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2章3部フィナールの街編

10話 新作料理

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赤熊の洞穴亭でミレーナの話を聞き、翌日メリッサと料理の話をする事になった、その後フォルティスのスキルの話を聞き、久し振りにトレースのスキルを使ったタケルはは、フォルティスのスキルの性能の良さに気を良くし、ミケーレのスキルをコピーして魔法付与のスキルを手に入れ、アルミス達が魔法を使えるにしたタケルは、作山の約束の通り、メリッサと共に厨房に居た。

「あの、タケルさん。ミレーナが言うには料理を教えてくれるとか・・・それに、フォルティスさんまで・・・」

タケルがメリッサと共に厨房に入ると、フォルティスもやって来て、メリッサは何事かと困惑していた。

「ああ、フォルティスさんはただの見学です。気にしなくて大丈夫ですよ。」

「そうですか、それで一体どんな料理を?あまり手の込んだ料理だと私一人なので、無理なのですが・・・」

深緑の泉亭はメリッサがひとりで切り盛りしている宿である、それ故に今まで大した料理が出せずにいたのである。人を雇おうにも、旦那が居なくなってから客足が悪くなった今の宿は人を雇う余裕は無かったのである。なので今回もあまり手の込んだ料理を教えて貰ってもやはり作れないので意味がないとメリッサは思っていた。

「大丈夫ですよ、凄く簡単な事で美味しい料理が出来ますから。」

「はあ・・・」

メリッサはまだ信じられないでいた、簡単な料理なら自分でも作れる、そしてタケルの言う簡単な料理を教えて貰った所で名物に出きるとはとても思えなかったのである。

「大丈夫ですよ、じゃあ今は食材は何が有るか教えて貰えますか?」

「それが、食材が無駄になるといけないので、保存が効く物しか置いてないんです・・・」

「なるほど、じゃあ俺が持ってる食材でやってみましょう。えっと、手頃なのはワイルドボアですかね。残しておいて良かった。」

そう言ってタケルは魔法で解体済みのワイルドボアの肉をアイテムボックスから取り出した。

「まずは簡単なステーキから。」

タケルは肉を適当な大きさに切り、塩と胡椒を振りかけた。 

「あの、それは?」

メリッサが胡椒を指差し、何なのかを聞いてきた、いくらそれで美味しくなっても、高価な物だと用意出来ないからである。

「ああ、コレは胡椒ですよ。」

「ええ?胡椒?胡椒を料理に使うんですか?」

メリッサは驚いていた、この世界では胡椒を料理に使うという認識は無かったからである。

「ええ、そうですよ。取り敢えずはこれだけで焼いてみましょうか。」

タケルは肉をフライパンに乗せ、焼こうとコンロを確認して少し驚いた。コンロは女神の小屋よりも数が多く、とても手入れが行き届いて居たからである。

「このコンロ凄いですね。」

「ええ、厨房は主人の担当でしたから、この宿の中で一番お金が掛かってるんですよ。」

メリッサはコンロを見ながら少しだけ悲しそうな顔を見せたが、懐かしむような顔でタケルにそう答えた。

「なるほど、じゃあちょっと同時にパターンを作ってみましょうか。」

そう言うとタケルはもう2枚肉を切り出し、塩胡椒をすると、一つはそのまま、次にニンニク風の物をスライスした物を乗せ、もうひとつには厨房にあった葡萄酒を用意した。

「じゃあ、一枚目を焼きますね。」

タケルは手早く肉を焼き一口大に切り分け、テーブルに置いた。

「どうぞ、ただ焼いただけですが。」

メリッサとフォルティスがただ焼いただけで、そんなに美味しいのか?とでも言いたげな顔で肉を一切れ口に入れたら。

「え?美味しい!それに柔らかい!」

「フォークで予めこうやって刺しておくと柔らかくなるんですよ。他にも幾つか方法は有りますが、一番簡単な方法ですね。では次です。」

タケルはニンニク風のスライスを乗せた肉を焼いて先程と同じように切り分け、食べて貰った。

「美味しい!」

あの野菜1つでこんなに変わるなんて!

