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2章3部フィナールの街編

17話 草ネズミと孤児院

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Aランク昇格の為、依頼をこなす為にそれぞれの場所に向かった一同と別れ、タケルは1人で静寂の谷に向かい、そこで新種の魔物と遭遇したが、目的のワイバーンの巣は見付けられないでいた。そしてアルセリオとミレイアは街の近くの林で薬草の採集とホーンラビットの討伐を終え、草ネズミの駆除の為畑へ来ていたが、畑は広く草が生い茂り、二人はどうやって駆除をすれば良いのか悩んでいると、二人の元に近付いて来る人物が居た。その人物は畑を見つめる二人に声を掛けて来た。

「お前さん達、そんな所で何をしてるんだ?」

畑を見つめて居た二人は突然声を掛けられ、驚いて振り向くと、そこには髭を生やした年配の男性が少し険しい顔で立っていた。

「あ、俺達冒険者で、草ネズミの駆除をしに来たんです。」

アルセリオが男性にそう答えると、男性はジロジロと二人を見つめると、口を開いた。

「お前さん達みたいな子供が冒険者?本当か?」

「ええ、本当ですわ、おじ様。コレが証拠ですわ。」

そう言ってミレイアはギルドカードとギルドの判が押してある依頼書を男性に見せた。男性は依頼書を受け取ると、目を細めて依頼書を見ていた。

「どうやら本当のようだな、疑ってすまなかったな。」

男性は書類をミレイアに返すと、手を差し出し、自己紹介をしてきた。

「ワシはブルーノだ、この畑はワシの畑でな、ギルドに依頼を出した者だ、宜しく。」

「あ、依頼者の方でしたか、アルセリオです、宜しくお願いします。」

「ミレイアですわ、宜しくお願いしますね、おじ様。」

ブルーノは二人と順番に握手を交わすと、二人を交互に見て話し掛けた。

「アルセリオと言ったか、お前さんはまあ判るが、お嬢ちゃんも冒険者とはな、驚いた。」

「ミレイアよ、おじ様。」

ミレイアはお嬢ちゃんと言われ、笑顔でブルーノにそう言った。

「お、おお。そうだったな、ミレイアちゃんだったな。スマンスマン。」

「良いのよ、それよりおじ様、依頼では草ネズミの駆除となってますけど、何匹くらい駆除すれば宜しいのかしら?」

ミレイアの質問に、ブルーノは髭を触りつつ、少し考えると口を開いた。

「そうだな、100匹も駆除してくれれば良いぞ。」

「ええ?そんなに?」

アルセリオは驚き思わず声を上げ、ミレイアは目を見開いていた。

「何を驚いているんだ、それくらい冒険者なら簡単だろう。」

「ごめんなさい、おじ様。ちょっと驚いてしまって、でも隠れている草ネズミを100匹も探し出すのは大変じゃありません?」

ミレイアの話を聞いてブルーノは笑い出した。

「わっはっはっはっ!なんだ、お前さん達新米か、そう言えばあれはGランクのギルドカードだったな。仕方無い、今回は特別にワシが草ネズミのあぶり出し方を教えてやる。」

そう言うとブルーノは二人に付いて来るように言うと歩き始めた。暫く歩くと物置のような小さい小屋が有り、ブルーノは小屋の扉を開けると、細長い金属の棒を取り出した。

「草ネズミはコイツを使って地表にあぶり出すんだ。」

ブルーノは金属の棒を何本も物置から取り出すと、アルセリオに持たせ一本を手に取り歩きながら話を始めた。

「草ネズミは土の中を移動するんだ、しかしあいつらは刺激に敏感でな、だからこうやって金属の棒を突き刺して。」

ブルーノはそう言うと金属の棒を地面に深く突き刺した。

「それでコイツをこうやって叩くんだ。」

そう言うとブルーノは腰に差していた鎌で金属の棒を叩き始めた。すると金属の棒の周りの土が何ヵ所か盛り上がり、そこから草ネズミが出て来て走りだし、少し離れた所でまた土の中に入って行った。

