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2章3部フィナールの街編

45話 それぞれの1日

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ギルドの闘技場で選抜試験を始めたタケル、30人程の候補者の中から受かったのは10名であった。そして合格者を連れてシーバムの大森林にやって来たタケルは黒狼達を呼び個体を選んで貰う事にした。最初は躊躇していた合格者達であったが、女性達のお陰で男性陣も黒狼達を選び、レベル上げの為に黒狼に乗り森の中を走り抜けて行った。

そして街に残ったサビオ達はそれぞれが自由に過ごしていた。

「ねえ、サビオ。二人きりでこうして街を歩くなんて久しぶりね。」

「そうだな。いつ以来だったかな。」

「私が邪竜になる前だから100年以上前かしらね。」

「そうか、もうそんなに経つか。」


サビオとアルバは久しぶりに二人で街を歩き、昔の事を思い出し話しをしていた。

「あの頃はこんなにのんびりと過ごせるとは思って無かったわ。」

「そうだな。」

「ところで、タケルさんは家を買うって言ってたど、どんなところかしらね。」

「そうだの、タケル殿が気に入る位だから変わった家なんだろうな。」

「それもそうね。」

ふたりは手を繋ぎ、そんな話をしながら街をブラブラと散策していた。

そして久しぶりに孤児院に来ていたルシアナとクシーナ、ベルナルド。孤児院の前に来ると、クシーナが駆けて行き、孤児院の扉を勢いよく開けた。

「みーんな~!元気にしてたかな~?」

「わあ!クシーナお姉ちゃんだ!」

勢い良く開いた扉から大きな声でクシーナがそう言うと、中で遊んでいた子供達がクシーナ達に気付き駆け寄って来た。

「良い子にしてた子は手を上げて~。」

「はーい!」

子供達が元気良く手を上げた。

「じゃあ、良い子にしてた皆の為に~、クシーナちゃんがプリンを作って来ました~~!」

「プリン?」

「クシーナお姉ちゃん、プリンってなあに?」

クシーナは子供達に喜んで貰おうとプリンを沢山作って持って来たが、子供達はプリンが何か判らずにキョトンとしていた。

「フッフッフッ。プリンとは~、あま~いお菓子で、つるんつるんのぷるんぷるんなんだよ~!」

「つるんつるん?」

「ぷるんぷるん?」

子供達はスライムのような物を想像して少し渋い顔をしていた。

「ハッハッハ。クシーナ殿、食べた事が無かったら想像出来ませんぞ。」

「そっか~。じゃあ、コレがプリンだ~!」

クシーナはマジックポーチからプリンの入った容器を取り出して頭上高く掲げた。 

「あらあら、それじゃあ中身が判らないわよ、テーブルに置いてあげなくちゃ。」

ルシアナがそう言って頭上に掲げたクシーナの手をゆっくりと下ろし、プリンの入った容器をテーブルに置かせた。その間、子供達の視線はプリンの入った容器をずっと追っていた。

「わあ、凄い良い匂い。」

「甘い匂いがする~。」

子供達がテーブルに置かれたプリンの容器から香る匂いを嗅いで、嬉しそうにそう言ってはしゃいでいた。

「はい、じゃあ皆さん、プリンを配る前にシスターを読んできて貰えるかしら?」

「僕が呼んでくる~!」

一人の男の子が走って行き、暫くするとシスターの手を引き戻って来た。

「あら、ルシアナさんにクシーナさん、ベルナルドさんまで、今日はどうされたんですか?」

子供に手を引かれてやって来たシスターは何も聞いていなかったのか、ルシアナ達の顔をみるとそう言って頭を下げ挨拶をしていた。

「こんにちは、シスター。今日は子供達の為にプリンというお菓子を持って来たのよ。」

「そう、プリン!私が作ったの~。」 

頭を下げるシスターにルシアナがそう言って会釈をし挨拶をすると、クシーナがプリンを手に取ると手を伸ばしてシスターに差し出した。 

「これがプリン?まあ、良い匂い。とても美味しそうですね。これをクシーナさんが?」

「うん。そうだよ~。みんなの分作って来たんだよ~。」

「そうなんですか、有り難うございます。子供達も喜びます。では子供達を全員呼んで来ますね。」

シスターは改めてクシーナに頭を下げ、感謝を述べると子供達を呼びに部屋を出て行った。

「はい、それではみなさん、食堂へ移動しましょうね。」

ルシアナはそう声を掛けると、子供達がルシアナやクシーナの手を引き、全員で揃って食堂へと移動した。

「じゃあ、プリンを並べちゃいましょう。」

「うん!じゃあみんな~、プリンを出すから並べるの手伝ってくれるかな~?」

「は~い!」

クシーナがそう言って大量のプリンを出すと、それを子供達が1つずつテーブルに並べて行った。

「あら、みんなお手伝いしてるのね、偉いわね。」

シスターが残りの子供達を連れて戻って来て、プリンを並べている子供達にそう声を掛た。

「うん。プリン並べてるの~。」

子供達はお手伝いをして誉められた事で、嬉しそうにしていた。
 子供達の手伝いのお陰で早く並べ終る事が出来、遅れてやって来た子供達が席に着く頃には全て並べ終わった。

「さっ、みんな揃ったみたいだね~。食べよ~う。」

「では皆さん、このプリンというお菓子をいただきましょう。女神様に恵みの感謝と、ルシアナさん、クシーナさん、ベルナルドさんに感謝して。"いただきます。"」

「"いただきます!"」

シスターが女神とルシアナ達に感謝を述べて"いただきます"をしてからプリンを食べ始めた。以前ルシアナ達が孤児院を訪れた際に"いただきます"と言って食べた時に、シスターや子供達に意味を聞かれ説明したら"いただきます"という言葉に感銘を受け、それから孤児院でも食事やおやつの際に"いただきます"を言うようになっていたのである。

「わあ、おいしい~。」

「んん~!あま~い。」

子供達達は目をキラキラとさせたり、頬っぺたを両手で押さえたりと、プリンの美味しさに感動していた。

「お好みでカラメルソースっていう甘いソースが有るからね~、掛けて食べてみたい人~。」

今回のプリンはカラメルソースを別に作り、お好みで掛ける仕様になっていた。底に入れてしまうと最後しかカラメルを味わえないのと、皿に移して食べると汚れ物が多くなってしまうし、なにより容器から形を崩さずに取り出すのが大変だったからだ。

「あれ?誰も掛けないの?」

カラメルソースの見た目が黒くドロドロしていた為、子供達は手を挙げるのを躊躇っていた。

「じゃあ、みんな少しだけ食べてみて~。」

クシーナはそう言うと子供達のプリンに一滴ずつカラメルソースを垂らしていった。

「んん・・・・えい!」 

クシーナが垂らしたカラメルソースを皆ジッと見つめて食べようとしなかったが、一人の子供が意を決したようにカラメルソースとプリンを口に運んだ。 

「んん!!おいしい!味が変わっておいしい!」

その言葉をきっかけに他の子供達もカラメルソースを口に運び、美味しさに驚いていた。そして一斉にクシーナの元へプリンの容器を持って行き全員がカラメルソースを掛けてプリンを味わった。
 そしてその後ルシアナとクシーナは子供達と遊び、ベルナルドは少し大きい子供達にせがまれ、剣を教えて1日過ごした。

「皆さん、今日は本当に有り難うございました。」

「いえ、良いんですよ。私達も楽しかったですからね。 」

「そうですな。逆に私達が元気を貰っておりますからな。」

「そうそう。子供達の笑顔が見れて幸せだったのにゃ~。」

1日孤児院で過ごしたルシアナ達にシスターが感謝をして挨拶をすると、ルシアナ達は自分達も楽しかったと言って挨拶を交わした。

「あ、そうでしたわ。これ、みんなから寄付金です。」

そう言ってルシアナが革の袋をシスターに手渡した。

「有り難うございます。大切に使わせて頂きます。」

寄付金を受け取ったシスターは革袋を抱き締めるように胸の前で握り締めると、深々と頭を下げた。

「みんなから頂いて結構な額になったんです。早めにどこかへ預けるか、仕舞って下さいね。」

頭を下げるシスターにルシアナが言うと、シスターは革袋の口を開き中身を見て驚いていた。

「えっ!こ、これって、白金貨・・・しかもこんなに・・・ルシアナさん、こんなに頂く訳にはっ」

驚いて声を上げるシスターの口にルシアナが指を当てて塞いだ。そしてそのままルシアナが笑顔でシスターに話し掛けた。

「良いのよ、私達こう見えてもAランクの冒険者なの、暫く来ない間に沢山魔物を倒したからお金は有るのよ。だから気にしないで。」

今回の寄付金は白金貨が10枚程で、総額1億ベルク程になるが、連日のレベル上げで狩った魔物を換金し均等に分配したのだが、それでも1人当たりがかなりの額になっており、ルシアナ達が孤児院に行くことを知った他のメンバーが少しずつ寄付してくれたのである。

「本当に、何から何まで・・・・」

シスターは革袋をぎゅっと握り締め、涙を流して何度もルシアナ達に頭を下げた。

「孤児院の経営は苦しかったので本当に助かります。」

「この街の領主は何をしてるんだか、国の宝である子供達に苦しい思いをさせるとは!」

ベルナルドはシスターが苦労して孤児院を切り盛りしてた事を想い、そう憤っていた。

「領主様は寄付を定期的にしてくださっています。そのお陰で何とか切り盛りする事が出来てたんです、ですから領主様には感謝しているんですよ・・・」

そう話すシスターであったが、最後に何かを言いたげであったのに気付いたベルナルドがシスターに問い掛けた。

「シスター、何か気になる事でもお有りですかな?」

「あ、いえ。大した事では無いんですが、先日この街の領主様の使いという方が見えて、寄付金の事帳簿を見せて欲しいと言うのでお見せしてのですが、今までそんな事は無かったのにどうしてだろうと思いまして。」

「そうでありますか。では、我らのリーダーは領主とも仲が良いようなので、帰ったら聞いてみましょう、そして何か判ったら報告しにまいります。」

「まあ、領主さまと。凄い方なんですね、皆さんのリーダーは。」

「凄いと言うか。不思議な人ね。」

「そうですな。不思議なお方でありますな。」

「え~、タケるんは優しいよ~。それでね、アルみんの婚約者なんだよ~。」

「あら、まあ。アルミスさんの!うふふ、きっと素敵な方なんでしょうね。」

クシーナ達の話を聞いてシスターはタケルの事を想像したのか、そう言ってにこやかに笑っていた。

 その後シスターと再び挨拶を交わしルシアナ達は宿へと帰って行った。

 久しぶりにミレーナと遊ぶ事にしたミレイアは、街外に二人で来ていた。

「ミレイアちゃん、こんな所に二人で来て大丈夫?魔物が現れたら大変だよ。」

「大丈夫よ、ここら辺の魔物だったら私1人でどうにでもなるわ。」

「そうなの?でも無理はしちゃ駄目だよ、危なくなる前に逃げようね。」

「大丈夫よ。それより、魔法覚えたいんでしょ?」

「うん!覚えたい!でも私に使えるようになるかなあ・・・」

ミレイアとミレーナは二人で魔法の練習をする為に街の外に来ていたようである。タケルが居なくてもタケルの異空間に行けるようにしてもらっていたが、ミレーナを連れて行く訳にもいかず、人気の無い街の外に来ていたのである。

「じゃあ、まずは生活魔法から行きましょうか。魔法としては基本中の基本だけど、凄く便利よ。」

「うん!頑張る!」

「じゃあ、ウォーターからいきましょうか。」

「うん!判った!よろしくね、ミレイアちゃん。」

そうしてミレイアとミレーナの二人だけの魔法の特訓が始まり、それは夕方まで続いた。

「クリーン!」

ミレーナがそう言うと、わざと汚したミレイアの服がキレイなった。

「やった!出来た!」

「凄いじゃない、ミレーナ!頑張ったわね。」

「ううん。先生の教え方が上手だったからだよ。有り難う、ミレイアちゃん。」

「そんな事無いわ、貴女には素質が有ったのよ。早速帰ってメリッサさんに見せてあげましょう。」

「えへへ。そうだね、早く帰ってお母さんを驚かせてあげるんだ。」

そう言うと二人は手を繋ぎ街へ向かって歩き始めた。すると、1台の馬車がミレイア達の背後からやって来て、通りすぎる瞬間に男達が飛び降りてミレイアとミレーナに麻袋を被せたかと思うと、そのまま抱え上げ馬車に積み込み、勢い良く馬車を走らせた。そして馬車の中で麻袋の上から猿ぐつわを噛まされ、声を出せなくされてしまった。



「はは!やっだぜ!こんなガキでも魔法使いだからな、高く売れるぜ!」

「しかし上手く行ったな。作戦通りだぜ!」

「最初は魔法使いなんて厄介だと思ったが、詠唱させる暇を与えなければ楽勝だな。」

馬車の中で男達がそう話していた、どえやらミレイア達を拐って売り飛ばす気でいるようで、上手く捕まえられた事に気を良くしていた。

「今日の収穫は上場だ。このままアジトのガキ共を積んで売に行くぞ!」

御者席に座っている男が中の男達にそう声を掛けた。

(私達の他にも拐われた子が居るのね、じゃあこのまま大人しくしていてアジトまで案内して貰おうかしら。)

ミレイアは急に麻袋を被せられ驚きはしたものの、いつでも反撃して男達を倒す事は出来たのだが、ミレーナの安全を優先させ、大人しくして冷静に男達の話に耳を傾けていた。

(それにしても揺れるわね。タケルの馬車の凄さが改めて判ったわ。)

ミレイアがそう考えていると、馬車の速度が落ちてゆっくりとなり、そして馬車が停車した。

「おい、アジトを確認してこい。」

「ハイ、アニキ。」

御者の男の命令で1人の男が馬車を降りて小走りで走り去って行った。

(用心深いわね。アジトが押さえられてたら待ち伏せされて一網打尽ですものね。)

暫く馬車は停車していたが、安全が確認出来たのか馬車がゆっくりと動き始めた。そして暫く走るとアジトに着いたのか、馬車がまた停車した。

「おう、ガキを一旦下ろせ。このまま買い付けに来るらしい。」

(あら、買う方も来るなんてツイてるわね。まとめて一網打尽にしてあげるわ。)

ミレイアは大人しくアジトに運ばれると、魔法で麻袋をバレないように穴を開けて内部を確認した。

(5、6、7、あっちに3人で10人ね。あとは買い付けに来る奴が何人で来るかね。)

ミレイアは人拐いの一味の人数を数えると、次に同じように拐われた子供達を確認した。

(3、4、5、私とミレーナを含めて7人ね。)

ミレイアは人数を確認すると、バレないように周囲を確認すると、買付の者が来るのを大人しく待つことにした。

「おい、誰か来たぞ!アイツか?」

「わからん、念の為合図を送れ。」

そう声が聞こえたかと思うと、子供達の見張りの男がミレイア達に話し掛けてきた。

「ヒッヒッヒッ。お前達はもうすぐ売られて遠い所へ行くんだ、もう親に会う事も無いだろうな。ヒッヒッヒッ!」

(コイツ!ワザワザ不安を煽るような事を!)

ミレイアは男が吐いた言葉に怒っていた。事実男がそう言った途端に、子供達が声にならない声で泣き出していた。
 
「ほう、今回は大量じゃないか。」

(来たわね!)

子供達を買い付けに来たであろう男がアジトに入って来て、子供達をみて嬉しそうにそう言っていた。

そう言うと、ミレイアは男の方を密かに見て顔を確認した。

(あいつ・・・どこかで見た事有るわね、どこで見たのかしら・・・)

ミレイアは男の顔を確認して、どこかで見たこと有ると思ったが、どうしても思い出せないでいた。



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