58 / 119
第1章 OMT編
第55話 影に
しおりを挟む
ー 翔太たちの修行場での事件後 校長室 ー
荘厳な雰囲気を醸し出す、重い扉を叩く音。
「入れ」
「失礼します」
校長と顔を合わせるのは、上級クラス副担任のゲノ・バレン。
「どうしました? ゲノ先生」
校長は、椅子の背もたれに深く腰をかけながら聞く。
「どうしました、じゃあありませんよ、フルージヤさん。あの翔太という男の存在、どうして教えてくれなかったのです?」
「あぁ……ハハ。成績表でも見たのかな?……いや、忘れてたよ。すまないね」
校長は、悪びれた気もなく平坦な声色で謝る。ゲノは顔をしかめた。
「他は知ってるんですか?」
「まぁ、知ってる人もいるね」
「……上には報告したんですか?」
「上? 私に上なんていたか?」
大きく両手を広げ、額にシワを作る校長。ゲノの顔は鬼の形相に変わった。
「ふざけるのもいい加減にしろよ……! いつまでもそうやって、私たちに釘を刺せると思うな……!」
校長は顔色ひとつ変えない。
「まぁ焦るな。彼は逃げないよ。ただ、今だけ、彼は私の好きなように利用させてもらうんだ」
天に達したゲノの怒りが弾けようとしたその時、張り詰めた空間に一つの音が響く。それはノック音、そして、
「ミア・フィリントンです」
ゲノは舌打ちをした。
「ほら、ゲノ君、去りたまえ。もう君に言うことはない」
校長はゲノに邪魔だ、と手で払う素振りを見せる。
ゲノはドアに手を掛け、
「後悔しますよ」
そう言い捨てて校長室を立ち去った。
ー 同時刻 アレス ー
アレスはコスティエ街のある路地裏、老舗の飲食店が建ち並ぶ場所に来ていた。アレスは父が残した廃れた手帳と、メモだらけの地図を両手に持ち、目的の場所を探す。
着いたのは、築100年は超えるオンボロな居酒屋「Shade」。入り口の木でできた「Welcome」の文字は黒ずみ、二つほどスペルも欠けている。少しツンとくるゴミの臭いを嗅ぎながら、アレスはその開きが悪い木の扉を押した。
「おや……見ない顔だね。どうぞ、お好きな席に」
店のオーナーが、グラスの手入れをしながらアレスに話しかける。
店内には、長いカウンター席とテーブル席が四つほど。アレスの他にはカウンター席に三人、客がいるだけだった。
その三人の中でも、一番歳をとっているであろう白髪の老人が笑い出す。
「おいおいレンさん! 今頃初見さんとは運がキテるんじゃねぇか!? こりゃまた繁盛するぜ?」
「いやいや、それはないですよ」
老人の言葉に謙遜するオーナー・レン。「そこまではいかねぇか」と頬を赤く染めながら、その老人は喉に酒を流し込む。
アレスは再度手元の手帳に視線を落とし、間違いがないよう確認するとカウンター席の方に向かった。
アレスはその白髪の老人の横で立ち止まる。
「あなたが、グレン・ブラーソンさんですか」
老人は酒を飲む手をピタリと止めた。
「……なぜ俺の名を知っている?」
他の二人の客も視線をアレスに向ける。店内には、オーナーがグラスを磨く音だけが響く。
「まさか、国の回しもんか? てめぇ」
老人・グレンがアレスに揺さぶりをかける。アレスは表情ひとつ変えず、「違う」とハッキリ否定した。
だが、グレンは疑い続ける。
「……じゃあなんだ? こんな真っ昼間に、お前みたいなガキがこの店に来るなんて不自然だ。それも酒じゃなく、どうやら俺目当てときてる。おめぇ、次の言葉次第じゃあ……分かってんだろうな?」
グレンの刃物のように鋭い眼差しがアレスに向けられる。他の二人の客も、グレンの取り巻きとして身構え始めた。
アレスは口を開き、
「俺を……俺を弟子にしてください、お願いします」
そう言って、深々と頭を下げた。グレン、他二人にも予想できなかった言葉。グレンは頭を振り、もう一度聞き直す。
「おいガキ。おめぇ、人違いしてねぇか? どんな奴に頭下げてるのか分かってるのか?」
アレスは頭を上げる。
「分かってます。人違いじゃありません。元“黒豹”メンバー、グレン・ブラーソンさん。あなたに頭を下げに来ました」
アレスの目は真っ直ぐと、確かにグレンの方に向けられていた。
荘厳な雰囲気を醸し出す、重い扉を叩く音。
「入れ」
「失礼します」
校長と顔を合わせるのは、上級クラス副担任のゲノ・バレン。
「どうしました? ゲノ先生」
校長は、椅子の背もたれに深く腰をかけながら聞く。
「どうしました、じゃあありませんよ、フルージヤさん。あの翔太という男の存在、どうして教えてくれなかったのです?」
「あぁ……ハハ。成績表でも見たのかな?……いや、忘れてたよ。すまないね」
校長は、悪びれた気もなく平坦な声色で謝る。ゲノは顔をしかめた。
「他は知ってるんですか?」
「まぁ、知ってる人もいるね」
「……上には報告したんですか?」
「上? 私に上なんていたか?」
大きく両手を広げ、額にシワを作る校長。ゲノの顔は鬼の形相に変わった。
「ふざけるのもいい加減にしろよ……! いつまでもそうやって、私たちに釘を刺せると思うな……!」
校長は顔色ひとつ変えない。
「まぁ焦るな。彼は逃げないよ。ただ、今だけ、彼は私の好きなように利用させてもらうんだ」
天に達したゲノの怒りが弾けようとしたその時、張り詰めた空間に一つの音が響く。それはノック音、そして、
「ミア・フィリントンです」
ゲノは舌打ちをした。
「ほら、ゲノ君、去りたまえ。もう君に言うことはない」
校長はゲノに邪魔だ、と手で払う素振りを見せる。
ゲノはドアに手を掛け、
「後悔しますよ」
そう言い捨てて校長室を立ち去った。
ー 同時刻 アレス ー
アレスはコスティエ街のある路地裏、老舗の飲食店が建ち並ぶ場所に来ていた。アレスは父が残した廃れた手帳と、メモだらけの地図を両手に持ち、目的の場所を探す。
着いたのは、築100年は超えるオンボロな居酒屋「Shade」。入り口の木でできた「Welcome」の文字は黒ずみ、二つほどスペルも欠けている。少しツンとくるゴミの臭いを嗅ぎながら、アレスはその開きが悪い木の扉を押した。
「おや……見ない顔だね。どうぞ、お好きな席に」
店のオーナーが、グラスの手入れをしながらアレスに話しかける。
店内には、長いカウンター席とテーブル席が四つほど。アレスの他にはカウンター席に三人、客がいるだけだった。
その三人の中でも、一番歳をとっているであろう白髪の老人が笑い出す。
「おいおいレンさん! 今頃初見さんとは運がキテるんじゃねぇか!? こりゃまた繁盛するぜ?」
「いやいや、それはないですよ」
老人の言葉に謙遜するオーナー・レン。「そこまではいかねぇか」と頬を赤く染めながら、その老人は喉に酒を流し込む。
アレスは再度手元の手帳に視線を落とし、間違いがないよう確認するとカウンター席の方に向かった。
アレスはその白髪の老人の横で立ち止まる。
「あなたが、グレン・ブラーソンさんですか」
老人は酒を飲む手をピタリと止めた。
「……なぜ俺の名を知っている?」
他の二人の客も視線をアレスに向ける。店内には、オーナーがグラスを磨く音だけが響く。
「まさか、国の回しもんか? てめぇ」
老人・グレンがアレスに揺さぶりをかける。アレスは表情ひとつ変えず、「違う」とハッキリ否定した。
だが、グレンは疑い続ける。
「……じゃあなんだ? こんな真っ昼間に、お前みたいなガキがこの店に来るなんて不自然だ。それも酒じゃなく、どうやら俺目当てときてる。おめぇ、次の言葉次第じゃあ……分かってんだろうな?」
グレンの刃物のように鋭い眼差しがアレスに向けられる。他の二人の客も、グレンの取り巻きとして身構え始めた。
アレスは口を開き、
「俺を……俺を弟子にしてください、お願いします」
そう言って、深々と頭を下げた。グレン、他二人にも予想できなかった言葉。グレンは頭を振り、もう一度聞き直す。
「おいガキ。おめぇ、人違いしてねぇか? どんな奴に頭下げてるのか分かってるのか?」
アレスは頭を上げる。
「分かってます。人違いじゃありません。元“黒豹”メンバー、グレン・ブラーソンさん。あなたに頭を下げに来ました」
アレスの目は真っ直ぐと、確かにグレンの方に向けられていた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜
和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。
与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。
だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。
地道に進む予定です。
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~
日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ―
異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。
強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。
ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる!
―作品について―
完結しました。
全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる