上 下
104 / 119
第1章 OMT編

第101話 本物

しおりを挟む
 試合開始前に立てた、ギースたちの作戦は順調に進んでいたはずだった。ギースは本物のロボットを暗闇に閉じ込めて守りながらセナを探し、最終的には相手にその本物を破壊させた。そして、敵の本物はスタート地点の、壁に囲まれた中にあるだろうと踏んでいた。

 しかし、違った。

「ほんとに……ダミーだった……気づけば良かった……ダミーはネジを巻かないと止まること……忘れてたんだ……」

 血を吹き出しながらも、翔太はギースに事実を伝える。ギースは翔太を回復させながら頭を働かせた。

 なら、本物は何処にある? レナードは膨大な量のマナを使って僕たちを騙してきていた。だがこれは、もし事前にダミーだと気づかれたら無駄になる程の仕掛け。本物はフィールド上に野放しにしているはずもない。なら、相手はもう一つ策を用意しているはず。ギースはそこまで考えて、今までの情報を推理し始めた。

 敵のスタート地点のロボットはダミーだった。だが、それを懸命に守り、あたかも本物が入っているように見せたのはレナード。もう倒された彼が、いまだなお別の場所で本物を匿っているとは思えない。

 ガンタロは魔力の暴走を早々に使い、攻撃に徹していたイメージがある。彼が身体など、どこかに隠し持っているとは考えにくい。もし持っていたとしても、対峙したミアが気付くはず。

 メルサは僕たちを捕まえるために動いていた。だがもしかすると、彼女が本物を持っている可能性が出てくるが……。

 そこでふと、ギースは闘技場内を見渡す。霧が段々と晴れてきて、あらかた遠くまで見ることができるようになっていた。ギースは目を凝らした先に、地面に倒れているグレイトとメルサの姿を見つけた。

「ダークホールセット。スワロウ」

 倒れた二人の下に穴を投げ置き、ギースは彼らを、今いる敵のスタート地点までワープさせて引き寄せる。傷だらけの二人の体を探してみるが、どうも本物は見当たらない。メルサの身体を厳重に縛っている鎖を解いても、そこには何も無かった。

「……待てよ……?」

 ギースは思い出す。この鎖を体に身につけていたのはメルサだけじゃなかったことを。ギースは呼吸を整えている翔太に聞く。

「翔太くん、確か、セナは最初にダミーを投げつけて攻撃してきたと言ってたね?」

「あ……ああ」

「その戦法が、僕たちにはリスクのあるものだと感じられた。だから敵はもしかしたら、本物は簡単に取られる心配の無い壁の中に入れたと、そう思い込んでいた。……もしこれが、根本から間違いだったとしたら……」

「まさか……」

「……ちょっと、セナを探してくる。もう敵は勝利条件を満たせない。あとはゆっくり探せば……」

 そう言って立ち上がったギースは、霧の奥に見えたものに目を疑った。そこには、右手に青色のロボットを持ったミアの姿があった。青はオーガン第二のロボット。ダミーを持っているかと考えたが、ダミーは触れたら爆発する。その手に握られているのは、間違いなく本物……。

「まさか、直したっていうのか……? まずい……っ!」

 セナがギースたちの方へと向かって走り出した。敵のスタート地点に本物を運ばれたら負け。なんとか阻止しなければならない!

「ブルー・バースト!!」

 震えながらも起き上がった翔太が槍を放つ。だが速度が落ちており、セナは半身にその攻撃を避けた。その時、ギースの予想が確信へと変わる。

 セナの腰に何重にも巻かれた鎖は、後ろでロボットが落ちないように縛りつける役目をしていた。ほとんどが攻撃用のダミー。しかしその中に一つだけ、もがき暴れるロボットが含まれているのをギースは捉えた。本物のロボットは“触ると暴れ出す”という性質を持つことから、セナたちは鎖で縛って固定していたのだろう。

「もっと早く気付いていれば……!」

 木を隠すなら森の中。ギースたちは、セナが持っているロボットは全てダミーだと思い込まされていた。そのわずかな勘違いが今、勝負を大きく左右する要因にまでなったのだ。意識が確かになってきた翔太も、事の重大さに気づき始める。

「ギース……どうする……!」

「……っ!!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

超越者となったおっさんはマイペースに異世界を散策する

神尾優
ファンタジー
山田博(やまだひろし)42歳、独身は年齢制限十代の筈の勇者召喚に何故か選出され、そこで神様曰く大当たりのチートスキル【超越者】を引き当てる。他の勇者を大きく上回る力を手に入れた山田博は勇者の使命そっちのけで異世界の散策を始める。 他の作品の合間にノープランで書いている作品なのでストックが無くなった後は不規則投稿となります。1話の文字数はプロローグを除いて1000文字程です。

薔薇園に咲く呪われ姫は、王宮を棄てて微笑む ~もうあなたの愛など欲しくない~

昼から山猫
恋愛
王宮で「優雅な花嫁」として育てられながらも、婚約者である王太子は宮廷魔術師の娘に心奪われ、彼女を側妃に迎えるため主人公を冷遇する。 追放同然で古城へ送られた主人公は呪われた薔薇園で不思議な騎士と出会い、静かな暮らしを始める。 だが王宮が魔物の襲来で危機に瀕したとき、彼女は美しき薔薇の魔力を解き放ち、世界を救う。 今さら涙を流す王太子に彼女は告げる。 「もう遅いのですわ」

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

さようなら竜生、こんにちは人生

永島ひろあき
ファンタジー
 最強最古の竜が、あまりにも長く生き過ぎた為に生きる事に飽き、自分を討伐しに来た勇者たちに討たれて死んだ。  竜はそのまま冥府で永劫の眠りにつくはずであったが、気づいた時、人間の赤子へと生まれ変わっていた。  竜から人間に生まれ変わり、生きる事への活力を取り戻した竜は、人間として生きてゆくことを選ぶ。  辺境の農民の子供として生を受けた竜は、魂の有する莫大な力を隠して生きてきたが、のちにラミアの少女、黒薔薇の妖精との出会いを経て魔法の力を見いだされて魔法学院へと入学する。  かつて竜であったその人間は、魔法学院で過ごす日々の中、美しく強い学友達やかつての友である大地母神や吸血鬼の女王、龍の女皇達との出会いを経て生きる事の喜びと幸福を知ってゆく。 ※お陰様をもちまして2015年3月に書籍化いたしました。書籍化該当箇所はダイジェストと差し替えております。  このダイジェスト化は書籍の出版をしてくださっているアルファポリスさんとの契約に基づくものです。ご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。 ※2016年9月より、ハーメルン様でも合わせて投稿させていただいております。 ※2019年10月28日、完結いたしました。ありがとうございました!

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

悪役令嬢女神が担当だが、神様からヨメを貰いました。

parip Nocturne
ファンタジー
タチの悪い冗談好きな女神に捕まってしまった主人公が悪戦苦闘しながら、神に愛され神を愛し嫁をもらう。それですめばハッピーエンドですね。

処理中です...