142 / 155
2章3部フィナールの街編
58話 消しゴム完成
しおりを挟む
消ゴムの材料を探しに静寂の谷に来ていたタケル。そこで新種の魔物に遭遇すると、力試しにフォルティス達が戦う事になり、危なげ無く勝つ事が出来たがタケルは同時に何匹も相手にしており、フォルティス達は少し拗ねてしまった。ミケーレが宥めると、アルミスが避難させていた商人が戻って来て紙を見せると製紙工場を見てみたいという事になり、一旦全員で工場に戻るとロランドに工場を見せると紙を売ってくれと言われた。そして消しゴムと鉛筆を使ってもらうとその使いやすさに驚いていた。そしてロランドのミスで消しゴムに死んだスライムが掛かってしまったが、消しゴムの表面が変化してタケルの望む消し心地になっていたのだ。
タケルはようやく理想の消し心地になった消しゴムをロランドの目の前に付き出すと、興奮しながらロランドに話し掛けた。
「やっと見つけた!ロランドさん。お陰で理想の消しゴムが作れそうです!さっきのはスライムでしたよね?まだ有りますか?」
「ん?ああ。スライムならさっきの他に幾つか有るが、消しゴムはあれで完成じゃ無かったのかい?」
そう言ってロランドはバッグから容器を幾つか取り出して並べた。
「全部スライムですか?」
「ああ。えっとコレがノーマルのスライム、さっきのやつだね。そしてコレがグリーンスライム、ブルースライム、レッドスライム、イエロースライム、そしてコレがブラックスライム、匂いがキツいから気を付けて。」
ロランドがそう言って容器の蓋を開けた。すると最初にアルミスが鼻を摘まんで苦しそうな顔をしたかと思うと強烈な匂いがタケルの鼻を刺激した。
「うがっ!ゴホッゴホッ!何ですかこの臭いは、何かアンモニアと石油を混ぜたような臭いが凄いですね。」
「ブラックスライムはこの臭いで身を守るんだ、うっかり服に付いたら暫く匂いが取れないから気を付けて。誰も見向きもしないから何かに使えないかと思ってね。」
「おい、早く蓋をしてくれ!鼻が曲がりそうだ!」
フォルティスが臭いに耐えかねてそう言うと、ロランドが容器の蓋を閉じたが、その場に臭いが立ち込めており、状況は変わらなかった。
「うう。く、クリーン!」
タケルは臭いに耐えかねて工場内の空気をクリーンでキレイにした。
「お?臭いが消えたぞ!クリーンは臭いにも有効だったんだね。」
タケルは臭いに対して初めてクリーンを使用したのであった。通常汚れや汚物等をキレイにするクリーンで有るが、臭いそのものに使った事は無く効くかどうか判らなかったが、思わず使ったクリーンが思いの外効果を発揮したのであった。
「良かった。臭いで死ぬかと思った。」
「ロランド、そんな物が一体何の役に立つっていうんだ!」
フォルティスが少し怒った様子でロランドに問い掛けていた。
「それをこれから調べるんじゃ無いか!誰も見向きもせずに放っておかれていたんだ、だから何も判らないんだ。けどもしかしたら凄い効果や利用価値が有るかも知れないじゃないか!」
ロランドは商人として独立する為に誰も手を付けていないスライム、特にブラックスライムに期待をしていたのである。
「ロランドさん。取り敢えず全部試してみても良いですか?」
タケルはロランドの話を頷きながら聞いていたかと思うと、ブラックスライムの入ったビンを持ってそう尋ねた。
「ああ、構わないがその代わり試作品で良いから消しゴムを譲ってくれないか?」
「あ、良いですよ。大量に作ったんで処分に困ってたんですよ。」
タケルはそう言うとアイテムボックスから消しゴムの試作品を取り出してテーブルの上に乗せた。
「こんなに沢山!良いのかい?」
「ええ、構いませんよ。どうせ処分に困ってた物ですから。」
タケルはそう言うとゴムの草の液が入った容器を幾つか並べると、スライムを加えて混ぜ始めた。ノーマルのスライムから始め、少しずつ量を変えて全種類のスライムで作ってみた。【効果促進】の魔法を使いすぐに結果を確認してみると、最適な量が判明した。そして驚いた事にどのスライムもある一定の量を加えると、それぞれ違う効果が現れたのである。
ノーマルスライムはやはり消しゴムとして。
グリーンスライムはスポンジのようになり、
レッドスライムは衝撃吸収素材のような素材、
ブルースライムはプラスチックに良く似た物に、イエロースライムは良く伸びてゴムとしての特性が強くなった。そしてブラックスライムはゴムの草の液と混ぜると不思議と臭いは消えて硬質なゴムに変化した。
(こりゃあ・・・かなりヤバイもん開発しちゃづたな・・・・衝撃吸収とかプラスチック擬きとか科学の進化を一気に飛び越してるよ・・・)
「成る程。やはりノーマルが一番消しゴムに近くなるのか。他は使い物にならなそうだな。」
出来上がった物を見てロランドがそう言って容器から取り出したそれぞれの物を見ていた。タケルは今開発出来てしまった物がこの世界にどんな変化をもたらすか、想像も付かない程に凄い事をしてしまったと思ったが、ロランド達は出来上がった物を見てもその効果や価値に気付いていなかった。そこで消しゴムだけ成功という事にして他は失敗作としてすぐにアイテムボックスに仕舞ってしまった。
「よし。消しゴムも完成したし。教科書を作って取り敢えず物作りはひとまず終了かな。」
タケルは敢えて消ゴムの完成を強調して他の物に意識が行かないようにしていた。
「教科書?君が書写でもするのかい?」
「いえ、印刷機を作ったんですよ。」
「インサツキ?」
ロランドは印刷機の意味が分からず、首を傾げていた。
「分からないですよね、実際に見てみますか。こっちへどうぞ。」
タケルはそう言って製紙工場内にある印刷機の所にロランドを案内した。
「コレが印刷機です。実際に使って見せますね。この小さい文字が浮き出た棒をこうやって並べていきます。そして文章が出来上がったら・・・ひっくり返してっと。あとはインクが塗られて印刷されるんです。」
ロランドは驚きながらも興奮した様子で印刷される様子を見つめていた。
「おお!凄い、紙が次々と!ん?」
ロランドは印刷された紙を一枚取り出し、紙を裏返して驚いた。
「おお!文字が書き込まれている!まさか・・・こっちも、これも!これも!凄い!全て同じ文字が書き込まれている!なんて大発明なんだ!」
ロランドは他の印刷された紙を見て驚いていた。
「タケル君!この印刷機を使わしてくれないだろうか!コレが有れば本を大量に作る事が出来る!今は高価で手が出ない本も、庶民にも行き渡らせる事が出来るんだ!」
ロランド印刷機を使わして欲しいと言って頭を下げて来た。そしてその理由を熱く語っていた。
「ロランドさん。頭を上げて下さい。俺は学校の教材の事しか考えてませんでした。けど庶民にも本を行き渡らせるというその発想に感銘を受けました。」
タケルはそう言ってロランドの手を取り握りしめた。
「おお、では印刷機を貸してくれるのか?」
「いえ、そうではありません。」
「え?」
ロランドはタケルの言葉に戸惑っていた。たった今自分のことば
「ロランドさん。いっその事、印刷所と製本所を作ってしまいましょう。」
「え、それって。」
「ええ、貸すのではなくて、お譲りしますよ。」
「ほ、本当か?本当に良いのか?」
「ええ、けど勿論タダではありませんよ。」
「ああ、勿論だ。相応の金額は払うつもりだ。」
「いえ、お金は要りません。その代わり約束をして欲しいんです。」
ロランドはお金は要らないと言われ驚いたが、タケルの約束をして欲しいという言葉にどんな約束をしなければいけないのかと身構えた。
「約束とはいったい・・・」
「まず。印刷所で使う機械は無償でお譲りします。そして印刷所で働く従業員ですが、学校の卒業生を使って下さい。勿論給料は正当な金額を払って貰います。次に印刷所で使う紙と鉛筆はこの工場から買って下さい。インクも同様です。どうですか?約束というよりも契約ですかね。」
「えっ、それだけで構わないのか?」
ロランドはどんな不利な約束をさせられるかと思っていたが、至って全うな取引であった為に拍子抜けした感じでタケルに答えた。
「ええ、学校は営利目的で始める訳じゃないですからね。学校が運営出来るだけの資金が確保出来れば良いんですよ。」
「そうか、しかしこれだけの発明だ、大金持ちになる事だって可能だぞ。」
ロランドがそう言うと、フォルティスが笑いながらロランドに話し掛けた。
「ロランド、お前はタケル君を何だと思ってるんだ?彼はランクこそAランクだがその実力は更に上の超一流の冒険者だぞ。金なんて腐る程持ってるさ。」
フォルティスの言葉にロランドは驚いてタケルの方を見ていた。
「な、腐る程・・・いや、確かにそうか。高ランクの魔物を大量に狩ってるんだ。討伐報酬だけでもかなりのものの筈だからな。」
ロランドは街を潤している魔物の流通がタケル達が狩った魔物だという事を思い出し、1人頷きながら納得していた。
「そうだよな、タケル君。結構稼いだんじゃないか?」
フォルティスが少しヤラシイ笑みを浮かべ聞いて来た。
「え?まあ、確かにそこそこ持ってますが、大金持ちでは無いですよ。」
「え?そうなのか?なあ、因みにどれくらい持ってるんだ?教えてくれよ。」
フォルティスがそう言いながら耳に手を当てて近付いてきた。
「もう!やめなさいよ!」
ソレーラがフォルティスの耳を摘まんでタケルから引き離した。
「イデ、イテテテテッ!悪かったって。」
「まったく!すぐに調子に乗るんだから!」
フォルティスはソレーラに頭が上がらないのか、耳を引っ張られたままずっとソレーラに謝っていた。
「はいはい。そこ、いつまでもイチャつかない。ロランドさんとタケル君の話が進まないだろ。」
ミケーレがコントの一場面を演じてるような二人に手をパンパンと叩きながらそう声を掛けた。
「アハハ。仲が良いですね。所でロランドさん。契約の件ですが、学校はまだ開校してないんです。正式に契約を交わすのは少し待って貰えますか?」
「ああ、勿論だ。多少時間が掛かっても構わない。私も工場を作らないといけないしな。工場を作るとなるとお金も時間も掛かるからな、私もその方が都合が良い。」
「あ、ロランドさん。工場建設はちょっと待って下さい。俺に考えが有ります。」
「どういう事だ?早く工事を始めないと間に合わなくなるぞ?」
「大丈夫です。理由は言えませんが待ってて下さい。」
「そうか、君がそう言うなら待とう、しかし必ず間に合うように頼むよ。」
「ええ。任せて下さい。それじゃあ俺はフィナール伯爵の所に報告に行きたいので、そろそろ良いですかね?」
「なっ!タケル君は伯爵とも面識が有るのか!」
「ええ。あっそうだ。良かったらロランドさんも一緒に行きますか?」
「えっ、私も一緒に・・・良いのか?」
ロランドはフィナール伯爵の元へ一緒に行くかと聞かれ驚いていたが、本音は行きたそうでソワソワしていた。
「ええ、今後の事を話すのに丁度良いですからね。フォルティスさん達はどうします?」
「いや、俺達は帰るよ。ロランド、頑張れよ!じゃあな。」
フォルティス達は堅苦しいのが嫌なのか、そう言って逃げるように工場から出て行ってしまった。
「じゃあ行きますか。」
「え?今から?こんな格好で伯爵に会いに行くなんて・・・」
ロランドは両手を広げてタケルにそう良いながら自分の服を見ていた。ロランドの服はそこそこ上等な物であるが、新しい商材を探しに行っていた為に、旅人のような格好であった。
「大丈夫ですよ、俺もアルミスもこのままですし。」
タケルの格好は女神の服の上に軽くコートのような物を羽織っただけで、アルミスは肌の露出が多い装備の上に外套を羽織っただけであった。
「じゃあ行きますよ。」
タケルは未だに服装を気にして心の準備が出来てないロランドと一緒に、転移で伯爵の屋敷の近くに転移した。
「さ、行きますよ。」
フィナール伯爵の屋敷がすぐ近くに見えて諦めたのか、ロランドは少し肩を落として歩き始めた。いつものように門番は顔パスで、屋敷の玄関に着くと執事のバルタサールが出迎えた。
「タケル様、ようこそ。旦那様は丁度執務も終わった所で御座います。こちらへ。」
バルタサールはそう言うとタケル達をフィナール伯爵が寛いでいるリビングに案内した。
「旦那様、タケル様とそのお連れ様がお見えです。」
バルタサールが扉をそう言ってノックすると、フィナール伯爵が扉を開けて笑顔で出迎えた。
「おお、タケル君。良く来たね、今日はどうし・・・そちの御仁はどなたかな?」
フィナール伯爵はタケルの連れがタケルのパーティーメンバーかと思いいつものようにフレンドリーに話し掛けたが、ロランドに気付くと慌てて伯爵らしい口調に戻していた。
「こんにちは、伯爵。学校と学校で使う備品の目処が付いたので報告に来ました。こちらは商人のロランドさんです。」
「おお、そうか。では話を聞こう、入ってくれたまえ。」
フィナール伯爵はそう言ってタケル達をリビングに招き入れ、バルタサールにお茶を用意するように言い付けると、ソファーに座りタケル達にも座るように言った。
「フィナール伯爵。は、始めまして。し、商人をしておりますロランドと申します。ほ、本日はお会い出来てこ、光栄で御座います。」
「うむ、そう緊張せんでも良い。まず座ってくれたまえ。」
「は、はい。」
「早速ですが伯爵。コレを。」
タケルは紙と鉛筆と消しゴムを取り出してリビングのテーブルの上に置いた。
「おお、なんと!コレを学校で使うのかね?」
「ええ。その為に作ったんです。それとコレを。」
タケルは印刷機で刷った紙を何枚か取り出して伯爵に手渡した。
「ん?これは・・・めずらしい文字の書き方だな。しかも全く同じように書いてある。コレは?」
伯爵は印刷された物を見てもそれが何なのか判らずに不思議がっていた。
「それは印刷といって同じ物を何枚も刷る事が・・・えっと一瞬で同じ物が何枚も作れるんです。」
「同じ物を一瞬で?」
「まあ、一瞬と言うのはちょっと言い過ぎかもしれませんが、書写よりも正確で何十倍も早く出来ます。」
「おお!それは凄いな。」
「それで、こちらのロランドさんが安価で本を作りたいと言うので、契約をする事になったんですよ。」
「ほう、安価で本を。それはどうしてかな?」
フィナール伯爵は興味深そうにすると、ロランドにその訳を尋ねた。
「は、はい。私は常々日頃から、本を皆に読ませたいと思っておりました。そこでタケル君のあの印刷機を目にしたのです。あれが有れば安価で皆に本を届ける事が出来る。そう思ったのです。それに今まで本を作ろうと思っても作れなかった者も作れるようになります。」
「うむ。素晴らしい!気に入った。タケル君、学校が開校すれば文字を読める者も増える、そこに本が加わればこの街の学力は更に底上げされるだろう。良い人物を見付けたな。」
「いえ、たまたまですよ。」
「そうか。それでもこの出会いはきっと良い方向に向かうであろう。してロランドよ、其方はなんと言う商会なのだ?」
フィナール伯爵がそう言うと、ロランドはすこしうつ向いて恐る恐る自分の話を始めた。
「実は私は・・・・」
ロランドは正直に自分がまだ独立前だという事を話し、タケルと出会って紙と鉛筆と消しゴムで独立が出来、そして本も販売したいという事を話した。フィナール伯爵はロランドの話を黙って聞いており、静かに頷いていた。
タケルはようやく理想の消し心地になった消しゴムをロランドの目の前に付き出すと、興奮しながらロランドに話し掛けた。
「やっと見つけた!ロランドさん。お陰で理想の消しゴムが作れそうです!さっきのはスライムでしたよね?まだ有りますか?」
「ん?ああ。スライムならさっきの他に幾つか有るが、消しゴムはあれで完成じゃ無かったのかい?」
そう言ってロランドはバッグから容器を幾つか取り出して並べた。
「全部スライムですか?」
「ああ。えっとコレがノーマルのスライム、さっきのやつだね。そしてコレがグリーンスライム、ブルースライム、レッドスライム、イエロースライム、そしてコレがブラックスライム、匂いがキツいから気を付けて。」
ロランドがそう言って容器の蓋を開けた。すると最初にアルミスが鼻を摘まんで苦しそうな顔をしたかと思うと強烈な匂いがタケルの鼻を刺激した。
「うがっ!ゴホッゴホッ!何ですかこの臭いは、何かアンモニアと石油を混ぜたような臭いが凄いですね。」
「ブラックスライムはこの臭いで身を守るんだ、うっかり服に付いたら暫く匂いが取れないから気を付けて。誰も見向きもしないから何かに使えないかと思ってね。」
「おい、早く蓋をしてくれ!鼻が曲がりそうだ!」
フォルティスが臭いに耐えかねてそう言うと、ロランドが容器の蓋を閉じたが、その場に臭いが立ち込めており、状況は変わらなかった。
「うう。く、クリーン!」
タケルは臭いに耐えかねて工場内の空気をクリーンでキレイにした。
「お?臭いが消えたぞ!クリーンは臭いにも有効だったんだね。」
タケルは臭いに対して初めてクリーンを使用したのであった。通常汚れや汚物等をキレイにするクリーンで有るが、臭いそのものに使った事は無く効くかどうか判らなかったが、思わず使ったクリーンが思いの外効果を発揮したのであった。
「良かった。臭いで死ぬかと思った。」
「ロランド、そんな物が一体何の役に立つっていうんだ!」
フォルティスが少し怒った様子でロランドに問い掛けていた。
「それをこれから調べるんじゃ無いか!誰も見向きもせずに放っておかれていたんだ、だから何も判らないんだ。けどもしかしたら凄い効果や利用価値が有るかも知れないじゃないか!」
ロランドは商人として独立する為に誰も手を付けていないスライム、特にブラックスライムに期待をしていたのである。
「ロランドさん。取り敢えず全部試してみても良いですか?」
タケルはロランドの話を頷きながら聞いていたかと思うと、ブラックスライムの入ったビンを持ってそう尋ねた。
「ああ、構わないがその代わり試作品で良いから消しゴムを譲ってくれないか?」
「あ、良いですよ。大量に作ったんで処分に困ってたんですよ。」
タケルはそう言うとアイテムボックスから消しゴムの試作品を取り出してテーブルの上に乗せた。
「こんなに沢山!良いのかい?」
「ええ、構いませんよ。どうせ処分に困ってた物ですから。」
タケルはそう言うとゴムの草の液が入った容器を幾つか並べると、スライムを加えて混ぜ始めた。ノーマルのスライムから始め、少しずつ量を変えて全種類のスライムで作ってみた。【効果促進】の魔法を使いすぐに結果を確認してみると、最適な量が判明した。そして驚いた事にどのスライムもある一定の量を加えると、それぞれ違う効果が現れたのである。
ノーマルスライムはやはり消しゴムとして。
グリーンスライムはスポンジのようになり、
レッドスライムは衝撃吸収素材のような素材、
ブルースライムはプラスチックに良く似た物に、イエロースライムは良く伸びてゴムとしての特性が強くなった。そしてブラックスライムはゴムの草の液と混ぜると不思議と臭いは消えて硬質なゴムに変化した。
(こりゃあ・・・かなりヤバイもん開発しちゃづたな・・・・衝撃吸収とかプラスチック擬きとか科学の進化を一気に飛び越してるよ・・・)
「成る程。やはりノーマルが一番消しゴムに近くなるのか。他は使い物にならなそうだな。」
出来上がった物を見てロランドがそう言って容器から取り出したそれぞれの物を見ていた。タケルは今開発出来てしまった物がこの世界にどんな変化をもたらすか、想像も付かない程に凄い事をしてしまったと思ったが、ロランド達は出来上がった物を見てもその効果や価値に気付いていなかった。そこで消しゴムだけ成功という事にして他は失敗作としてすぐにアイテムボックスに仕舞ってしまった。
「よし。消しゴムも完成したし。教科書を作って取り敢えず物作りはひとまず終了かな。」
タケルは敢えて消ゴムの完成を強調して他の物に意識が行かないようにしていた。
「教科書?君が書写でもするのかい?」
「いえ、印刷機を作ったんですよ。」
「インサツキ?」
ロランドは印刷機の意味が分からず、首を傾げていた。
「分からないですよね、実際に見てみますか。こっちへどうぞ。」
タケルはそう言って製紙工場内にある印刷機の所にロランドを案内した。
「コレが印刷機です。実際に使って見せますね。この小さい文字が浮き出た棒をこうやって並べていきます。そして文章が出来上がったら・・・ひっくり返してっと。あとはインクが塗られて印刷されるんです。」
ロランドは驚きながらも興奮した様子で印刷される様子を見つめていた。
「おお!凄い、紙が次々と!ん?」
ロランドは印刷された紙を一枚取り出し、紙を裏返して驚いた。
「おお!文字が書き込まれている!まさか・・・こっちも、これも!これも!凄い!全て同じ文字が書き込まれている!なんて大発明なんだ!」
ロランドは他の印刷された紙を見て驚いていた。
「タケル君!この印刷機を使わしてくれないだろうか!コレが有れば本を大量に作る事が出来る!今は高価で手が出ない本も、庶民にも行き渡らせる事が出来るんだ!」
ロランド印刷機を使わして欲しいと言って頭を下げて来た。そしてその理由を熱く語っていた。
「ロランドさん。頭を上げて下さい。俺は学校の教材の事しか考えてませんでした。けど庶民にも本を行き渡らせるというその発想に感銘を受けました。」
タケルはそう言ってロランドの手を取り握りしめた。
「おお、では印刷機を貸してくれるのか?」
「いえ、そうではありません。」
「え?」
ロランドはタケルの言葉に戸惑っていた。たった今自分のことば
「ロランドさん。いっその事、印刷所と製本所を作ってしまいましょう。」
「え、それって。」
「ええ、貸すのではなくて、お譲りしますよ。」
「ほ、本当か?本当に良いのか?」
「ええ、けど勿論タダではありませんよ。」
「ああ、勿論だ。相応の金額は払うつもりだ。」
「いえ、お金は要りません。その代わり約束をして欲しいんです。」
ロランドはお金は要らないと言われ驚いたが、タケルの約束をして欲しいという言葉にどんな約束をしなければいけないのかと身構えた。
「約束とはいったい・・・」
「まず。印刷所で使う機械は無償でお譲りします。そして印刷所で働く従業員ですが、学校の卒業生を使って下さい。勿論給料は正当な金額を払って貰います。次に印刷所で使う紙と鉛筆はこの工場から買って下さい。インクも同様です。どうですか?約束というよりも契約ですかね。」
「えっ、それだけで構わないのか?」
ロランドはどんな不利な約束をさせられるかと思っていたが、至って全うな取引であった為に拍子抜けした感じでタケルに答えた。
「ええ、学校は営利目的で始める訳じゃないですからね。学校が運営出来るだけの資金が確保出来れば良いんですよ。」
「そうか、しかしこれだけの発明だ、大金持ちになる事だって可能だぞ。」
ロランドがそう言うと、フォルティスが笑いながらロランドに話し掛けた。
「ロランド、お前はタケル君を何だと思ってるんだ?彼はランクこそAランクだがその実力は更に上の超一流の冒険者だぞ。金なんて腐る程持ってるさ。」
フォルティスの言葉にロランドは驚いてタケルの方を見ていた。
「な、腐る程・・・いや、確かにそうか。高ランクの魔物を大量に狩ってるんだ。討伐報酬だけでもかなりのものの筈だからな。」
ロランドは街を潤している魔物の流通がタケル達が狩った魔物だという事を思い出し、1人頷きながら納得していた。
「そうだよな、タケル君。結構稼いだんじゃないか?」
フォルティスが少しヤラシイ笑みを浮かべ聞いて来た。
「え?まあ、確かにそこそこ持ってますが、大金持ちでは無いですよ。」
「え?そうなのか?なあ、因みにどれくらい持ってるんだ?教えてくれよ。」
フォルティスがそう言いながら耳に手を当てて近付いてきた。
「もう!やめなさいよ!」
ソレーラがフォルティスの耳を摘まんでタケルから引き離した。
「イデ、イテテテテッ!悪かったって。」
「まったく!すぐに調子に乗るんだから!」
フォルティスはソレーラに頭が上がらないのか、耳を引っ張られたままずっとソレーラに謝っていた。
「はいはい。そこ、いつまでもイチャつかない。ロランドさんとタケル君の話が進まないだろ。」
ミケーレがコントの一場面を演じてるような二人に手をパンパンと叩きながらそう声を掛けた。
「アハハ。仲が良いですね。所でロランドさん。契約の件ですが、学校はまだ開校してないんです。正式に契約を交わすのは少し待って貰えますか?」
「ああ、勿論だ。多少時間が掛かっても構わない。私も工場を作らないといけないしな。工場を作るとなるとお金も時間も掛かるからな、私もその方が都合が良い。」
「あ、ロランドさん。工場建設はちょっと待って下さい。俺に考えが有ります。」
「どういう事だ?早く工事を始めないと間に合わなくなるぞ?」
「大丈夫です。理由は言えませんが待ってて下さい。」
「そうか、君がそう言うなら待とう、しかし必ず間に合うように頼むよ。」
「ええ。任せて下さい。それじゃあ俺はフィナール伯爵の所に報告に行きたいので、そろそろ良いですかね?」
「なっ!タケル君は伯爵とも面識が有るのか!」
「ええ。あっそうだ。良かったらロランドさんも一緒に行きますか?」
「えっ、私も一緒に・・・良いのか?」
ロランドはフィナール伯爵の元へ一緒に行くかと聞かれ驚いていたが、本音は行きたそうでソワソワしていた。
「ええ、今後の事を話すのに丁度良いですからね。フォルティスさん達はどうします?」
「いや、俺達は帰るよ。ロランド、頑張れよ!じゃあな。」
フォルティス達は堅苦しいのが嫌なのか、そう言って逃げるように工場から出て行ってしまった。
「じゃあ行きますか。」
「え?今から?こんな格好で伯爵に会いに行くなんて・・・」
ロランドは両手を広げてタケルにそう良いながら自分の服を見ていた。ロランドの服はそこそこ上等な物であるが、新しい商材を探しに行っていた為に、旅人のような格好であった。
「大丈夫ですよ、俺もアルミスもこのままですし。」
タケルの格好は女神の服の上に軽くコートのような物を羽織っただけで、アルミスは肌の露出が多い装備の上に外套を羽織っただけであった。
「じゃあ行きますよ。」
タケルは未だに服装を気にして心の準備が出来てないロランドと一緒に、転移で伯爵の屋敷の近くに転移した。
「さ、行きますよ。」
フィナール伯爵の屋敷がすぐ近くに見えて諦めたのか、ロランドは少し肩を落として歩き始めた。いつものように門番は顔パスで、屋敷の玄関に着くと執事のバルタサールが出迎えた。
「タケル様、ようこそ。旦那様は丁度執務も終わった所で御座います。こちらへ。」
バルタサールはそう言うとタケル達をフィナール伯爵が寛いでいるリビングに案内した。
「旦那様、タケル様とそのお連れ様がお見えです。」
バルタサールが扉をそう言ってノックすると、フィナール伯爵が扉を開けて笑顔で出迎えた。
「おお、タケル君。良く来たね、今日はどうし・・・そちの御仁はどなたかな?」
フィナール伯爵はタケルの連れがタケルのパーティーメンバーかと思いいつものようにフレンドリーに話し掛けたが、ロランドに気付くと慌てて伯爵らしい口調に戻していた。
「こんにちは、伯爵。学校と学校で使う備品の目処が付いたので報告に来ました。こちらは商人のロランドさんです。」
「おお、そうか。では話を聞こう、入ってくれたまえ。」
フィナール伯爵はそう言ってタケル達をリビングに招き入れ、バルタサールにお茶を用意するように言い付けると、ソファーに座りタケル達にも座るように言った。
「フィナール伯爵。は、始めまして。し、商人をしておりますロランドと申します。ほ、本日はお会い出来てこ、光栄で御座います。」
「うむ、そう緊張せんでも良い。まず座ってくれたまえ。」
「は、はい。」
「早速ですが伯爵。コレを。」
タケルは紙と鉛筆と消しゴムを取り出してリビングのテーブルの上に置いた。
「おお、なんと!コレを学校で使うのかね?」
「ええ。その為に作ったんです。それとコレを。」
タケルは印刷機で刷った紙を何枚か取り出して伯爵に手渡した。
「ん?これは・・・めずらしい文字の書き方だな。しかも全く同じように書いてある。コレは?」
伯爵は印刷された物を見てもそれが何なのか判らずに不思議がっていた。
「それは印刷といって同じ物を何枚も刷る事が・・・えっと一瞬で同じ物が何枚も作れるんです。」
「同じ物を一瞬で?」
「まあ、一瞬と言うのはちょっと言い過ぎかもしれませんが、書写よりも正確で何十倍も早く出来ます。」
「おお!それは凄いな。」
「それで、こちらのロランドさんが安価で本を作りたいと言うので、契約をする事になったんですよ。」
「ほう、安価で本を。それはどうしてかな?」
フィナール伯爵は興味深そうにすると、ロランドにその訳を尋ねた。
「は、はい。私は常々日頃から、本を皆に読ませたいと思っておりました。そこでタケル君のあの印刷機を目にしたのです。あれが有れば安価で皆に本を届ける事が出来る。そう思ったのです。それに今まで本を作ろうと思っても作れなかった者も作れるようになります。」
「うむ。素晴らしい!気に入った。タケル君、学校が開校すれば文字を読める者も増える、そこに本が加わればこの街の学力は更に底上げされるだろう。良い人物を見付けたな。」
「いえ、たまたまですよ。」
「そうか。それでもこの出会いはきっと良い方向に向かうであろう。してロランドよ、其方はなんと言う商会なのだ?」
フィナール伯爵がそう言うと、ロランドはすこしうつ向いて恐る恐る自分の話を始めた。
「実は私は・・・・」
ロランドは正直に自分がまだ独立前だという事を話し、タケルと出会って紙と鉛筆と消しゴムで独立が出来、そして本も販売したいという事を話した。フィナール伯爵はロランドの話を黙って聞いており、静かに頷いていた。
1
お気に入りに追加
3,420
あなたにおすすめの小説
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした
御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。
異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。
女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。
――しかし、彼は知らなかった。
転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――
成長チートと全能神
ハーフ
ファンタジー
居眠り運転の車から20人の命を救った主人公,神代弘樹は実は全能神と魂が一緒だった。人々の命を救った彼は全能神の弟の全智神に成長チートをもらって伯爵の3男として転生する。成長チートと努力と知識と加護で最速で進化し無双する。
戦い、商業、政治、全てで彼は無双する!!
____________________________
質問、誤字脱字など感想で教えてくださると嬉しいです。
イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる