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2章3部フィナールの街編
2話 深緑の森の泉亭
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フィナールの街に辿り着いたタケル達は街へ入るための列に並び、タケルは様子を見に歩いていると、兵士に声を掛けられ話をすると、諜報員の嫌疑をかけられ斬りつけられたが、Aランク冒険者のフォルティスとその仲間に助けられ、馬車に戻ったタケルは、街に入る為の検問があと少しという所まで来ていた。
前の人達が無事に検問所を通過し、いよいよタケル達の番になった。
「おお、随分と大きいな馬だな・・・通行証か身分を証明するものを。」
「ほっ、スマン、田舎者なので何も無いんだ。それと後ろの馬車も一緒だ。」
サビオは持っては居たが、タケル達と行動するにあたり、大賢者というのを隠すために新たに身分証を作る事にしたのである。
すると、サビオの話を聞いた検問所の兵士が馬車の中を覗いて来た。
「 変な物や犯罪者を匿ったりしてないか?」
「ほっ、勿論だ。田舎者なんでな、どうすればいい?」
兵士は二台の馬車を一通り調べると、サビオの元に戻り、話し始めた。
「全員無いのか、ではあちらの小屋に言って犯罪者かどうか判別させてもらう、問題が無ければ一人あたり純銀貨五枚、五千ベルクの入市税を払えば街へ入れる、あと馬車は大きさは関係なく一台につき小金貨一枚、一万ベルク必要だ、判ったら言って判別をしに行ってくれ。」
兵士は一通り説明すると、少し先の小屋へ行くように促し、次の人を確認しに行った。
「早く、後ろが詰まってるんだ、次!通行証か身分を証明する物を」・・・・
タケル達の馬車は一旦進み、犯罪者かどうかを調べる小屋の前に馬車を停めた。
「全員馬車から降りて一列に並んで、順番にこのテーブルの上の魔晶石に手を乗せてくれ。もし犯罪者なら拘束させてもらう。問題が無ければ進んで入市税を払ってくれ。」
タケル達は順番に魔晶石に手を置いて行き、犯罪者で無い事を確認してもらうと、入市税を全員分サビオに払って貰った。タケル達は財宝は持って居たが、現在の通貨はサビオしか持って居なかったのである、アルミスも多少は持って居たが、どうせならとサビオが一括で全員の分を払った。
「よし、入って良いぞ。ようこそフィナールへ。」
タケル達一向が犯罪者では無いと判り、入市税も払うと、兵士は厳しい顔付きから、にこやかに笑い、タケル達を歓迎した。
「ほっ、ありがとう。お疲れ様。」
サビオも挨拶をし、二台の馬車は門を通り抜け、フィナールの街の中へ入って行った。
「へえ~。結構賑わってるね。」
タケルが御者席に移動して来て辺りを見回していた。門の中は入って暫くは広い道と、新しく街に入って来た人向けの呼び込みや、道に面した草むらで布を広げ、商品を置いただけの露天等が沢山有り賑わっていた。
「タケル、田舎者に見られるからキョロキョロするなよ。」
アルセリオがキョロキョロと街並みを見ているタケルに声を掛けた。
「え?本当に田舎者なんだから良いじゃん。」
「俺は違うぞ!田舎者なんかじゃないぞ!」
アルセリオは元々王族で、王都に住んでいたので確かに田舎者では無いが、そう良いながらアルセリオの目は輝き、辺りを見回していた。
「ハハハ、そうだな。アルは王都出身だしなな。」
「あ、ああ。そうだ、だから田舎者じゃない。」
「ハハハ、判ったよ。取り敢えず馬車を停められる所に行かないとな。」
タケルが、辺りを見回すと、小さな女の子が道行く人に声を掛けようとするが、声を掛けられずにしているのが目にとまった。