「こうやってあぶり出すんだ。あいつらが地表に出ている時間は短い、その短い間に駆除する必要が有るんだ。けど見えてれば冒険者なら余裕だろ?」

「ああ、姿が見えてるなら余裕だよ!オジさん。任せてよ。」

「もう、お兄様はそうやってすぐに調子に乗るんだから。」

ブルーノの説明を聞いたアルセリオが、自信満々に答えたが、調子に乗るなとミレイアがたしなめた。そしてそのやり取りをみたブルーノが二人に声を掛けた。

「なんだ、お前さん達兄妹か、そう言われればどことなく似てるな。そうか、ミレイアちゃん安心しな、俺も手伝ってやるからアニキと一緒にあいつらを駆除してくれよ。」

「おじ様、ありがとう。頑張りますわ。」

そしてミレイア達は金属の棒を間隔を開けて次々に畑に刺して行った。

よし、じゃあ。順番に叩いて行くからお前さん達は駆除に専念してくれ。

「おう、判った!任せてくれ!」

「良いわよ、おじ様。」

二人はウォーターバレットを多数展開させ、ブルーノに声を掛けた、するとブルーノは無詠唱で多数のウォーターバレットを展開させた二人をみて、笑いながら声を上げた。

「はっはっは!驚いたな、こりゃ頼もしいな、じゃあ行くぞ!」

ブルーノが金属の棒を叩くと土が盛り上がり、草ネズミが飛び出して来た。

「今だ!」

ブルーノが声を上げると、二人がすぐさまウォーターバレットを放ち、草ネズミを仕留めた。

「お、その調子だ、どんどん行くぞ!」

その後何度か同じ事を繰り返したが、草ネズミはとても素早く、上手く胴体に当たらないとそのまま逃げてしまうものも居た。

「んん~、どうもイマイチだな。」

「そうか?お前さん達は良くやってると思うぞ、ワシらじゃ一度に何匹も仕留められないからな。」

「お兄様、ちょっとサンダーバレットに変えてみたしょう、サンダーバレットならカスっても動きを止められますわ。」

「なるほどな、じゃあサンダーバレットでやるか。」

「ではおじ様、お願いします。」

「おう。判った。」

ブルーノが金属の棒を叩くと、草ネズミが飛び出して来た。二人はすぐさまサンダーバレットを放ち、草ネズミを仕留めたが一匹のが進路を変え、サンダーバレットが外れ、金属の棒に当たった。

「かーっ!急に進路を変えるなよ!」

その時であった、何もしてないのに畑の土がもりあがり、草ネズミが大量に飛び出して来た。

「おわっ!なんだ⁉」

その光景を目にした三人は一瞬何が起きたのか判らなかった、そして中には地中から飛び出して来たものの、そのまま力尽きてしまった草ネズミも居た。

「一体どういう事だ?」

「お兄様、何をしたの?」

「え?何ってサンダーバレットを放っただけだよ。一発外れて金属の棒に当たっただけだな。」

「金属の棒に・・・もしかして。」

「何か判ったのかい?ミレイアちゃん。」

何かを考え付いたようなミレイアを見てブルーノが声を掛けた。

「いいえ、おじ様。まだ予想の範疇ですが、試してみる価値は有ると思います。」

ミレイアはそう言うと、アルセリオに声を掛けた。

「お兄様、もう一度金属の棒にサンダーバレットを当てて下さいますか?」

「お、おう。いくぞ。」

アルセリオがサンダーバレットを放つと、先程と同じように、地中から大量の草ネズミが飛び出して来た。すかさずミレイアがサンダーバレットを放ち、大量の草ネズミを仕留める事が出来た。

「おお!ミレイアちゃん、こりゃあ凄いな。」

ブルーノが声を上げると、ミレイアが納得したように話を始めた。

「やはり、あの金属の棒にサンダーバレットを当てると、草ネズミが大量に飛び出て来るようですね。」

「そうなのか!じゃあジャンジャンその方法で仕留めて行こうぜ!」

アルセリオとミレイアは金属の棒にサンダーバレットを当てて、大量に草ネズミをあぶり出し仕留めて行くという方法を見つけ、それを繰り返していく事にし、その方法を何度も繰り返し、駆除をする場所も残すところ金属の棒一本分となった。

「よし、これでラストだ。行くぞ!」

「良いわ、お兄様。」

アルセリオが金属の棒にサンダーバレットを当てると、数匹の草ネズミが出てきた。ミレイアがサンダーバレットを放ち、最後の草ネズミを仕留め、ようやく駆除を完了する事が出来た。

