うらめし庵には夜が潜んでいる

USBの上と下が分からない

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プロローグ

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 電車を乗り継ぎ、早一時間。相田あいだ しょうは、車窓からの景色を感慨深げに眺めていた。
 透明なガラスを隔てた向こう側には、高くそびえたつ山々と深い緑の森、澄んだ水が流れる小川が延々と続き、都心では見たこともない大きな鳥が、宙を自由に舞っている。都会育ちの相田にとって、それはテレビや雑誌の中でしか見たことのない、美しくも奇妙な光景であった。

 規則正しく揺れる車両の中には、相田と、友人である須藤すどう かなめ以外は誰も居らず、今はその須藤もだらしなく涎を垂らして眠っているため、線路上を走る電車が奏でる「ガタン、ゴトン」という音以外は何も聞こえない。聞こえない。
 そんな状態で緩やかに流れていく景色を見ている内に、相田は何か得体のしれない大きなものに飲み込まれてしまうような錯覚を覚え、思わず目を瞑った。

 変わらず電車はゆっくりと、山々の間を縫うように走り続ける。目的の場所までは、もう少しかかりそうだ。相田はそんなことを考えながら、やってきた睡魔に身を任せ、束の間の眠りについた。




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