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2章3部フィナールの街編

6話 ルシアナとミレイアの初戦闘。

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魔物の明細と、Aランクに更新されたタケルのギルドカードを受け取った一同は、一旦宿に戻り馬車で近くの森に向かった。そこでハーピーの巣を幾つか見つけ、タケルとサビオで殲滅し、ルシアナとミレイアのレベル上げをし、次の巣で二人に直接戦って貰うため、次の巣を目指して森の中を歩いていた。

「ところでミレイア、今はバレットだと幾つまで展開出来る?」

「展開するだけなら10個以上可能よ、けど命中精度を考えると良いとこ5個が限度ね。」

「そっか、じゃあ今日は10個でやってみようか。」

タケルの提案にミレイアは戸惑った。

「えっ、でも命中精度が・・・それに魔力も・・・」

「多分大丈夫だよ、レベルも魔力も結構上がってるからね、それでも魔力が心配なら、ハイ、コレ。」

タケルはチェーンが付けられた、丸く赤い魔石をミレイアに渡した。 

「コレは?凄い魔力を感じるけど・・・」

ミレイアは受け取った魔石を握りしめ、魔石から感じる魔力に驚いていた。

「魔力切れを起こしそうになったら、その魔石から魔力を補充出来るようにしておいたから、もしもの時は使って。」

「ありがとう、タケル。」

タケルはお礼を言うミレイアにニッコリと笑うと、次にルシアナに話し掛けた。

「ルシアナさん、コレ使って下さい。」

タケルはアイテムボックスから弓とブレスレットを渡した。弓は取り回しがしやすい大きさでショートボウよりも少し大きめで、幾つか魔石が埋め込まれている。ブレスレットはかなり幅広で、サイズが少し大きかったが、腕を通すと、大きさが変わりルシアナの腕にピッタリとフィットした。弓と同様に魔石が幾つか埋め込まれており、弓に近づけると魔石が淡く光った。

「タケルさん、コレは?」

ルシアナは渡されたブレスレットを見て不思議そうにタケルに聞いた。 

「その弓はトレントの宝木で出来ていて、魔力との相性が凄く良いんだ、そしてブレスレットには弓が収納してあって、矢筒代わりなんだけど、弓を引くだけで矢が自動的に現れて撃てるようになってるんだ。それにルシアナさんの魔力を矢に込める事が出来るうえに、増幅されるようになってるから、例えば火の属性をイメージして魔力を込めればファイヤーバレット並みに威力が増すんですよ。あ、でも森の中だから火以外でお願いしますね。それと使えば使うほど手になじんで、更に威力も増しますから、沢山使って下さい。」

タケルはルシアナとミレイアが特訓を始めた時から、構想を練りあげ二人に直接渡したアイテムを作り上げていた。

「判りました、タケルさん。コレでバンバン魔物を射抜きますね。」

「頼もしいですね。」

タケルはルシアナの頼もしさに笑みを浮かべると、念話で皆に話し掛けた。

『そろそろ巣が近いです、メインはルシアナさんとミレイアで、他のメンバーはサポートで。』

タケルが指示を出すと、全員が返事をし、ルシアナとミレイアは目を合わせ、頷きあった。

『母上、ミレイア、くれぐれも気を付けてください。』

『ありがとう、アルセリオ、私の弓の腕を良く見ててね。』

『お兄様、私の魔法も見てて下さいね。』

アルセリオの心配にルシアナとミレイアが応えると、タケルが念話で話し掛けた来た。

『よし、着いたよ、あそこに巣が有るの見えるかな?』

タケルの指差した先に見えたのは、崖の岩肌に有るハーピーの巣であった。先程のハーピーとは違い、個々に巣を作らず崖の岩肌に大きな巣を作り、そこに本棚のように段を作り、そこに何匹ものハーピーが並んで居た。

『凄いわね。さっきより多いんじゃない?』

ハーピーの巣を見て、その数の多さにルシアナがタケルに問いかけた。

『そうですね、倍近く居るかもしれませんね。』

『ほっ、あれはハーピーの上位種のオキュペテーだの、しかも少し大きくて色が違う奴は亜種だな。ちと二人だけでは厳しいかもしれなんな。』

『みたいですね、あの一番上に居るのはアエローみたいですね、しかも複数居ますね。』

タケル達が見つけたハーピーの巣は通常のハーピーの巣ではなく、ハーピーの上位種、オキュペテーの巣であった、そして更に上位種のアエローまで一緒に巣を作っていたのである。この世界ではオキュペテーはハーピーナイトと言われ、通常のハーピーよりもスピードも攻撃力も上の種族である、そしてアエローはハーピークイーンと呼ばれ更に強い種族であった。

『作戦を変更しましょう。バフを掛けた位では二人ではまだ荷が重いですね、アエローは俺とサビオさんが、アルミスとアルは少し離れて遊撃で、ベルナルドさんとアルバはルシアナさんとミレイアの護衛、クシーナは二人の回復と後方の警戒をお願い。』

タケルはそう言うと、様々な防御魔法を全員に掛けた、ハーピーは声での攻撃や、羽をダーツのように飛ばして来たりと、攻撃が多彩で有るからだ。  

『よし、じゃあ、俺とサビオさんがクイーンに攻撃するから、ルシアナさんとミレイアはナイトをお願い、ルシアナさんの弓は同時に複数も撃てますから、そのイメージで撃って下さいね。アルミス、アル、頼んだよ。』

『はい、お任せください。タケル様。』

『サビオさん。』

タケルが言うと、サビオが頷き、二人ともサンダーアローを複数展開し、二人同時に撃ち放った。撃ち放たれた雷の矢は巣の上段に居るクイーンに突き刺さり、巣から落ちる者や、巣に倒れ込むもの等様々であった。これが通常のハーピーで有れば次弾を次々に撃ち込めば終わりであったが、流石はクイーンとナイトと言われる上位種である。タケル達の攻撃にすぐさま反応し、一斉に巣から飛び出し上空を縦横無尽に飛び始めた。しかしそれでもタケルとサビオにとっては、少し狙いを付ける必要が出来たというだけで、する事は変わらない。タケルとサビオが放ったサンダーアローはまるで意思を持った生き物のように空中を飛び、クイーンの胸を次々と貫いていった。クイーンは次々と地面へと落下していった。何匹かのクイーンが大きな鳴き声を上げたが、すぐにサンダーアローによって撃ち落とされた。

「凄いわね。」

ルシアナは縦横無尽に飛び回るハーピーを正確に撃ち落とすタケルとサビオを見て感嘆していた。

「お母様、あの二人に気を取られて場合では有りませんよ!」

タケル達に気を取られて多少ではあるが、手が遅くなったルシアナにミレイアが声を掛けた。

「あら、ごめんなさい、余りにも凄くて。」

ルシアナはそう話しながら、弓を引き一度に三匹程のハーピーを撃ち落としていった。
ミレイアは、タケル達に言われた通り、10個のアイスバレットを展開し、何度も繰り返し撃ち放ち、順調にハーピーを落としていった。

「さっきのレベルアップが効いてるのね、10個同時でも狙いも狂わないし、魔力もまだ充分余裕が有るわ。このまま行けば全部倒せそうね。」

ミレイアは攻撃を繰り出しながら、自分の成長を実感し、呟いていた。

「危ない!」

ルシアナとミレイアの攻撃の隙間を縫い、上空を見ている二人に低空で近付いてくるハーピーが何匹かおり、ベルナルドが飛び出し、斬激を放つと、ハーピーの体が二つに別れ、ルシアナ達の前後に落ちた。

「ありがとう、ベルナルド。」

「助かったわ、ベルナルド。」

ルシアナとミレイアは変わらずハーピーの群れを攻撃しながらベルナルドにお礼を言った。

「いえ、これが私の役目ですからな、お二人は上空のハーピーに専念してくれて大丈夫ですぞ!」

再び低空で襲ってきたハーピーを切りつけながらベルナルドが、二人にそう返事をした。
 通常では考えられない早さでハーピーの群れは数を減らしていったが、それでも攻撃の隙間を縫い、低空で飛行するものや、射抜かれたハーピーに当たって落ちてくるハーピーが数多くいた、そんなハーピーをアルミスは次々と両断していた。アルセリオも十分活躍しては居るものの、アルミスが凄いせいで見劣りしていた。

「あともう少しだ!気を抜かないように!」

ハーピーの数も減り、あと少しと言うところでタケルが皆に声を掛けた。すると、ハーピーが一斉に大きな鳴き声をあげた、周囲の木々が震える程の大きな鳴き声であった。本来であればその鳴き声により、例え耳栓をしていても身動きが取れない程の大きな鳴き声であった、更にハーピーの鳴き声には特殊な効果が有り、その声を聞いた者は錯乱したり、防御力が下がったりと、厄介な攻撃であった、しかしタケルの防御魔法のお陰で、ハーピーの大きな鳴き声は周囲に響き渡っただけであった。

「残念、効かないね。」

本来で有れば敵の動きを封じる鳴き声であったが、タケル達には効かない為、ただ大きな隙を作っただけになってしまったハーピーは、その直後に全て撃ち落とされた。

「凄いわ!私達がやったのね!」

「そうよ、お母様。私達も戦ったのよ!」

ハーピーが全て居なくなったのを確認すると、ルシアナとミレイアは手を取り合いよろこんでいた。

「まだだ!増援だ!」

タケルのマップに近付いてくる多くのハーピーの反応が現れた。

「さっきより数が多い!アルミス、アル!二人の護衛を!アルバ!」

タケルが言うと、アルバの体が光り、ドラゴンの姿となった。タケルとサビオはアルバの背中に飛び乗ると、上空へ飛び立っていった。

「まだ来るの?流石に疲れて来たわね。」

「でも、まだまだ出来るんじゃありませんか?お母様。」

「ええ、そうね。私も強くなったみたいね。」

ルシアナとミレイアがそう話すと、ベルナルドが二人に声を掛けた。

「ルシアナ様もミレイア様も素晴らしい戦いぶりでありました、しかし新手の敵は先程よりも多いみたいです、更に気を引き締めて参りましょう!アルセリオ様も!」

「おい、ベルナルド!今俺の事をついでみたいに言ったな。酷いぞ!」

「あ、いや、そう言う訳では・・・」

「あら、アルセリオったら、ヤキモチやいてるの?」

「お兄様って案外女々しかったんですね。」

「ぐっ!き、気を引き締めていきますよ。」

そんなやり取りを見て、アルミスが声を掛けた。

「いや、実際アルセリオ様もよくやっていたと思いますよ、クシーナも背後からハーピーが来ないように魔法で防いでいたしな。」

「そえそう、アルみん、よく判ったね~。精霊魔法の一種なんだよ。」

アルミスが言うと、アルセリオは照れて顔を少し赤くし、クシーナは体を揺らして喜んでいた。


上空に飛び立ったタケル達は、飛んで来るハーピーの群れを目視で確認していた。

「サビオさん、水蒸気爆発覚えてますか?」

「おお、タケル殿と会ったばかりの頃に見せてもらったやつか。」

「ええ、素材はもう十分なので、一気に仕留めようかと思いまして。」

「では、ワシは漏れたヤツを仕留めるかの。」

「じゃあ、いきますよ。」

タケルはファイヤーボールと、ウォーターボールを展開させ、水球をファイヤーボールで包み、撃ち放った。撃ち放たれたファイヤーボールは圧縮され、どんどん小さくなり、飛んで来るハーピーの群れの中に飛んで行くと、もの凄いごうおんと共に爆発し、爆風でハーピーを吹き飛ばした。それを複数同時に行った為、先程のハーピーの鳴き声が小さくなり、聞こえる程の大音量で、街までその轟音は届き、一時街は騒然となった。

「あっ。」

「ワシの出番は無かったの。」

「タケルさん、森が・・・」

アルバに言われ下を見ると、森が所々無くなり、空地が出来上がっていた。

「ごめん、やり過ぎたかも。」

「ほっほっほっ!タケル殿らしくて良いんじゃないか。」

「サビオ、笑い方。」

タケルの規格外な魔法の威力に思わず年寄りの笑い方になったサビオにアルバが突っ込んだ。

「戻りましょう。アルミス達が心配してるかもしれません。」

「うふふ。驚いているでしょうね。」

アルバは笑いながらそう言って、アルミス達の元へ降りて行った。

「全部片付けて来たんでもう大丈夫ですよ。」

「えっ?全部倒したんですか?」

「私の分は?」

タケルが全て倒した事を知ったルシアナは驚き、ミレイアは自分が倒すハーピーが居ない事を不満がっていた。

「凄い音だったな、一体何をしたんだ?」

「ん、ち、ちょっと魔法をね。」

「もしかしてそれ一発で終わったのか?」

「う、うん。」

「やっぱりタケルは非常識の塊だな。」

「酷いな!」

タケル達は笑いあった。200を越えるハーピーと戦った後だとは、とても思えない程の和やかさであった。

「じゃあ、帰りますか。」

「ほっ、そうだの。」

タケル達は一旦転移で街から少し離れたところに飛び、そこで馬車ごとエスペランサと疾風を召喚して街へと戻った。

暫く馬車を走らせていると、鎧を着た一団が馬に乗り、街の方から土煙を上げながら走って来た。

『何か有ったのかな?』

『そうみたいだね。』

鎧の一団はタケル達の馬車の進路の手前で止まり、タケル達の馬車に向かい手を振り、止まるように指示を出してきた。一団の手前で馬車を止めると一人の兵士が走って来たので、タケルは馬車を降りて兵士の話を聞くことにした。

「悪いな、アーベムの森の方からハーピーの鳴き声が聞こえた後で、もの凄い轟音が聞こえてな。お前達も聞いただろう。」

「え、ええ。凄い音でしたね。」

「何か見なかったか?」

「さあ?音は聞きましたが、それだけですね。一体何の音だったんですかね?」

「判らん、だからそれを今から調べに行くんだ。今日は早めに街へ戻った方が良いぞ、念の為戸締りを忘れずにな。」

兵士はそう言って走って戻ると、馬を走らせアーベムの森の方に向かって行った。

「なあ、タケル騒ぎになってるみたいだな。」

「あ、ああ。」

アルセリオがイタズラっぽい目でタケルを見ながら言うと、タケルは返事をする事しか出来なかった。

「それにしてもタケル、よく咄嗟にあんな嘘が出て来たな。」

「流石に俺が原因ですとは言えないからね。」

「ほっ、では街にもどろうかの。」

タケルは馬車にもどり、街に向けて馬車を走らせた。街に着くと、門の所で同じような事を聞かれたが、やはり先程と同じように答え、門を通り街へ入った、今度はギルドカードを持っていた為、すんなりと通る事が出来た、ミレイアは幼児の為、そのまま通してくれた。
 その後宿に戻ると、ミレーナが心配そうな顔をして飛び出した来た。

「ミレイアちゃん、大丈夫だった?」

「ええ、ミレーナ、平気よ。どうかしたの?」

「だってもの凄い音がして、街の人達が凄い慌てていたから、何か有ったのかと思って、ミレイアちゃんが心配だったの。」

「そう、心配してくれたのね。ありがとう、ミレーナ。」

ミレイアはミレーナの手を取り、ニッコリと微笑んだ。

「あら、皆さんお帰りなさい。凄い音でしたね、何も問題は有りませでしたか?」

「え、ええ。大丈夫ですよ。」

「そうですか、それでは失礼致しますね。」

宿の女主人メリッサは音の事で多少聞いてはきたが、問題無い事を伝えると、お辞儀をして宿の奥へ入って行った。

「・・・・・」

「どうかしたかの?タケル殿。」

「あ、いえ。流石に騒ぎが大きくなったので、ちょっとギルドに行ってみようかと思いまして。」

「ほっ、そうか、ギルドマスターに話せば何とかしてくれるかも知れんな。」

「じゃあ、ちょっと行ってきます。」

タケルはそう言うと、物陰に行き冒険者ギルドの裏へ転移した。

「ああ・・・何て言おうかな・・・言い訳を考えても仕方無いか、素直に話すしか無いな。」

タケルは諦めたようにため息をもらすと、重い足取りでギルドの建物の中に入って行った。


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