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2章3部フィナールの街編

42話 鎚

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テオドルと共にフィナール伯爵専属の鍛冶師オットーの元へやって来たタケルは、オットーからサスペンションの構造についての質問に答え、実際に作業を開始しようとした時にテオドルからオットーの工場に有る炉では火力が足りないと言われた。そこでスプリングの太さを変えて作ることにしてみたが、今度は複雑になりすぎてしまった。するとタケルは方針転換で商会を立ち上げ販売と改造を請け負う事にした。フィナール伯爵に話をしに行くと許可を貰えたので、その足でフィナール伯爵と共に新しい工場を造りに行った。魔法で出来上がった工場にオットーを連れてきた。するとオットーはあまりの出来事にフリーズしてしまった。 


「あれ?オットーさん?」

タケルはオットーの目の前で掌を上下させてそう声を掛けた。

「タケル。そりゃあそうなるのも当然だろ。ワシでさえ驚いているんだからな。」

「ちょっとやり過ぎちゃいましたかね。」

「ちょっとでは無いな。」

「確かにタケル君はやり過ぎてるな。」

テオドルに続いてフィナール伯爵もタケルがやり過ぎだと言ってニヤニヤと笑っていた。 

「もう、判りました。いじめないで下さいよ。」

「いじめてなんかないさ。事実を言ったまでだ。」

「すまん。私は少しからかった。」 

テオドルは真顔で事実を言ったが、フィナール伯爵はあまりにも規格外の魔法を使い、それでもケロッとしてるタケルを少しからかいたかったようである。

「取り敢えずオットーさんを元に戻さないとですね。」

タケルは【再起動】の魔法を使いオットーをフリーズから再起動させた。

「ハッ!僕は一体・・・」

「気が付いたかね、オットー君。」

「あ、伯爵様!」

「あ~良い良い。楽にしてくれ。」

フィナール伯爵に気付き姿勢を正して挨拶をしようとするオットーをフィナール伯爵はそう言って制した。

「あっ、は、はいっ。」

「オットーさん。驚かせてすいません。俺のユニーク魔法なんですよ。」

「ユニーク魔法・・・凄い魔法ですね、ここまで出来るなんて思いもしませんでした。」

「まあ、人より少し色々と出来るだけですよ。それより、中に入って内装と工具を作りましょう。」

「うん、判ったよ。行こうか。」

タケルがそう言うと、オットーは鍛冶師の顔になり、タケル達と共に建物の中に入って行った。

「じゃあ、問題のスプリングを作る場所からですね。」

「そうだね、それじゃあここら辺に───」

そうしてタケルとオットーは工場内をアチコチ歩き回り、炉や鍛冶場、金属の加工場、組立‥様々な物を作り設置していった。途中テオドルのアドバイスも貰いながら、この時代の技術では作れないと判断した物はタケルが魔石を使い専用の工具や機械を作った。そしてタケルが居なくてもそれらの機械や工具を修復出来るように作業用ゴーレムも設置した。全てをゴーレムで作る事も出来たが、フィナール伯爵から雇用を増やしたいとの要望と、オットーから技術を自分達の物にしたいとの要望で、必要最小限のゴーレムだけ設置する事になった。

「よし、これで最後ですね。」

「ええ。完成しましたね。」

タケルが最後の機械を設置し終わりそう言うと、オットーが感慨深げにそう言って工場を見渡していた。

「しかし1日で全て作ってしまうとはね。タケル君がその気になったら街中の人が職を失ってしまうな。」

フィナール伯爵がそう言って工場を見渡していた。

「そんな事しませんよ。自分で商売をするとか考えてませんし。」

「是非その考えを維持して貰いたいものだ。」

「ああ、まったくだ。」

「はいはい、判りましたよ。冒険者稼業を頑張りますよ。」

タケルはテオドルとフィナール伯爵とそんな話をして笑い合っていた。そしてそんな3人を不思議な気持ちでオットーは見つめていた。普段は威厳に満ちているフィナール伯爵だが、今は自分達と一緒に冗談を言いながら笑い合っているのである。そんなフィナール伯爵の姿を今日初めて見て、オットーは不思議な気持ちになると同時にどこか嬉しい気持ちであった。

「あ、伯爵。お昼を随分過ぎてしまいましたが、大丈夫ですか?」

「あ、そうだったね、昼過ぎには戻らないと行けなかったんだ。タケル君、悪いんだけど屋敷まで良いかい?」 

「ええ、勿論、お送りしますよ。」

タケルはオットーとテオドルに伯爵を送ってくる事を伝えると、転移でフィナール伯爵の屋敷の執務室に戻った。


「すまなかったね。商会の件だけど、会頭は暫くは私が兼任するよ。オットーは今は固辞してるけど、ゆくゆくはオットーに任せるつもりだ。」

「おお、それは良いですね。きっとその頃にはオットーさんも自信が付いてるでしょうしね。」

タケルとフィナール伯爵がそう話をしていると、執務室の扉がノックされた。

「旦那様、お帰りでしょうか?」

「おお、バルタサールか。すまない、遅くなった。」

フィナール伯爵がそう言うと扉が開き、バルタサールが執務室へ入って来た。

「お食事はどうなさいますか?」

「おお、そうだったな。タケル君もどうかね?」

「あ、俺はオットーさん達を待たせてるので、またの機会にお願い致します。」

「そうか、ではオットーに宜しく伝えておいてくれ。」

「判りました。では失礼致します。」

タケルはそう言って転移で工場に戻った。工場に戻るとオットーとテオドルが炉に火を入れており、二人で炉の炎を見つめていた。

「おお、タケル。戻ったか、今丁度炉に火を入れた所だ。」

「どうですか?新しい炉は?」

「おう、温度も申し分無いし、問題無いな。」

テオドルは炉を親指で指差し、満足そうにそう言っていた。

「じゃあ、ちょっと作ってみましょうか。」

「そうだね。」

「ワシも手伝うぞ。」

その後、タケルとオットーはテオドルの手も借りて馬車の部品を作り始めた。そして一つ一つ部品を作っていき、最後に部品を組立てて馬車に組み込み終わったのは、部品を作り始めてから3日後であった。

「完成したね。」

「ああ、出来たな。」

「凄い・・・部品から作り初めて3日で出来上がっちゃうなんて・・・」

タケルとテオドルは完成した事に満足していたが、オットーはたった3日で完成した事に自分の事ながら驚いていた。通常であれば部品を作り終わるまでに何週間も掛かり、それらを組み立てて馬車に組み込む迄にさらに数週間掛かるような代物だったからである。それをたった3人で行い、3日で終わらせたのである。オットーが驚くのも無理は無かった。

「ワシとタケルが居たからな。魔力もふんだんに使える分、待つことも無かったしな。」

驚くオットーに対しテオドルがそう言って機械をポンポンと叩いて笑っていた。

「そうですね、タケルさんの考えた工具や機械はどれも見た事の無い物ばかりで、性能も素晴らしい物でしたが、僕には魔力が殆ど有りませんからね。」

オットーがそう言いながら完成した馬車と工場の機械や工具を見渡していた。

「タケル。レベル上げはいつまでやるんだ?」

「あと2、3日ですね。」

「じゃあ、残りの日数はアイツも連れてってやってくれないか?」

「成る程、レベルが上がれば魔力も力も上がりますからね。やりましょう。」

タケルとテオドルはそう話して盛り上がっていたが、二人が話をしているのを聞いてオットーは意味が判らずキョトンとしていた。 
 その後完成した馬車の試乗をし、タケルがオットーにレベル上げの事を話すと、初めは自分には無理だと断っていたが、テオドルにレベルが上がれば鍛冶もしやすくなり、良いものが作れるようになるという説明を受け。オットー自らお願いする形でレベル上げをする事になった。その後、アルセリオ達のレベル上げにオットーも混ぜてもらい、護衛も兼ねてタケルも合流して残りのレベル上げをこなした。

 アルセリオ達のレベル上げも終わり、それぞれがSランククラスの強さをを手に入れていた。途中抜けたテオドルもAランククラスになっていた。そしてオットーもレベルだけならAランクの冒険者並に強くなっていた。

「オットーさん、随分レベル上がりましたね。これはAランク冒険者クラスですよ。」

「でも何もしてないからね、力と魔力が増えただけで、スキルも何も増えて無いからやっぱり戦闘には向かないよ。」 

オットーのレベルはタケル達とのレベル上げによってAランク冒険者クラスまで上がってはいたが、戦闘には一切参加していなかったので基本ステータスのみしか上がっていなかったのである。元々の目的がタケル特製の機械や工具を使うのに魔力が必要だったのでレベル上げをしたので本人は強くなったからと言って特に喜んではいなかった。それよりも基本ステータスが上がった事により、鍛冶のレベルが上がりやすくなっており、力と魔力が増えた事でより高度な加工が出来るようになった事を喜んでいた。

「まあ、鍛冶師は必要以上に戦う必要は無いからな。レベルがAランククラスになっても、より良い物を作る事に情熱を注ぐのが鍛冶師ってもんよ。なあ、オットーよ。」

「はい!その通りだと思います!今は早く作りたくてウズウズしてますよ。」

「オットーさん。ちょっと鍛冶場借りて良いですか?」

話の途中でいきなりタケルが鍛冶場を借りたいと言い、オットーは少し驚いたが元々タケルに作って貰った物なので快く承諾した。

「じゃあ、ちょっと借りますね。」

タケルはそう言うと鍛冶場に行き何かを作り始めた。材料は魔法で予め混ぜてある合金のようであった。そして一振り毎に魔力を込め、鎚を振り続けた。
 そして一時間程するとテオドルと鍛冶談義に花を咲かせているオットーの元へ、タケルが何かを担いで戻って来た。

「久し振りに鍛冶をしたけど、なかなか良い物が出来たよ。」

タケルはそう言って肩に担いでいた物をオットーに手渡した。

「こ、これは!凄い!なんて凄い鎚なんだ!」

タケルが作った物は鍛冶に使う鎚であった。アイテムボックスに有った希少鉱石を混ぜ合わせ、硬く粘りの有る鎚を作ったのだ。そして魔力を込めて打った鎚はまるで魔道具のように魔力を帯びており、より高度な加工が出来る優れもので、魔法の鎚と言っても過言ではない代物であった。          

「おい、タケル!なんだそりゃあ!とんでもねえもんを作り上げやがったな。」

「え?何がです?」

「何がですってお前、その鎚だよ!その鎚はドワーフの国の国宝、いやもっと価値の有るもんだ、そんなもんをこんな短時間で・・・」

オットーもテオドルもタケルの作った鎚を見て驚いていた。鍛冶師にとって鎚は金属を鍛えるのに無くてはならない物である。そしてこの世界では鎚にも武器の強さのようにランクが有り、ランクが高い鎚で打てばそれだけ良いものが作れるからであった。

「そんなに凄いもんなんですか?確かにちょっと気合い入れて作りましたけど。」

「まったくお前さんってやつは本当に非常識な奴だよ。」

「ええ、ヒドイ!」

「本当なんだから仕方無いだろ!で?そんな鎚を作って一体何を作ろうってんだ?」

テオドルはタケルが何かを作りたくてそんなに凄い鎚を作ったのだの思い、タケルにそう問い掛けた。

「あ、いや。これはオットーさんのレベル上げの終了のお祝いにと思って作ったんですよ。」

「なにいいいいい!その鎚をオットーにやるだと?お前さんは何を考えてんだ!?」

タケルが作ったドワーフの国宝以上の鎚をお祝いにあげてしまうと聞き、テオドルは顔を赤くしそう声を張り上げていた。

「そう言われてももう作っちゃったし、オットーさんのレベルに合った物をと思って作ったらこうなったんですよ。」

タケルの雲斬丸もそうであるが、ランクの高い武器はレベルの低い者には使いこなす事が出来ない、逆を言うとレベルの高い者には普通の武器や道具では物足りないのである。例えば武器であればその威力に耐えきれず壊れてしまうのである。タケルは錬金術や【メイクアイテム】の魔法を織り混ぜて普通の鎚でその鎚を作り上げたが、通常ではあり得ない事であった。そしてタケルはオットーのレベルが上がった事を受け、オットーのレベルに見合った物を作り上げた結果があの鎚であったのである。

「全くお前さんって奴は・・・弟子の弟子のくせして、ワシよりも凄いもん作りおってからに。」

テオドルはそう憎まれ口を叩いたが、その表情はどこか嬉しそうであった。

「テオドルさんも随分とレベルが上がりましたから、新しい鎚を作りましょうか?」

「まるでワシが欲しがったみたいじゃないか!要らんわ!・・・・・しかし、タケルがどうしてもって言うなら受けとらん事もないがの。」

(おいおい、爺さんのツンデレは勘弁してくれよ・・・)

テオドルは素直に喜んでお願いする事が出来ず、そう言って腕を組みそっぽを向いていたが、タケルの事をチラチラと見ていた。

(欲しいって言えば良いのに・・・まあ作るけどさ、仕方無いな。)

「テオドルさん、レベルが上がったお祝いに俺が作った鎚を贈らせて下さい。」

「お?そうか?タケルがそう言うなら受け取ってやっても良いぞ。」

タケルが言葉を選び鎚を贈らせて欲しいと言うと、テオドルはそう言いながら楽しみで仕方ないのか、どこかウキウキとしていた。

「じゃあ、少し待ってて下さいね。」

タケルはそう言うと先程と同様魔法で合金を作り、それから鍛冶で鎚を作り始めた。そして一時間後、テオドル用の鎚を作り上げた。

「やばいな。ちょっと気合いを入れすぎたかな・・・」

テオドル用として出来上がった鎚はオットー用に作った鎚よりも数段出来の良い物であった。

「さっきのであんなに驚かれたのに、これ見せたらどんな事になるか・・・・うん。むしろ見てみたい。」

タケルはそう言うと、テオドルがどんな反応をするのか楽しみで足取りも軽く、鎚を担いでテオドルの元へ向かった。

「テオドルさん、出来ましたよ。」

またしてもオットーと鍛冶談義をしているテオドルに、そう言って腕を突き出して鎚を見せると、テオドルは驚きのあまり腰を抜かしてしまった。

「なっ、た、た、タケル!なんだそりゃあ!」

(おお、なかなかの反応。)

「レベルが上がったお祝いです。受け取って下さい。」

タケルはそう言って両手で鎚を持ち、テオドルに差し出した。

「・・・・」

テオドルは黙って手を鎚に伸ばした。すると、鎚をタケルに押し戻したのである。

「え?どうしたんですか?」

「た、タケル・・・なんてもんを作ったんだ。その鎚は凄すぎてワシには扱えん。」

「え?」

タケルは気合いを入れすぎて凄すぎる物を作り上げてしまったようである。凄すぎるあまり、レベルが上がったテオドルでさえも使う事が出来ない程の物になってしまっていたのである。

「お前さんの雲斬丸。あれは並の剣士じゃ使えんだろ、今作った鎚も同じでワシには使えん。」

「あ~~、じゃあどうしたら・・・」

「それはお前さんが使えば良い。ワシにはオットーと同じ位の物を作ってくれ。」

「あ、はい・・・」

そうしてタケルは再びテオドル用の鎚を作る事になったのであった。
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