない。
「口枷は舌を噛まれる。目隠しくらいならいいのでは?」
何かを見ただけでは人は死なない。しかし…勝手に目隠しを外していいものか。
何を今更、気になるのだから、少しだけ…
私は一応地下室に誰もいないことを確認し、そっと目隠しを外してみる。すると、顎を掴み上げているので、すぐ人間と目が合った。
「え?」
その瞬間、私は戸惑った。そこにあった瞳は私の予想に反していたのだ。
「あなた…なんで生きてるの?」
そこにあったのは輝く瞳だった。普通ならば、絶望の色に染まるか、それを通り越して死人同然の目をしているはずなのに、この人間の目は…ただ真っ直ぐ、活力ある目で私を見つめていた。
私は咄嗟に目隠しを戻す。
負の感情を持っていない。とてもじゃないが…一般人の目ではない。まるで何かを信じているような目だ。もっと理不尽な…
「そうか。あなたが…!」
「おい、一線超えたぞ」
不意に背後から聞こえた聞き覚えのある声。反応しようにも声が出ない。何故か自分の喉から剣が突き出ている。
「っ…!」
「ダメだろ。俺達は生き返れないのだから。命は大事にしなくては」
そうか。そういうことだったのか。私達の世界の均衡は…
ーーーーーーーーーーー
好奇心は止められない。それは必ず到るべき場所まで到るものである。果たして情報操作にはなんの意味があるのか。
「おや、ルガーノフ。それは?」
「知りすぎた末路」
「ああ、なるほど」
「それとな薬師。あれ、薬物耐性つき始めてるぞ」
「もうですか?早いですね」
「おそらくだが、歴代のより強い加護を授けられているのだろう」
「ほほぅ、その根拠は?」
「下っ端の小娘に素質を見抜かれたからな」
「ああ、なるほど…」
知ることは罪なのか。いや、それ自体は罪ではない。知らせることが罪なのだ。だからこそ…知ることが罪になってしまうだけだ。全てを未然に防ぐために。
よって俺は罪にはならない。
たとえ、毎朝会う君に恋い焦がれていたとしても、それを君が知る前に…君はいなくなるのだから。
「まったく…嫌なもんだ」
「ええ、本当に。ああ死体預かりますよ。素材が足りなくて」
とはいえ、自分の心に情報操作はできない。
「いや、せっかくだ。俺の昼飯にする」
情報操作はいつだって他者に向けてするものなのだから。
というのも、私の仕事はその人間が囚われている地下室の見張り番であった。だからその人間の容姿や実態を知ってはいる。ただ、サボり癖のある上司から「俺よりもっと上からの厳命だ」と押し付けられ、盲目的に職務を遂行しているだけだ。
正直、いる理由のわからない人間の存在など、都市伝説好きくらいにしか興味を持たれないので、私もこの仕事をし始めるまでは、ついその人間のことを忘れかけていた。
「おはようございます。お疲れ様です」
早朝、私は深夜帯を担当しているルガーノフさんの眠たそうな顔を拝み、交代を知らせる。
「ん?もう朝か…」
彼は魔王城の中でも指折りの戦闘力を誇る魔物で、1万人もの人間の軍隊を単独で捻り潰した方だ。ただ、指揮官の素質は認められず、私と同じ見張り番という地位に収まっていた。とはいえ、夜の見張りをそんなルガーノフさんに任せるということは、それなりに重大な人物なのであろう。
「ここは日の光が届かん。とっとと地上に上がらせてもらうな」
「はい。お疲れ様でした」
私はルガーノフさんと入れ替わるようにして、地下室の扉の前に立ち、大欠伸をして帰るルガーノフさんの背を見送った。
「さて」
そもそも人間が囚われている地下室は魔王城の最深部にあり、途中には幾重にも厳しいセキュリティがかけられている。よって、ここに来るのは見張り番くらいだし、セキュリティが突破された段階で下っ端の私が対処できる範疇を越える。
つまり私の仕事は武器を構えて地下室の前に立ちはだかることではない。
「失礼しますよっと」
私はそう言うと、地下室の扉に鍵を差して、ゆっくりと扉を開けた。
「うわっ…」
すると、早速私を襲ったのは鼻がひん曲がるような糞尿の臭いだった。小鬼の巣穴の方がまだマシに思える。
「あー…あー…」
この地下室は無駄に広く、奥の方は灯りもないので、どこまで広いのかはあまりわからない。けれど、その中央にいつもいるのは、椅子に拘束された全裸の人間だった。
目隠しに口枷をされて、その無理やり開けられた口からはいつも涎が垂れていた。それだけならいいが、この人間を便所に連れていくこともないので、椅子の周囲には糞尿が溜まっていた。
「まったく…」
私は水魔法を用いて、床を水圧で洗いながら、ついでとばかりに人間の身体も水で洗い流す。そして、一時的に汚いそれらを部屋の奥に押し留める。
それから私は腰に下げていた小瓶を2つ片手に、空いている手でその人間の顎を掴み上げる。
「ほら、餌よ餌」
口枷の空いた穴に小瓶の中身を注ぐ。確か、栄養面に配慮された流動食と自我を奪う強力な薬だったか。薬の影響で人間はただ入れた分だけ糞尿に変える肉塊となっていて、これが人間の国の王族なら…さすがに酷い仕打ちだろう。
「おっ…おっ…おぇ…」
「うわわっ!吐かないでってば!汚いなもう!」
椅子に拘束し、口枷を装着させ、自我を奪う。察するに、殺してはいけないのだろう。自殺もさせてはいけないのだろう。わかることは…どんな状況でも生かさなければならないと言うことだけ。
「ねぇ…君は何者なの?」
人質というわけでもないだろう。魔王様は苛烈な方だが、残虐非道な方ではない。
私は小瓶に残った最後の一滴まで人間に流し込み、喉を通り抜けていくのを確認し、顎から手を放す。
すると、今日はいつもと違うことが起きた。
「あ、う…あうええ…」
薬がキマっているのに、言葉のようなものを発したのだ。
「薬が効いてない?」
薬を調合している薬師によれば、薬への耐性がつく場合があるから、異変があれば報告するようにと言われていた。この手の異変を探るために私がここにいるのだ。
しかし…なんて言ったのだろう。
私は思わず口枷に手が伸びるが、すぐに反対の手で叩き落とす。
口枷を外したが最後、舌を噛んで死ぬなんてことになったら、責任の取りようがない。
「ごめんなさい。口枷を外すことはできないの」
「あうええ…うああい…」
今度は顔が私の方を向いた。声に反応している。意識がはっきりとしてきたのか?
本当は薬師にこのことを早く伝えなくてはならないが………気になる。
「ねぇ…私の声が聞こえてるなら頷いて」
人間はゆっくりと首を縦に振った。
どうする?
「…あなたは、何者なの?」
違う。
「あなたは王族か何か?」
今度は横に振った。
「じゃあ凄腕の冒険者?」
また横に振った。
この人間を生かす価値はどこにあるのか。あるいは拘束する理由…魔王様が危惧する何か…
「勇者?」
曰く、邪神の加護を得て、いくつもの理不尽な力をその身に宿す強欲な怪物だと聞いたことがある。
しかし人間は首を横に振る。
「まさか一般人だとでも?」
縦に振る。なるほどわかった。
「あなた、嘘を吐くのね」
一番あり得ない答えだ。一般人のために…私はいいが、ルガーノフさんまでも見張り番をさせられているのか。
やはり人間は姑息だ。私を騙そうとしたのか。
「そっちが答える気ではないのなら、それでいい」
「ああ…あーあ」
人間は勢いよく首を横に振る。まだそんな気力があったのか。長いこと薬漬けにされて、こうも気力が残っているというのなら…ますます一般人ではない。
が、時間はある。
一般人だということを信じてみよう。利用価値はどこにあるのか…
実は、都市伝説好きな連中から仮説をいくつか教わっていた。その中で一般人でも立証可能なものを選ぶと、2つに絞られる。
1つは魔王城の養分としての生贄説だ。魔王城は生きている、という都市伝説をもとに構築された説。魔王城を機能させるために、何かしらの生命力を捧げる必要があり、魔王様は減っても困らない人間を用いている。
しかし、魔王城が生きているとしても…人間1人の養分で機能するだろうか。それに1人ということも謎だ。私が生まれるずっと前から魔王城の地下には人間を1人監禁していて、目の前の人間で64人目だそうだ。養分にするならもっと大勢の人間を用意すればいいのに、なぜ1人だけなのか。提唱者は「魔王城は偏食傾向にある」と説明していたが…
もう1つは臣下に与える褒美説だ。魔王城より北方には人間を好んで喰らう大蛇将軍がいたり、西方には負の感情を好む絶望王がいる。そんな方々への褒美として、負の感情を抱いた人間を育てているという説。1人だけとする理由は希少価値を上げ、本当の本当に手柄を立てた臣下にのみ与えるためだ。過去63人も、歴代魔王様が最終的に臣下に処理を命じていたという記録が残っている。これが処理ではなく褒美なのだというわけだ。
しかし、わざわざ魔王城の地下で育てる理由はどこにあるのか。これもまた伝統であるといえば簡単だが…1人目の人間が監禁されたのは賢王と言われた第56代魔王様が統治なさっていた約3500年前、今から7代遡るだけだ。人間の監禁は絶えることなく63人も行われていたことと照らし合わせると、褒美である人間は老人か死体ということになる。褒美ならば…やはり若い肉、若い精神の方が好まれるだろう。
「ふむ…」
説得力に欠けるか。ただ、どちらの仮説も共通点として、何かしらの糧となることが挙げられている。
生命力や精神力…そういえば、この人間の身体を検分したことがなかったな。何かわかるかもしれない。
「せっかくだ。乾かしてあげる」
いつもなら、糞尿を水で洗い流したら放置をしていたが、今日は魔法で熱風を当ててやる。
日光に十数年と当たっていないこの人間は、細く、青白く…あまり美味しそうには思えない。
「というか…あなた女だったのね」
大蛇将軍が食べたいとは思わないだろうな。そもそも、薬漬けにされた肉など…どんな肉でも普通に美味しいとは思わない。
「精神力…ねぇ、あなた…」
質問のしようがないな。感情を読み取るには…顔か。表情を見れば何かわかるかもしれない。
私はまた人間の顎を掴み上げるが…目隠しと口枷をされていては表情などわかったものではない。
「口枷は舌を噛まれる。目隠しくらいならいいのでは?」
何かを見ただけでは人は死なない。しかし…勝手に目隠しを外していいものか。
何を今更、気になるのだから、少しだけ…
私は一応地下室に誰もいないことを確認し、そっと目隠しを外してみる。すると、顎を掴み上げているので、すぐ人間と目が合った。
「え?」
その瞬間、私は戸惑った。そこにあった瞳は私の予想に反していたのだ。
「あなた…なんで生きてるの?」
そこにあったのは輝く瞳だった。普通ならば、絶望の色に染まるか、それを通り越して死人同然の目をしているはずなのに、この人間の目は…ただ真っ直ぐ、活力ある目で私を見つめていた。
私は咄嗟に目隠しを戻す。
負の感情を持っていない。とてもじゃないが…一般人の目ではない。まるで何かを信じているような目だ。もっと理不尽な…
「そうか。あなたが…!」
「おい、一線超えたぞ」
不意に背後から聞こえた聞き覚えのある声。反応しようにも声が出ない。何故か自分の喉から剣が突き出ている。
「っ…!」
「ダメだろ。俺達は生き返れないのだから。命は大事にしなくては」
そうか。そういうことだったのか。私達の世界の均衡は…
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好奇心は止められない。それは必ず到るべき場所まで到るものである。果たして情報操作にはなんの意味があるのか。
「おや、ルガーノフ。それは?」
「知りすぎた末路」
「ああ、なるほど」
「それとな薬師。あれ、薬物耐性つき始めてるぞ」
「もうですか?早いですね」
「おそらくだが、歴代のより強い加護を授けられているのだろう」
「ほほぅ、その根拠は?」
「下っ端の小娘に素質を見抜かれたからな」
「ああ、なるほど…」
知ることは罪なのか。いや、それ自体は罪ではない。知らせることが罪なのだ。だからこそ…知ることが罪になってしまうだけだ。全てを未然に防ぐために。
よって俺は罪にはならない。
たとえ、毎朝会う君に恋い焦がれていたとしても、それを君が知る前に…君はいなくなるのだから。
「まったく…嫌なもんだ」
「ええ、本当に。ああ死体預かりますよ。素材が足りなくて」
とはいえ、自分の心に情報操作はできない。
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