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第二章 神崎透
第28話 捜査②
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俺達はそれから歩道に出て、今朝倒れた木について調べに行った。倒れた木は歩道からどかされて、学校の敷地内に置かれていた。幹の根元から折れたその木の断面は、崩れた壁と同様、黒く変色していて、臭いもキツい。だが、その断面はまるで人の手で切ったかのように、平面な部分もあった。
「不自然すぎるな……」
横で将雅が顎を触りながら呟く。そして将雅は手帳を取り出すと、素早く何かを書き込んだ。それからこちらを向き、
「次に、新しく調べたいことがあるんだが……」
「何だ?」
「今まで見てきた現象の中で、人がやった可能性が一番高いのは花壇の件だ。まず、郁恵さんが証言したことから調べていこう。……五日前の朝に花壇を見て、次の日の朝にはもう枯れていたと郁恵さんは言っていた。……それが本当なら、犯人はその間に犯行を行ったということだ。」
「そうだな……」
「でも、授業中に抜け出してまで犯行する……まあ、そんな奴がいるかもしれないが今は考えないことにしよう。多分犯行が行われたのは放課後だ。ただ……」
将雅はチラとグラウンドの方を向く。
「部活動をしている横で、堂々と花壇を腐らせることが出来たのかどうかだよな……」
将雅の言う通りだった。特別棟とグラウンドの間の道は人通りも多く、目に付きやすい。野球部、サッカー部、陸上部。たくさんの部活がグラウンドを分けて使っている。もし犯人が放課後に犯行をおこなったのなら、バレるリスクを負ってまでやっていたことになる。
朝ではない。日中でもない。いや、昼休みとかか? 有り得るが、どうだろう。放課後は人の目を盗めば出来るのだろうが……。
二人で考えながら特別棟の壁を見つめていると、視界の先に新しいものが入った。
「あれは……?」
陸上部だ。特製の赤のユニフォームを着ているから間違いない。その陸上部たちが、特別棟の壁際のコンクリートに腰を下ろし、休憩をし始めた。丁度、あの枯れた花壇の近くで。
俺達はすぐさま彼らの元へ向かった。
「あの……」
「はい?」
「今、休憩中?」
「そうですね」
将雅はその陸上部の、一つ下の後輩に話しかけた。
「いつもこの場所で?」
「そうですね、はい」
将雅は近くの花壇の方を指で差す。
「あの花たち、枯れてるのは気付いた?」
「ああ、枯れてまね……数日前から」
「四日前からだよ、タケさん」
俺達が話を聞いていた人と同じ陸上部の、おそらく二つ下の後輩が横から口を挟んできた。
よく憶えているな、この子。ん……? 四日前?
「四日前? じゃあ、五日前とかはまだ枯れていなかった?」
俺はその一年生に聞いてみる。
「五日前って、9月じゅう……ご? 9月15日って先週の金曜日……うん。夕方までいたけど、咲いていたと思い……ます」
「こいつ、記憶力だけはいいんだ」
「だけ、って何ですかタケさん!」
タケさんと後輩がじゃれつき始めた。……しかし、今の情報、有力すぎやしないか?
「透。一歩近づいたな。犯行出来た時間は、五日前の朝からじゃない。犯行は、五日前の夕方から、次の日の朝まで、だ」
「そう……だな……!」
そうだ。ここまで時間を絞れたのは大きい。かなり大きい。今、この情報が真実か嘘か確かめようが無い。彼の言ってることを信じるしかない。少ない情報の中、まだ俺達は手探り状態なのだから。
「いいぞ……! いいぞ……!」
小声でブツブツ言いながら、将雅は手帳にメモを書き込んでいく。そして指で今までの情報をなぞらせていた。
そんな将雅の動きがピタと止まる。彼の目が虚ろに映った。
「どうした? 将雅」
「ま……か……せ、い」
何独り言を言ってるんだ。
「おい、将雅」
俺は将雅の肩を掴んで揺らした。
「あ、ああ! すまん、少し考え事してた」
「ん、そうか……。で、どうする?」
「……透、今日はもう暗くなったから帰っていいぞ。俺はもう少し調べたいことがあるから、学校に残る」
「……そうか。分かった、そうするよ。何か分かったら、また明日言ってくれよ」
「ああ、何か分かったらな……。今日はありがとう、透」
俺は普通棟の玄関に置いた荷物の方へと帰っていった。今日が初めての捜査だったが、色々なことが分かった気がする。俺の中の変な気持ちも吹っ切れた。
俺は帰路の橋を渡りながら、ふと川の方を見る。夕日が、川の水平線に顔を沈めようとしていた。真っ赤に染まる夕日に、俺はいつしか足を止めて見惚れていた。
いつも通っている道なのに、こんなに綺麗な夕日は初めて見たな……。
自然と笑みがこぼれた。
きっと大丈夫さ。なんとかなる。今起きているこの事件も……俺の理不尽な人生も。
……俺はその夕日に、ちょっとした元気をもらった気がしたーーーー
赤は、警鐘。道の先に待つ危険を教えてくれる。その時の真っ赤な夕日が、一体何を教えてくれていたのか。後々俺は思い知ることになる。
「不自然すぎるな……」
横で将雅が顎を触りながら呟く。そして将雅は手帳を取り出すと、素早く何かを書き込んだ。それからこちらを向き、
「次に、新しく調べたいことがあるんだが……」
「何だ?」
「今まで見てきた現象の中で、人がやった可能性が一番高いのは花壇の件だ。まず、郁恵さんが証言したことから調べていこう。……五日前の朝に花壇を見て、次の日の朝にはもう枯れていたと郁恵さんは言っていた。……それが本当なら、犯人はその間に犯行を行ったということだ。」
「そうだな……」
「でも、授業中に抜け出してまで犯行する……まあ、そんな奴がいるかもしれないが今は考えないことにしよう。多分犯行が行われたのは放課後だ。ただ……」
将雅はチラとグラウンドの方を向く。
「部活動をしている横で、堂々と花壇を腐らせることが出来たのかどうかだよな……」
将雅の言う通りだった。特別棟とグラウンドの間の道は人通りも多く、目に付きやすい。野球部、サッカー部、陸上部。たくさんの部活がグラウンドを分けて使っている。もし犯人が放課後に犯行をおこなったのなら、バレるリスクを負ってまでやっていたことになる。
朝ではない。日中でもない。いや、昼休みとかか? 有り得るが、どうだろう。放課後は人の目を盗めば出来るのだろうが……。
二人で考えながら特別棟の壁を見つめていると、視界の先に新しいものが入った。
「あれは……?」
陸上部だ。特製の赤のユニフォームを着ているから間違いない。その陸上部たちが、特別棟の壁際のコンクリートに腰を下ろし、休憩をし始めた。丁度、あの枯れた花壇の近くで。
俺達はすぐさま彼らの元へ向かった。
「あの……」
「はい?」
「今、休憩中?」
「そうですね」
将雅はその陸上部の、一つ下の後輩に話しかけた。
「いつもこの場所で?」
「そうですね、はい」
将雅は近くの花壇の方を指で差す。
「あの花たち、枯れてるのは気付いた?」
「ああ、枯れてまね……数日前から」
「四日前からだよ、タケさん」
俺達が話を聞いていた人と同じ陸上部の、おそらく二つ下の後輩が横から口を挟んできた。
よく憶えているな、この子。ん……? 四日前?
「四日前? じゃあ、五日前とかはまだ枯れていなかった?」
俺はその一年生に聞いてみる。
「五日前って、9月じゅう……ご? 9月15日って先週の金曜日……うん。夕方までいたけど、咲いていたと思い……ます」
「こいつ、記憶力だけはいいんだ」
「だけ、って何ですかタケさん!」
タケさんと後輩がじゃれつき始めた。……しかし、今の情報、有力すぎやしないか?
「透。一歩近づいたな。犯行出来た時間は、五日前の朝からじゃない。犯行は、五日前の夕方から、次の日の朝まで、だ」
「そう……だな……!」
そうだ。ここまで時間を絞れたのは大きい。かなり大きい。今、この情報が真実か嘘か確かめようが無い。彼の言ってることを信じるしかない。少ない情報の中、まだ俺達は手探り状態なのだから。
「いいぞ……! いいぞ……!」
小声でブツブツ言いながら、将雅は手帳にメモを書き込んでいく。そして指で今までの情報をなぞらせていた。
そんな将雅の動きがピタと止まる。彼の目が虚ろに映った。
「どうした? 将雅」
「ま……か……せ、い」
何独り言を言ってるんだ。
「おい、将雅」
俺は将雅の肩を掴んで揺らした。
「あ、ああ! すまん、少し考え事してた」
「ん、そうか……。で、どうする?」
「……透、今日はもう暗くなったから帰っていいぞ。俺はもう少し調べたいことがあるから、学校に残る」
「……そうか。分かった、そうするよ。何か分かったら、また明日言ってくれよ」
「ああ、何か分かったらな……。今日はありがとう、透」
俺は普通棟の玄関に置いた荷物の方へと帰っていった。今日が初めての捜査だったが、色々なことが分かった気がする。俺の中の変な気持ちも吹っ切れた。
俺は帰路の橋を渡りながら、ふと川の方を見る。夕日が、川の水平線に顔を沈めようとしていた。真っ赤に染まる夕日に、俺はいつしか足を止めて見惚れていた。
いつも通っている道なのに、こんなに綺麗な夕日は初めて見たな……。
自然と笑みがこぼれた。
きっと大丈夫さ。なんとかなる。今起きているこの事件も……俺の理不尽な人生も。
……俺はその夕日に、ちょっとした元気をもらった気がしたーーーー
赤は、警鐘。道の先に待つ危険を教えてくれる。その時の真っ赤な夕日が、一体何を教えてくれていたのか。後々俺は思い知ることになる。
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