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死者の唄

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「ありがとよ」と腕吉は軽快に、しかしお雪ではなく自らの刀を見ながら言った。
 そして一通り手入れを終えたのか「こんなものだな」と呟いた。彼は刀を鞘に納めて廊下の床に置き、娘が置いた小包を手に取って結び目をほどいた。
 その中身は木箱で、蓋を開けると輝く小型の刃物が重ねられていた。母が研いだ刃物だった。
 それらは包丁よりも一回り短く細い。料理用のものだと母は言っていた。
 母は畑仕事をしない時には織物等の他に、刃物の研ぎをする事もあった。お雪もやり方を教わり手伝う事があり、稀に色気のような金属の輝きについ心を奪われそうになる。
 腕吉は刃物の一つを親指と隣の二本指の三本でつまみ上げ、自らの眼前で眺めた。
 刃は銀色に輝いており、相当鋭利である事はお雪にも分かった。
「相変わらずお前の母親はいい仕事をするぜ」と腕吉は言い、へへへっと小さく笑った。
 そして娘が顔の半分を手で隠している事に今更ながら気付いたのか、男は目を向けた。彼の手には刃物がまだあった。
「――何だ、目をどうかしたのか?どうしたよ……どっかにぶつけたのか」
「あの、それは、その……」
 お雪は少しもじりながら、うつむいて小さな声で「転びました」と先刻教えられた嘘をそのまま吐いた。
 腕吉は刃物を箱に戻して娘をじっと見つめ、そして「ははは!」と大きく笑った。彼の顔の肌は若々しくも、何となく鍛えられた荒さも所々にあるようにお雪の目には映った。
「意外にもドジだな?気を付けろよ。お前も母親に似て、美人だからよぉ……」と腕吉は言った。彼は機嫌が良さそうだった。
 容姿を褒められるのはお雪にとって意外だったが、この場でのお褒めの言葉はいかにも皮肉か冗談の可能性が高そうだった。
 お雪は軽く挨拶して去ろうとした。
 腕吉は木箱を閉めて横に置いたが、ふとお雪に目を遣り「おい」と呼んだ。
 お雪は驚いて地から少し飛び上がった。彼女が振り向くと、男は目を細めていて可笑しそうに口を一文字に広げて笑い、そして懐から何かを出した。
 それは紙で巻かれた包みだった。小さく、平たい。紙は白かったが微妙に黄ばんでいるというか、薄く広がる褐色の染みが所々に見られた。
「これをやるから、持って行け」
 腕吉は腕を伸ばし、包みを娘に向けて差し出した。
「え?」とお雪は言い、先程の驚きが収まらぬままに小さな包みと腕吉の顔を見比べた。
 お雪は包みを片手に受け取った。見かけよりは重い――大きさは彼女の手の平に楽に収まる程であった。
「これは何でございますか?」とお雪は尋ねた。
「狐の肉だ」
「狐――?」
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