その後タケルは葡萄酒を使いフランベした肉や、葡萄酒を使ったソース、玉ねぎ風の野菜のソース等、幾つかのバリエーションを教えた。

「どうですか?今までのやつで一人でも出来るやつを選べば良いと思うんですが。」 

「凄いです。どれも美味しくて。それに簡単だから全部私でも出来ます。」

「お、そうですか。じゃああと幾つか教えますよ。」

そう言ってタケルはペペロンチーノと唐揚げと生姜焼きを教えた。

「凄い!どれも簡単で凄く美味しい!特にペペロンチーノ?あれは安上がりで素晴らしいですね。料理の添え物としてしか使われてないから安く手に入るし、保存も効くし、言う事無しですね。」

どの料理も美味しくて簡単な事に感激しているメリッサを見て、タケルはニヤリと笑い、ある物をアイテムボックスから取り出した。

「メリッサさん、フォルティスさん。から揚げは美味しかったですか?」

「ええ、勿論。凄く美味しかったわ!」

「ああ。抜群に旨いな!」

「そうですか、ではコレを付けて食べて見て下さい。」

タケルは容器からマヨネーズを掬い、から揚げの皿に盛った。

「なんだ?コレは?付けて食べれば良いのか?」

「何だか変わった色ね、食べ物なのかしら?」

メリッサとフォルティスはから揚げにマヨネーズを付けて恐る恐る一口食べた。

「んっ!!!おおお!旨い!なんだ?また違った旨さだ!」

「本当!凄い美味しいわ。」

恐る恐る食べたメリッサとフォルティスであったが、残りのから揚げを使い、拭うようにマヨネーズを付けて食べ、から揚げの皿は綺麗に空になった。

「このマヨネーズの作り方は今は教えられないんですが。交換条件である程度の量をお譲りしますよ。」

タケルの提案にメリッサは戸惑った、喉から手が出るほど欲しいマヨネーズだが、自分にはそれに見合うだけの物を出す事が出来ないからであった。メリッサはタケルの口から出てくる交換条件がどんな物なのか、息を飲んで待ち構えていた。

「え?それは・・・」

「タケル君、一体どんな条件を・・・」

「まあ、そんなに身構えなくても良いですよ。俺達は暫くこの街に滞在するんで、その間の宿代をタダにしてくれたら、そうですね、子樽10個分を差し上げますよ。それと、食事もタダにしてくれたらコレも差し上げます。」

