最強の魔法使いになるのは転移してきた地球人でも選ばれし血族でもない、この俺だ《黒炎ーKOKUENー》

じゃったん

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第1章 OMT編

第63話 ロック・センス

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「さて、さっきお前が気になっていた機械の説明をしよう」

 グレンはそう言って、あらゆる武器がごちゃ混ぜに搭載されている機械の元に歩いていく。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 アレスは彼を止めた。

「なんだ?」

「あんたの能力は一体何なんだ? 何が起きているのかも全然分からなかったし、それに民家だってああいう風に半壊させて…………あれ……?」

 アレスが、先程グレンが壊したはずの民家の壁を見るも、その民家は綺麗に元通りになっていた。

「どういうことだ?」

「はっはっは!! そうだな、混乱するわな!……良いだろう、教えてやる」

 グレンは笑いながらアレスの前に戻り、自分の能力について明かし始める。

「俺の能力は“5S”系統だ。学校で勉強してるお前なら、これだけで薄々勘づくんじゃないか?」

 アレスはそれを聞き息をのんだ。“5S”系統。世界でそれを持つのは少数しかいない稀有な能力系統である。さらに、その能力は、人間の「五感」に関わるもので、ほとんどが強力な能力であることが多い。

 アレスは今日、そんな能力者と初めて対面していた。

「俺の能力名は『ロック・センス』。あらゆる感覚をロックするんだ。……言ってること分かるか?」

 薄ら笑いをしながら、グレンはアレスの顔を覗く。感覚をロックすると言われてもピンと来るはずもなく、アレスは少し苛立った。

「じゃあもっかい見せてやる。俺のこと、ちゃんと見てろよ?」

 アレスは言われた通りにグレンのことをジッと見つめる。すると、グレンの身体はゆっくりと二つに分裂し、アレスがさっき戦っていた分身があっという間に出来上がっていた。

「なんで、こんなに簡単に……」

 アレスは困惑する。

「お前が俺のことを視覚でとらえた、っていう状態をロックしたのさ。つまり、ここには本当は分身なんていない。俺の能力によって、お前の視覚が『ここにグレンがいる』ってとらえたままで固定されているんだ」

 アレスはすかざず聞き返す。

「でも、それはおかしくないか? ここに分身がいないとして、俺はこいつの攻撃を食らったんだ。それはどういうことなんだ?」

 グレンは小さく息をつき、上を見る。

「“5S”系統の能力はな、たとえば、視覚だけに、とか、聴覚だけにとか、一つの感覚にしか通じないものが多い。だが、俺のは五感すべてに通じるんだ。だからもちろん、触覚もロックできる」

 アレスは、グレンの言葉の意味を理解しようと頭を働かせた。そして、

「まさか、最初に俺の脇腹を殴ったのは分身じゃなくて、本体だったのか?」

 そんな考えにたどり着いた。

「そうだ。初めに、本体に触られたという感覚をロック。そして瞬時に視覚もロックすれば、お前の目に映り、かつ、お前に触れる分身が出来上がるんだ」

 アレスはグレンの能力の強さに舌を巻いた。だが、同時に疑問も生まれる。

「でもあんた……そんな分身なんて作らなくても充分、俺と戦えることができたんじゃないか? あんたの身体まだ衰えていないだろ?」

 アレスがそう言うと、またグレンは高らかに笑い出した。

「はあ、じゃあ最後のネタばらしいくか。お前の火の分身よりももっと子供騙しなのさ、この能力は。いいか? 視覚がロックされたあと、お前が見ている分身の像は、『お前自身の脳が作り上げている』んだよ。つまり、お前は俺のことを筋肉ムキムキのジジイに見えたようだが、それはお前の想像にすぎない。俺を警戒視しすぎた故、お前の脳は俺を強者に仕立てあげたんだ。俺の攻撃が民家を半壊させるほどの威力ってのも、お前の想像だ。現に民家なんて壊されてないし……な」

 アレスはさっきの戦いで起きた全てのことが府に落ちた。全ては、自分の想像上のグレンと戦っていたということ。端から見れば、グレンはずっとドラム缶の上に居座る中で、俺はその目の前で炎のダンスを披露しているかのように見えるだろう。アレスは馬鹿らしくなり、自分の滑稽さに笑った。

 アレスは不思議に思う。この、グレン・ブラーソンという強者が、なぜこのコスティエ街の辺境にひっそりと暮らしているのかと。そこでアレスの脳裏にちらついたのは、彼が元「黒豹」のメンバーだということ。やはりそれが関係しているのかと考えるが、どうも詳しく聞ける雰囲気ではない。アレスが昨日、グレンと初めて会ったときも、政府から派遣された者かどうか疑われていた。黒豹のメンバーは、それくらいの危険人物ということなのだろうか。

「おい、もう分かっただろ。俺の能力については」

 アレスの思考が、グレンの言葉に中断される。今は修行中。アレスはグレンの後についていき、例の機械の元に向かう。その間アレスは、いつか黒豹についても彼から聞き出そうと、静かに決意した。

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