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2章3部フィナールの街編

27話 狩りの前に。

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店の主人に勧められ、奥の工場に来たタケル達は、テオドルに武器を見立てて貰った。代金を払おうとすると、要らないから刀の作り方を教えてくれとテオドルは言てきた。タケルは承諾し、その後レベル上げに連れて行くと言うと、自分も連れて行ってくれと言ってきた。そして場所をシーバムの大森林だと言うと驚いてはいたが、フェレーロの手紙とタケルの名前で女神の使徒だと気付いたらしい。その後シーバムの遺跡近くに転移したタケル達であったが、頭上にタケルの従魔シルヴァが現れ、舞い降りて来ていた。タケルの従魔だと知らないテオドル達はドラゴンが出たと思い驚いていた。

「凄い、キレイ・・・」

しかしテイマーのレナーテだけは目を輝かせながらシルヴァを見上げ、そう呟いた。
 シルヴァはゆっくりと着地すると、フィデル達に少しだけ目を配らせると、タケルに話し掛けた。
 
「主よ、先日とは違う者達を連れて居るが、今日はどうされた?」

「やあ、シルヴァ。今日はちょっとこの人達のレベル上げをしようと思ってね。」

「そうか。では主の仲間という事か。」

そう言ってシルヴァがフィデル達の方を見ると、ドラゴンが襲って来たかと思ったらタケルと会話を始めたのを見て唖然としていた。しかしテオドルは戦斧を肩に担ぎ、シルヴァに近付いて行くと、シルヴァに話し掛けた。

「おう、白いの!お前さんはタケルの知り合いなのか?」

「いや、われの主だ、ドワーフよ。」

「かぁー!ドラゴンを従えてるとは凄いな、タケルよう。」

「シルヴァはただのドラゴンじゃないですよ、シルヴァは聖獣なんです。」

「おお、聖獣?話には聞いた事あったが、本当に居るたぁな。」

テオドルはそう言うと、シルヴァの足をポンポンと叩いた。すると、それを見ていたレナーテがタケルの元へ恐る恐るやって来て話し掛けた。

「あの。ごしゅ・・・タケルさん。お願いが有ります。」

「ん?どうしたの?」

レナーテは少し言いにくそうにしながらモジモジしてタケルに話し掛けた。

「あ、あの・・・わ、私もあのドラゴンに、さ、触っても宜しいですか?」

どうやらレナーテはシルヴァに触りたかったようだ、しかしテオドルが触ったのを見て我慢出来なくなったのか、タケルに聞いて来たのだ。

「ああ、触りたかったの?良いよ遠慮しなくても。シルヴァも良いだろ?」

「ああ、我は構わない。」

「だってさ。」

タケルがそう言うと、レナーテは嬉しそうな顔をすると、タケルに頭を下げてシルヴァの足元へ走って行った。そして勢いよくシルヴァの足にしがみつくと、頬ずりをして幸せそうな顔をしていた。

「女、そなたは不思議な感じがするな、そなたに触られると気分が良い。」

シルヴァはレナーテに抱き付かれ、気持ち良さそうな顔をしながらそう言ってレナーテに顔を近付けた。

「あ、そうだシルヴァ、彼女は特殊調教師って言ってテイマーなんだけど、ここら辺に丁度良い奴居ないかな?」

「なるほど、この女の従魔にする訳だな、主よ。」

「そうそう。どうせなら強いのが良いかなと思ってね。」

タケルがそう言うと、シルヴァは少し考えて口を開いた。

「主よ、丁度良いのが居るぞ、我の下僕しもべとなった種族が居る。今呼ぼう。」

シルヴァはそう言うと、ゆっくりと体を起こした。

「テオドルさん、レナーテ!シルヴァから離れて!」

タケルはそう言うと、急いで防音の結界を張り、テオドルやフィデル達を包んだ。その瞬間、シルヴァが空に向かって咆哮のような大きな声を上げた。

「危な!ギリギリ間に合った。シルヴァ!駄目だよ、俺は大丈夫だけど、他の人はシルヴァのそんな大きな声を間近で聞いたら、気絶しちゃうよ。」

いきなり大きな声を上げたシルヴァをタケルが叱った、タケルとやアルセリオは主でアルセリオは加護を受けているから平気であったが、テオドルやフィデル達が間近で聞いてしまったら、鼓膜が破れたり、気絶してしまったかもしれなかった。 

「すまぬ、主よ。」

シルヴァはタケルに叱られ、シュンとしてしまい、叱られた子犬のように頭を下げた。

「ワハハハ!聖獣もタケルには頭が上がらないとはな。」

テオドルが叱られた子犬のようになったシルヴァを見て、腰に手を添えて笑っていた。 その時、周囲から狼のような遠吠えが聞こえてた。

「なんだ?魔物か?」

アルセリオ達は咄嗟に武器に手を掛けた。

「大丈夫だ、我が呼んだ者達だ。」

武器に手を掛けたアルセリオ達を見てシルヴァがそう言った。アルセリオ達はシルヴァにそう言われ、周囲を警戒しながらもゆっくりと武器から手を離した。

「うん、確かに敵意は無いね。それにしても結構な数だな。」

タケルがマップに表示された魔物を確認してそう言うと、アルセリオ達は緊張を解いた。

「なあ、一体どんなのが来るんだ?」

「さあ?俺も見た事無い奴みたいで、種類までは判らないな。でも狼みたいな鳴き声だったね。」

「襲って来ないなら、何でも構わないけどな。」

テオドルが髭を触りながら笑っていた。

「そろそろ見えるよ。」

タケルがそう言うと、森の中から大きな狼が飛び出して来て、シルヴァの前にお座りの体制で座った。それを皮切りに数十頭の大きな狼がシルヴァの回りに集まり座った。

「はぁ~っ。こりゃすげえ!黒狼がこんなに揃うとはな!」

「これ、全部シルヴァの下僕なのか?」

アルセリオが黒狼の群れを見渡してシルヴァに尋ねた。

「そうだ、全て我の下僕だ。テイマーの女、好きな者を選ぶが良い。」

シルヴァにそう言われたレナーテは、黒狼の間をスルスルとぬって通り抜け、最初にシルヴァの前に座った黒狼の元へ行くと、そっと手を置いた。

「ほう、大したものだ、この中から王狼種を選ぶか。」

「王狼種?なんだ、それ?」

シルヴァが言った王狼種と言う言葉に、アルセリオはよく判らず、シルヴァに尋ねた。

「知らぬのも無理はない。黒狼種の中から希に生まれる個体で、生まれながらに1つ進化したのと同じ状態の個体が現れるのだ。それが王狼種、黒狼種を束ねる王となる個体だ。」

「え?でも見た目は同じだぞ?」

アルセリオの言うとおり、レナーテの選んだ固体は、他の黒狼と体の大きさも色も大して変わらなかった。

「それはそうだ、王狼種は成体になり、覚醒せぬと見た目は変わらぬからな。」

「へえ、そうなのか。それで覚醒ってどうすればするんだ?」

「それは我にも判らん。希にしか生まれぬ王狼種であるが、覚醒する者も稀で有るからな。」

「え?それじゃあ、本当に覚醒した個体って存在するの?」

タケルがその少ない確率に驚き、シルヴァに尋ねた。

「我がまだ生まれたての子供のドラゴンであった時に一度見た事が有るだけで、ここ数百年は見た事が無いな、主よ。」

「そうか。じゃあ実際に見るのは難しいかな。」

その時、レナーテが恐る恐るタケルに声を掛けた。

「あ、あの。た、タケルさん。ちょっと良いですか?」

「ん?なに?良いよ。」

「こ、この子がタケルにさんと話がしたいそうなんです。」

「え?レナーテさん、黒狼の言葉が判るの?」

タケルは驚いていた、自分以外に魔物や動物の言葉が判る者が居たからである。そしてタケルは暫く使わないようにしていた全言語理解を使い、王狼種と話しをしてみることにした。

「じゃあ、ちょっとそっちにいくよ。」

そう言ってタケルは王狼種の元へ歩いて行った。

「あの、この子は」

「あっ、大丈夫、俺も話せるから。」

タケルはそう言って王狼種に話し掛けた。

「やあ、話が有るんだって?」

「あれ!君話せるの?凄いね!」

「うん。そうだよ、そこのお姉さんと一緒で話せるんだよ。」

「そうだね、一緒だね~。でも君の方が上手に話してるよ。」

「それで、話ってなに?」

「うんとね、君は僕たちの主の主なんでしよ?」

「うん。そうだよ。」

「そうなんだ。あのね、ボクも主みたいな名前が欲しいんだ、主に名前を付けてってお願いしたら、主の主に名前を付けて貰えって言われたんだ。だから君に名前を付けて欲しいと思ったんだ。」

「そっか。じゃあ、俺よりもレナーテに付けて貰った方が良いんじゃない?」

「うんとね、魔力が強い者から名前付けて貰った方が良いって主が言ってたの。」

この世界の魔物は基本的に名前が無い、必要が無いからである。そして名前を付け、相手がそれを受け入れると、名付け親から魔力も与えられるのである。名前と魔力を与えられた魔物は、与えられた魔力量により姿形が変わり、存在進化を遂げたりする事が出来るのである。存在進化とは、通常は何世代もかけて少しずつ進化するのを、自身が生きながら自分だけ進化する事である。

「あの、タケルさん。私からも是非お願いします。」

話を聞いていたレナーテがタケルに名前を付けて欲しいと言ってきた。レナーテが選んだ王狼種だが、タケルが名前を付けても構わないようだ。

「そう?レナーテが良いなら俺が付けても構わないけど・・・」

(んん~どうするかな。)

タケルが名前を悩んでいると、王狼種があくびをした。その時、牙が青白く光ったのをタケルの目にした。

「青白く光った・・青白い・・・蒼白・・・青い牙・・・蒼牙・・・よし決めた!」

タケルは王狼種の目を見て話し始めた。

「決めたよ、君の名前は蒼牙そうが、俺の国の言葉で青い牙って意味だ。」

「ソウガ?」

「うん。蒼牙、それが君の名前だよ。」

「ソウガ!僕の名前はソウガ!」

蒼牙とタケルに名付けられた王狼種は、名前を気に入ったようで、その場でグルグル回ったり飛び跳ねたりして喜んでいた。

「タケルさん、蒼牙、素敵な名前です。あの子も気に入ったようです。素敵な名前ありがとうございます。」

レナーテはそう言って頭を下げた。その時、はしゃいでいる蒼牙の体が光り輝き蒼白い光に包まれた。

「お?もしかして進化か?」

タケルはアルバやシルヴァの時のように進化するかもしれないと期待してワクワクしながら見守った。暫くすると、蒼牙を包んだ光が消えて、少し青みがかった毛色、頭には角が生え、体も一際大きくなった蒼牙の姿がそこにあった。

「何だか元気になった!」

蒼牙は自分の変化に気付いていないようであったが、蒼牙の姿を見たシルヴァとテオドルが驚きの声を上げた。

「なんと!王狼として覚醒どころか、更に上のフェンリルに存在進化を果たすとは!」

「なっ!ありゃあフェンリルじゃねえか!」


シルヴァとテオドルの驚きをよそに、蒼牙は存在進化を果たした事で溢れ出る力にはしゃぎ、子犬のように走り回っていた。

「すごーい!体が軽いよ!」

「・・・・」

はしゃぐ蒼牙を暫く見つめていたシルヴァであったが、姿勢を正すと蒼牙に話し掛けた。

「蒼牙よ。お主に話がある。」

「なあに、主。」

「蒼牙よ、お主は今迄は我の下僕であったが、お主も我が主より蒼牙という名を賜り、存在進化も果たした。よってお主は我と兄弟格となり、我が主に共に仕えるのだ。良いな!」

シルヴァにそう言われた蒼牙であったが、よく判ってないらしく、首を傾げていた。

「主はもう主じゃないの?主の主がボクの主になるの?それで主はボクの兄弟?」

「そうだ、蒼牙よ。しっかりとお仕えするのだぞ!」

「うん、判った!」

蒼牙はそう言って尻尾をブンブンと振っていた。

「蒼牙、ちょっと良いかい?」

タケルが蒼牙に優しく話し掛けた。そして蒼牙は尻尾を振りながらタケルの方を向いて座った。

「はい!主。」

「蒼牙はレナーテ、あのお姉さんの事はどう思う?」

タケルはレナーテを指差して蒼牙に尋ねた。

「あのお姉ちゃん?よくは知らないけど、好き!触られると気持ち良いんだ!」

「そう、じゃあ今日から蒼牙はあのお姉さんの言う事を聞いてね。」

「あのお姉ちゃんの言う事?・・・うん、判った!ボク言う事聞く!」

「そうか、良い子だ、レナーテを宜しく頼むぞ!」

タケルはレナーテを手招きして蒼牙の近くに寄らせると、レナーテに話し掛けた。

「レナーテさん、今日から蒼牙の世話はレナーテさんがして下さい。」

「は、はい!タケルにさん!」

レナーテは満面の笑みを浮かべ、そう言ってタケルに頭を下げると、蒼牙に抱き付き撫で回した。タケルはその様子をみて微笑んでいたが、他の黒狼の方を向いて声を上げて話始めた。

「みんな!俺達はこれから狩りに行くんだ!俺のパーティーメンバーを背中に乗せても良いと思ったら前へ出てくれ。」

タケルがそう言うと、全ての黒狼が前へ出てきた。

「ああ~、ゴメン、取り敢えず今はここに居るメンバーのみで良いんだ。申し訳ないけどこっちから選ばせて貰うよ。」

タケルはそう言うと、フィデル達に話し掛けた。

「フィデルさん、好きな黒狼を選んで下さい、背中に乗せてくるれるそうです、みんなも選んで下さい。」

フィデル達はタケルに言われると、自分を選んで欲しくて尻尾を振っている黒狼達の中へと入って行った。

「アル!テオドルさん!好きな黒狼を選んで下さい。」

タケルがそう言うと、アルセリオは群れで一番大きな個体をすぐに選んだ、そしてテオドルは一番小さな個体を選んで撫でていた。

「さて、俺はどうするかな。」

タケルがそう呟くと、選ばれて無い黒狼達が一斉にタケルの元へ集まって来た。

「えっと。 困ったな。」

タケルは一匹に絞る事が出来ずに困ってしまっていた。

「そうだ。みんな!俺の仲間はまだ他にも居る!その時にまたお願いするよ!俺の場合は空いてる者が順番に乗せてよ!」

タケルはそう言うと、一匹の黒狼を選んで声を掛けた。

「今日はまず君から。」

選ばれた黒狼は尻尾をブンブンと振り喜んでいた。フィデル達もそれぞれ一匹ずつ選び終わったようである。

「さて、取り敢えずこれで良いかな。」

タケルは黒狼に跨がると、黒狼の首元を撫でた。

「思ったよりも安定するな。良い感じだ。」

タケルは乗り心地を確かめると、少し歩き回ってみた。

「乗り心地も良いな。」

タケルは一旦黒狼から降りると、シルヴァに近寄って声を掛けた。

「シルヴァ、またみんなに加護をお願い出来るかい?」

「お安い御用だ、主」

タケルはフィデル達をシルヴァの前に並ばせると、シルヴァに加護を付けて貰った。

「ありがとう!シルヴァ!それじゃあそろそろ行くよ。」

「主の願いに応えるのは当然の事、主が喜んでくれたなら我はそれで良い。それでは皆、主を宜しく頼むぞ!我は違う使命が有るでな。」

シルヴァはそう言うと翼を羽ばたかせ、空へ飛んでいくと、すぐに彼方へと飛んで行き見えなくなった。
 空の彼方へ飛んで行ったシルヴァを見送ると、アルセリオがタケルに話し掛けてきた。

「なあ、タケル。他の黒狼はどうするんだ?」

「蒼牙が従魔になったからね、いつでも呼べるからこのまま解散してもうか。」

タケルはそう言うと黒狼達に話し掛けた。

「みんな!今日は集まってくれてありがとう!俺達はこのまま狩りに行くから、このまま解散にするよ!」

タケルがそう伝えたが、黒狼達は動こうとしなかった。

「タケル。全然解散にならないぞ?」

「俺達を見送ってくれるみたい。」

「おお、みんな律儀だな。」

「そうだね。じゃあ行こうか、あっちに魔物の反応が有る。」

タケル達は黒狼の群れに見送られ、魔物の反応目指して走り出した。黒狼達の走りはタケルの本気の走りには遠く及ばないが、ゴーレム馬のエスペランサや疾風に匹敵する早さで。そして足場が悪いにもかかわらず、背中に乗っている者はしがみつく必要が無い程の乗り心地であった。
 






     
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