タケルはそう言ってアイテムボックスからマジックポーチを取り出してテーブルに置いた。

「へ?それだけで良いんですか?」

メリッサはタケルの提示した条件があまりにも予想とかけ離れていたので拍子抜けして思わずタケルに尋ねた。

「ええ、それで構いませんよ。」

「タケル君、本当にそんなんで良いのか?恐らくあの料理が有れば、この宿の食堂は街一番の人気になる程だろう、それでも君は構わないって言うのか?」

フォルティスもタケルの提示した条件を聞いて本当に良いのかを確認してきた。

「ええ、特に構いませんよ、別に独占するつもりは有りませんからね。」

タケルがそう言うと、メリッサはタケルの手を握り、頭を下げてきた。

「タケルさん、ありがとう、本当にありがとう。」

メリッサはそう言いながら、うっすらと目に涙を貯めていた、そしてフォルティスは笑顔でタケルの胸を拳でトンと叩いてタケルの行為を称えた。

「お母さん、どうしたの?料理教えて貰えなかったの?」

タケルの手を握り涙するメリッサを見て、料理を教えて貰えなかったから泣いているのかと心配して、ミレーナが心配そうに声を掛けてきた。

「違うのよ、タケルさんに沢山教えて貰って嬉しくて、今お礼を言ってたのよ。」

「ほんとう?!良かったね、お母さん!タケルお兄ちゃんありがとう!」

ミレーナはタケルの足にしがみつき、笑顔でお礼を言っていた。

「メリッサさん、さっきの料理はいつから提供出来ますか?」

タケルの問いにメリッサは少し考え込んでしまった。

「えっと・・・・・ごめんなさい。今は食材も足りなくて、買い出しに行かないとならないの。」

「じゃあ、今日は買い出しに行って貰って、その後は届けて貰うようにしましょう。」

「え、でも・・・ウチみたいな所に届けてくれるかしら・・・」

「大丈夫です、俺に名案が有ります。それにフォルティスさん達が手伝ってくれますからね。」

タケルの言葉にフォルティスが慌ててタケルに尋ねた。

「ええ?俺が手伝うのか?力仕事なら出来るが・・・」

「良かったね、ミレーナちゃん、フォルティスさんが何でも手伝ってくれるから宿は絶対繁盛するよ。」

タケルの言葉にミレーナは満面の笑みを浮かべ、フォルティスに尋ねた。

「フォルティスおじちゃんほんとう?なんでも手伝ってくれるの?」

ミレーナの満面の笑みを見てフォルティスは否定する事が出来なかった。

「あ、ああ。そうだな。でも、おじちゃんじゃな・・・」

「フォルティスおじちゃんありがとう!」

ミレーナはタケルの足から離れ、今度はフォルティスの足に抱きついた。

「おお!任しておけ!男に二言は無い・・・・何をやらされるんだろ・・・」

「さて、次はミケーレさんかな。」

タケルはサビオに話をすると、一緒にミケーレに会いに部屋を尋ねた。

「ミケーレさん、居ますか?」

タケルが部屋をノックするが、反応が無い。

「おかしいな、ミケーレさーん。サビオさんを連れて来ましたよ。」

タケルがそう言いもう一度扉をノックすると、部屋の中でドタドタと慌ただしい音が聞こえたかとおもうと、扉が勢いよく開きミケーレが出てきた。

「大賢者様!おはようございます!今日は是非お話を!」

勢いよく出てきたミケーレは何故か裸であった、そして見かけによらず立派な物をぶら下げていた。

「ほっ。その件だがの、ちょっと手伝って欲しい事が有るんだ。」

「え、ええ何なりと!大賢者様の言う事なら何でも!」

「ミケーレさん、どうでも良いけど服を着てくれないかな。」

「あ!こ、これはその、服来てきます!」

ミケーレは慌てて股間を隠すと、逃げるように部屋の中に戻って行った。

時は少し過ぎてタケル達は門の近くに屋台を設置して肉を焼いていた。

「ああ、何で俺は今肉を焼いているんだ・・・」

「フォルティス!大賢者様の頼みなんだ!しっかりと焼いてくれ!」

「俺は大賢者だか大剣使いだかの事なんか知らねーよ!」

二人が大きな声で会話をしていると、ミレーナが二人に声を掛けてきた。

「フォルティスおじちゃ~ん。ちゃんと焼いてくれてる?」

「おお!ミレーナ!任せとけ!」

「ミケーレさんも頑張ってね!じゃあもうすぐだから宜しくね。」

ミレーナはそう言って屋台から走って行ってしまった。

「フォルティスおじちゃん、ちゃんとやってるかしら?」

ソレーラがそう言ってフォルティスを冷やかした。そしてソレーラはこの地方の服でドイツの民族衣装ディアンドルみたいな形で、フリルの装飾を多めにを付けた服を着ていた。

「ソレーラ!誰がおじちゃんだ!お?なんだ!その服は。」

「どう?似合ってる?タケル君が全員分の服を用意したのよ。たまにはこんな服も良いわね。」

ソレーラはそう言うとその場でヒラリと1回転してみせた。

「ソレーラ、大賢者様のお願いなんだ。君もちゃんと客引きしてくれよ!」

「あら、私はミレーナちゃんとタケル君の為にやってるだけよ、アナタこそしっかりと焼いて頂戴よ!」

ソレーラはミケーレを指差し、そう言うと走り去って行った。

「準備は良いかな?みんな!始めるよ!」

「良いわよ!」

「準備万端です、タケル様。」

タケルの号令で女性達が大きな声で返事をした。女性達は皆色違いでお揃いの服を着て、手には大量のチラシを持つ者と、焼きたての肉をお盆に乗せた者と二人ひとくみになっていた。チラシはギルドで見た紙のような物ではあるが、タケルの魔法で文章が書いて有り、深緑の森の泉亭の新メニュー記念お披露目屋台のチラシである。さしてチラシと一緒に肉を少しだけ食べて貰い、気に入ったら屋台でお金を出して食べて貰うようになっている。