「いやあ、お前さん達凄かったな~。あんなに駆除した奴は初めて見たよ。」

ブルーノは腕を組みウンウンと頷きながら、今までに無い程の数の草ネズミを駆除したアルセリオとミレイアに感心していた。

「あぶり出す方法を教えてくれたお陰ですわ、おじ様。」

「はっはっはっ!ミレイアちゃんは謙虚だなあ。どれ、依頼書を貸してごらん。」

ブルーノはミレイアから依頼書を受け取ると、羽ペンを取り出して先を舐めて何かを書き始めた。

「ほれ、依頼達成のサインをしておいたぞ、達成評価もSにしておいた、ありがとうな。」

ブルーノは依頼書をミレイアに返すと笑顔でそう言った。

「いやあ、結構時間掛かったけど、その分沢山仕留められたな。ところでおじさん、ずっと疑問に思ってたんだけど、土の中に居るのに、何で草ネズミって言うんだ?どっちかて言うと土ネズミじゃないのかな?」

ブルーノはアルセリオの疑問を聞くと、豪快に笑いながら疑問に答えた。

「はっはっはっ!なるほどな、確かに言うとおりだ。確かにあいつらは土の中に居るが、地表に草や野菜など、何かが生えてる所に生息するから草ネズミって言うんだ、食いもんも新芽を好んで食べるんだ、だから草ネズミなんだろうな。」

「へえ、そうなんだ、なるほどねえ。」

「お兄様、依頼は達成しました、早くギルドに戻りましょう。」

「おっ、もう帰るかい?今日はありがとうな、気を付けて帰ってくれよ。」

「こちらこそ、ありがとうございました。それでは、おじ様もお元気で。」

ミレイアとアルセリオはブルーノに挨拶をすると、足取りも軽くギルドへ向かい戻って行った。ブルーノはそんな二人をいつまでも手を降り見送っていた。

    □□□□□□□□□□□□□□□□

魔物に壊された小屋の片付けをしに来ていたルシアナとベルナルドは、マジックポーチを使い早々に依頼を達成し、アルミスとクシーナを手伝う為、孤児院へと向かって歩いていた。

「予想通り早く終わって良かったですな、ルシアナ様。」

「そうね、ベルナルド、貴方が見付けてくれたおかげよ、ありがとう。」

ベルナルドがこの依頼を持って来たお陰で早く終われたと思ったルシアナが笑顔でお礼を言うと、ベルナルドは少し照れて顔を赤くしていた。

「あ、いえ、私はたまたま・・・あっ、あれが孤児院ですな、おっクシーナ殿が居ますぞ。」

ベルナルドは照れ隠しなのか、孤児を指さし声を上げた。

「あら、本当ね。子供達も一緒に手伝っているのね。」

ベルナルドが指差した方を見ると、クシーナとアルミスが大きな鍋からスープのような物をよそり、子供たちがパンを添えて並んでいる人達に手渡しているのが見えた。

「クシーナ殿、アルミス殿!」

ベルナルドが声を上げると、クシーナが気付き、笑顔で手を振り返した。

「ベルるん、そっちの依頼はもう終わったの? 」

「ああ終わりましたぞ、タケル殿に戴いたポーチのお陰ですぐに終わりましたな。それで近くのクシーナ殿達の手伝いをしようと思いましてな。」

「そうなんだ、ありがとう!ベルるん。」

「ベルナルドさん、ルシアナさん、ありがとう。」

クシーナがベルナルドに俺を言うとおり、アルミスが振り返り、同じく笑顔で俺を言ってきた。

「いいえ、良いのよ。私達が手伝う事は有るかしら?」

「ええ、ではここをお願い出来ますか?並んだ人が多く、足りなそうなので追加で作って来ますので。」

「分かったわ、器によそって子供に渡せば良いのね。」

ルシアナはクシーナ達と代わり、スープをよそり、子供に器を渡すと優しく微笑んだ。

「はい、熱いから気を付けてね。」

「うん、大丈夫だよ、あっ!」

ルシアナから器を渡すと受け取った子供は小さな男の子で、ミレイアより少し大きいくらいの男の子であったが、お盆に器を乗せ運んでいる最中に躓いて転んでしまい、スープを頭からかぶってしまった。

「熱い!熱いよ!」

ルシアナはすぐさま駆け寄ると、水魔法でスープを荒い流すと、ヒールを掛けた。男の子の顔や腕は、熱いスープを浴びて赤くなっていたが、ルシアナがヒールを掛けると、スウっと赤みが消えて綺麗な肌に戻った。

「ボク、大丈夫?他に痛い所は無い?」

「うん、大丈夫!ありがとうお姉さん。」

「あら、お姉さんだなんて、うふふ。気を付けてね。」

ルシアナがそう言って、少年の頭を撫でると、少年は立ち上がり、頭を下げた。

「スープこぼしてごめんなさい。」

「良いのよ、次からは気を付けましょうね。ホラ、みんな待ってるわよ。」

そう言ってルシアナは再びスープを器によそり、炊き出しを続けた。その後追加のスープを作り終えたクシーナとアルミスも合流し、炊き出しを続け、特に問題は無く炊き出しは終了した。その後行われた治療ボランティアも四人で行う事が出来、思いのほか早く終らす事が出来た。

「皆様、本日は本当にありがとう御座いました。」

尼さんの格好をした女性がアルミス達に話し掛けてきた。

「あ、シスター。お疲れ様です、無事終わって良かったですね。」

話し掛けて来た女性は教会のシスターで、街で孤児院を運営しており、今回の依頼者であった。

「今日は応援の方まで来て頂いて、本当に助かりました。」

そう言ってシスターは深々と頭を下げた。」

「そんな頭を下げなくても宜しいですよ、私達も子供達と触れ合えて楽しかったですから。」

「そうですな、子供達はみんな元気だし、素直で良い子達ばかりで、楽しかったですな。」

そんなルシアナとベルナルドの話を聞いて、少し嬉しいような、悲しいような、複雑な顔をした。

「普段あの子達は、孤児院で生活していて、私達以外の大人と触れあう機会もあまり有りませんから、きっと嬉しかったんでしょうね。久し振りにあんな笑顔を見ました。本当はもっと多くの人と触れ合いを持たせてあげたいんですけども、孤児院を良く思わない人も多いものですから・・・自由に遊ばせてあげる事もなかなか出来なくて。」

孤児院は両親が何らかの理由で居ない子供達を引き取り養っているが、魔物に殺されたり、病気であったり、犯罪を犯してしまった者の子も居るため、街の中には孤児院を良く思わない者も居た。そしてこの世界では奴隷制度が有り、子供を拐い違法に奴隷として売る者も居る為に、親の居ない孤児達は標的にされる事も少なくは無かったのである。その為、子供を自由に街で遊ばせてやる事が出来ず、シスターは心を痛めて居たのである。

「そう・・・明るく振る舞ってたけど、あの子達も苦労してるのね。」

ルシアナはシスターの話を聞くと、片付けも終わり遊んでいる子供を見て、静にそう話した。

「私達は暫くこの街に滞在する予定なので、何か有ったらいつでも言って下さい。」

アルミスがシスターにそう話し掛けた。

「ありがとうございます。何も無い事を願ってますが、何か有ったら頼らせて頂きます。」

「今度は依頼じゃなくて遊びに来るね。」

「そうですな、私もたまに顔を出して子供達と剣を教える約束をしましたからな。」

「そうね、みんなでたまに顔を出しましょうね。」

「ありがとうございます、それではこれを。」

シスターが依頼書に依頼達成のサインをして渡して来た。

「ありがとうございます、シスター、それでは私達はこれで失礼致します。」

「はい、ありがとうございました。お気軽に子供達に会いに来て下さい。」

シスターがまた深々と頭を頭を下げると、子供達が駆け寄って来た。

「お姉ちゃん達バイバイ!またね!」

アルミス達は子供達達に手を降り、ギルドに向かって帰って行った。

その頃、タケルはというと。ワイバーンの巣が見付けられず、途方に暮れていた。

「参ったな~、これだけ探しても見付からないとは・・・新種の魔物は何匹も居たからあれをワイバーンと思ったのかもな・・・」

その時、タケルのマップに人の反応と、魔物の反応が混じった物が現れた。

「近いな・・・・男性が一人、女性が二人襲われてるのか!」

タケルは超聴覚で声を聞き取り、魔物に襲われていると判ると、魔力飛行のスキルを使い、反応の有る場所に急いで飛んで行った。





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