「あ、あの・・・宿・・・・あっ・・・」
タケルはミレイアを連れてその女の子に歩み寄り、しゃがんで女の子に声を掛けた。
「ねえ、お嬢さん、俺達宿を探してるんだけど、良い所知らないかな?ウチにも小さい子が居るから静かな所が良いんだけど。」
タケルはミレイアを少しだけ前に出し、女の子にそう尋ねた。すると女の子はさっきまでのオドオドした表情から明るい笑顔になり、元気良く返事をした。
「うん、知ってるよ!教えてあげる!」
女の子はミレイアに視線を移すと、手を差し出し、自己紹介をした。
「私ミレーナ、アナタは?」
ミレイアは少しだけ眉を動かし、ミレーナの手を取ると、自分の名前を告げた。
「ミレイアよ、よろしくね。」
「ミレイア?私のミレーナと何か似てるね、何だか嬉しいな、よろしくね!」
ミレーナはミレイアのと握手した手をブンブンと振って嬉しそうな顔をしていた。その様子を見てタケルは微笑んで、ミレーナにまた尋ねた。
「ミレーナか、良い名前だね、俺達馬車が二台有るんだけど、そこは停められるかな?」
タケルが、そう尋ねるとミレーナはミレイアの手を握ったままタケルの方を向き、笑顔で答えた。
「うん!停められるよ!ちょっと遠いけど、良い所よ。」
「じゃあ一緒に馬車に乗って案内してくれるかな?」
「うん!いいよ!ミレイアちゃん一緒に行こう。」
タケルはミレーナをエスペランサの馬車に乗せ、ミレーナの案内で馬車を走らせた。暫く走ると門の近くの賑わいは消え、少し寂れた感じの場所になって来た。
「ねえ、ミレーナ、本当に宿はこっちなの?」
ミレイアが辺りを見回して心配そうにミレーナに尋ねた。するとミレーナは先程と変わらない笑顔で明るく答えた。
「うん、もうすぐだよ、あ!ほら!見えて来た、あれがそうだよ。」
少し先に周囲の建物とは違い、少し大きめの建物が見えて来た、どうやらその建物が宿のようだ。
「あれがそうみたいだな。」
タケルは建物を見てそう呟いた。馬車が建物の前に着き、馬車を停めると、ミレーナが馬車から降りて宿の中に入って行った。
「お母さ~ん。お客さん連れて来たよ~。」
「えっ、宿ってミレーナの家だったの?」
ミレイアが驚いたように声をあげた。
「え、気付いて居なかったのか、ミレイア。」
アルセリオはミレイアが気付いていなかった事に驚きミレイアに声を掛けた。
「ええ、お兄様は気付いてたの?」
「ああ、最初から判ってたぞ。珍しいな、ミレイアが気付かないなんて。」
「たまたまよ、今日はたまたま、お兄様こそ気づくなんて珍しいんじゃなくて?」
「あらあら、二人とも、ほら、ミレーナちゃんが来ましたよ。」
ルシアナがそう言うと、ミレーナが大人の女性の手を引き戻って来た。
「お母さん、ほら早く!」
「もう、ミレーナったら、そんなに引っ張らなくても。」
連れて来たのはミレーナの母親であった。ミレーナの母親はタケル達に気付くと、慌ててタケル達に挨拶をした。
「あら、あら、こんなに沢山、ようこそ旅の宿、深緑の森の泉亭へ、私はこの宿の住人のメリッサです、宜しくお願いします。皆さんお泊まりですか?」
宿の女主人メリッサの挨拶にタケルが歩み出て話始めた。
「こんにちは、全員泊まりたいので、九人なんですけど、泊まれますか?」
「まあ、九人も。久しぶりの団体さんね、大丈夫ですよ、お部屋は何部屋用意致しますか?」
タケルは少し考えてからメリッサに部屋数を伝えた。
「三人部屋を一部屋と、二人部屋を三部屋って出来ますか?」
「三人部屋は無いので四人部屋を三人でお使い下さい、料金は三人分の料金で宜しいですよ、二人部屋は三部屋ご用意出来ます。」
「判りました、じゃあ、それでお願いします。」
「ありがとうございます、では馬車は裏に停めて下さいね、馬は・・・どうしましょ、大きくて入らないかもしれないわ。」
エスペランサは通常の馬よりも体格が非常に大きく、通常の厩舎では入らないようであった。
「んん~。エスペランサは、あっこの馬の名前です。エスペランサは大人しいんで、馬車の隣に繋いでも良いですか?」
「えっと・・・判りました、宜しいですよ、その代わり馬泥棒とかの心配が有りますけど、大丈夫ですか?」
「ええ、コイツは賢いんで大丈夫ですよ。」
「それなら安心ですね。」
そこでアルセリオがタケルに念話で話し掛けて来た。
『なあ、異空間に戻しておくんじゃ駄目なのか?』
『それだと誰かに見られたらマズイだろ、あまり目立たないようにしたいんだ。』
『おいおい、今更何を言ってるんだよタケル。あれだけ派手な事をしておいて、目立ちたくないって・・・』
『パルブス村とこことじゃ全然人の多さが違うだろ。』
『なるほど。』
アルセリオはようやく納得したようで、馬車を宿の裏手に停めに行った。
「それでは料金ですが、三人部屋が大銀貨八枚、二人部屋が大銀貨五枚ですからえっと・・・」
メリッサが指折りして料金を数えていると、タケルがさらっと合計料金をメリッサに告げた。
「二万三千ベルクなので、純銀貨二十三枚か、小金貨二枚と純銀貨三枚ですね。」
タケルがあっさりと合計金額を言うと、アルセリオやベルナルドが驚いた顔でタケルを見ていた。
「ん?なに?どうかした?」
「なにってタケル、何も使わないで、なんでそんなに計算が早いんだよ。」
「本当ですな、タケル殿は算術の心得も有ったんですな。」
(え?小学生の算数位なんだけど・・・この世界はこんなもんなのかな?)
今まではあまり披露する機会が無かったので気付かなかったが、この世界の学力はあまり高くないとタケルは思った。
「あら、凄いですね、ちょっとまって下さいね。」
メリッサは引き続き指を折り宿代の計算をしていた。
「あら、本当に二万三千ベルクですね。あ、馬車の分を入れるのを忘れてたわ、飼葉は必要ですか?」
「いえ、大丈夫です、必要有りません。あの馬の餌は特殊な物なので、自分達で用意致します。」
するとメリッサは、再び指折り数え始めた時に、アルセリオが念話で話し掛けて来た。
『タケル、エスペランサって餌食べられたのか?』
『違うよ、ゴーレム馬ってのは内緒だからね、餌を食べないとは言えないでしょ。』
『なるほど、確かにそうだな。』
メリッサが計算を終え値段を告げてきた。
「えっと、飼葉が要らないから一台で千ベルクだから・・・二万五千ベルクですね。」
「判りました、料金は先払いですかね?」
「ええ、そうです、先にお願い致します。」
料金を支払いを為に宿の受付に行き料金を支払ったが、ここでもサビオがまとめて支払いを済ませた。
「お泊まりのお客様はお食事を半額の五百ベルクで提供しておりますので、ご入り用の際は早めにお申し付け下さいね。」
そう言ってメリッサは各部屋の鍵をカウンターに置いた、タケルは鍵を受け取りその場で部屋割りを伝え、鍵を手渡した。
「判りました、必要な時は早めに連絡致しますね。じゃあ、部屋割りなんだけど、三人部屋は俺、アル、ベルナルドさん。二人部屋をアルミスとクシーナ、サビオさんとアルバ、ルシアナさんとミレイアで良いかな?」
アルミスは少し残念そうな顔をしたように見えたが、特に皆異論は無いようなので、その部屋割りで決定した。
「ではお部屋にご案内致しますね。」
タケル達はメリッサの後に続き今夜泊まる部屋に向かって行った。
「じゃあ、一旦部屋を確認して、それから冒険者ギルドに行きましょうか。」
タケルは歩きながらみんなに話し掛けた。
「ほっ、そうだな、ワシも新たに登録し直す事にするしな。」
「え?登録し直すんですか?」
「ほっ、ワシが登録したのは五百年前だからな、エルフやドワーフならまだしも、人間でその年齢はマズイからな。」
サビオがメリッサに聞こえないようにこごえで、タケルに話してきたのでタケルは黙って大きく頷いた。
「こちらです、この部屋が四人部屋ですので、三人でお使い下さい、二人部屋は隣の三部屋をお使い下さい。」
メリッサがそれぞれの扉を指し示して説明をすると、タケル達はメリッサに挨拶をし、それぞれの部屋の中に入って室内を確認した。
「へえ、年数は経ってるみたいだけど、結構手入れが行き届いてますね。」
「そうですな、埃も全然無いし、良い部屋ですな。」
ベルナルドが部屋のアチコチを指で擦って感心していた。
「なあ、タケル、早くギルドに行かないか?」
アルセリオは早く冒険者ギルドに行って登録したいようで、ソワソワとしていた。タケルはそれをみて笑ってアルセリオに話し掛けた。
「ハハハ、アル、そんなにギルドに行きたかっなの?どのみち今日は登録だけなんだから、慌てなくても良いんじゃない。」
「いや、それでも冒険者ギルドを早く見てみたいんだよ。」
アルセリオは、それでもとにかく早く冒険者ギルドを見てみたいと言い、まだソワソワしていた。
「判ったよ、部屋の確認も終わったし、皆で登録しに行こうか。」
「ああ、じゃあ、俺は母上達を呼んでくる。」
アルセリオはパッと顔を明るくし、早足でルシアナの部屋に向かって行った。
「ベルナルドさん、行きましょうか。」
タケルとベルナルドは二人で部屋を出て、サビオ達に声を掛けて宿の外で待っていた。アルミスとクシーナは声を掛けたらすぐに出て来て、サビオとアルバは少し遅れてやって来た、あれだけ早くギルドに行きたいとソワソワしていたアルセリオはまだ出て来ていなかった。
「あれ?アルはどうしたんだろ?」
するとルシアナとミレイアが揃って出てきた。
「あら、皆さんごめんなさいね。アルセリオったら急にお腹が痛くなっちゃったみたいで、トイレに入ってるのよ。」
緊張したのか、体調の急変か判らないが、アルセリオは腹痛でトイレに籠っているのだと言われ、タケルは一瞬崩れ落ちそうになるほど力が抜け、タケルは思わず笑ってしまった。
「アハハ、一番ギルドに行きたがってたのに。可愛そうだからちょっと待ってましょうか。」
「あら、ごめんなさいね、みなさん。」
「いえ、大丈夫ですよ、別に急いでませんからね。」
「ほっ、そうだな、少し待つくらいは全然構わないな。」
暫くその場で話をしていると、アルセリオがやって来た。
「みんな待たせてゴメン。何だか急にもよおしちゃって。ちょっと馬車で食べ過ぎたみたいだ。」
アルセリオの腹痛は単なる食べ過ぎによるものだったようで、タケルはまた力が抜け、笑った。
「アハハ。そうか、具合が悪いんじゃ無くてよかったよ、でも向かう途中にもよおさなくて良かったな。」
「あ、ああ、もし途中でさっきのが来たら漏らしてたな。」
アルセリオがもしもの時を時を想像して身震いすると、ミレイアが声をあげた。
「お兄様汚い・・・もしそうなったら縁を切りますわ。」
「み、ミレイア、酷いな!」
「仕方ないな、俺もアルが漏らしたら絶交だ。」
「なっ!た、タケルまで・・・」
「アハハ。冗談だよ、じゃあ早くギルドに行こうか、行きたかったんだろ、アル。」
「おお!そうだ!ギルドだギルド!冒険者ギルドに行くぞ!」
はしゃぐアルセリオに対し、またもミレイアが声をあげた。
「お兄様、はしゃぎ過ぎです、ギルドギルドうるさいです、ギルドは逃げませんから、急がなくても大丈夫です。」
「は、はい。ごめんなさい。」