「皆さ~ん。深緑の森の泉亭が新しい料理を考案致しました。本日はその記念として屋台で特別価格で提供致します!是非ご賞味下さい!」

タケルが魔法を使い少し遠くまで聞こえるようにアナウンスすると、一斉に女性達が道行く人々にチラシと一切れの肉を渡して行く。

「どうぞ食べてみて下さ~い。」

ミレイアが道行く男性に肉を渡すと、ミレーナがすぐにチラシを手渡した。

「お?試しに食べてみろって?え?深緑の森の泉亭?どれ・・・」

男声はミレイアから受け取った肉を口にすると、いきなり声をあげた。

「うおおおお!旨い!なんだこの旨さは!え?今日だけ安く食べられるって?どこだ!」

道端で声をあげ、旨いと叫んだ男性をタケルが屋台へ案内した。

「美味しいでしょ?今日だけあちらの屋台で特別価格の100ベルクで食べられますよ!」

「100ベルク?買ったーー!」

一方、アルミスとソレーラのペアは、アルミスが肉を渡し、ソレーラがチラシを渡していた。

「こんにちは!良かったら食べて見てね。」

「おお、キレイな獣人のお姉ちゃんにそんな事言われたら食べない訳にはいかないな!」

「それ、ここの新メニューなの、良かったら今度食べに来てね♪」

「おお!こちらもまたキレイなエルフのお姉ちゃんだな!」

男声はアルミスとソレーラの美人に鼻の下を伸ばして肉を口に入れた。

「なっ!なんだこの肉は!旨い!!」

再びタケルによって屋台に案内されていった。

そしてアルバとルシアナのペアは、ルシアナが肉を渡し、アルバがチラシを渡す係であったが、ここは少し違った。

「あら、お兄さん。こちらをどうぞ。」

「お、おお。なんて神秘的な美しさの女性なんだ・・・え?新作料理?行く行く・・・」

「コレがそのお肉よ、はい、あーん。」

「え?あ、あーん。ん!!旨い!!!」

ちょっと妖艶な二人に声を掛けられた男声はメロメロであった。

「母上・・・」

屋台で料理をお客に渡す役をしていたアルセリオが、遠目にルシアナを見て複雑な気持ちになっていた。

タケルが考えた二段階の試食作戦は大成功し、翌日の昼前には深緑の森の泉亭には行列が出来ていた。そして何日かして落ち着いた頃、タケルは今度はペペロンチーノを屋台で販売した。その時は女性陣に料理を担当して貰い、男性がウェイターのような黒い服を着て道行く女性達に声を掛けた。

「お嬢様、ちょっと宜しいですか?こちらを是非ご賞味下さい。」

丁寧な言葉と爽やかな笑顔アルセリオが女性に話し掛けた。

「やだ。イケメン!え?試食?美味しい、え?屋台で食べられるの?」

アルセリオは女性の手を取り屋台へとエスコートした、流石は王子と言うべきか、その振る舞いは普段のアルセリオからは想像出来なかったが、男性陣の中ではピカイチであった。そう、今度はペアではなく、男性がそれぞれ一人で配ることにしたのである。

「アルは流石だな。ベルナルドさんも下級とはいえ貴族だったから結構いい感じだな、サビオさんは若干言葉使いがアレだけど、なかなかサマになってるな。」

タケルは自身も女性に声を掛けながら男性陣の動きを見て感心していた。そして意外だったのがミケーレであった、普段は魔法使いらしくローブを纏い、どこか暗い感じであったのだが、今はビシッとウェイターのような服を着こなし、そつなく女性をエスコートしていた。

「問題はあの人かな。」

タケルはフォルティスの方を見て、短く溜め息をついた。

「あ、あの・・・あっちょっと・・・」

フォルティスは全く声を掛けられないで、ウロウロしているだけであった。

 その後タケルは再びステーキの違う味で屋台をやり、その後から揚げ、そしてマヨネーズ付きから揚げと、十日程屋台で試食を繰り返し、時には食堂も手伝っていた。そして、料理はもちろんだが、タケルの考えた制服が評判になり、制服を着たい男女が働く事になった、心配していた人件費であるが、食堂が繁盛するのと同時に宿の方も順調に部屋が埋まって行き、ほぼ満室の状態が続くまでになった。

「何か忘れてる気がするな・・・」

宿が順調になり、タケルは何かを忘れてる気がしていた。

「あっ!ギルドにお金取りに行かないと!」

街に来てすぐにギルドに売った大量の魔物のお金を取りに行くのを忘れていたのであった。

















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