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2章3部フィナールの街編

9話 新たな物

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ギルドから戻って来たタケルは、アルセリオに夕食の事を聞かれ、皆の意見を聞き街に食べに来ることにした、一緒に連れて来た宿のミレーナのオススメの赤熊の洞穴亭に来ると、ギルドで会ったフォルティスのパーティーと相席になり、フォルティスオススメの料理を食べたがどこか物足りなかった。そんな時、一人でウロウロして迷っていたアルセリオが遅れてやって来て、一人胡椒を掛けて食べていると、ミレーナが胡椒を見つめ、呟いたのを隣のミレイアが気付き、ミレーナに声を掛けた。

「ミレーナ、胡椒が有れば何だって言うの?」

思わず口に出た言葉を聞かれたミレーナは驚いた顔をしたが、訳を話始めた。

「あのね、私のお父さんはね、私が赤ちゃんの頃に食材を探しに出掛けたまま帰って来なくなっちゃったの。」

話始めたミレーナは、食事の手を止めて俯いてしまった。

「それでね、お父さんが料理担当だったんだけど、お父さんが居なくなってから料理が出せなくなっちゃって、お客さんが減っちゃったの、ウチは門から離れてたけど、昔は料理が評判で結構繁盛してたんだって、だけど今は昔からの常連さんと、呼び込みで呼んだお客さん位しか来なくて・・・」

そこまでミレーナの話を聞いていたミレイアが口を開いた。

「それで胡椒を使って料理を評判にしたかったの?でも料理は出来ないんじゃないの?」

「ちがうの、お母さんも料理は出来るけど、ここみたいな料理は出せないの、だからアレが有れば名物になると思って・・・」

「そう・・・」

ミレイアはミレーナの話を聞いて一言そう言う事しか出来なかった。そしてタケルの方を見て口を開いた。

「タケル!お願い!」

「そう来ると思ったよ。明日メリッサさんと話をしてみるよ。」

タケルはそれを予見していたのか、そう言ってミレイアの願いを最後まで聞くまでもなく快諾した。 

「ありがとう。タケル!ミレーナ、良かったわね、タケルの料理はとっても美味しいのよ!」

ミレイアはタケルの返答を聞くと、顔を明るくし、ミレーナの方に向き直りそう言うと、ミレーナに顔を近づけ、耳元でささやいた。

「ここの料理よりも美味しいのよ。」

ミレイアのささやきを聞いたミレーナは驚きの表情をしたが、すぐに満面の笑みを浮かべ、期待に胸を膨らませ、料理を再び食べ始めた。

「この料理より美味しいのか~。楽しみだなあ。」

「期待してて良いわよ!きっと繁盛間違い無しよ!」

ミレイアとミレーナは仲が良さそうに会話をしながら料理を楽しんでいた。

「大賢者様・・・」

一方、憧れの大賢者サビオと話をしたくてたまらないミケーレは、サビオの方をチラチラと見てはそう呟いていた。

「あらあら、二人とも、うふふふ。」

ルシアナは同い年の友達が出来たミレイアと、普通の少年のように料理を食べるアルセリオを見て優しい微笑みを浮かべ、笑っていた。

「な、なあ、タケル君!ここよりも旨い料理を作れるって本当か?」

ミレイア達の話を聞いたフォルティスがタケルに聞いてきた。

「よく聞こえましたね。」

「ん?ああ、俺は超聴覚ってスキルが有るからな、その気になれば1メルト(およそ3キロ)先の話し声も聞こえるぞ。」

「凄いですね!でもそんなに聞こえたら大変じゃないんですか?」

「いや、聞きたい音や声を選ぶ事も出来るからそうでも無いな、大きい音を遮断する事も出来るしな。」

「へえ、便利ですね。」

「ああ、このスキルのお陰で背後からの攻撃も回避出来るからな、このスキルのお陰でAランクになれたようなもんだな。」

「へえ、そんな凄いスキルなんですね。」

「使いこなせるまでは聞こえすぎて頭が痛くなるけどな。」

「そうなんですか。あ、料理の事でしたね、明日メリッサさんと話をするんでその時にでも。」

(ちょっと久し振りに人に使ってみようか。)

タケルはユニークスキル【トレース】を人に対して使ってみることした。

(おっ、結構持ってるな、えっと超聴覚これだな。)

タケルは早速フォルティスからコピーした超聴覚を使ってみた。

(うあ!あぶねー、声出すところだった。)

スキルを使用した瞬間タケルの耳に様々な音が大量に入って言った来て、驚いて声を出しそうになってしまった。

(えっと、調節出来るって言ってたな。)

・・・・

(おお!本当だ、ん?凄いな、目を瞑ると音で人の位置や何をしてるかも解るぞ!やっぱり人は面白いスキルを持ってるな。)

フォルティスの、スキルをコピーして気を良くしたタケルは続けてミケーレのスキルをトレースしてみることにした。

(んん~。余り有用なのは無いな・・・えっ?!これって・・・)

タケルはミケーレのスキルをコピーして、あるスキルを見つけて驚いた。

(魔法付与ってエンチャントかと思ったら、これはトンデモないチートスキルじゃないか!)

タケルはそのスキルの詳細を調べて更に詳しく見てみる事にした。

(なるほど、どんな魔法でも出来る訳じゃないのか、しかも使用する魔力量がかなり多いな。なるほど、ミケーレにはあまり使いこなせて無かったんだろうな。)

タケルがミケーレからコピーしたスキルの魔法付与は、対象者にその魔法の適正が少しでも有れば、自信の持ってる魔法を低レベルなら付与する事が出来るのである。例えばアルミスは獣人だから本来は魔法が使えないが、アルバの加護が付き、聖属性の攻撃が使えるようになった事は判っている、なのでそのスキルを使えば聖属性の魔法を付与し、アルミスが聖属性の魔法を使えるようにする事が可能なのである。

『サビオさん、今ミケーレさんから凄いスキルをコピーしたんですよ。』

タケルはサビオに念話で話し掛けた。

『ほっ、どんなスキルだったのかの?』

『それが、凄いんですよ。魔法を他人に付与して、その魔法を使えるようにする事が出来るんですよ。』

『ほっ!それは凄いスキルだの。始めて聞いたの。』

ミケーレの持っていたスキルはサビオも聞いた事が無いスキルであった。

『ちょっと帰ったら試してみましょう。』

『そうだの。ワシも付き合うぞ。』

タケルは食事をしながらサビオと会話を交わし、食事を食べ終わった頃、ミケーレが待ちわびたかのようにサビオに話し掛けた。

「大賢者様!魔法の事でお聞きしたい事が!」

「あ、サビオさん、この後用事が有りましたよね。」

『サビオさん、話が長くなるから適当に流して帰りましょう。』

『ほっ、判った。』

「ほっ。そうだったの、まあ同じ宿だしの、明日話を聞いてやるぞ。」

「そ、そうですか。では明日お願いします。」

ミケーレは残念そうに肩を落とし、サビオに明日話をしてもらう事をお願いしていた。

「じゃあ、料理も食べたし帰ろうか。」

タケルは料理を食べ終わると、料金を支払いフォルティスに挨拶をした。

「フォルティスさん、じゃあ俺達は先に宿に帰ってますね。」

「おう、俺達はもう少し飲んでから帰る」

「それじゃあおやすみなさい。」

タケルは挨拶を済ませると、皆を連れて若干足早に宿へと帰って行った。
宿に戻ったタケル達はミレーナと別れ、タケル達の部屋へ集まっていた。

「タケル!一体なんなのよ!食事を早々に切り上げて、ゆっくりお茶も飲めなかったじゃない。」

「ゴメンゴメン、でもきっとミレイアも喜ぶ事が有ったからなんだ、許してよ。」

「え?どういう事?大した事なかったら許さないわよ!」

ミレイアは腕を組み、タケルを睨むように見て怒っているようであった。

「じゃあ、判りやすいように、アルミスちょっと。」

「はい、タケル様。」

そう言ってアルミスがタケルの傍にやって来た。

「え~と、アルミスに出来るのは・・・おっ!聖属性の他に水、火、雷、土、風、全部行けるじゃないか。あ、でも初級のみか。よし。」

タケルはアルミスの額に手をかざし、スキルを使用すると、アルミスの額が様々な色の光に淡く光輝いた。

「こ、これは・・・タケル様?」

タケルはアイテムボックスからナイフを取り出すと、腕を軽く切りつけ、傷口から血が滲み出る腕をアルミスに差し出した。

「あ、タケル様!何を!」

「アルミスが治してよ。方法は解るでしょ?」

アルミスはタケルの行動に慌てたが、自分が治せと言われ、慌ててタケルの手に自分の手をかざし、言葉を発した。

「ヒール。」

アルミスがヒールと唱えると、タケルの腕の傷口が瞬くに消えて行き、元の綺麗な腕に戻った。 

「ほっ。これは凄い。獣人であるアルミスが魔法を使えるようになるとはの!」

「恐らくアルバの加護に加え、精霊王様の加護も有りましたからね、基本的な5属性の魔法が初級のみですが使えるようになってますよ。」

「なっ!全ての属性ですって?」

ミレイアがタケルの言葉に驚いた、ミレイアは魔法の素質が有るとしてサビオから魔法の特訓を受けたが、それでも3属性しか使えなかったからである。

「じゃあ、ミレイア。次はミレイアにやってみようか。」

「私?是非お願い!強力なのを頼むわ!」

ミレイアは驚きの表情から一変し、嬉しそうな顔になりタケルに強力な魔法を要求した。

「ハハハ。それは見てみないと判らないよ。じゃあ見てみるよ。」

タケルはスキルを使いミレイアに付与出来る魔法を調べ始めた。 

「お、水と火と雷は強く出来るね、あと風と土もバレットまでは使えるようになるね。それでもミレイアならすぐに上のも使えるようになるでしょ。お、使用魔力量軽減と効果上昇、も付けられるね、戦闘前に使えばかなり有利になるよ。こんなもんかな?成長すればまた違うのを付与出来るようになるかもね。」

一通り調べ終わるとタケルはアルミスと同じようにミレイアの額に手をかざし、魔法を付与した。

「ああ、凄いわ!新しい属性の魔法が使えるのが解るわ!ありがとうタケル!」

ミレイアはタケルに抱き付き、タケルの頬にキスをした。

「アハハ、ミレイア。ありがとう。喜んで貰えてなによりだよ。」

その後タケルはルシアナにも魔法を付与し、聖と水と火と風の魔法を使えるようにした。

「ルシアナさん、後で弓を弄って属性の効果が強く出せるようにしますね。」

そう言ってタケルはルシアナから弓を預り、アイテムボックスに仕舞うと、ベルナルドの事を確認した。

「おっ、ベルナルドさん、流石千年も修行しただけあって、全ての属性が行けますね。無詠唱も行けますよ、多重詠唱も使えますね。魔法剣士で行けますよ、ベルナルドさん。」

そう言ってベルナルドにも魔法を付与した。

「クシーナも見てみようか。」

「え~?私も?」

「確認だけでもしてみようよ。」

「うん、判った~。」

タケルはクシーナに付与出来る魔法を見てみると、流石に精霊という感じであった。

「おお、全属性の他に精霊魔法も全種類行けるね。」

「本当?そしたら一歩大精霊の位に近づけるね!」

「それはよく判らないけど、良かったね。」

タケルは次にアルバ見た。

「お、聖属性が特化してるけど、アルバも全属性行けるね。」

「あら嬉しいわ。」

アルバの表情はあまり変わっていないように見えたが、喜んでいるようだ。

「じゃあ、アル!見てみようか。」

タケルに言われ、ようやく自分の番だと、期待に満ちた顔でタケルの前にアルセリオがやって来た。

「えっと。アルは・・・んん~。」

「え、タケル!どうしたんだ?何か問題でも有ったのか?」

「アル、残念だけど・・・」

「えっ、そんな・・・」

アルセリオは自分には魔法が使えないと思い、悲しそうな顔をした。

「ああ、残念だけどアルは・・・・聖と3属性の魔法しか使えないね。」

タケルがイタズラっぽい目をしてそうアルセリオに告げた。 

「そうか、やっぱり俺は・・・・えっ?つ、使えるか?魔法を!」

「ああ、アルは聖と水と火と雷だね。」

「ほ、ほんとうか?!そんなに使えるのか?やったー!」

アルセリオはその場で跳び跳ねて喜んだ、そしてそんなアルセリオを制するように、タケルが声を掛けた。

「アル!気持ちは判るがはしゃがない!じゃないと付与しないよ。」

タケルの言葉にアルセリオはピタッとはしゃぐのを止めると、タケルの前に背筋を伸ばして立った。

「じゃあ行くよ。」

タケルはアルセリオにも魔法を付与した。そこでアルミスが自分の番手を見て涙を流しているのが目に入った。

『サビオさん、後で一応見てみましょう。今はちょっとアルミスを・・・』

『ほっ、ワシは構わんの。』

タケルはサビオに念話でそう伝えると、アルミスの肩を抱き、みんなに伝えた。

「魔法の練習したかったら異空間でね、俺はちょっとアルミスと小屋に行ってくる。」

タケルはそう言い残し、アルミスとふたりでセーフティゾーンの扉を通り、小屋のタケルの部屋に入っていった。

「ようし、じゃあガンガン練習するぞ!」

「ほっ、じゃあ、練習に付き合うぞ。」

サビオはアルセリオの腕を引いて異空間へと入って行くと、ルシアナ達も続いて異空間へと入って行った。

 タケルは未だに自分の手を見つめ、涙を流すアルミスをベッドに座らせ、となりに座るとアルミスの頭を優しく撫で始めた。

「アルミス、良かったね。魔法が使えるようになって。」

タケルが頭を撫でながら声を掛けると、アルミスは小さなこえで返事をした。

「はい、とっても嬉しいです。」

アルミスはそう返事をすると、続けて静かに語り始めた。

「タケル様、私は獣人族で魔法は使えないと思っていました、そして自分でも納得してました。魔法を使えないのは当然だと、そして魔法なんか使えなくても構わない、私には剣が有ると。しかし先程タケル様に魔法を使えるようにしていただき、そしてタケル様の傷を治した時に気付いたんです、心の底から沸き上がってくる感情を、嬉しいって感情を!そして判ったんです、ああ私は魔法が使えるようになりたかったんだ、魔法が使えないのを剣が有ると言って自分の気持ちを誤魔化していたんだと!だから、本当に嬉しかったんです!タケル様、私は今まで何度もこれ以上の幸せは無いと思い、その度に何度もそれ以上の幸せを味わって来ました、そしてそれは全てタケル様が与えてくれた幸せです。ありがとうございます!タケル様!」

アルミスは先程とは違い大粒の涙を流し、タケルの胸に顔を埋めた。タケルは子どもをあやすように優しく"良かったね"と言いながら、アルミスの頭を泣き止むまで撫で続けた。
 そしてタケルはアルミスが泣き止むと、優しく抱きしめ、アルミスの頬にキスをした。



 
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