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2章3部フィナールの街編

66話 結婚式

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結婚式の当日、タケルはフィナール伯爵の屋敷で着替え後アルセリオと話していると、フィナール伯爵がやって来て客を連れて来たと言いシーリバとフェレーロが部屋に入って来て懐かしい二人と再会を喜び抱き合った。その後先に出発したタケルは教会で女神像に結婚の誓いを立てていると女神の神域に移動していた。底で自分が亜神になっている事を知り驚くが、教会に戻った時にはその記憶は無くなっていた。その後女神像に結婚の誓いを立てたタケルは教会を後にし、学校に特設された祭壇へと向かって行った。

「タケル君、後は祭壇で誓いを立てた後はパレードと宴会なんだ。ここからが本番だから頑張ってね。」

「ええ、大丈夫ですよ。」

「でもタケルは今日初めて酒を飲むんだろ?大丈夫か?」

「多分。大丈夫だと思うよ。まあ飲み過ぎないようにするよ。」

タケルはこの世界の成人、15歳になるまでお酒を飲まないと決めていた。そして成人して数日で結婚式という事になったのでまだ酒を飲んでいなかったのである。前世では結構飲んだ酒であったが、この世界に来て新しい体になってからは一切飲んでいないのでどうなるかは判らなかったが、感覚は覚えているので飲み過ぎないようにする事は出来ると思っていた。

「どうだろうね、なんせ今日の主役だからね、みんながお祝いにお酒を注ぎに来るんじゃないかな。」

(そこは日本みたいだな。何か地球の色んな文化が混ざってるよな。)

「そうですね、最悪の場合魔法で何とかしますよ。」

「ええ?!ズルいぞ!今日はタケルの酔った所が見られると思ったのに!」

アルセリオは普段冷静なタケルの酔って乱れた所を見てみたいと思っており、タケルが魔法で何とかすると言ったのを聞いて悔しがっていた。

「いやいや、主役が潰れちゃったら大変でしょ?」

「そうだけど・・・折角タケルの酔った所を見られると思ったのにな。」

アルセリオはそう言うとガックリと片を落として残念がっていた。

「アル・・・力の持って行き場所が違うよ・・・」

「あっはっはっはっ。アルセリオ君、主役が潰れてしまっては盛り上がりに欠けてしまうからね、我慢してもらうしか無いね。」

「はあ~。」

アルセリオはフィナール伯爵にそう言われると、諦めてため息をついていた。

(アル・・・どんだけだったんだよ。)

アルセリオが落ち込みから復活した頃、馬車が学校に到着し停車した。馬車は学校の校庭に特設された祭壇の裏手に停車しており、そこから直接祭壇の前に行けるようになっていた。

「タケル君、儀礼用の剣をアルセリオ君に。」

馬車を降りようとするタケルにフィナール伯爵がそう声を掛けた。本来貴族でも騎士でも無いタケルの結婚式には儀礼用の剣は必要無いが、規模が大きい為に女神に捧げる剣として儀礼用の剣を用意することになったのだ。

「あ、そうでしたね。」

タケルはアイテムボックスから儀礼用の剣を取り出してアルセリオに手渡した。タケルがアルセリオに手渡した儀礼用の剣はタケルが自ら作った剣で、地球のスコットランドで使われていたクレイモアと呼ばれる剣に似ており、鍔の部分が長く持ち方によっては十字架のようにも見える形をしていた。そして全体に彫金が施されており、宝石のように輝く魔石が随所にちりばめられてるとても美しい剣であった。

「おお、これは素晴らしい剣だね。これなら女神様もお喜びになるだろうね。」

この地方では結婚の時に剣を女神に捧げ、宴会が終わるまで飾っておく風習が有った。そしてその剣が女神に気に入られ、式の最中に光輝くとその家は繁栄すると言われているのである。といってもそれが出来るのは貴族位のものであった。

「本当に凄いな。タケル、俺の時も剣を作ってくれよ。」

「ああ、勿論。でもその前に相手を見付けなくちゃな。」

「あ、相手くらいすぐに見つかるさ!そして俺だってすぐに結婚してやる!」

イタズラっぽい目をしてそう言うタケルに対し、アルセリオは悔しそうにそう言って強がっていた。

「はっはっはっ。君達は本当に仲が良いね。アルセリオ君、君ならすぐに良い人が見つかるさ、何せこの街でタケル君の次に実力の有るAランク冒険者だからね、君を狙っているも多いんだよ。」

アルセリオはタケルに追い付こうと必死に依頼受けレベルを上げて行き、タケル程ではないがフィデルをも抜いて街ではトップクラスの冒険者となっていたのである。

「ええ?そうなんですか?ちっとも気付かなかったな。」

「そりゃ依頼を受けて狩りにばかり行ってたら気付かないよね。」

アルセリオが自分が人気が有る事を気付いていないと言うと、タケルがそう言って突っ込んでい笑っていた。

「ははは。やっぱり仲が良いね。さっ、そろそろ行こうか。」

フィナール伯爵はそう言って二人の背中をポンと叩き祭壇の前に行く準備をするように促した。

「はい。」

タケルとアルセリオは同時に返事をすると、おちゃらけた感じが消えて男の顔になり、背筋をピンと伸ばし身なりを整えた。

「準備が整ったようで御座いますね。それでは式を開始致して宜しいでしょうか?」

バルタサールが祭壇の脇から現れてそう声を掛けて来た。タケル達は黙って頷いて返事をすると、バルタサールは静かに頭を下げて祭壇の向こうへ歩いて行った。すると祭壇の前方から演奏が聞こえて来て、フィナール伯爵がタケルとアルセリオに声を掛けて来た。

「さ、合図だ。」

タケルはフィナール伯爵の言葉に頷くと、祭壇へと続く階段を登り始めた。一歩、また一歩とゆっくりと登って行くと、アルセリオが儀礼用の剣を胸の前で水平に持ち、同じように階段を登って来ていた。そして階段を登り、タケルの姿が見えると会場中から拍手が沸き上がった。タケルは女神像の前で立ち止まると、参列者達に向かい頭を下げ、そして祭壇の反対側に視線を移した。そこで曲が変わり、どこか華やかでそれでいて優しい感じのする曲が演奏されると、参列者達もアルミスが登って来るであろう階段に視線を移した。

(いよいよだな。きっと凄いキレイなんだろうな、アルミス。)

タケルがアルミスの花嫁姿を想像していると、会場中から先程よりも大きい拍手が沸き上がった。 タケルと同様ゆっくりと階段を上がり、少し下を向いたアルミスの顔が見えた。

(うっ!アルミス・・・・綺麗だ・・・)

アルミスが一歩、また一歩と進み姿を現して来る度に拍手がドンドン小さくなっていった。徐々に姿を現すアルミスを見て参列者達はその姿に見とれてしまっていたのである。アルミスはタケルが作ったウェディングドレスを着ており、そのウェディングドレスはタケルが前世で見た一番美しいと思った物を再現し、更に改良を加えた特別な物であった。頭にはティアラが付いており、獣人としての特徴である耳をより際立たせるように飾りつけがしてあり、キラキラと光っていた。顔にはレースのヴェールが掛かっており、透けて見えるアルミスの顔が神秘的に感じさせていた。ドレスは肩が出るタイプで色は真珠のような色彩で、アルミスの獣人としのもう1つの特徴である白い体毛も同じように光り輝いていた。ドレスの裾は長く引きずるような感じになっており、介添人であるルシアナが裾を持っていた。そしてアルミスは白い手袋をしており、手の甲から肘にかけて白く美しいチェーンのような装飾品で飾られていて、アルミスが歩く度にユラユラと揺れてキラキラと光り輝やいていた。アルミスは階段を上がりきり、女神の前にくるとタケルに向かいお姫様のようにスカートを摘まみ上げて頭を下げると、続いて参列者の方に向かって頭を下げた。すると参列者達は我に返ったのか、再び盛大な拍手が会場中から沸き上がった。

「それでは、タケル サワムラ、アルミス ボナエストの結婚の義を執り行う。それでは新郎介添人、剣を。」

フィナール伯爵が魔石を使い会場中に聞こえるようにそう話始めると、会場中が驚いていた。本来であればフィナール伯爵は主賓として参列するものだが、フィナール伯爵が司会と立会人を兼務して話を始めたからである。しかしそれにより、タケルの結婚式は街にとってそれだけ重要な事であると参列者に改めて認識させるには十分過ぎる効果が有った。そしてそう認識した参列者達は、そのような結婚式に参列出来た事に喜び目を輝かせていた。
 
フィナール伯爵に言われ、タケルの介添人であるアルセリオは腕を胸の前で真っ直ぐに伸ばして歩き始め、タケルとアルミスの前で立ち止まった。

「新婦介添人前へ。」

フィナール伯爵が続いてそう言うと、もう一人の介添人であるクシーナがアルセリオと同じくタケルとアルミスの前に行き立ち止まると、手を前に出して何かを持つような仕草をたまま止めた。するとアルセリオが剣を持ち変えて剣の鞘をアルバの手に乗せた。アルバは鞘が乗せられると鞘を握り締め、アルセリオが両手で柄を持って剣を引き抜き頭上にかかげた。アルバは腕を前に出したまま鞘を水平に持ち、回れ右をするように後ろを向くと、歩き始めてアルミスの前に行き、鞘を手渡した。そしてアルセリオは頭上に掲げた剣を胸までさげると、剣先を回して下にしてタケルの前に歩いて行きタケルに剣を手渡した。

「剣は夫となる新郎タケル。鞘は妻となる新婦アルミス。剣は戦いの後は鞘に収まる物である。そして剣は鞘が無いと持ち歩けない、鞘も剣が無いと使い道が無い、剣と鞘両方が揃って初めて1つなのである。今後は剣が鞘に収まるように夫は家に帰り、鞘が剣を収めるように妻は夫を迎え、家庭は円満になる。そして家庭円満、家の繁栄を願い、二人で協力して剣を納め女神に剣を捧げて貰う。」

フィナール伯爵が声高にそう言うと、アルミスは鞘をタケルに向けて持ち、タケルは片手を刀身に添えて鞘に向けてスライドさせていった。そしてふたりで剣を鞘に納めると、二人で剣を持ち女神像の前に有る台に剣を起き女神に捧げた。

「剣は鞘に納まり女神に捧げられた!この瞬間、女神フレイアと立会人アルフレード・フォン・バルトリニエリ・フィナールの名の元に二人を夫婦と認める!」

フィナール伯爵がそう言うと、参列者達から盛大な拍手と歓声が上がった。

「では、夫婦となった二人に誓いの口付けを行って貰う。」

フィナール伯爵がそう言うと、参列している女性陣から黄色い歓声が上がった。

「アルミス・・・」

タケルがそう言うと、アルミスはタケルに一歩歩み寄った。そしてタケルは両手でそっとヴェールを捲ると、そのままそっとアルミスの肩に手を置いた。

「少し恥ずかしいね。」

タケルがそう言うと、アルミスがハニカミながらタケルの目を見て口を開いた。

「私は嬉しいです。」

「そっか。」

タケルがそう言うとアルミスはそっと目を閉じた。タケルは顔を近付けていきアルミスの唇と唇を重ねて口付けを交わした。すると、参列者が拍手と歓声を送ろうとしたとき、女神に捧げた剣が光り輝き始めた。その光りはとても強くて明るく、しかしとても心地良い気持ちになる光であった。

「こ、こんなに光るとは!こんなに光ったのは初めて見たぞ!」

どこからかそう声が聞こえたかと思うと、光がまるで霧が漂うかのように動き1ヶ所に集まり始めた。そして光は人の形のようになっていき、再び強く光り耀いたかと思うと瞬時に周囲の空気が変わったのがその場の全員が気付いた。

「タケルさん、剣聖アルミス、結婚おめでとうございます。二人の結婚を祝うために来ましたよ。」

参列者の皆が空気が変わったのに気付いたと同時に女神フレイアが姿を現し、そう言って微笑んでいた。

「あれは女神様!」

「あああ・・・女神様!」

女神の存在に気付いた参列者達は、女神が現れた事に驚き、そしてその姿を目にする事が出来歓喜すると、次々に跪いていった。

「皆さん、驚かせてしまいましたね。今日はこの街の発展に尽力したタケルさん、そして剣聖アルミスの結婚に当たり、祝福を授ける為にやって参りました。」

女神がそう言うと、参列者からどよめきが起こった。参列者の中でタケルが女神の使徒だと知っているのはごく一部の者だけである為、個人の結婚を祝福する為に女神が顕現したというのは今までに誰も聞いた事が無かったからである。

「おお。流石タケルさんだ、確かに女神に祝福されてもおかしくない程この街に貢献してるもんな。」

誰かがそう言うと次々に参列者から同じように声が上がり、そして会場中から大歓声が沸き起こった。

「まさか女神様が祝福に訪れるなんて、タケルさんはやっぱり使徒なのかも知れないわね。」

祭壇を見つめ、拍手をしながらマチルダがそう呟いていた。他にも直接関わった事が有る何人かは同じ事を思っていたが、敢えて口には出さず黙って拍手を送っていた。
 参列者が拍手と歓声を送っていると、女神の体が光り始め宙に浮いたかと思うとまるでホログラムのような見た目になり、上空にその姿が大きくなり現れた。その姿は街のどこからでも見ることが出来、人びとは歓喜の声を上げ跪いて女神を見上げていた。

「フィナールの街の民よ、本日結婚するタケルの功績によりこの街は世界に誇れる素晴らしい街となりました。しかしこれに慢心する事無く、これからもより良い街作りに励みなさい。フィナールの街に幸あらん事を。」

女神の声は街中の人に聞こえたが大きな声ではなく、人々の頭に直接話し掛けている感じで念話とも違った感覚でとても不思議でそして心地よい声であった。
 女神がそう言うと女神の体が光り輝き、空一面がキラキラと綺麗な光に覆われたかと思うと、女神の姿は消えていた。そして人々は女神が帰って行ったと思い、立ち上がると先程までの光景を思い出して余韻に浸っていた。
その後式場ではフィナール伯爵が女神が顕現した事を記念して街の記念日とすると発表していた。そして女神が現れた興奮が冷めやらぬうちに結婚式の終了が告げられ、そのままパレードとなりタケルとアルミスは馬車に乗り込んだ。そしてアルセリオとルシアナ達も介添人としてもう一台の馬車に乗り一緒に街を回った。タケルとアルミスの乗った馬車が通ると人々は通りに並んで拍手と歓声を送った。

『タケル!アルミスさんも、じっとしてないで手を振り返してやれよ。』

パレードに使っている馬車は式場に向かう時に使った馬車と違い、オープンタイプでこの日の為にオットーとテオドルが作り上げた物で、アルミスのドレスのように美しい真珠のような輝きを放ち金色の縁取りがしてあり、アルミスのドレスの美しさを際ただせていた。そんな馬車に乗っているタケルとアルミスは少し恥ずかしくてただ座っているだけだったのでアルセリオが声を念話で話掛けて来たのであった。

「アルミス、みんな祝ってくれてるし、お礼の意味を込めて手を降ろうか。」

「はい。そうですね、タケル様。」

タケルがアルミスにそう言うと、アルミスは立ちあがり、満面の笑みを浮かべて両手で手を大きく降り始めた。

「あっ!アルミス!」

立ち上がって大きく手を振った事で胸元までしかないドレスがズレてもう少しでこぼれ落ちる寸前であった。さらにアルミスが大きく手を振っているせいで大きな胸が揺れて更に危ない状態になり、タケルは慌ててアルミスを座らせ軽く手だけを振るように言い、タケルも人々に手を振り始めた。




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