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2章3部フィナールの街編

58話 消しゴム完成

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消ゴムの材料を探しに静寂の谷に来ていたタケル。そこで新種の魔物に遭遇すると、力試しにフォルティス達が戦う事になり、危なげ無く勝つ事が出来たがタケルは同時に何匹も相手にしており、フォルティス達は少し拗ねてしまった。ミケーレが宥めると、アルミスが避難させていた商人が戻って来て紙を見せると製紙工場を見てみたいという事になり、一旦全員で工場に戻るとロランドに工場を見せると紙を売ってくれと言われた。そして消しゴムと鉛筆を使ってもらうとその使いやすさに驚いていた。そしてロランドのミスで消しゴムに死んだスライムが掛かってしまったが、消しゴムの表面が変化してタケルの望む消し心地になっていたのだ。


 タケルはようやく理想の消し心地になった消しゴムをロランドの目の前に付き出すと、興奮しながらロランドに話し掛けた。

「やっと見つけた!ロランドさん。お陰で理想の消しゴムが作れそうです!さっきのはスライムでしたよね?まだ有りますか?」

「ん?ああ。スライムならさっきの他に幾つか有るが、消しゴムはあれで完成じゃ無かったのかい?」

そう言ってロランドはバッグから容器を幾つか取り出して並べた。 

「全部スライムですか?」

「ああ。えっとコレがノーマルのスライム、さっきのやつだね。そしてコレがグリーンスライム、ブルースライム、レッドスライム、イエロースライム、そしてコレがブラックスライム、匂いがキツいから気を付けて。」

ロランドがそう言って容器の蓋を開けた。すると最初にアルミスが鼻を摘まんで苦しそうな顔をしたかと思うと強烈な匂いがタケルの鼻を刺激した。

「うがっ!ゴホッゴホッ!何ですかこの臭いは、何かアンモニアと石油を混ぜたような臭いが凄いですね。」

「ブラックスライムはこの臭いで身を守るんだ、うっかり服に付いたら暫く匂いが取れないから気を付けて。誰も見向きもしないから何かに使えないかと思ってね。」

「おい、早く蓋をしてくれ!鼻が曲がりそうだ!」

フォルティスが臭いに耐えかねてそう言うと、ロランドが容器の蓋を閉じたが、その場に臭いが立ち込めており、状況は変わらなかった。

「うう。く、クリーン!」

タケルは臭いに耐えかねて工場内の空気をクリーンでキレイにした。

「お?臭いが消えたぞ!クリーンは臭いにも有効だったんだね。」

タケルは臭いに対して初めてクリーンを使用したのであった。通常汚れや汚物等をキレイにするクリーンで有るが、臭いそのものに使った事は無く効くかどうか判らなかったが、思わず使ったクリーンが思いの外効果を発揮したのであった。

「良かった。臭いで死ぬかと思った。」

「ロランド、そんな物が一体何の役に立つっていうんだ!」

フォルティスが少し怒った様子でロランドに問い掛けていた。

「それをこれから調べるんじゃ無いか!誰も見向きもせずに放っておかれていたんだ、だから何も判らないんだ。けどもしかしたら凄い効果や利用価値が有るかも知れないじゃないか!」

ロランドは商人として独立する為に誰も手を付けていないスライム、特にブラックスライムに期待をしていたのである。

「ロランドさん。取り敢えず全部試してみても良いですか?」

タケルはロランドの話を頷きながら聞いていたかと思うと、ブラックスライムの入ったビンを持ってそう尋ねた。

「ああ、構わないがその代わり試作品で良いから消しゴムを譲ってくれないか?」

「あ、良いですよ。大量に作ったんで処分に困ってたんですよ。」

タケルはそう言うとアイテムボックスから消しゴムの試作品を取り出してテーブルの上に乗せた。

「こんなに沢山!良いのかい?」

「ええ、構いませんよ。どうせ処分に困ってた物ですから。」

タケルはそう言うとゴムの草の液が入った容器を幾つか並べると、スライムを加えて混ぜ始めた。ノーマルのスライムから始め、少しずつ量を変えて全種類のスライムで作ってみた。【効果促進】の魔法を使いすぐに結果を確認してみると、最適な量が判明した。そして驚いた事にどのスライムもある一定の量を加えると、それぞれ違う効果が現れたのである。
ノーマルスライムはやはり消しゴムとして。
グリーンスライムはスポンジのようになり、
レッドスライムは衝撃吸収素材のような素材、
ブルースライムはプラスチックに良く似た物に、イエロースライムは良く伸びてゴムとしての特性が強くなった。そしてブラックスライムはゴムの草の液と混ぜると不思議と臭いは消えて硬質なゴムに変化した。

(こりゃあ・・・かなりヤバイもん開発しちゃづたな・・・・衝撃吸収とかプラスチック擬きとか科学の進化を一気に飛び越してるよ・・・)

「成る程。やはりノーマルが一番消しゴムに近くなるのか。他は使い物にならなそうだな。」

出来上がった物を見てロランドがそう言って容器から取り出したそれぞれの物を見ていた。タケルは今開発出来てしまった物がこの世界にどんな変化をもたらすか、想像も付かない程に凄い事をしてしまったと思ったが、ロランド達は出来上がった物を見てもその効果や価値に気付いていなかった。そこで消しゴムだけ成功という事にして他は失敗作としてすぐにアイテムボックスに仕舞ってしまった。

「よし。消しゴムも完成したし。教科書を作って取り敢えず物作りはひとまず終了かな。」

タケルは敢えて消ゴムの完成を強調して他の物に意識が行かないようにしていた。

「教科書?君が書写でもするのかい?」

「いえ、印刷機を作ったんですよ。」

「インサツキ?」

ロランドは印刷機の意味が分からず、首を傾げていた。

「分からないですよね、実際に見てみますか。こっちへどうぞ。」

タケルはそう言って製紙工場内にある印刷機の所にロランドを案内した。

「コレが印刷機です。実際に使って見せますね。この小さい文字が浮き出た棒をこうやって並べていきます。そして文章が出来上がったら・・・ひっくり返してっと。あとはインクが塗られて印刷されるんです。」
 
ロランドは驚きながらも興奮した様子で印刷される様子を見つめていた。

「おお!凄い、紙が次々と!ん?」

ロランドは印刷された紙を一枚取り出し、紙を裏返して驚いた。

「おお!文字が書き込まれている!まさか・・・こっちも、これも!これも!凄い!全て同じ文字が書き込まれている!なんて大発明なんだ!」

ロランドは他の印刷された紙を見て驚いていた。

「タケル君!この印刷機を使わしてくれないだろうか!コレが有れば本を大量に作る事が出来る!今は高価で手が出ない本も、庶民にも行き渡らせる事が出来るんだ!」

ロランド印刷機を使わして欲しいと言って頭を下げて来た。そしてその理由を熱く語っていた。

「ロランドさん。頭を上げて下さい。俺は学校の教材の事しか考えてませんでした。けど庶民にも本を行き渡らせるというその発想に感銘を受けました。」

タケルはそう言ってロランドの手を取り握りしめた。

「おお、では印刷機を貸してくれるのか?」

「いえ、そうではありません。」

「え?」

ロランドはタケルの言葉に戸惑っていた。たった今自分のことば

「ロランドさん。いっその事、印刷所と製本所を作ってしまいましょう。」

「え、それって。」

「ええ、貸すのではなくて、お譲りしますよ。」

「ほ、本当か?本当に良いのか?」

「ええ、けど勿論タダではありませんよ。」

「ああ、勿論だ。相応の金額は払うつもりだ。」

「いえ、お金は要りません。その代わり約束をして欲しいんです。」

ロランドはお金は要らないと言われ驚いたが、タケルの約束をして欲しいという言葉にどんな約束をしなければいけないのかと身構えた。

「約束とはいったい・・・」

「まず。印刷所で使う機械は無償でお譲りします。そして印刷所で働く従業員ですが、学校の卒業生を使って下さい。勿論給料は正当な金額を払って貰います。次に印刷所で使う紙と鉛筆はこの工場から買って下さい。インクも同様です。どうですか?約束というよりも契約ですかね。」

「えっ、それだけで構わないのか?」

ロランドはどんな不利な約束をさせられるかと思っていたが、至って全うな取引であった為に拍子抜けした感じでタケルに答えた。

「ええ、学校は営利目的で始める訳じゃないですからね。学校が運営出来るだけの資金が確保出来れば良いんですよ。」

「そうか、しかしこれだけの発明だ、大金持ちになる事だって可能だぞ。」

ロランドがそう言うと、フォルティスが笑いながらロランドに話し掛けた。

「ロランド、お前はタケル君を何だと思ってるんだ?彼はランクこそAランクだがその実力は更に上の超一流の冒険者だぞ。金なんて腐る程持ってるさ。」

フォルティスの言葉にロランドは驚いてタケルの方を見ていた。

「な、腐る程・・・いや、確かにそうか。高ランクの魔物を大量に狩ってるんだ。討伐報酬だけでもかなりのものの筈だからな。」

ロランドは街を潤している魔物の流通がタケル達が狩った魔物だという事を思い出し、1人頷きながら納得していた。

「そうだよな、タケル君。結構稼いだんじゃないか?」

フォルティスが少しヤラシイ笑みを浮かべ聞いて来た。

「え?まあ、確かにそこそこ持ってますが、大金持ちでは無いですよ。」

「え?そうなのか?なあ、因みにどれくらい持ってるんだ?教えてくれよ。」

フォルティスがそう言いながら耳に手を当てて近付いてきた。

「もう!やめなさいよ!」

ソレーラがフォルティスの耳を摘まんでタケルから引き離した。

「イデ、イテテテテッ!悪かったって。」

「まったく!すぐに調子に乗るんだから!」

フォルティスはソレーラに頭が上がらないのか、耳を引っ張られたままずっとソレーラに謝っていた。

「はいはい。そこ、いつまでもイチャつかない。ロランドさんとタケル君の話が進まないだろ。」

ミケーレがコントの一場面を演じてるような二人に手をパンパンと叩きながらそう声を掛けた。

「アハハ。仲が良いですね。所でロランドさん。契約の件ですが、学校はまだ開校してないんです。正式に契約を交わすのは少し待って貰えますか?」

「ああ、勿論だ。多少時間が掛かっても構わない。私も工場を作らないといけないしな。工場を作るとなるとお金も時間も掛かるからな、私もその方が都合が良い。」

「あ、ロランドさん。工場建設はちょっと待って下さい。俺に考えが有ります。」

「どういう事だ?早く工事を始めないと間に合わなくなるぞ?」

「大丈夫です。理由は言えませんが待ってて下さい。」

「そうか、君がそう言うなら待とう、しかし必ず間に合うように頼むよ。」

「ええ。任せて下さい。それじゃあ俺はフィナール伯爵の所に報告に行きたいので、そろそろ良いですかね?」

「なっ!タケル君は伯爵とも面識が有るのか!」

「ええ。あっそうだ。良かったらロランドさんも一緒に行きますか?」

「えっ、私も一緒に・・・良いのか?」

ロランドはフィナール伯爵の元へ一緒に行くかと聞かれ驚いていたが、本音は行きたそうでソワソワしていた。

「ええ、今後の事を話すのに丁度良いですからね。フォルティスさん達はどうします?」

「いや、俺達は帰るよ。ロランド、頑張れよ!じゃあな。」

フォルティス達は堅苦しいのが嫌なのか、そう言って逃げるように工場から出て行ってしまった。

「じゃあ行きますか。」

「え?今から?こんな格好で伯爵に会いに行くなんて・・・」

ロランドは両手を広げてタケルにそう良いながら自分の服を見ていた。ロランドの服はそこそこ上等な物であるが、新しい商材を探しに行っていた為に、旅人のような格好であった。

「大丈夫ですよ、俺もアルミスもこのままですし。」

タケルの格好は女神の服の上に軽くコートのような物を羽織っただけで、アルミスは肌の露出が多い装備の上に外套を羽織っただけであった。

「じゃあ行きますよ。」

タケルは未だに服装を気にして心の準備が出来てないロランドと一緒に、転移で伯爵の屋敷の近くに転移した。

「さ、行きますよ。」

フィナール伯爵の屋敷がすぐ近くに見えて諦めたのか、ロランドは少し肩を落として歩き始めた。いつものように門番は顔パスで、屋敷の玄関に着くと執事のバルタサールが出迎えた。

「タケル様、ようこそ。旦那様は丁度執務も終わった所で御座います。こちらへ。」

バルタサールはそう言うとタケル達をフィナール伯爵が寛いでいるリビングに案内した。

「旦那様、タケル様とそのお連れ様がお見えです。」

バルタサールが扉をそう言ってノックすると、フィナール伯爵が扉を開けて笑顔で出迎えた。

「おお、タケル君。良く来たね、今日はどうし・・・そちの御仁はどなたかな?」

フィナール伯爵はタケルの連れがタケルのパーティーメンバーかと思いいつものようにフレンドリーに話し掛けたが、ロランドに気付くと慌てて伯爵らしい口調に戻していた。

「こんにちは、伯爵。学校と学校で使う備品の目処が付いたので報告に来ました。こちらは商人のロランドさんです。」

「おお、そうか。では話を聞こう、入ってくれたまえ。」

フィナール伯爵はそう言ってタケル達をリビングに招き入れ、バルタサールにお茶を用意するように言い付けると、ソファーに座りタケル達にも座るように言った。

「フィナール伯爵。は、始めまして。し、商人をしておりますロランドと申します。ほ、本日はお会い出来てこ、光栄で御座います。」

「うむ、そう緊張せんでも良い。まず座ってくれたまえ。」

「は、はい。」

「早速ですが伯爵。コレを。」

タケルは紙と鉛筆と消しゴムを取り出してリビングのテーブルの上に置いた。

「おお、なんと!コレを学校で使うのかね?」

「ええ。その為に作ったんです。それとコレを。」

タケルは印刷機で刷った紙を何枚か取り出して伯爵に手渡した。

「ん?これは・・・めずらしい文字の書き方だな。しかも全く同じように書いてある。コレは?」

伯爵は印刷された物を見てもそれが何なのか判らずに不思議がっていた。

「それは印刷といって同じ物を何枚も刷る事が・・・えっと一瞬で同じ物が何枚も作れるんです。」

「同じ物を一瞬で?」

「まあ、一瞬と言うのはちょっと言い過ぎかもしれませんが、書写よりも正確で何十倍も早く出来ます。」

「おお!それは凄いな。」

「それで、こちらのロランドさんが安価で本を作りたいと言うので、契約をする事になったんですよ。」

「ほう、安価で本を。それはどうしてかな?」

フィナール伯爵は興味深そうにすると、ロランドにその訳を尋ねた。

「は、はい。私は常々日頃から、本を皆に読ませたいと思っておりました。そこでタケル君のあの印刷機を目にしたのです。あれが有れば安価で皆に本を届ける事が出来る。そう思ったのです。それに今まで本を作ろうと思っても作れなかった者も作れるようになります。」

「うむ。素晴らしい!気に入った。タケル君、学校が開校すれば文字を読める者も増える、そこに本が加わればこの街の学力は更に底上げされるだろう。良い人物を見付けたな。」

「いえ、たまたまですよ。」

「そうか。それでもこの出会いはきっと良い方向に向かうであろう。してロランドよ、其方はなんと言う商会なのだ?」

フィナール伯爵がそう言うと、ロランドはすこしうつ向いて恐る恐る自分の話を始めた。

「実は私は・・・・」

ロランドは正直に自分がまだ独立前だという事を話し、タケルと出会って紙と鉛筆と消しゴムで独立が出来、そして本も販売したいという事を話した。フィナール伯爵はロランドの話を黙って聞いており、静かに頷いていた。
















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