アルセリオは妹のミレイアに叱られ、シュンッとしてしまった。そして一同はギルドに向かい、揃って歩いて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ギルドを登場させられませんでした・・・
次回は登場させます、多分。
それでは宜しくお願い致します。
前の人達が無事に検問所を通過し、いよいよタケル達の番になった。
「おお、随分と大きいな馬だな・・・通行証か身分を証明するものを。」
「ほっ、スマン、田舎者なので何も無いんだ。それと後ろの馬車も一緒だ。」
サビオは持っては居たが、タケル達と行動するにあたり、大賢者というのを隠すために新たに身分証を作る事にしたのである。
すると、サビオの話を聞いた検問所の兵士が馬車の中を覗いて来た。
「 変な物や犯罪者を匿ったりしてないか?」
「ほっ、勿論だ。田舎者なんでな、どうすればいい?」
兵士は二台の馬車を一通り調べると、サビオの元に戻り、話し始めた。
「全員無いのか、ではあちらの小屋に言って犯罪者かどうか判別させてもらう、問題が無ければ一人あたり純銀貨五枚、五千ベルクの入市税を払えば街へ入れる、あと馬車は大きさは関係なく一台につき小金貨一枚、一万ベルク必要だ、判ったら言って判別をしに行ってくれ。」
兵士は一通り説明すると、少し先の小屋へ行くように促し、次の人を確認しに行った。
「早く、後ろが詰まってるんだ、次!通行証か身分を証明する物を」・・・・
タケル達の馬車は一旦進み、犯罪者かどうかを調べる小屋の前に馬車を停めた。
「全員馬車から降りて一列に並んで、順番にこのテーブルの上の魔晶石に手を乗せてくれ。もし犯罪者なら拘束させてもらう。問題が無ければ進んで入市税を払ってくれ。」
タケル達は順番に魔晶石に手を置いて行き、犯罪者で無い事を確認してもらうと、入市税を全員分サビオに払って貰った。タケル達は財宝は持って居たが、現在の通貨はサビオしか持って居なかったのである、アルミスも多少は持って居たが、どうせならとサビオが一括で全員の分を払った。
「よし、入って良いぞ。ようこそフィナールへ。」
タケル達一向が犯罪者では無いと判り、入市税も払うと、兵士は厳しい顔付きから、にこやかに笑い、タケル達を歓迎した。
「ほっ、ありがとう。お疲れ様。」
サビオも挨拶をし、二台の馬車は門を通り抜け、フィナールの街の中へ入って行った。
「へえ~。結構賑わってるね。」
タケルが御者席に移動して来て辺りを見回していた。門の中は入って暫くは広い道と、新しく街に入って来た人向けの呼び込みや、道に面した草むらで布を広げ、商品を置いただけの露天等が沢山有り賑わっていた。
「タケル、田舎者に見られるからキョロキョロするなよ。」
アルセリオがキョロキョロと街並みを見ているタケルに声を掛けた。
「え?本当に田舎者なんだから良いじゃん。」
「俺は違うぞ!田舎者なんかじゃないぞ!」
アルセリオは元々王族で、王都に住んでいたので確かに田舎者では無いが、そう良いながらアルセリオの目は輝き、辺りを見回していた。
「ハハハ、そうだな。アルは王都出身だしなな。」
「あ、ああ。そうだ、だから田舎者じゃない。」
「ハハハ、判ったよ。取り敢えず馬車を停められる所に行かないとな。」
タケルが、辺りを見回すと、小さな女の子が道行く人に声を掛けようとするが、声を掛けられずにしているのが目にとまった。
「あ、あの・・・宿・・・・あっ・・・」
タケルはミレイアを連れてその女の子に歩み寄り、しゃがんで女の子に声を掛けた。
「ねえ、お嬢さん、俺達宿を探してるんだけど、良い所知らないかな?ウチにも小さい子が居るから静かな所が良いんだけど。」
タケルはミレイアを少しだけ前に出し、女の子にそう尋ねた。すると女の子はさっきまでのオドオドした表情から明るい笑顔になり、元気良く返事をした。
