4 / 40
事情
しおりを挟む
~リーシャ視点~
一週間前。
それは突然の出来事だった───。
ビルヘイツ王国の第二王子であるマルクス王子の誕生日パーティー。
婚約者であった私は当然そのパーティーに招待された。
マルクス王子との仲はそこまでいいとはいえなかった、出会った当初はたまに会話する事くらいはあったが、ある時から会うことも会話する事も無くなった。そしてマルクス王子の私を見る視線が凍てつくほどに冷たいものへと変わっていた。
そんなマルクス王子が突然、私をパーティー会場の真ん中に呼び出してきた。
「リーシャ・ミリセント!貴様の悪行の数々は調べがついている。よって、貴様との婚約を破棄させてもらう!」
何を口にするかと思えば、身に覚えのない悪行の数々に婚約破棄宣言。
悪行の証拠は分かりやすくでっち上げられていたにも関わらず、その場にいた人達全員が簡単に信じてしまった。親も誰一人、私に味方してくれる人はいなかった。
まるで事前に聞かせて擦り合わせていたかと思うほど簡単にマルクス王子の発言を鵜呑みにした。
「待ってください!私は何も───」
反対も虚しく、私は独房に放り込まれた。
私にかけられた罪は国家反逆罪、この国じゃ死罪だ。
その恐怖に怯えながら私は数日を過ごしていた。誰も信じない、誰も助けてくれない、それが私の心を苦しめた。
ある時、警備が疎かになっている事に気がついた。この数日間、泣く事しかしていなかった私を放っておいても大丈夫だと判断したのだろう。
私は寝床にあった薄い毛布代わりの布をローブ代わりにし、隙を着いて独房から抜け出した。
途中見回りの騎士に見つかってしまい、追いかけられながらも私は森の中を全力で走った。
涙で視界が遮られても直ぐに拭き取り、転んでも立ち上がって走り続けた。
生きたかったから、私は無実だと証明したかったから、私は休むこと無く進み続けた。
※
~天音視点~
リーシャは淡々と起きた出来事を話してくれた。
この話が本当か嘘かなんて分からない、でも俺には彼女が嘘をついているようには見えなかった。
「デニムについたあたりでまた騎士に見つかってしまい、それで追いかけられてたんです」
「そういう事だったんだな……………」
デニムは王都から近いわけか。リーシャにとってはあまり安全な場所とは言えないな。
「アマネ様には本当に感謝しています。助けてくれて、暖かいご飯も用意してもらって、これ以上は迷惑をかけられませんから私を向こうの世界に戻してください」
そう言うリーシャは悲しそうな表情をしていた。
「迷惑なんて思わなくていいぞ」
「えっ?」
「言っただろ、この世界には君を知っている人は居ないって」
「でも……………」
「俺は君を信じるよ。君が嘘をついてるようにはどうも思えないんだ。だからしばらくはこの家に居てもいい、俺が嫌になったら戻ればいいさ」
真実である確証は無い、逆に言えば嘘であるとも言えないのだ。ならば俺はリーシャを信じてみようと思う。
それに彼女が向こうの世界に帰れるかも俺には分からない。バグによって彼女がこの世界から出られない可能性もあるのだ。
それは全て俺の責任だ。
彼女を放って置くなんて許されるわけがない。
するとリーシャの瞳から一粒の大きな涙がこぼれた。それを境にポロポロと涙が溢れだし、止まらなくなった。
「えっ!?ど、どうした?俺変なこと言ったか?」
「ち、違います…………違うんです…………。アマネさんが初めてだったんです……………私の言う事を信じてくれた人は……………それが嬉しくて」
涙を流しながらも小さく笑顔を見せるリーシャ。今までの苦しさを知った気持ちになり、俺も胸が苦しくなった。
「安心しろ、俺が何とかしてやる」
俺はリーシャの頭を優しく撫でそう言った。
「ほんとですか…………」
「正直言うとあまり自信はないよ。俺、ただの学生だし」
俺カッコ悪ぅ~…………。
「それでもいいです。信じてくれるだけでも私は救われてますから」
リーシャはしばらくの間、俺に寄りかかって涙を流していた。
きっと寂しかったのだろう、人肌の温度に安心したのか、泣き疲れてしまったのか眠ってしまった。
俺はリーシャを起こさないようにゆっくりと抱きかかえ、ベットのある一室に運び、寝かせた。
もしかしたら汗臭いかもだがソファーよりは寝心地いいだろう。
俺は部屋の電気を消し、ゆっくりとドアを閉めた。
リビングに戻った俺は風呂で制服を洗いながらこれからの事を考えていた。
しばらくはリーシャをこの部屋に住ませる事にする。
だがそれによって生じる問題が、お金だ。
学生である俺は親からの仕送りとバイトの給料で生活をしている。そのお金で二人分の食費とその他生活必需品を補えられる程の余裕は無いだろう。
まず彼女が生活するための物を揃えるだけでも相当お金が無くなるだろう、現に服を買った事で今月は金欠確定だ。
そのお金を補うためには異世界で稼ぐしかない、どの道サボり過ぎたら強制召喚だから行くのは確実だ。
これから急がしくなりそうだな。
明日は休日だし、リーシャを連れて買い物に行かなきゃな。
友達にはしばらくこの事は秘密にしないと。
異世界の令嬢を連れてきたなんて俺でも信じない話だ。
ほんと、どうしてこうなったんだ……………。
一週間前。
それは突然の出来事だった───。
ビルヘイツ王国の第二王子であるマルクス王子の誕生日パーティー。
婚約者であった私は当然そのパーティーに招待された。
マルクス王子との仲はそこまでいいとはいえなかった、出会った当初はたまに会話する事くらいはあったが、ある時から会うことも会話する事も無くなった。そしてマルクス王子の私を見る視線が凍てつくほどに冷たいものへと変わっていた。
そんなマルクス王子が突然、私をパーティー会場の真ん中に呼び出してきた。
「リーシャ・ミリセント!貴様の悪行の数々は調べがついている。よって、貴様との婚約を破棄させてもらう!」
何を口にするかと思えば、身に覚えのない悪行の数々に婚約破棄宣言。
悪行の証拠は分かりやすくでっち上げられていたにも関わらず、その場にいた人達全員が簡単に信じてしまった。親も誰一人、私に味方してくれる人はいなかった。
まるで事前に聞かせて擦り合わせていたかと思うほど簡単にマルクス王子の発言を鵜呑みにした。
「待ってください!私は何も───」
反対も虚しく、私は独房に放り込まれた。
私にかけられた罪は国家反逆罪、この国じゃ死罪だ。
その恐怖に怯えながら私は数日を過ごしていた。誰も信じない、誰も助けてくれない、それが私の心を苦しめた。
ある時、警備が疎かになっている事に気がついた。この数日間、泣く事しかしていなかった私を放っておいても大丈夫だと判断したのだろう。
私は寝床にあった薄い毛布代わりの布をローブ代わりにし、隙を着いて独房から抜け出した。
途中見回りの騎士に見つかってしまい、追いかけられながらも私は森の中を全力で走った。
涙で視界が遮られても直ぐに拭き取り、転んでも立ち上がって走り続けた。
生きたかったから、私は無実だと証明したかったから、私は休むこと無く進み続けた。
※
~天音視点~
リーシャは淡々と起きた出来事を話してくれた。
この話が本当か嘘かなんて分からない、でも俺には彼女が嘘をついているようには見えなかった。
「デニムについたあたりでまた騎士に見つかってしまい、それで追いかけられてたんです」
「そういう事だったんだな……………」
デニムは王都から近いわけか。リーシャにとってはあまり安全な場所とは言えないな。
「アマネ様には本当に感謝しています。助けてくれて、暖かいご飯も用意してもらって、これ以上は迷惑をかけられませんから私を向こうの世界に戻してください」
そう言うリーシャは悲しそうな表情をしていた。
「迷惑なんて思わなくていいぞ」
「えっ?」
「言っただろ、この世界には君を知っている人は居ないって」
「でも……………」
「俺は君を信じるよ。君が嘘をついてるようにはどうも思えないんだ。だからしばらくはこの家に居てもいい、俺が嫌になったら戻ればいいさ」
真実である確証は無い、逆に言えば嘘であるとも言えないのだ。ならば俺はリーシャを信じてみようと思う。
それに彼女が向こうの世界に帰れるかも俺には分からない。バグによって彼女がこの世界から出られない可能性もあるのだ。
それは全て俺の責任だ。
彼女を放って置くなんて許されるわけがない。
するとリーシャの瞳から一粒の大きな涙がこぼれた。それを境にポロポロと涙が溢れだし、止まらなくなった。
「えっ!?ど、どうした?俺変なこと言ったか?」
「ち、違います…………違うんです…………。アマネさんが初めてだったんです……………私の言う事を信じてくれた人は……………それが嬉しくて」
涙を流しながらも小さく笑顔を見せるリーシャ。今までの苦しさを知った気持ちになり、俺も胸が苦しくなった。
「安心しろ、俺が何とかしてやる」
俺はリーシャの頭を優しく撫でそう言った。
「ほんとですか…………」
「正直言うとあまり自信はないよ。俺、ただの学生だし」
俺カッコ悪ぅ~…………。
「それでもいいです。信じてくれるだけでも私は救われてますから」
リーシャはしばらくの間、俺に寄りかかって涙を流していた。
きっと寂しかったのだろう、人肌の温度に安心したのか、泣き疲れてしまったのか眠ってしまった。
俺はリーシャを起こさないようにゆっくりと抱きかかえ、ベットのある一室に運び、寝かせた。
もしかしたら汗臭いかもだがソファーよりは寝心地いいだろう。
俺は部屋の電気を消し、ゆっくりとドアを閉めた。
リビングに戻った俺は風呂で制服を洗いながらこれからの事を考えていた。
しばらくはリーシャをこの部屋に住ませる事にする。
だがそれによって生じる問題が、お金だ。
学生である俺は親からの仕送りとバイトの給料で生活をしている。そのお金で二人分の食費とその他生活必需品を補えられる程の余裕は無いだろう。
まず彼女が生活するための物を揃えるだけでも相当お金が無くなるだろう、現に服を買った事で今月は金欠確定だ。
そのお金を補うためには異世界で稼ぐしかない、どの道サボり過ぎたら強制召喚だから行くのは確実だ。
これから急がしくなりそうだな。
明日は休日だし、リーシャを連れて買い物に行かなきゃな。
友達にはしばらくこの事は秘密にしないと。
異世界の令嬢を連れてきたなんて俺でも信じない話だ。
ほんと、どうしてこうなったんだ……………。
596
お気に入りに追加
1,154
あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる