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第1章 OMT編

第71話 魔の花

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 学校を出て、二人は街中のある研究所に着く。指紋認証でレイナはその入り口を開け、翔太をその中に招き入れる。

 その研究所は、そこら中が植物だらけ。翔太の元の世界にあるものと似たような花もあれば、この世界特有の植物もいる。

 翔太は蛇のように威嚇する植物や、唾を吐いてくる花に驚きながらも、レイナの後について研究所の奥へと進んだ。

 そこには、大きな丸眼鏡をかけた、禿げた老人が花に水やりをしていた。

「ロカルド博士。特性の肥料を持ってきました」

「おお、ありがとう。レイナ、ご苦労だった」

 レイナは寮の自分の部屋から持ってきた肥料の袋をその老人・ロカルド博士に手渡す。そして、ロカルドはその肥料を目の前の植木鉢に少量入れた。

「レイナ、その人はお客さんかね?」

 ロカルドが花の手入れをしながら聞く。

「ええ。学校で同じクラスなの。彼、植物に興味持ったらしくて、ちょっとここを案内させても良いかしら」

「フォフォフォ。別に構わんよ」

 ロカルドがそう言うと、レイナは翔太の服の袖を引っ張り、別の部屋に入っていく。

「ちょちょちょ! 俺、別に植物に興味とか無いし……!」

 翔太は一旦、レイナの強引さを止める。

「黙って来なさい。別に、あなたに何かやってもらう訳じゃないわ。……それとも何? 黒豆、返してほしくないの?」

 ここまで来て諦めてしまっては、後々ロレンに何を言われるか分からない。翔太は抵抗をやめて、レイナの言う通りにすることにした。

 二人が入った個室は、種の袋や鉢が並んだ棚や、ハサミなど、ガーデニングに必要な道具が置かれた物置のような部屋。

「ここで待ってて」

 レイナの指示通り、翔太はあるステンレスの机の前でジッと待つ。レイナは部屋の隅の段ボール箱から一つの植木鉢を取り出して、それを翔太の前に持ってきた。

 それは一見、ただ土が入っているようにしか見えず、何も芽も出ていない。だがそこでレイナが、

「出てきて、ブルーム」

 と、そう唱えると、土が盛り上がり、中から花が咲いて出てきた。黒い髭を生やしたヒマワリのような花。翔太はそう見えた。

「ブハッ! 久しぶりの外だァ! おい小娘、随分長く待たせてくれたなァア!?」

「しゃ、しゃべっ……た!?」

 目をガン開きさせ、陽気に話し出した花を前に翔太は驚きを隠せない。

「ごめんなさいね、ネルソン。でも、おそらくあなたのお目当てを連れてきたから」

 レイナは自然とその花・ネルソンと会話する。これは彼女にとって普通なのかと思い、翔太はこの状況についていこうとする。

「ふ~む? どれどれ……」

 ネルソンは鉢から身を乗り出して、翔太の顔をまじまじと見つめる。翔太は不安になりレイナの顔を見るが、「大丈夫、落ち着いて」という言葉だけが返ってくる。

「ほほ~……ハハハ。ハハハハッ! ハハハハハハッ!!」

 突然、ネルソンは笑い出した。その笑いが理解できない翔太。だがレイナはすかさずその花に問いただす。

「どうなの!? 分かったの!? 彼が何者か!」

 ネルソンは笑いを堪えながら、

「あぁ……。正真正銘、これは地球人だなァ……。間違いねェ」

 と、そう答える。ネルソンは続けて、

「ホント、お手柄だなァ、レイナ。……だけどどうすっかなあ? これを誰にもバラすなっていうのはちょっと、難しいなァ?」

 と、不気味な笑いを浮かべてレイナを見る。すると、レイナの表情が怒りに変わった。

「そこは約束したはずじゃない……! まさか、本当に破るっていうの? この事を“彼ら”に教えるっていうの!?」

 レイナの責めに答えるつもりはなく、ネルソンは植木鉢に入ったまま、机の上から飛んで逃げ出した。

「クソ野郎……! 散れ!!」

 レイナが、ネルソン目がけて拳を強く握る。すると、その花は短い断末魔をあげながら、身を絞られ一瞬にして散った。植木鉢は割れ、中に入っていた土がこぼれ出す。

 レイナはため息をつきながらその花の後処理を始めた。しかしそこで、まだわずかに息の根のあったネルソンが、

「ご主人様はもう気付いたぞ……お前の今の所業……」

 と、最期にレイナに囁いた。レイナの首筋に嫌な汗が垂れ始める。

「あの、大丈夫だったんですか? 今の花、死なせても……」

 翔太が心配そうに聞く。

「分からないわ。……それよりもあなた、自分の心配をした方が良いわよ」

「えっ……?」

「まさか本当に、あなたが地球人だなんてね……」

 翔太は話の流れが掴めなかった。

「そ、そうだ。その花、俺が地球人だってこと、何で分かったんですか?」

 淡々と植木鉢の破片を片づけるレイナは、口調を強めて、

「知ろうとしない方がいいわ。“彼ら”のことは。もうこれ以上、関わるのもダメよ。あなたは逃げに逃げて、一刻も早く、この世界から出る方法を探した方がいい」

「…………それは一体、なんで…………?」

 それ以上、翔太の質問にレイナが口を開くことは無かった。そして最後に、

「これ、ロレンの黒豆」

 と、レイナは袋を翔太に投げ渡した。

「研究の無駄だったわ。それ、早くロレンに返してちょうだい」

 そう言ってレイナは、翔太をもうこの研究所から出るよう促した。

 結局、翔太は研究所で何が起きていたのか分からず終いだった。しかし、印象に強く残っているのはレイナのあの言葉。『この世界から出る方法を探した方が良い』とは、一体なぜなのか。漠然とした嫌な予感がしつつも、翔太は気持ちを切り替える。まずはOMTに集中する。この世界のことを考えるのはその後だ、と。
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