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第1章 OMT編
第51話 責任
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ギースとグレイトは落ちてくる瓦礫の合間を縫って、翔太のもとへ駆けつけた。ギースが脈をはかって翔太の生存を確認する。二人は翔太の身体を担ぎ、急いで治療室へと向かった。
「…………ぅあ」
数十分して、翔太は白いベッドの上で目が覚める。横になった翔太の隣にはギースが腰を掛けていた。
「翔太くん、まだ安静にしてなきゃだめだ。傷が治り切っていない」
ギースは、翔太の身体から漏れ出すマナを抑えては、治療室にある回復剤を垂らして包帯で傷口を巻いていく。翔太の元いた世界とは違って、この世界ではマナさえ活力を取り戻せば、そのマナによって傷が治されていく。ギースのはまだ荒治療であったが、翔太の身体は順調に回復していた。
「それにしても、回復する速さが尋常じゃないな……」
ギースがぽつりと言う。治療室の窓際に背を預けていたグレイトが反応した。
「おそらく、マナの全容量が多いからであろう。人間の本能とでも言うべきか、本当に命の危険が迫った時のために、私たちは常に身体の底にマナをわずかに残している。それが今、傷の回復にあてがわれてるのだろう」
ギースは大きく頷き、
「そうだな……。それともう一つ、マナの多さに助けられたのは、ロボットの生成システムに関してだ。あのロボットは対象の基礎能力の値を完全にコピーする。だから、翔太のマナ全容量の多さを再現するために大量のマナを消費していた。僕たちが部屋に入ったとき、施設のマナの在庫が切れて、ロボットが活動限界を迎えてくれたのが幸いだった……」
翔太の患部に手を当てながらギースは、椅子の上で体育座りをするミアを一瞥した。ミアの目は下に向き、心がどこかに飛んでいるようだった。
ギースはミアから目を背けながら、責めるようなトーンで話しかける。
「ミア。あの部屋の危険さが分かっただろ。翔太がこんな状態になったんだ。お前は点検でしかここを訪れてないようだけど、僕は充分、こうなることを想定してた」
「私だって、危険なのは分かってた」
と、ミアは顔を膝の間にうずめる。
「ならなおさらだ。AIの学習速度を舐めちゃいけない。ここに来て数日しか経ってない翔太には早すぎただろ?」
翔太がゆっくりと上体を起こす。
「翔太くん!? まだ……!」
「ミアは悪くない……。ロボットの槍で貫かれてもまだ続けるって言った俺が悪いんだ」
ミアが少しだけ顔を上げるが、また深く顔を胸にしまって両足を抱え込んだ。
この世界に無知な人間が責任を被ろうとしていることに、ギースは後悔の念を覚えた。今覚えば、自分だけがあの部屋の脅威を知っていたのだから、無理にでもミアの提案を止めていればよかった。だがあの時はギースの中に、翔太がどの程度まで通用するかを見てみたいという、薄汚い欲が居座っていた。
重くなる場の雰囲気にグレイトが切り込む。
「誰が悪いのなんのを言う前に、あの機械の故障が大元だろう? あれさえ無ければこんな大事には至らなかった」
グレイトの言及にミアが続ける。
「前に点検したときは……あんな不具合無かった」
「じゃあ、あれは一体何なんだ?」
ギースの質問に答えられる者はいない。皆、まるで心当たりがない様子だった。
「私、先生に報告してくる」
他三人の返事を待たずに、ミアは駆け足で治療室を抜け出す。治療室が静寂と化した。
グレイトも、窓際から離れ翔太のベッドに腰を掛ける。
「機械の件は学校に任せよう。……それにしても、翔太殿。先は一体どうやってロボットの攻撃を凌いだのだ? ギース殿によれば、避けられる数の槍ではなかったそうじゃないか」
グレイトに加えギースも、聞きたかったと言わんばかりに翔太に視線を向ける。翔太は体に負荷をかけないように話した。
「マナから波紋が出るってのを聞いて、突破口を必死に考えてたんだ。……思い付いたのは、巨大な槍を上に撃ち上げて、その槍の周りに波紋を出す作戦だった。それをしたら、俺を狙ってた槍たちが一編に、その大きな槍の波紋に吸い込まれていったんだ……」
ギースとグレイトは顔を見合わせる。二人とも、部屋に入った際の翔太の立ち方に納得がいった。
「翔太くん……すごいよ、君は」
「ありがとう」と翔太は照れ笑いをした。
彼らが治療室にいた時間は約一時間ほど。案外、翔太が歩けるようになるまでそう時間はかからなかった。
「明日から5日間、先生の直接的な指導が入ってくる。この施設も頻繁に使うことになるだろう。……怪我だけは負わないように……」
翔太はそのギースの言葉を肝に銘じた。せっかく出場メンバーに選ばれたのに、当日出られないとなるのは決まりが悪い。他の人をさしおいて手に入れたチャンスを、溝に捨てはしまいと心に刻んだ。
修行場を後にする前、翔太はグレイトを呼び止める。
「グレイト、ちょっと話いいか?」
「……む?」
「ギースから聞いたんだ。選抜試験の時、グレイトが俺の魔法を封じる策を考えていた、って。……その事について教えて欲しい」
「……翔太殿。魔法は出せるか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「なら、バトルスペースで話そう。……実演する」
「…………ぅあ」
数十分して、翔太は白いベッドの上で目が覚める。横になった翔太の隣にはギースが腰を掛けていた。
「翔太くん、まだ安静にしてなきゃだめだ。傷が治り切っていない」
ギースは、翔太の身体から漏れ出すマナを抑えては、治療室にある回復剤を垂らして包帯で傷口を巻いていく。翔太の元いた世界とは違って、この世界ではマナさえ活力を取り戻せば、そのマナによって傷が治されていく。ギースのはまだ荒治療であったが、翔太の身体は順調に回復していた。
「それにしても、回復する速さが尋常じゃないな……」
ギースがぽつりと言う。治療室の窓際に背を預けていたグレイトが反応した。
「おそらく、マナの全容量が多いからであろう。人間の本能とでも言うべきか、本当に命の危険が迫った時のために、私たちは常に身体の底にマナをわずかに残している。それが今、傷の回復にあてがわれてるのだろう」
ギースは大きく頷き、
「そうだな……。それともう一つ、マナの多さに助けられたのは、ロボットの生成システムに関してだ。あのロボットは対象の基礎能力の値を完全にコピーする。だから、翔太のマナ全容量の多さを再現するために大量のマナを消費していた。僕たちが部屋に入ったとき、施設のマナの在庫が切れて、ロボットが活動限界を迎えてくれたのが幸いだった……」
翔太の患部に手を当てながらギースは、椅子の上で体育座りをするミアを一瞥した。ミアの目は下に向き、心がどこかに飛んでいるようだった。
ギースはミアから目を背けながら、責めるようなトーンで話しかける。
「ミア。あの部屋の危険さが分かっただろ。翔太がこんな状態になったんだ。お前は点検でしかここを訪れてないようだけど、僕は充分、こうなることを想定してた」
「私だって、危険なのは分かってた」
と、ミアは顔を膝の間にうずめる。
「ならなおさらだ。AIの学習速度を舐めちゃいけない。ここに来て数日しか経ってない翔太には早すぎただろ?」
翔太がゆっくりと上体を起こす。
「翔太くん!? まだ……!」
「ミアは悪くない……。ロボットの槍で貫かれてもまだ続けるって言った俺が悪いんだ」
ミアが少しだけ顔を上げるが、また深く顔を胸にしまって両足を抱え込んだ。
この世界に無知な人間が責任を被ろうとしていることに、ギースは後悔の念を覚えた。今覚えば、自分だけがあの部屋の脅威を知っていたのだから、無理にでもミアの提案を止めていればよかった。だがあの時はギースの中に、翔太がどの程度まで通用するかを見てみたいという、薄汚い欲が居座っていた。
重くなる場の雰囲気にグレイトが切り込む。
「誰が悪いのなんのを言う前に、あの機械の故障が大元だろう? あれさえ無ければこんな大事には至らなかった」
グレイトの言及にミアが続ける。
「前に点検したときは……あんな不具合無かった」
「じゃあ、あれは一体何なんだ?」
ギースの質問に答えられる者はいない。皆、まるで心当たりがない様子だった。
「私、先生に報告してくる」
他三人の返事を待たずに、ミアは駆け足で治療室を抜け出す。治療室が静寂と化した。
グレイトも、窓際から離れ翔太のベッドに腰を掛ける。
「機械の件は学校に任せよう。……それにしても、翔太殿。先は一体どうやってロボットの攻撃を凌いだのだ? ギース殿によれば、避けられる数の槍ではなかったそうじゃないか」
グレイトに加えギースも、聞きたかったと言わんばかりに翔太に視線を向ける。翔太は体に負荷をかけないように話した。
「マナから波紋が出るってのを聞いて、突破口を必死に考えてたんだ。……思い付いたのは、巨大な槍を上に撃ち上げて、その槍の周りに波紋を出す作戦だった。それをしたら、俺を狙ってた槍たちが一編に、その大きな槍の波紋に吸い込まれていったんだ……」
ギースとグレイトは顔を見合わせる。二人とも、部屋に入った際の翔太の立ち方に納得がいった。
「翔太くん……すごいよ、君は」
「ありがとう」と翔太は照れ笑いをした。
彼らが治療室にいた時間は約一時間ほど。案外、翔太が歩けるようになるまでそう時間はかからなかった。
「明日から5日間、先生の直接的な指導が入ってくる。この施設も頻繁に使うことになるだろう。……怪我だけは負わないように……」
翔太はそのギースの言葉を肝に銘じた。せっかく出場メンバーに選ばれたのに、当日出られないとなるのは決まりが悪い。他の人をさしおいて手に入れたチャンスを、溝に捨てはしまいと心に刻んだ。
修行場を後にする前、翔太はグレイトを呼び止める。
「グレイト、ちょっと話いいか?」
「……む?」
「ギースから聞いたんだ。選抜試験の時、グレイトが俺の魔法を封じる策を考えていた、って。……その事について教えて欲しい」
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「あぁ、大丈夫だ」
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