88 / 155
2章3部フィナールの街編
4話 ギルドマスター
しおりを挟む
宿を出てギルドに着いたタケル達、焦ったアルセリオは一人でギルドに入り、中で冒険者にからまれていた。あとから入ったタケルが揉め事を解決し、受付の女性リリアーナに説明を受けた一同であるが、まだ同じ部屋で説明を聞いていた。
「魔物や採集した素材を買い取ってくれると聞いたんですが。」
「あ、はい。そうですね、買い取りも行っておりますよ。皆さんは既に冒険者ですから、これからも狩った魔物や採集した素材は正規の価格で買い取り致します。ただし、登録前の分に関しては討伐報酬は支払われません。」
「説明は以上になりますね、他にご質問は有りますか?」
リリアーナが説明を終えようとすると、タケルが手を上げ、質問をした。
「昇格試験を受けたいのですが。どうすれば宜しいですか?」
「昇格ですか?えっと、アナタが昇格試験を受けられるんですか?」
タケルが昇格試験をしたいと言うと、リリアーナは少し驚いた様子で確認をしてきたのでタケルが答えた。
「全員です。」
「え?ぜ、全員ですか?」
タケルの全員という言葉にリリアーナは驚き、困惑していた。
「ダメですかね?」
「あ、あの、暫くお待ち頂けますか?私の一存では・・・」
リリアーナはそう言うと部屋を出て言ってしまった。
「なあ、タケル、全員昇格試験って大丈夫なのか?母上も受けるって事なんだろ?」
アルセリオはルシアナが試験に受かるかどうか不安なようで、心配そうにルシアナの事を見ていた。
「大丈夫じゃないかな?サビオさんのゴーレムを倒した事有るんでしょ?」
「ええ、何とか一体のみですけどね。」
「私も魔法で倒したわよ!」
ルシアナがタケルの問いに答えると、ミレイアは胸を張り、ドヤ顔でゴーレムを倒した事をアピールしていた。
「AランクやBランクは無理でもCランクは余裕で行けると思うよ。テルサス様の加護も有るしね。」
タケル達が話をしていると、扉のドアが開き、リリアーナと一人の男性が入ってきた、男性は口髭を生やし、年齢は30代であろうか、紙は長髪で後ろで一つに束ねており、ラフな感じのシャツを着ているが、服を着ていても筋肉が有るのが判る。優しい顔つきをしてはいるが、相当の実力者だというのが判る。
「こんにちは、初めまして、私は冒険者ギルド、フィナール支部のギルドマスター、ビエントです。全員が今日登録したばかりで、全員が昇格試験を受けたいと聞いたのですが。」
ビエントはタケル達の方を見てそう言って、椅子に座り、腕を組んだ。
「ええ、そうです。全員昇格試験を受けたいんです。何か問題でも有りますか?」
何か不満がありげなビエントに対し、タケルが聞いた。
「ああ、一度にこんなに大勢の昇格試験等はおこなった事は無いからな。試験官の人数が足りないのだよ。」
「成る程、では何か魔物を討伐してきて、それで評価してもらう事は出来ませんか?」
試験管が足りないという事に対し、タケルが提案すると、ビエントは髭を触りながら少し考えていた。
「よかろう、狩ってきた魔物の数と種類でランクを判断しよう。」
「それと、もう一つ提案なんですが、うちのミレイアなんですが、こう見えて結構な実力の魔法使いなんですよ。彼女にも試験を受けさせて貰いたいんですが。」
ビエントは髭を触りながら渋い顔をしていた。いくらミレイアに実力が有っても、リリアーナに聞いた話だと4歳なのである、確かに13歳前で試験を受けて合格した者は過去に数名居た、しかしそれでも最年少で10歳であった、4歳というのは前例が無く流石にどうしたものか悩んでいた。
悩んでいるビエントを見てタケルが提案を出した。
「ミレイアの年齢が気になるなら、こういうのはどうですか? 例えミレイアが合格してもギルドが認めるまでか、最年少記録の年齢まで一人では依頼を受ける事は出来ない、というのはどうでしょう?」
タケルの提案を聞き、渋い顔をしていたビエントの顔のシワが取れ、タケルの方を見て口を開いた。
「なるほど、それなら良いだろう。え~と。」
ミレイアの方を見て悩んでいるビエントを見てミレイアが口を開いた。
「ミレイアですわ、オジさま。」
「オジ・・・はっはっはっ!そうか、ミレイアちゃんか、試験はいつ受けるんだい?」
「俺達が魔物を狩ってきて、昇格を申請したときでお願いします。」
ビエントの問いに対し、タケルがそう言うと、ビエントは一度タケルを見て、再びミレイアの方を見た。
「ええ、それでお願いしますわ。オジさま。」
どうやらビエントはミレイアの口から直接聞きたかったようである。
「判った、その時に試験を受ける事を許可しよう。」
「有り難うございます、オジさま♪嬉しいわ。」
ミレイアに試験を受ける事を許可したビエントに対し、ミレイアは満面の笑みでお礼を言った。
(ギルドマスターの心を掴んじゃったよ、ん~。末恐ろしいな。)
「有り難うございます、ギルドマスター。」
「ビエントで良い。堅苦しいのはキライなんだ。」
「判りました、ではビエントさん、早速ですが、魔物の買い取りをお願いしたいのですが。」
「ん?おお、良いぞ、素材じゃなくて魔物なのか?どこに有るんだ?持ってきてくれ。」
ビエントに持ってきてくれと言われ、タケルは渋い顔をした。
「あの、ちょっとここでは入りきりませんね、もう少し広い所は無いですか?」
タケルがそう言うと、ビエントは明るい顔になり、タケルに話し掛けた。
「おお、そうか。では倉庫に案内しよう。」
「マスターが案内なさるんですか?案内なら私が」
「いや、大丈夫だ、急ぎの仕事はもう片付いたからな、リリアーナ、君は受付の仕事に戻ってくれ。」
「判りました。それでは失礼致します。」
リリアーナはビエントとタケル達に丁寧に挨拶をすると部屋から出ていった。
「では着いて来てくれ、倉庫に案内しよう。」
タケルはサビオ達に食事スペースで待ってて貰うようにし、ビエントと共に二人で倉庫に向かう事にした。
ビエントは部屋を出ると、受付とは反対に廊下を暫く進み、裏口から出ると、ギルドの建物の隣にある、如何にも倉庫という建物に入っていった。
倉庫の中はガランとしており、大きめのテーブルが幾つか置いてあった、壁には解体用であろうか、様々な道具が掛けてあった。
「ここはギルド所有の倉庫で、解体してない魔物や大きな物はここで査定するんだ。で、魔物はどこに有るんだ?持ってきてくれるか。」
「あ、いえ。アイテムボックスに入ってるんで、すぐに出せます。」
「ん?マジックポーチか?そうだったか、随分と高級な物を持ってるんだな。まあ良い、では出して貰えるか。」
タケルはアイテムボックスから取り敢えずオークとゴブリンを解体せずにそのまま取り出した。
「なっ!い、いったい何体分有るんだ?」
次々と取り出され、山になっていくオークを見てビエントは驚いていた。せいぜい10匹位だろうと思っていたビエントは慌ててタケルに声を掛けた。
「ざっと150匹程ですね。ゴブリンも入れるともう少し有りますね。」
「なっ!150匹!、一体どれ程の期間狩り続けたのだ?」
ビエントはタケルが出した150匹のオークをみて長い期間を掛けて狩ったと思ったようである。ビエントがそう思うのも仕方が無い、オークは単体であればEランクの魔物であるが、150匹ともなればAランクに相当するからである、そこに上位種や、オークメイジが加われば、更に難易度が上がるからであった。
「あ、えーと、7日間かな?」
タケルは二度程オークのコロニーを潰していたが、時間的には一日も掛かっていなかったが、あまりに短い時間だと怪しまれると思い、7日間と言ったのであった。
「な、7日間だと?!まさか、そんな短期間に・・・コロニーを潰せば可能・・・いや、しかしまだ登録したての新人・・・」
7日間でも少なかったようで、ビエントは驚いていた。
「あ、えーと、パ、パーティーで倒したのを俺が代表で仕舞ってたんですよ。」
「あ、そ、そうだったな、君たちはミレイアちゃんも入れると9人のパーティーだったな。」
「そうですよ、皆で倒したんですよ。」
タケルはどうにかパーティーで倒したという事にした。
しかし、ビエントは殆どのオークがいちげきで首を落とされ、その全てが同じ切り口なのに気づいた。
「これは・・・」
ビエントはタケルの方を向き、ニッコリと笑って話し掛けた。
「タケル君と言ったか、いやあ、助かるよ、もし他にも有るなら出してくれないか?最近街は人が増えて肉不足なのでね。色々出してくれると助かるんだが。」
「そうでなんですか?じゃあ。」
タケルはアイテムボックスからシーバムの大森林で狩った魔物を取り出して床に並べた。
(こ、これはシーバムグランドバイパー、こっちはファイアーベア、ブラックタイラントにオーガまで!なっ!こ、これはマンティコアじゃないか!)
「タケル君、あのオークは君が一人で狩った物だろう、それに今出して貰った魔物も殆どがそうだろう。ちがうか?」
「え、いや、パーティーで狩ったんですって。」
「タケル君、では聞くが、何故どの魔物も一撃で殺されていて、そのどれもが同じ切り口なんだ?これは同一人物が全て倒した事を意味している、そして先程はマジックポーチを持っていると思ったが、君はアイテムボックスを持っているんだな、アイテムボックスはユニークスキルか、時空間魔法が使えないと持てない物だ、しかもこれだけの量を収納出来るということは、魔力量も相当なものだろう。君は魔法使いだったな、全て君の魔法で倒した、ちがうか?」
タケルは街の食料事情通の為と思いうっかり森の魔物を出した事を後悔したが、すぐに気を取り直し、ビエントに話し掛けた。
「流石ギルドマスターですね、上手く乗せられてしまいましたよ、それに観察力も大した物ですね。しかし一つだけ間違いがあります、殆どの魔物は魔法で倒した物では有りませんよ。」
「君は魔法使いだろう、だとしたら誰が倒したんだ?」
パーティーの事をあまり詮索されたくないのでタケルは無言でアイテムボックスから雲斬丸を取りだし、ビエントに渡した。
「変わった形の刀だな、なっ!これは!」
ビエントはタケルから雲斬丸を受け取った瞬間に驚いた、雲斬丸からとてつもない魔力と、力強い何かを感じたからである。
「ば、鞘から抜いても?」
ビエントがそう聞くと、タケルは黙ってコクリと頷いた。ビエントはタケルの許可を得ると雲斬丸をゆっくりと鞘から抜き、刀身を見つめた。
「これは・・・凄いな、こんな凄い剣見た事無い、形は勿論だが、何より感じる魔力と、波動が凄まじいな。」
ビエントはそう言うと、雲斬丸をゆっくりと鞘に戻し、タケルに返した。
「ふう、こんな凄い剣、逆に剣に取り込まれそうだ。それに俺なんかじゃ使いこなせないだろう。」
「そうですか?俺には使いやすい愛用の刀・・・剣なんですけどね。」
「そうか、ではやはり君があの魔物を倒したんだな。その剣を使いこなせるという事は、剣の実力も相当な物なんだろう。」
「まあ、人よりちょっと強いくらいの腕ですよ。」
「人よりちょっとね・・・ところであの魔物もタケル君、君が?」
「え?ええ、そうですが。」
「ひ、一人でか?」
「え?ええ。そうですけど。」
ビエントが指差したのは遺跡でタケルが倒したマンティコアであった。そしてビエントはそのマンティコアを倒したタケルの実力に驚いていた。
「タケル君、これがマンティコアだというのは知ってるのかい?」
「ええ、知ってますよ。結構強かったですね。」
タケルの言葉を聞いてビエントは嘆息した。
「ハア~。タケル君、このマンティコアはギルドでは危険度Aランク、もしくはSランクの魔物なんだ、こいつ一匹で街が滅んでもおかしくない程の魔物なんだ、それを君は一人で倒した上に結構強かった、だなんて・・・」
(マンティコアまで出したのはマズかったか?)
タケルが心配をしていると、ビエントがタケルに向かい話始めた。
「タケル君、ギルドマスター権限で君をAランクの冒険者に認定する。」
「え?どんなに実力が有っても実績が無いとCランクまでなんじゃないですか?」
「ああ、あくまで原則はな、しかし君の実力は恐らくSランク相当、もしかしたらSSランクだろう、そんな逸材をCランクにさせておくのは勿体無いし、依頼によってはランク制限に引っ掛かってしまうからね。」
「つまり、困った時の手駒が欲しいという事ですか?」
「いや、そういう訳では無いが、街には高ランクの冒険者が少なくてね、高ランクの物はより報酬の高い王都に行ってしまうんだ。今はこの街を拠点にしているAランク以上の冒険者は3名程しか居ないんだ。」
ビエントのいう事は本当で、強力な魔物が出た際は街の高ランク冒険者だけでは足りず、王都の統括本部に応援を掛けているのが現状であった。それに街にいつも高ランクの冒険者が居るとも限らない、依頼を受けて街を離れていることも多いからだ。
「なるほど、ところでSランクになるにはどうしたらなれるんですか?」
「Sランク以上は総本部に行くか、各国の王都にある統括本部に行って直接認定してもらわなければなれないんだ。」
「なるほど、判りました。王都に行かないとならないんですね。」
「まさか、王都に行くのか?」
ビエントは焦った、折角数少ない高ランク冒険者が現れたのに、すぐに王都に行かれたら今までと何も変わらないからである。
「いえ、いつかは行きたと思いますが、暫くはこの街に滞在する予定ですよ。」
ビエントはタケルの言葉を聞き、ホッとした。そして山になった魔物を見てタケルに話し掛けた。
「タケル君、この魔物の買い取りなんだが、査定に時間が掛かる、明日、出来れば明後日にして貰えないか?」
「結構掛かるんですね。」
「ああ、一体ずつ解体して素材と魔石に別けないといけないからな、その上での査定となるからな、時間が掛かるんだ。」
(どうするかな、魔法で解体も出来るけど・・・)
「判りました。それで構いませんよ。」
「おお、そうか。それじゃあ、すぐに作業を開始しよう。」
ビエントはそう言うと、倉庫の端にある階段に行き声をあげた。
「おい、至急人数を集めてくれ、大量の魔物が入ったんだ。」
すると二階から10人程の人物がエプロン姿で階段を下りてきた。どうやら解体や査定の作業員のようだ。
「早速始めるが、さっき言った通り明後日にもう一度来てくれ、魔物の明細だけ渡すから飲食スペースで食事でもしててくれ、今日はギルドのサービスだ。」
「判りました。じゃあ待ってますね。」
「ああ、その前にタケル君のギルドカードも交信してしまおう。カードを貸してくれ。」
「判りました、けど、あまり公にしないで下さいよ。目立ちたく無いんで。」
「ああ、判った、俺から公言する事はしないようにしよう。」
タケルはビエントに目立ちたく無いから公にはしないで欲しい旨を伝え、サビオ達が待つギルドの飲食スペースへ戻っていった。
タケルは目立ちたくないと言ったが、登録したその日にAランクに昇格し、なんとなく嬉しく、足取りが軽くなっていた。
「魔物や採集した素材を買い取ってくれると聞いたんですが。」
「あ、はい。そうですね、買い取りも行っておりますよ。皆さんは既に冒険者ですから、これからも狩った魔物や採集した素材は正規の価格で買い取り致します。ただし、登録前の分に関しては討伐報酬は支払われません。」
「説明は以上になりますね、他にご質問は有りますか?」
リリアーナが説明を終えようとすると、タケルが手を上げ、質問をした。
「昇格試験を受けたいのですが。どうすれば宜しいですか?」
「昇格ですか?えっと、アナタが昇格試験を受けられるんですか?」
タケルが昇格試験をしたいと言うと、リリアーナは少し驚いた様子で確認をしてきたのでタケルが答えた。
「全員です。」
「え?ぜ、全員ですか?」
タケルの全員という言葉にリリアーナは驚き、困惑していた。
「ダメですかね?」
「あ、あの、暫くお待ち頂けますか?私の一存では・・・」
リリアーナはそう言うと部屋を出て言ってしまった。
「なあ、タケル、全員昇格試験って大丈夫なのか?母上も受けるって事なんだろ?」
アルセリオはルシアナが試験に受かるかどうか不安なようで、心配そうにルシアナの事を見ていた。
「大丈夫じゃないかな?サビオさんのゴーレムを倒した事有るんでしょ?」
「ええ、何とか一体のみですけどね。」
「私も魔法で倒したわよ!」
ルシアナがタケルの問いに答えると、ミレイアは胸を張り、ドヤ顔でゴーレムを倒した事をアピールしていた。
「AランクやBランクは無理でもCランクは余裕で行けると思うよ。テルサス様の加護も有るしね。」
タケル達が話をしていると、扉のドアが開き、リリアーナと一人の男性が入ってきた、男性は口髭を生やし、年齢は30代であろうか、紙は長髪で後ろで一つに束ねており、ラフな感じのシャツを着ているが、服を着ていても筋肉が有るのが判る。優しい顔つきをしてはいるが、相当の実力者だというのが判る。
「こんにちは、初めまして、私は冒険者ギルド、フィナール支部のギルドマスター、ビエントです。全員が今日登録したばかりで、全員が昇格試験を受けたいと聞いたのですが。」
ビエントはタケル達の方を見てそう言って、椅子に座り、腕を組んだ。
「ええ、そうです。全員昇格試験を受けたいんです。何か問題でも有りますか?」
何か不満がありげなビエントに対し、タケルが聞いた。
「ああ、一度にこんなに大勢の昇格試験等はおこなった事は無いからな。試験官の人数が足りないのだよ。」
「成る程、では何か魔物を討伐してきて、それで評価してもらう事は出来ませんか?」
試験管が足りないという事に対し、タケルが提案すると、ビエントは髭を触りながら少し考えていた。
「よかろう、狩ってきた魔物の数と種類でランクを判断しよう。」
「それと、もう一つ提案なんですが、うちのミレイアなんですが、こう見えて結構な実力の魔法使いなんですよ。彼女にも試験を受けさせて貰いたいんですが。」
ビエントは髭を触りながら渋い顔をしていた。いくらミレイアに実力が有っても、リリアーナに聞いた話だと4歳なのである、確かに13歳前で試験を受けて合格した者は過去に数名居た、しかしそれでも最年少で10歳であった、4歳というのは前例が無く流石にどうしたものか悩んでいた。
悩んでいるビエントを見てタケルが提案を出した。
「ミレイアの年齢が気になるなら、こういうのはどうですか? 例えミレイアが合格してもギルドが認めるまでか、最年少記録の年齢まで一人では依頼を受ける事は出来ない、というのはどうでしょう?」
タケルの提案を聞き、渋い顔をしていたビエントの顔のシワが取れ、タケルの方を見て口を開いた。
「なるほど、それなら良いだろう。え~と。」
ミレイアの方を見て悩んでいるビエントを見てミレイアが口を開いた。
「ミレイアですわ、オジさま。」
「オジ・・・はっはっはっ!そうか、ミレイアちゃんか、試験はいつ受けるんだい?」
「俺達が魔物を狩ってきて、昇格を申請したときでお願いします。」
ビエントの問いに対し、タケルがそう言うと、ビエントは一度タケルを見て、再びミレイアの方を見た。
「ええ、それでお願いしますわ。オジさま。」
どうやらビエントはミレイアの口から直接聞きたかったようである。
「判った、その時に試験を受ける事を許可しよう。」
「有り難うございます、オジさま♪嬉しいわ。」
ミレイアに試験を受ける事を許可したビエントに対し、ミレイアは満面の笑みでお礼を言った。
(ギルドマスターの心を掴んじゃったよ、ん~。末恐ろしいな。)
「有り難うございます、ギルドマスター。」
「ビエントで良い。堅苦しいのはキライなんだ。」
「判りました、ではビエントさん、早速ですが、魔物の買い取りをお願いしたいのですが。」
「ん?おお、良いぞ、素材じゃなくて魔物なのか?どこに有るんだ?持ってきてくれ。」
ビエントに持ってきてくれと言われ、タケルは渋い顔をした。
「あの、ちょっとここでは入りきりませんね、もう少し広い所は無いですか?」
タケルがそう言うと、ビエントは明るい顔になり、タケルに話し掛けた。
「おお、そうか。では倉庫に案内しよう。」
「マスターが案内なさるんですか?案内なら私が」
「いや、大丈夫だ、急ぎの仕事はもう片付いたからな、リリアーナ、君は受付の仕事に戻ってくれ。」
「判りました。それでは失礼致します。」
リリアーナはビエントとタケル達に丁寧に挨拶をすると部屋から出ていった。
「では着いて来てくれ、倉庫に案内しよう。」
タケルはサビオ達に食事スペースで待ってて貰うようにし、ビエントと共に二人で倉庫に向かう事にした。
ビエントは部屋を出ると、受付とは反対に廊下を暫く進み、裏口から出ると、ギルドの建物の隣にある、如何にも倉庫という建物に入っていった。
倉庫の中はガランとしており、大きめのテーブルが幾つか置いてあった、壁には解体用であろうか、様々な道具が掛けてあった。
「ここはギルド所有の倉庫で、解体してない魔物や大きな物はここで査定するんだ。で、魔物はどこに有るんだ?持ってきてくれるか。」
「あ、いえ。アイテムボックスに入ってるんで、すぐに出せます。」
「ん?マジックポーチか?そうだったか、随分と高級な物を持ってるんだな。まあ良い、では出して貰えるか。」
タケルはアイテムボックスから取り敢えずオークとゴブリンを解体せずにそのまま取り出した。
「なっ!い、いったい何体分有るんだ?」
次々と取り出され、山になっていくオークを見てビエントは驚いていた。せいぜい10匹位だろうと思っていたビエントは慌ててタケルに声を掛けた。
「ざっと150匹程ですね。ゴブリンも入れるともう少し有りますね。」
「なっ!150匹!、一体どれ程の期間狩り続けたのだ?」
ビエントはタケルが出した150匹のオークをみて長い期間を掛けて狩ったと思ったようである。ビエントがそう思うのも仕方が無い、オークは単体であればEランクの魔物であるが、150匹ともなればAランクに相当するからである、そこに上位種や、オークメイジが加われば、更に難易度が上がるからであった。
「あ、えーと、7日間かな?」
タケルは二度程オークのコロニーを潰していたが、時間的には一日も掛かっていなかったが、あまりに短い時間だと怪しまれると思い、7日間と言ったのであった。
「な、7日間だと?!まさか、そんな短期間に・・・コロニーを潰せば可能・・・いや、しかしまだ登録したての新人・・・」
7日間でも少なかったようで、ビエントは驚いていた。
「あ、えーと、パ、パーティーで倒したのを俺が代表で仕舞ってたんですよ。」
「あ、そ、そうだったな、君たちはミレイアちゃんも入れると9人のパーティーだったな。」
「そうですよ、皆で倒したんですよ。」
タケルはどうにかパーティーで倒したという事にした。
しかし、ビエントは殆どのオークがいちげきで首を落とされ、その全てが同じ切り口なのに気づいた。
「これは・・・」
ビエントはタケルの方を向き、ニッコリと笑って話し掛けた。
「タケル君と言ったか、いやあ、助かるよ、もし他にも有るなら出してくれないか?最近街は人が増えて肉不足なのでね。色々出してくれると助かるんだが。」
「そうでなんですか?じゃあ。」
タケルはアイテムボックスからシーバムの大森林で狩った魔物を取り出して床に並べた。
(こ、これはシーバムグランドバイパー、こっちはファイアーベア、ブラックタイラントにオーガまで!なっ!こ、これはマンティコアじゃないか!)
「タケル君、あのオークは君が一人で狩った物だろう、それに今出して貰った魔物も殆どがそうだろう。ちがうか?」
「え、いや、パーティーで狩ったんですって。」
「タケル君、では聞くが、何故どの魔物も一撃で殺されていて、そのどれもが同じ切り口なんだ?これは同一人物が全て倒した事を意味している、そして先程はマジックポーチを持っていると思ったが、君はアイテムボックスを持っているんだな、アイテムボックスはユニークスキルか、時空間魔法が使えないと持てない物だ、しかもこれだけの量を収納出来るということは、魔力量も相当なものだろう。君は魔法使いだったな、全て君の魔法で倒した、ちがうか?」
タケルは街の食料事情通の為と思いうっかり森の魔物を出した事を後悔したが、すぐに気を取り直し、ビエントに話し掛けた。
「流石ギルドマスターですね、上手く乗せられてしまいましたよ、それに観察力も大した物ですね。しかし一つだけ間違いがあります、殆どの魔物は魔法で倒した物では有りませんよ。」
「君は魔法使いだろう、だとしたら誰が倒したんだ?」
パーティーの事をあまり詮索されたくないのでタケルは無言でアイテムボックスから雲斬丸を取りだし、ビエントに渡した。
「変わった形の刀だな、なっ!これは!」
ビエントはタケルから雲斬丸を受け取った瞬間に驚いた、雲斬丸からとてつもない魔力と、力強い何かを感じたからである。
「ば、鞘から抜いても?」
ビエントがそう聞くと、タケルは黙ってコクリと頷いた。ビエントはタケルの許可を得ると雲斬丸をゆっくりと鞘から抜き、刀身を見つめた。
「これは・・・凄いな、こんな凄い剣見た事無い、形は勿論だが、何より感じる魔力と、波動が凄まじいな。」
ビエントはそう言うと、雲斬丸をゆっくりと鞘に戻し、タケルに返した。
「ふう、こんな凄い剣、逆に剣に取り込まれそうだ。それに俺なんかじゃ使いこなせないだろう。」
「そうですか?俺には使いやすい愛用の刀・・・剣なんですけどね。」
「そうか、ではやはり君があの魔物を倒したんだな。その剣を使いこなせるという事は、剣の実力も相当な物なんだろう。」
「まあ、人よりちょっと強いくらいの腕ですよ。」
「人よりちょっとね・・・ところであの魔物もタケル君、君が?」
「え?ええ、そうですが。」
「ひ、一人でか?」
「え?ええ。そうですけど。」
ビエントが指差したのは遺跡でタケルが倒したマンティコアであった。そしてビエントはそのマンティコアを倒したタケルの実力に驚いていた。
「タケル君、これがマンティコアだというのは知ってるのかい?」
「ええ、知ってますよ。結構強かったですね。」
タケルの言葉を聞いてビエントは嘆息した。
「ハア~。タケル君、このマンティコアはギルドでは危険度Aランク、もしくはSランクの魔物なんだ、こいつ一匹で街が滅んでもおかしくない程の魔物なんだ、それを君は一人で倒した上に結構強かった、だなんて・・・」
(マンティコアまで出したのはマズかったか?)
タケルが心配をしていると、ビエントがタケルに向かい話始めた。
「タケル君、ギルドマスター権限で君をAランクの冒険者に認定する。」
「え?どんなに実力が有っても実績が無いとCランクまでなんじゃないですか?」
「ああ、あくまで原則はな、しかし君の実力は恐らくSランク相当、もしかしたらSSランクだろう、そんな逸材をCランクにさせておくのは勿体無いし、依頼によってはランク制限に引っ掛かってしまうからね。」
「つまり、困った時の手駒が欲しいという事ですか?」
「いや、そういう訳では無いが、街には高ランクの冒険者が少なくてね、高ランクの物はより報酬の高い王都に行ってしまうんだ。今はこの街を拠点にしているAランク以上の冒険者は3名程しか居ないんだ。」
ビエントのいう事は本当で、強力な魔物が出た際は街の高ランク冒険者だけでは足りず、王都の統括本部に応援を掛けているのが現状であった。それに街にいつも高ランクの冒険者が居るとも限らない、依頼を受けて街を離れていることも多いからだ。
「なるほど、ところでSランクになるにはどうしたらなれるんですか?」
「Sランク以上は総本部に行くか、各国の王都にある統括本部に行って直接認定してもらわなければなれないんだ。」
「なるほど、判りました。王都に行かないとならないんですね。」
「まさか、王都に行くのか?」
ビエントは焦った、折角数少ない高ランク冒険者が現れたのに、すぐに王都に行かれたら今までと何も変わらないからである。
「いえ、いつかは行きたと思いますが、暫くはこの街に滞在する予定ですよ。」
ビエントはタケルの言葉を聞き、ホッとした。そして山になった魔物を見てタケルに話し掛けた。
「タケル君、この魔物の買い取りなんだが、査定に時間が掛かる、明日、出来れば明後日にして貰えないか?」
「結構掛かるんですね。」
「ああ、一体ずつ解体して素材と魔石に別けないといけないからな、その上での査定となるからな、時間が掛かるんだ。」
(どうするかな、魔法で解体も出来るけど・・・)
「判りました。それで構いませんよ。」
「おお、そうか。それじゃあ、すぐに作業を開始しよう。」
ビエントはそう言うと、倉庫の端にある階段に行き声をあげた。
「おい、至急人数を集めてくれ、大量の魔物が入ったんだ。」
すると二階から10人程の人物がエプロン姿で階段を下りてきた。どうやら解体や査定の作業員のようだ。
「早速始めるが、さっき言った通り明後日にもう一度来てくれ、魔物の明細だけ渡すから飲食スペースで食事でもしててくれ、今日はギルドのサービスだ。」
「判りました。じゃあ待ってますね。」
「ああ、その前にタケル君のギルドカードも交信してしまおう。カードを貸してくれ。」
「判りました、けど、あまり公にしないで下さいよ。目立ちたく無いんで。」
「ああ、判った、俺から公言する事はしないようにしよう。」
タケルはビエントに目立ちたく無いから公にはしないで欲しい旨を伝え、サビオ達が待つギルドの飲食スペースへ戻っていった。
タケルは目立ちたくないと言ったが、登録したその日にAランクに昇格し、なんとなく嬉しく、足取りが軽くなっていた。
1
お気に入りに追加
3,420
あなたにおすすめの小説
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした
御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。
異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。
女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。
――しかし、彼は知らなかった。
転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――
イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~
星天
ファンタジー
幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!
創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。
『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく
はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる