異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ

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思い

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「親に向かってなんだその口の利き方わ!!」

リーシャの父親がそう叫ぶ。

その気迫でリーシャは怯え、身体を震わせる。
相当、トラウマになってるのだろう。
だがリーシャは引かなかった。拳を強く握り、反論した。

「今まで私はあなた達の言うことを反抗せずに聞いてきました。一度くらい許してくださいよ!私はあなた達の道具じゃないんです!私はマルクス王子と結婚する気はありません!」

本当に初めてだったのだろう、リーシャの両親は少し驚いた顔をした。
だがそれは直ぐに消え、鬼のような表情へと豹変した。

「ふざけた事言ってるんじゃないわよ!どれだけ、あんたは私たちに迷惑をかけるつもりよ!」

「確かに迷惑はたくさんかけましたよ!でもあなた達は、それ以上の苦しみを私に与えてきました……………。もうたくさんなんです!私はあなた達の娘をやめます!」

リーシャは自身の思いを親に全てぶつけた。
震えて怯える体に力を入れ、恐怖で出ないはずの声を無理やりだし、言い切ったのだ。

「この…………私たちが身動き出来なからって好き勝手言いいよって!覚悟しておけ───」

俺はリーシャの父親の首に漆黒の刀を近づけた。

「まだそんなふざけた事ほざいてんのか?リーシャに謝ったらどうなんだ?」

リーシャの父親は冷や汗を出しながらも俺を睨みつけてきた。

「貴族の私たちになんて態度よ!あんた、絶対に殺してやるわ!」

「周りを見て言ってみろよ。この状況になっても騎士は俺を切らない」

そう、騎士は俺に剣を向けていたが、切らない───というか剣を鞘にしまっていた。

「どうしてよ………何してるよのあんた達!早くこいつを殺しなさい!」

「そうだ!早くしろ!」

俺はリーシャの両親から視線を逸らし、後ろを見た。

二人もその視線を動きに気づいたのだろう。

首を後ろに動かした。
そして───顔を青くし、引き攣った。

「マ、マルクス王子………………どうしてこちらに?」

リーシャの父親が恐る恐る口を開き、そう言った。

「あまりに到着が遅いと思ってな。迎えに行くことにしたんだ。まさかこんなものが見れるとは思わなかった」

そう言うマルクス王子は口調に圧があり、怒っていた。

思った通りだ。秩序のため、今のマルクス王子にはリーシャしか見えていない。
リーシャを罰したことを悔い、心配している。
つまり彼は強制的に彼女に好意を抱かされている。

それほどの感情の変化がなければ、現実を戻そうなんて思わない。
女神は万能では無いのなら、筋が通らない改変なんて不可能なはずだ。

「まさか、そなたらがこんな事をしているとは思わなかったぞ」

「いえ………その…………ご、誤解と言いますか……………」

「誤解?醜い言い訳をするものだ。不愉快だ、失せろ。二度と私の前に顔を見せるな」

王族に媚びを売るつもりだったのであろう、リーシャの両親は絶望の表情を浮かべた。

「ま、待ってください!」
「考え直して貰えないでしょうか!」
「お願いします」
「リーシャのことは好きに使われて構いませんので!」

するとマルクス王子は二人に対して悪魔のような恐ろしい表情を見せた。

「親でも無いのにリーシャをどうこうしようとは傲慢だな。それ以上話してみろ?王族に刃向かったとして、死刑にするぞ」

その言葉でリーシャの両親は完全に心が折れたのだろう、生気が抜けたかのように静かになった。

マルクス王子は一息ついた後、俺たちに少しの笑顔を向けて近づいてきた。

「アマネ・シュン。良くリーシャを守り抜いてくれた。礼を言おう」

「王子に礼を言われるとは、光栄です」

「思ってもないことを言うな。そなたは私のことが嫌いであろうからな」

さすが王子、心を読むのがお上手だ。

「ではリーシャ、付いてこい」

そう言ってマルクス王子は手を差し出す。

リーシャがその手を取る事はなかった。
彼女は息を飲み、口を開く。

「申し訳ありませんマルクス王子。婚約の件ですが、破…………破、き………」

リーシャはどうしても言い切ることが出来なかった。
まるで何かに喉を潰されているかのように言葉が詰まる。

やっぱり出張ってきたかシェリア。

『そんなに怒りの感情を向けてこないでください。こちらにも事情があるんですから』

だからって強制するのは良くないんじゃないのか?リーシャが苦しんでるだろ。

『苦肉の策ですよ。彼女には秩序に抵抗する力があるですから。苦しませたくないのなら、あなたが彼女を見捨てることです』

了承するとでも?

俺はシェリアにそう言って二人の元に近づいた。
『何をする気ですか?』とシェリアは聞いてきたが無視した。

「リーシャ、どうした?早く来い」

リーシャは婚約破棄の言葉を口に出せないままでいた。

「すいませんがマルクス王子、そう簡単にリーシャをお渡しすることは出来ません」

「何故だ?」

鼓動がドクドクと激しく鳴る。
手を当てなくても分かるほどに強い鼓動を何とか抑えようと、胸に手を当て深呼吸する。
こんな気持ちになったのは初めてだし、今からすることも当然初めてだ。
だからこそ緊張する。

リーシャだけだったらもっと上手くできたかもしれないな。

「俺はリーシャのことが好きなんです。だから、あなたに渡したくない」

「ア、アマネさんが、私を、好き……………!?」

リーシャは顔を赤くしていた。
さっきまで流れていた涙は一瞬にして引っ込み、照れているのか、顔を隠した。

「なるほど。だが悪いな、私もリーシャに大して少なからず好意を寄せている。そなたに渡す訳にはいかないな」

俺たちの好きは同じようで全く違う。
マルクス王子は秩序に乗っ取られて得た好意───偽物だ。

だからこそ、負ける訳にはいかない。
必ずリーシャを連れて帰る。
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