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2章3部フィナールの街編

48話 新たな記憶

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レベル上げも終わりフィナール伯爵へ報告をしたタケル。ミレイアが捉えた人拐いの中に居た買付の男はタケルに以前絡んで来たマルコスであった事が告げられ、更に孤児院の寄付金を横領していた事も発覚していた。その後屋敷の権利書と鍵を貰ったタケルはサビオとアルミス、アルセリオを連れて屋敷の中を調査する事にした。内部は幾つか変わった部屋が有り、3階に地下に下りる階段が有り、地下に行くと自然の魔石が沢山保管してあった。そして更に隠し部屋が有り、そこにはアルセリオ達が封印されていた封印石と同じ物が保管されていた。そしてタケルがその封印石に触れると、以前シーバムの遺跡で見たのと同じ過去の記憶がタケルの目の前に現れたのだった。

「これは・・・過去の記憶か。ここは謁見の間・・・」

タケルの視線の先には傷だらけの家臣達と最後の言葉を交わしている王の姿が有った。

「確かこの後魔物が押し寄せて来るんだったな。」

タケルが思い出していると、魔物達がドアを破り雪崩れ込んできた。

「以前はここまでだったけど・・・・王様強いな。」

そこには雪崩れ込んできた魔物を次々に斬り倒していく王の姿があった。

「うおおおお!」

王の攻撃は凄まじかったが、周りを固めていた家臣が1人、また1人と倒れて行った。そして残るは王と家臣1人の2人だけになり、お互いに背中を預ける形となり魔物と対峙していた。

「ルシアナ、アルセリオ、ミレイア・・・・私はここまでのようだ。どうか無事に逃げ延びてくれよ。」

「陛下!まだ諦めるのは早いです。コレを。」

家臣が何かを懐から取り出して、後ろ向きのまま王の首にぶら下げた。

「コレはなんだ?!」

王が魔物を斬り倒しながら家臣に問い掛けた。

「判りません!しかしサカリアス殿から陛下に渡してくれと言われて預かっていた物です。急にこんな事になって渡せずにいたんです。」

家臣も魔物を斬り倒しながら王の問い掛けに答えていた。

「そうか、サカリアスが。」 

「ええ、死んだと思ってたんですが、驚きましたよ!」

「ああ、私がそう命じたのだ!」

「やはりそうでありましたか!」

その時、魔物の攻撃が一段と激しさを増して来た。そして応戦していた王の剣が折られてしまい、剣先が宙を舞った。

「くっ!今度こそ本当に終わりだな。」

王がそう言うと、一匹の魔物が飛び掛かって来たかと思うと、折れた王の剣を弾き、同時に王の体に大きく深い傷を付けた。

「ぐあああ!」

「陛下!!」

王はその場で力無く、ゆっくりと崩れ落ちていった。そして家臣は王の断末魔のような声を聞き振り返り叫んだ。その瞬間であった、王の首に掛けられたネックレスような物が光り輝き王の体を包み込んだ。さしてその強い光に魔物達は怯み、攻撃が止んだ。しかし家臣には王の体が光りに包まれ、ネックレスに付けられた石に吸い込まれて行くのがハッキリと見えていた。石は大きさが変わりハンドボール程の大きさになると、ゆっくりと落ちていき床の上に転がった。すると家臣がその石を抱き抱えたかと思うと、自分の首にぶら下げたネックレスを引きちぎった。するとネックレスが光り輝き、家臣の姿が一瞬で消え去ってしまった。

「今のは・・・転移か?」

その様子を見ていたタケルがそう呟くと、場面が変わり家臣が転移した先の風景に変化した。

「クッ!ハァハァハァ・・・」

家臣は王が吸い込まれた石を抱えたまま、時折襲って来る魔物を斬り倒しながら走っていた。
 この家臣はベルナルドが所属していた近衛騎士団の騎士団長で、サカリアスから内密に話を聞いており、そのお陰で王が吸い込まれた石を持って逃げる事が出来たのである。 
 家臣は走りながらサカリアスとの話を思い出していた。


◇◇◇

ベルナルドがルシアナ達を連れて逃げていた地下通路を家臣が点検して歩いていた。

「よし、異常は無いな。」

普段は部下が点検する事になっている地下通路だが、定期的に隊長であるヒルベルトが点検をしていた。

「ヒルベルト、久しぶりだな。」

突然声を掛けられて驚いて振り向くと、そこには死んだと言われいる筆頭宮廷魔導師のサカリアスが立っていた。

「サカリアス!死んだんじゃ無いのか!」

「色々訳が有ってな。ちょっと話が有るんだ、来てくれ。」

死んだ筈のサカリアスに話が有ると言われ、ヒルベルトは驚いていたが、素直にサカリアスの案内で隠し部屋に入って行った。


「そうか、それで死んだ事になっていたのか、サカリアス。」

隠し部屋に入ったヒルベルトはサカリアスから事情を聞いて納得していた。

「ああ、そうだ。魔王軍に私が狙われる可能性が高かったからな。しかし死んだ事になって研究に集中する事が出来た。」



「確かに魔王軍の動きが活発化しているからな。それで、何の研究をしてたんだ?」

「ヒルベルト、コレを陛下に渡して欲しい。」

「なんだ?コレは、ネックレス?」

「コレは陛下の身に万が一の事態が起きた時に一時的に封印して陛下をお守りするものだ。」

「封印・・・分かった、すぐに渡しておく。」

ヒルベルトはネックレスを受けとるとそう言って懐に仕舞った。

「いや、陛下に渡すのはギリギリまで待つか、誰かからのプレゼントとして渡して常に身に着けさせてくれ。でないと陛下の事だ、他の者に渡してしまう恐れがある。」 

「確かにそうかもしれんな。分かった、私が預かっておこう。」

「ヒルベルト、お前にはコレを。」

「俺に?」

サカリアスは先程のネックレスとは違う石の付いたネックレスをヒルベルトに手渡した。

「陛下の身に何か有ったら、石を回収するか、陛下に抱きついてネックレスを引きちぎれ、そうすれば安全な場所に転移で移動するようになっている。いいか、近衛騎士団長で常に陛下の近くに居るお前にしか出来ない事だ!陛下よりも先に死ぬなよ。」

「分かった。」

◇◇◇

「まさか現実になるとはな」

ヒルベルトはどうにか魔物から逃げたして、岩にもたれて座り込んでいた。

「・・・陛下・・・」

ヒルベルトはそう言って王が封印されている石を撫でた。

「くそ!どこに行っても魔物だらけだ。」

その時、魔物が近付いて来るのが見え、ヒルベルトは力を振り絞って走り始めた。
 どれくらい走ったであろうか、気付くと魔物の姿は見当たらなくなり、ヒルベルトは森の中に居た。

「ここは・・・森か、気付かなかったな。」

その時、ヒルベルトに近付いて来るものが居た。気配に気付きヒルベルトは咄嗟に剣を抜いた。

「おい、お前。オイラの棲み家で何やってんだ!」

「・・・・?」

そう言ってヒルベルトの目の前に現れたのは精霊であった。

「ん?お前人間か?珍しいな、人間がこんな所に来るなんて。」

「せ、精霊?」

ヒルベルトは目の前に現れたのが精霊だと気付いた所で気を失って倒れてしまった。精霊が居る場所に魔物が近寄る事は殆ど無く、安全な場所でありそれを知っていたヒルベルトは緊張の糸が切れて気を失ってしまったのである。

「う、うう。ハッ!石は!石はどこだ!」

気を失うまで大事に抱えていた石が無くなっている事に気付き、ヒルベルトは慌てて辺りを探し始めた。

「気が付いたか、人間。」

ヒルベルトが石を探していると、先程の精霊が現れた。

「お、おい!俺が持っていたコレくらいの石を知らないか!大切な物なんだ!」

ヒルベルトはやって来た精霊に詰め寄って石の事を知らないか問い掛けた。

「石?これの事か?」

精霊はそう言うと近くの木のうろに手を突っ込み石を取り出した。

「そうだ!その石だ!返してくれ、大切な物なんだ!」

「ん?ほい。」

精霊はそう言ってヒルベルトに向かって石を投げた。

「おわ!何するんだ!大切な物だと言っただろ!」

「あははは!そんな石が大切だなんて変な人間だな。」

「これは!この石は!」

その時、ヒルベルトのお腹が大きな音をたてて鳴った。

「ぐっ、走り詰めだったから・・・」

ヒルベルトは余りの空腹に膝を付いた。すると、ヒルベルトの前に果物が転がって来た。

「人間。お前腹減ってるんだろ。食べろよ。」

ヒルベルトは果物を手にした時に有ることに気が付いた。

「傷が治ってる・・・コレはお前が治してくれたのか?」

「おい人間!オイラの名前はお前じゃない!オイラの名前はピアンタだ!」

「私も人間って名前じゃない、ヒルベルトだ。それでピアンタ、傷は君が治してくれたのか?あっコレは有り難く貰っておく。」

ヒルベルトはそう言って果物を食べ始めた。

「いや、オイラに出来るのは治りを早くするだけで、治ったのはヒルベルトの自然治癒力のお陰だそ。」

ピアンタは何故かニコニコしながらそう答えた。

「そうか、すまないな。ありがとう。」

 ヒルベルトはそう言うとまたある事に気付いた。

「たったあれだけで空腹が満たされた・・・」

「オイラが育てたアニマの木の実だからな。」

アニマの木とは、非常に珍しく木の実を付けるようになるまで数百年は掛かる木で、その実は1つ食べれば3日は食べなくても平気になり、更に病気にならなくなるという不思議な力を持っているとされる、おとぎ話でしか聞いた事が無い伝説の木であった。

「アニマの木の実・・・あの伝説の霊樹の・・・」

「なあなあヒルベルト、それよりも何でその石がそんなに大切なんだ?凄い石なのか?」

「この石は・・・」

ヒルベルトは石の事を説明するかどうか一瞬悩んだが、ピアンタは精霊であり悪意は無いので教える事にし、どうして大切なのかをピアンタに説明した。

「ええ!じゃあその石の中に人が入ってるのか!凄いな~、出て来る所を見たいな~。どうやって出すんだ?」

「いや、それが・・・」

ヒルベルトは復活の方法は聞いておらず、どうすれば良いのか判らない事と、その事を知ってる可能性の有るサカリアスも今は生きているかどうか判らない事をピアンタに伝えた。

「そうか、判らないのか、残念だな~。それでヒルベルトはこれからどうするんだ?」

ヒルベルトはそう言われてハッとした。無我夢中で石を持って逃げて来たは良いが、帰るべき国は恐らくもう無い、他の国に知り合いも居ない、どうすれば良いのか判らなかったのだ。

「ヒルベルト、ここで暮らさないか?オイラずっと1人で暮らして来たんだ。アニマの木の実も有るし快適だぞ。」

ヒルベルトは悩んだが、暫くピアンタと話をして一緒に暮らす事にした。ピアンタと一緒に居れば石を魔物や悪人に奪われる事は無い。さして自分の死後も石を守ってくれると言ったからであった。

 ヒルベルトがピアンタと暮らしはじめて百年程が経っていた。アニマの木の実と精霊であるピアンタと暮らす事によって寿命が延びていたのである。しかし、ヒルベルトの命の炎はいよいよ燃え尽きようとしていた。

「ピアンタ・・・今迄有り難う・・・石を、頼んだぞ。」

「逝くのか、ヒルベルト。」

「ああ、もうそろそろだ。しかし不思議だ、凄い清々しい・・・」

「オイラとずっと暮らしたからね、次は精霊として生まれ変わるからだよ。」

「そうか、私が精霊に・・・じゃあその時はまたよろしくな。」

「うん、それまで暫くお別れだ。」

ピアンタがそう言うとヒルベルトはゆっくりと目を瞑って2度と開く事は無かった。そしてその後ピアンタはまた1人で暮らし、ヒルベルトとの約束通り石を守り続けた。

「この石がどうして屋敷に有るんだ?」

タケルが不思議に思っていると、風景が変わり屋敷の部屋の風景に変わった。

「これは・・・あの屋敷だな、この赤ん坊は誰だ?」

場面が変わって赤ん坊は少年になっていた。

「なんだ?この子がなんだってんだ?」

場面が変わり青年となったその人物が呼ばれているその名前から、あの屋敷の元々の持ち主であるボニファシオ男爵の若かりし頃の姿であると判った。

「この人が封印石を・・・でもなんで・・・」

すると場面が変わり、男爵はある森を進んでいた。

「あれ?この森って・・・」

森を進む男爵の元へピアンタが現れた。

「また来たな、人間。」

「私は初めて来たんだが?」

「うるさい!おまえも石を狙って来たんだろう!あれは只の石で価値なんか無いって言ってるのになんで欲しがるんだ!」

ピアンタはヒルベルトとの約束通り、千年近くもずっと石を守り続けて居た、そして精霊が大事にしている石の事が噂になり、石を手にいれようと人間が訪れていたのである。

「私も只の石や宝石には興味は無い。しかしずっと昔から大事にしてると聞いたものでね、何年くらい石を持ってるんだ?」

「大体千年だ。」

「そうか・・・もしかしてヒルベルトと言う名に心当たりは無いか?」

「お前ヒルベルトを知ってるのか?」

「ああ。知ってるとも。」

男爵はピアンタの話を聞くと、その場で膝を付き泣き出してしまった。

「う、うう、やっと、やっと見つけた。」

「なんだ?どうしたんだ、お前。」

その後、男爵はピアンタに事情を話し、自分がサカリアスの生まれ変わりだという話をして石を譲ってくれるようにお願いをした。するとピアンタはヒルベルトのように一緒に暮らすなら石を渡しても良いと言ってきた。

「しかしそれでは復活させる為の研究が出来ない。君の棲家を用意するから君が私の家へ来ると言うのはどうだろう?」

「本当か?じゃあ待ってろ、石を持ってくる。」

ピアンタはそう言うとどこかへ走って行ったかと思うと、石を抱えて戻って来た。

「ほら、コレだろ?中に人が入ってるらしいな、出てくる所は見られるのか?」

「いや、それは判らん。封印をする事は成功したんだが、それを復活させる方法が判らないんだ。暫く待ってくれ。」

そこで風景が変わり、現在の形に近い屋敷の中の風景になった。

「おい、ボニー。お前も逝くのか。お前が逝ったら誰が石の中の人を出すんだ?」

「すまないな。見せてやれなくて、しかし数十年すればそれが出来る人物がやって来る筈だ。それまでこの屋敷を頼む。」

「ああ。判ったよ。」

そしてボニファシオ男爵は空中に視線を泳がせると、タケルと目が合った。

「また目があった?」

そしてそのまま目をゆっくりと閉じて行った。そこでタケルは現実の世界に戻って来た。

「全て判ったよ。」

結界石に手を置いたままサビオ達の方を向くと、タケルはそう言ってアルセリオに話を始めた。

「アル。大事な話が有るんだ、出来ればルシアナさん達も一緒の方が良い。」

「え?あ、ああ。」

タケルはその後ルシアナ達を連れて来る為に1人で戻ると、すぐにルシアナ達を連れて戻って来た。

「なあに?いったいどうしたの?随分と急いで連れて来られたけど。この薄暗い部屋がどうかしたの?」

ミレイアはミレーナと魔法の練習をしてる所を半ば強引に連れて来られて少し不機嫌であった。

「た、タケル殿・・・そ、それは・・・」

千年ものあいだ、1人でルシアナ達が封印された封印石を見守っていたベルナルドは、すぐに目の前に有る石が封印石であると気が付いてタケルにそう聞いて来た。

「そうです、封印石です。アル、ルシアナさん、ミレイア。落ち着いて聞いて欲しい。この石は封印石でみんなが封印されていた物と一緒の物なんです。そして、この中に封印されている人物は王様です。」

タケルの話にアルセリオ達は理解が追い付かないのか、キョトンとしていた。

 
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