「うん、知ってるよ!教えてあげる!」
女の子はミレイアに視線を移すと、手を差し出し、自己紹介をした。
「私ミレーナ、アナタは?」
ミレイアは少しだけ眉を動かし、ミレーナの手を取ると、自分の名前を告げた。
「ミレイアよ、よろしくね。」
「ミレイア?私のミレーナと何か似てるね、何だか嬉しいな、よろしくね!」
ミレーナはミレイアのと握手した手をブンブンと振って嬉しそうな顔をしていた。その様子を見てタケルは微笑んで、ミレーナにまた尋ねた。
「ミレーナか、良い名前だね、俺達馬車が二台有るんだけど、そこは停められるかな?」
タケルが、そう尋ねるとミレーナはミレイアの手を握ったままタケルの方を向き、笑顔で答えた。
「うん!停められるよ!ちょっと遠いけど、良い所よ。」
「じゃあ一緒に馬車に乗って案内してくれるかな?」
「うん!いいよ!ミレイアちゃん一緒に行こう。」
タケルはミレーナをエスペランサの馬車に乗せ、ミレーナの案内で馬車を走らせた。暫く走ると門の近くの賑わいは消え、少し寂れた感じの場所になって来た。
「ねえ、ミレーナ、本当に宿はこっちなの?」
ミレイアが辺りを見回して心配そうにミレーナに尋ねた。するとミレーナは先程と変わらない笑顔で明るく答えた。
「うん、もうすぐだよ、あ!ほら!見えて来た、あれがそうだよ。」
少し先に周囲の建物とは違い、少し大きめの建物が見えて来た、どうやらその建物が宿のようだ。
「あれがそうみたいだな。」
タケルは建物を見てそう呟いた。馬車が建物の前に着き、馬車を停めると、ミレーナが馬車から降りて宿の中に入って行った。
「お母さ~ん。お客さん連れて来たよ~。」
「えっ、宿ってミレーナの家だったの?」
ミレイアが驚いたように声をあげた。
「え、気付いて居なかったのか、ミレイア。」
アルセリオはミレイアが気付いていなかった事に驚きミレイアに声を掛けた。
「ええ、お兄様は気付いてたの?」
「ああ、最初から判ってたぞ。珍しいな、ミレイアが気付かないなんて。」
「たまたまよ、今日はたまたま、お兄様こそ気づくなんて珍しいんじゃなくて?」
「あらあら、二人とも、ほら、ミレーナちゃんが来ましたよ。」
ルシアナがそう言うと、ミレーナが大人の女性の手を引き戻って来た。
「お母さん、ほら早く!」
「もう、ミレーナったら、そんなに引っ張らなくても。」
連れて来たのはミレーナの母親であった。ミレーナの母親はタケル達に気付くと、慌ててタケル達に挨拶をした。
「あら、あら、こんなに沢山、ようこそ旅の宿、深緑の森の泉亭へ、私はこの宿の住人のメリッサです、宜しくお願いします。皆さんお泊まりですか?」
宿の女主人メリッサの挨拶にタケルが歩み出て話始めた。
「こんにちは、全員泊まりたいので、九人なんですけど、泊まれますか?」
「まあ、九人も。久しぶりの団体さんね、大丈夫ですよ、お部屋は何部屋用意致しますか?」
タケルは少し考えてからメリッサに部屋数を伝えた。
「三人部屋を一部屋と、二人部屋を三部屋って出来ますか?」
「三人部屋は無いので四人部屋を三人でお使い下さい、料金は三人分の料金で宜しいですよ、二人部屋は三部屋ご用意出来ます。」
「判りました、じゃあ、それでお願いします。」
「ありがとうございます、では馬車は裏に停めて下さいね、馬は・・・どうしましょ、大きくて入らないかもしれないわ。」
エスペランサは通常の馬よりも体格が非常に大きく、通常の厩舎では入らないようであった。
「んん~。エスペランサは、あっこの馬の名前です。エスペランサは大人しいんで、馬車の隣に繋いでも良いですか?」
「えっと・・・判りました、宜しいですよ、その代わり馬泥棒とかの心配が有りますけど、大丈夫ですか?」
「ええ、コイツは賢いんで大丈夫ですよ。」
「それなら安心ですね。」
そこでアルセリオがタケルに念話で話し掛けて来た。
『なあ、異空間に戻しておくんじゃ駄目なのか?』
『それだと誰かに見られたらマズイだろ、あまり目立たないようにしたいんだ。』
『おいおい、今更何を言ってるんだよタケル。あれだけ派手な事をしておいて、目立ちたくないって・・・』
『パルブス村とこことじゃ全然人の多さが違うだろ。』
『なるほど。』
アルセリオはようやく納得したようで、馬車を宿の裏手に停めに行った。
「それでは料金ですが、三人部屋が大銀貨八枚、二人部屋が大銀貨五枚ですからえっと・・・」
メリッサが指折りして料金を数えていると、タケルがさらっと合計料金をメリッサに告げた。
「二万三千ベルクなので、純銀貨二十三枚か、小金貨二枚と純銀貨三枚ですね。」
タケルがあっさりと合計金額を言うと、アルセリオやベルナルドが驚いた顔でタケルを見ていた。
「ん?なに?どうかした?」
「なにってタケル、何も使わないで、なんでそんなに計算が早いんだよ。」
「本当ですな、タケル殿は算術の心得も有ったんですな。」
(え?小学生の算数位なんだけど・・・この世界はこんなもんなのかな?)
今まではあまり披露する機会が無かったので気付かなかったが、この世界の学力はあまり高くないとタケルは思った。
「あら、凄いですね、ちょっとまって下さいね。」
メリッサは引き続き指を折り宿代の計算をしていた。
「あら、本当に二万三千ベルクですね。あ、馬車の分を入れるのを忘れてたわ、飼葉は必要ですか?」
「いえ、大丈夫です、必要有りません。あの馬の餌は特殊な物なので、自分達で用意致します。」
するとメリッサは、再び指折り数え始めた時に、アルセリオが念話で話し掛けて来た。
『タケル、エスペランサって餌食べられたのか?』
『違うよ、ゴーレム馬ってのは内緒だからね、餌を食べないとは言えないでしょ。』
『なるほど、確かにそうだな。』
メリッサが計算を終え値段を告げてきた。
「えっと、飼葉が要らないから一台で千ベルクだから・・・二万五千ベルクですね。」
「判りました、料金は先払いですかね?」
「ええ、そうです、先にお願い致します。」
料金を支払いを為に宿の受付に行き料金を支払ったが、ここでもサビオがまとめて支払いを済ませた。
「お泊まりのお客様はお食事を半額の五百ベルクで提供しておりますので、ご入り用の際は早めにお申し付け下さいね。」
そう言ってメリッサは各部屋の鍵をカウンターに置いた、タケルは鍵を受け取りその場で部屋割りを伝え、鍵を手渡した。
「判りました、必要な時は早めに連絡致しますね。じゃあ、部屋割りなんだけど、三人部屋は俺、アル、ベルナルドさん。二人部屋をアルミスとクシーナ、サビオさんとアルバ、ルシアナさんとミレイアで良いかな?」
アルミスは少し残念そうな顔をしたように見えたが、特に皆異論は無いようなので、その部屋割りで決定した。
「ではお部屋にご案内致しますね。」
タケル達はメリッサの後に続き今夜泊まる部屋に向かって行った。
「じゃあ、一旦部屋を確認して、それから冒険者ギルドに行きましょうか。」
タケルは歩きながらみんなに話し掛けた。
「ほっ、そうだな、ワシも新たに登録し直す事にするしな。」
「え?登録し直すんですか?」
「ほっ、ワシが登録したのは五百年前だからな、エルフやドワーフならまだしも、人間でその年齢はマズイからな。」
サビオがメリッサに聞こえないようにこごえで、タケルに話してきたのでタケルは黙って大きく頷いた。
「こちらです、この部屋が四人部屋ですので、三人でお使い下さい、二人部屋は隣の三部屋をお使い下さい。」
メリッサがそれぞれの扉を指し示して説明をすると、タケル達はメリッサに挨拶をし、それぞれの部屋の中に入って室内を確認した。
「へえ、年数は経ってるみたいだけど、結構手入れが行き届いてますね。」
「そうですな、埃も全然無いし、良い部屋ですな。」
ベルナルドが部屋のアチコチを指で擦って感心していた。
「なあ、タケル、早くギルドに行かないか?」
アルセリオは早く冒険者ギルドに行って登録したいようで、ソワソワとしていた。タケルはそれをみて笑ってアルセリオに話し掛けた。
「ハハハ、アル、そんなにギルドに行きたかっなの?どのみち今日は登録だけなんだから、慌てなくても良いんじゃない。」
「いや、それでも冒険者ギルドを早く見てみたいんだよ。」
アルセリオは、それでもとにかく早く冒険者ギルドを見てみたいと言い、まだソワソワしていた。
「判ったよ、部屋の確認も終わったし、皆で登録しに行こうか。」
「ああ、じゃあ、俺は母上達を呼んでくる。」
アルセリオはパッと顔を明るくし、早足でルシアナの部屋に向かって行った。
「ベルナルドさん、行きましょうか。」
タケルとベルナルドは二人で部屋を出て、サビオ達に声を掛けて宿の外で待っていた。アルミスとクシーナは声を掛けたらすぐに出て来て、サビオとアルバは少し遅れてやって来た、あれだけ早くギルドに行きたいとソワソワしていたアルセリオはまだ出て来ていなかった。
「あれ?アルはどうしたんだろ?」
するとルシアナとミレイアが揃って出てきた。
「あら、皆さんごめんなさいね。アルセリオったら急にお腹が痛くなっちゃったみたいで、トイレに入ってるのよ。」
緊張したのか、体調の急変か判らないが、アルセリオは腹痛でトイレに籠っているのだと言われ、タケルは一瞬崩れ落ちそうになるほど力が抜け、タケルは思わず笑ってしまった。
「アハハ、一番ギルドに行きたがってたのに。可愛そうだからちょっと待ってましょうか。」
「あら、ごめんなさいね、みなさん。」
「いえ、大丈夫ですよ、別に急いでませんからね。」
「ほっ、そうだな、少し待つくらいは全然構わないな。」
暫くその場で話をしていると、アルセリオがやって来た。
「みんな待たせてゴメン。何だか急にもよおしちゃって。ちょっと馬車で食べ過ぎたみたいだ。」
アルセリオの腹痛は単なる食べ過ぎによるものだったようで、タケルはまた力が抜け、笑った。
「アハハ。そうか、具合が悪いんじゃ無くてよかったよ、でも向かう途中にもよおさなくて良かったな。」
「あ、ああ、もし途中でさっきのが来たら漏らしてたな。」
アルセリオがもしもの時を時を想像して身震いすると、ミレイアが声をあげた。
「お兄様汚い・・・もしそうなったら縁を切りますわ。」
「み、ミレイア、酷いな!」
「仕方ないな、俺もアルが漏らしたら絶交だ。」
「なっ!た、タケルまで・・・」
「アハハ。冗談だよ、じゃあ早くギルドに行こうか、行きたかったんだろ、アル。」
「おお!そうだ!ギルドだギルド!冒険者ギルドに行くぞ!」
はしゃぐアルセリオに対し、またもミレイアが声をあげた。
「お兄様、はしゃぎ過ぎです、ギルドギルドうるさいです、ギルドは逃げませんから、急がなくても大丈夫です。」
「は、はい。ごめんなさい。」
アルセリオは妹のミレイアに叱られ、シュンッとしてしまった。そして一同はギルドに向かい、揃って歩いて行った。
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ギルドを登場させられませんでした・・・
次回は登場させます、多分。
それでは宜しくお願い致します。
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