異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ

文字の大きさ
上 下
23 / 40

希望の未来

しおりを挟む
「俺はこの国全体に魔族を弱体化させる結界を貼ったんす。ほんとは魔族を通れなくする結界を貼るつもりだったんすけど、さすがに厳しかったんすよね……………」

 そう言って頭を搔く坂上さん。

「その結界ってどのくらい弱体化させられるんですか?」

「そうっすね……………人間で例えるとレベル30の人がレベル1になるくらいっすかね」

「結構強烈ですね……………」

 正直そこまで弱体化されるなら十分な気もするが、魔族の強さがどの程度か分からない以上、あまり過信しすぎるのも良くないかもな。

「結界の特性上、広くなるほど効果が薄くなりやすいんすよ。しかも定期的に魔力を込めないと効果が無くなるんす。だから強力な結界は狭い範囲でないと作れないんすよ。魔族を通れなくする結界は作れても城を覆えるくらいの範囲でしたっすね」

「じゃあ城は安全って事ですか?」

「そうなるっすね。それによって国や城を守るためにさく兵士を減らす事ができて、前線に戦力を集中させることができるようになったんす。その貢献が認められた結果、S級冒険者にさせてもらったって感じっすね」

 国に認められたってことは城に行ったことあるのかな?

「坂上さんは城に出入りした事があるんですか?」

「あるっすよ。それに結界の調整で定期的に行ってるっす。今日もそれでまたまたこっちに来てたんすよ」

「お城の方で何か変わった事とか無かったですか?」

「変わった事すかぁ……………。あっ、そういえば今日、マルクス王子が一人のメイドさんと手を繋いで敷地内を散歩してるところを見たっすね」

「───っ!?そのメイドってどんな感じでした?」

「メガネをかけてる青髪の子だったっすよ。邪魔しないように離れたのでちゃんと顔は見てないんすけど……………それがどうかしたんすか?」

「いえ、何でもないです……………」

 手を繋いで散歩している、って事は二人の関係が進展している証拠だ。
 城の敷地内であれば多くの人の目に付く事になる。もう隠さなくていいという状況にならなければそこまではしないだろう。
 もしかしたら王子はそのメイドと結婚するつもりなのかもしれないな。

「アマネさん………………」

 リーシャが俺の服をぎゅっと握ってきた。多分不安なのだろう。
 俺たちからしたら青髪のメイドはどこかで確実にアクションを起こすのが目に見えている状態だ。
 王子と進展しているのはあまり良い状況とはいえない。

「ん?天音くん。その子はどうしてローブなんて被ってるんすか?しかも認識阻害までして………………」

「っ!?えっ……………どうして魔法が掛かってるってわかったんですか?」

「結界を通してみたんすよ。だから魔法が掛かってるってのが分かったんす。天音くん、その子はどうして顔を隠してるんすか?」

 リーシャは俺の背中に隠れる。

「すみません坂上さん。その質問には答えられません………………」

「それはどうしてっすか?」

「どうしてもですよ」

 俺は少し圧のある口調でそう言った。
 坂上さんを信用していない訳じゃないが、こっちの世界でこの話題について触れなれるのはほんとに危険だからだ。

 彼もそれに気づいたのだろう。
 少しして「悪かったっす」と謝り、もうその質問はしてこなかった。

「いえ、俺もすみません………………」

「それじゃあ俺は用がするんで帰るっすね。じゃないと紗枝先輩に怒られるんで」

「そうですか。ではまた…………」

 俺がそう言うと坂上さんは手を振り、去っていく。

 しばらくして、何か言い忘れたのか、俺のほうに振り返ってきた。

「今日のバイト、紗枝先輩の事お願いするっすよ!何があったのかわかんないんすけど、もう一人の仲間が中々帰ってこなくて紗枝先輩、忙しくしてるっすから!」

「分かりました!」

 もう一人って柊さんの事かな?

「俺達も戻るか」

「そうですね………………」

 俺は「帰還」と口にした。

『帰還に失敗しました』

 目の前にそう表示された。

 忘れてた、一日居ないと帰れないんだった。

 その事実に絶望し、肩を落としていると、周りにいた冒険者達が俺達を囲ってきた。

「えっ!?ちょ、何?」

「な、何ですか!?」

 大勢に持ち上げられ、俺たちは空に投げられた。
 俗に言う胴上げというやつをされていた。

「二人とも最高だぜ!」
「さすがだな!」
「街を守ってくれてありがとう!」

「ア、アマネさん!こ、これは攻撃じゃないですよね!?」

 当然のことに動揺し、リーシャは慌てていた。

「ああ!大丈夫だ!」

 その後、俺たちは流されるがままに冒険者ギルドへと連れられた。

 中に入った途端、一人の冒険者が声を上げた。

「嬢ちゃん達聞いてくれ!この二人が竜を倒したぞ!今からお祝いでもしようぜ!」

「良いよ!そこまでしなくて───」

 すると受付の方からぞろぞろと受付嬢が集まってきた。

 そうして一斉に「ありがとうございます!」と俺たちに頭を下げてきた。

 何と言うか照れくさい。

「ミサちゃんも治療ありがとうな」

「う、うん…………みんなもお疲れ」

 どうやらミサのレベルが上がっていたのは前の酒場での飲み会にいた冒険者達と仲良くなり、ミッションを共にしていたかららしい。


 ※


「「「乾杯!!」」」

 向こうの世界に帰ることが出来ないので、俺たちは酒場でみんなとご飯を食べる事にした。
 もちろん酒蒸しトラップには注意しながら。

「プハッ~…………!もう一杯!」

「やるな!ミサちゃん!」

 ミサはさすがの飲みっぷりである。

「皆さん!竜討伐の報酬ですよ!」

「おぉ~!!きたきた!」

 今回は竜討伐に参加した冒険者全員に報酬が渡された。
 強敵だった事もあり、相当報酬はいいようだ。

「アマネ様、あなたは今回の討伐に多大なる貢献をしました。よってあなたには500万ラーツを進呈したいと思います」

 5、500万……………なんという大金!!

「そんなに貰ってもいいんですか?」

「もちろんです!あなたは国を救ったも同然ですから」

 俺だけじゃ被害ゼロで倒せていなかった。
 坂上さんや他のみんなからの協力があってこそ倒せたんだ。

「よし!この報酬はみんなで山分けだ!」

「うおっ!!ほんとかよ!!」
「兄ちゃん太っ腹!!」
「あんた最高だよ!」

 そうは言いながらも心優しい冒険者達は半分以上はお前が貰ってくれ、と結局300万ほど戻ってきた。

「さぁ夜どうし飲むぞ!!」

「「「おーー!!」」」

 まだ日が昇っているにも関わらず、夜どうし飲むといい始め、酒場はものすごい賑わいをみせていた。

 その後も酒場で盛大なパーティーは続き、いつの間にか日が沈んでいた。

 酔っ払った冒険者達は地べたでだらしなく眠っていた。

 受付嬢まで酔いつぶれてる……………。

「アマネさん、ちょっと来てください」

「?わかった…………」

 俺はリーシャに付いていき、ギルドの外に出た。

 するとギルドの屋根へと続く氷の階段を作り、登った。

「見てください…………月がきれいですよ」

「……………ほんとだな」

 リーシャの指さす先には大きな満月が夜空に輝いていた。

「アマネさん、おそらくこの竜討伐は王国の耳にも入ります」

「っ!?それってもしかしたら呼び出しがあるってことか!」

「はい…………」

「なら、そこが最大のチャンスだな」

「そうですね…………」

 そう言うリーシャは希望と恐怖が混ざっているような複雑な表情を浮かべていた。

「城に行けるチャンスはそう多くないだろうし、もし声を掛けられた時は少し無茶をしてでもメイドの正体を暴くつもりだ。それでも大丈夫か?」

「はい、それが多分最前の手だと思います。というかそれしか無いですね」

「だな。手持ち無沙汰も良いとこだ」

 俺たちは自分たちの持っている情報の少なさとまず訪れるかも分からない不確かなチャンス、不可能に近い程に高い難易度だと気付き、絶望を通り越して少し笑ってしまった。

「もし失敗したら、一緒に逃亡生活だな」

 城に入る以上、俺の顔も割れてしまう。
 失敗すれば仲良く指名手配になる訳だ。

「アマネさんが居ればそうなっても大丈夫かもしれませんね」

 そんな冗談を言うリーシャ。

「リーシャは俺を神様とでも思ってるのか?」

「フフッ、違いますよ。アマネさんは凄く頼れて………面白くて………私の中で一番大切な人です……………よ」

 そう言ってリーシャは俺の肩に寄りかかってきた。

「っ!?きゅ、急にどうしたんだリーシャ………………」

 や、やばい。
 告白みたいな事されて照れくさいのにこんなんされたら───。

「スゥースゥー……………」

 リーシャから一定のリズムで吐く息の音が聞こえてきた。

 俺は横目でリーシャを見る。

 そこには可愛らしい寝顔を浮かべてスヤスヤと眠るリーシャが居た。

 寝たのかよっ!!

 俺は心の中でそうツッコんだ。

『お疲れ様です。アマネ様。条件が揃いましたのでいつでも現実世界に戻れます』

 やっとかシェリア……………お前のせいでもうクタクタだ。代わりに学校行ってきてくれ。

『それは出来ませんが……………竜討伐のためにアマネ様を勝手に召喚した事は反省しております。なので今、アマネ様が最も気になっている未来を一つお教えしましょう』

 俺が気になっている未来?それってもしかして───。

『はい、アマネ様の考えている通り、城に向かえるかどうかです』

 それでどうなんだ?行けるのか?

『ええ、近日中にアマネ様方は城に招待されます』

「よし!」

 俺はリーシャを起こさないよう静かにガッツポーズをした。

 これで希望が見えた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...