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2章 少年期 1部シーバムの大森林編
25話 千年の想い。
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クシーナをサビオ達に紹介したらアルバとクシーナは知り合いであったようだ、そしてクシーナのキャラが最初と随分と違う事が判った、タケルの記憶からレシピを取り込んだクシーナの料理は完全に再現されていたが、クシーナにあだ名をつけられたタケル、ベルナルド、アルミス。そして食後にタケルの魔法で家を大改築すると完成したお風呂に皆で入ろうと言うクシーナ、意外な事にアルミスが賛同し、アルバはどちらでも良いと言い、女性陣に押し切られ皆でお風呂に入り、露天風呂を満喫しタケル達はリビングで寛いでいた。
(お風呂のシーンは別の話で書きます。)
「皆でお風呂楽しかったにゃ~ん、また皆で入ろうね~。」
クシーナは散々はしゃいだ挙げ句、早々に自室へと入って行った。
「そ、そうであるな。たまには良いかも知れませんな!」
ベルナルドは余程楽しかったのか未だにニコニコと笑みを浮かべている。
サビオとアルバはソファーで並んで静かに紅茶を飲んでいたが、二人の手はしっかりと握られていた。
タケルは楽しかったが、明日の事も有るので静かに紅茶を飲み、王妃達の事を考えていた。
アルミスはお風呂に入る前から今まで終始笑顔であった。
「ふう、確かに楽しいけど、明日から王妃様達が増えるからね、暫くは無理だろうね。」
タケルがそう言うとベルナルドはタケルの方を向き頭を下げた。
「タケル殿。明日は宜しくお願い致します。」
「いやいや、そんなに畏まらないでくださいよ。明日からが大変だと思うんで、何せ王妃様達はベルナルドさんと違って気が付いたら千年も時間が過ぎてる訳ですからね。」
ベルナルドはそう言われハッとした、どうやら自分と同じように考えていたらしい、ベルナルドは急に深刻な顔付きになり俯いてしまった。
「ベルナルドさん、大変でしょうが、俺達も協力しますから、一緒に頑張りましょう。」
「タケル殿。ありがとう、宜しく頼む。」
ベルナルドはそう言うとタケルの手をガッチリと握り握手をした。
「ええ、判りました。とにかく明日頑張りましょう。」
「ああ、そうですな。では私も明日に備え寝るとします、では。」
ベルナルドはそう言って部屋へ入って行った。
「じゃあみんな、俺もそろそろ寝るよ。」
「では私も寝ます、タケル様。」
「うん、おやすみ、アルミス。サビオさん、アルバもおやすみ。」
タケルは最後に念話を使いサビオと会話を始めた。
『サビオさん、遮音を忘れないで下さいね。』
『おお。そうだったな。そうする。』
(やっぱりその気だったんか!)
タケルは一人でツッコミを入れつつ部屋に入るとすぐにベッドに入り眠ってしまった。
翌朝、外とリンクさせてる景色に朝日が昇った頃にタケルは目が覚めた。
「いよいよか、アルバの時程じゃないけど緊張するな。顔でも洗ってスッキリするか。」
タケルは洗面所に行き、魔石で水を貯めて顔を洗った。
「ぶは!あ~。気持ちいい・・・よし、朝食はクシーナが作ってくれるから時間有るし、朝風呂に入ろう。」
タケルは気分を入れ替える為に朝風呂に入る事にした。通常の風呂は通りすぎ、露天風呂に行くと、ベルナルドが浴槽の浅い部分に座り、目を瞑ってジッとしていた。
タケルは掛け湯をして湯船に入るとベルナルドに声を掛けた。
「ベルナルドさん、早いですね。」
声を掛けられたベルナルドはスッと目を瞑り開きタケルの方を見た。
「タケル殿。いよいよですな。」
ベルナルドは静かにしゃべり始めた。
「そうですね。俺も少しだけ緊張しちゃって、気分を入れ替える為に朝風呂にと思いまして。」
「タケル殿、この風呂と言うのは良いですな。我々普段行水か、クリーンで済ましていましてな。こうして湯に浸かっていると心が安らぎますな。」
「そうですね。」
タケルは静かにベルナルドの話に返事をした。
「タケル殿、私は今まで王妃様達が復活するのをずっと待ち望んで来ました、しかしいざ封印が解除されるとなり、その時が近付くにつれて怖くなって来てな、王妃様達に王の事は何と説明すれば良いか、国が無くなった事、千年もの時間が過ぎてしまった事、王妃様達が知ったらどうなってしまうか、順応出来るのか、考え始めたらキリが無くなって怖くなってしまったんだ。」
タケルは黙ってベルナルドの話を聞いていた。そして静かにベルナルドに語り掛けた。
「ベルナルドさん。ベルナルドさんは優しいんですね、怖いと言いましたが、自分の事では無く、王妃様達の事を案じて怖いと言いました、でもそんなベルナルドさんが王妃様達には付いてるんです、大丈夫ですよ、俺達も協力しますから。それにベルナルドさんはオーガをも倒す実力者なんですよ、その実力が有れば王妃達を守ることも出来るし、大丈夫ですって。」
「タケル殿・・・タケル殿には助けられてばかりてすな、しかし、初めて会ってから今日までは驚きの連続でしたな、そして楽しかった。王妃様達が復活したら楽しむ事も難しいでしょうからな。」
ベルナルドがそこまで話した時、アルミスがお風呂へタケルを呼びに来た。
「タケル様、お風呂も良いですが、そろそろ朝食の準備が出来ます、早めに上がって下さいね。」
「判った、すぐに上がるよ。ベルナルドさん、朝食を食べて元気を出して、備えましょう!」
「そうですな!」
タケルは手を差し出しベルナルドを立たせ一緒に風呂からあがり、体をクリーンで乾かし、服を着てリビングへ向かった。
「ふう、朝風呂も気持ちいいね。」
「もう、タケるん気持ちいいのは良いけど、食事が冷めちゃうよ!ほら座って!」
クシーナが腰に手を当て、頬を膨らませて怒っていた。
「ゴメンゴメン、つい気持ちよくてね。さて、改築後初の食事を頂きますか、いただきます!」
昨夜手狭になった小屋を大改築し、同時に設置された大きなテーブルには幾つかの料理が小分けされ人数分並んでいた。
「うん、旨い!クシーナ、新しいキッチンの使い心地はどう?」
「うん、とっても使いやすくてステキだよ、ありがとうタケるん。」
「ハハハ、どういたしまして。」
「タケル殿、ワシとアルバの部屋も二人部屋となって使いやすかった、ありがとう。」
「私は部屋は違いますけど、タケル様の、近くで寝られて嬉しいです。」
「そっか、皆気に入ってくれたみたいだね。」
タケル達は改築後の小屋の感想を言いながら朝食を楽しんだ。食事を食べ終わるとタケルが紅茶を淹れて、ソファーやテーブルで思い思いに寛いでいた。
「この感じなら王妃様達が増えても広さ的には問題ないね。」
「そうですね、タケル様。きっと王妃様達も気に入って頂けますよ。」
「そうだね、気に入って貰えると良いな。」
タケルは少しだけ心配していた、広くなったとはいえ、相手は王妃様達である、あの広い宮殿に住んで居た人達である、ここでも狭く感じるかも知れないと思っていたのである。
「さて、心配ばかりしていても始まらない、ベルナルドさん。そろそろ始めましょうか。」
タケルは紅茶を飲み干すとベルナルドに向かいそう言って立ち上がった。
「一応万が一の為に色々出しておこう。」
そう言ってタケルはクッションや水、食料をアイテムボックスから取りだし、床に並べた。
「よし、じゃあ。王妃様達をここへ置いてっと。」
タケルは王妃達が封印された封印石を取りだし床に並べた。
「ルシアナ様、もうすぐです・・・」
ベルナルドが跪き一番大きな魔石を触り呟いた。
「じゃあ、ベルナルド、離れて。始めるよ。」
タケルはベルナルドが退いたのを確認すると封印解除の魔法を封印石に使った。すると魔石が強く光り輝き、光が魔石から溢れて光の塊を作り出した、光の塊は徐々に人の形を成していき、王妃達の姿が見えてきた、光が収まると王妃達が姿を現した。王妃は状況が飲み込めないのか、辺りをキョロキョロと見渡していた。
「ここは・・・?」
その時ベルナルドが突然駆け出した。
「ミレイア様!!」
ベルナルドの声にアルセリオがハッとし、声を上げた。
「ベルナルド?・・・ハッ!ミレイア!!」
続いて王妃もミレアの異変に気付き声をあげた。
「え?ミ、ミレイア!!」
アルセリオと王妃はミレイアの元に駆け寄った。
「そんな、封印の解除は成功していた筈・・・」
タケルも驚きミレイアに駆け寄る。
「ベルナルド!ミレイアはどうしたんだ!」
アルセリオは訳が分からずベルナルドに焦った様子で尋ねた。
「ああ、ミレイア!ミレイア!」
王妃はミレイアの様子を伺うベルナルドの後ろでただオロオロとしていた。
「ベルナルド!ちょっと見せてくれ!」
タケルがベルナルドに声を掛けミレイアの近くに座り鑑定を行った。
「大丈夫だ、気を失っているだけだ。極度の緊張と突然の場面変化によるものだね。」
そう言った時、突然タケルの肩をアルセリオが掴んだ。
「なっ!動かない・・・おい!貴様は何物だ!貴様がミレイアに何かしたんじゃないのか!それに、ここはどこだ!ベルナルド!」
アルセリオはタケルを引き倒そうとしたが、まるで岩のようでビクともせず驚き、そしてタケルがミレイアに何かをしたんじゃないかと疑っていた。
「アルセリオ様!タケル殿に何て事を!彼が!タケル殿がルシアナ様やアルセリオ様の封印を解いて下さったんですぞ!」
ベルナルドは声を荒げてアルセリオを諌めた、ベルナルドの呪いを解き、オーガを一人で倒せるまで強くしてくれ、王妃達の為に部屋まで用意してくれたタケルに向かって酷い物言いをアルセリオがしたからだ。
「ベルナルド、しかしこんなどこの馬の骨とも判らん奴の事を信用など出来ん!」
声を張り上げるうちに興奮してきたアルセリオに王妃が近付きアルセリオを諌めた。
「アルセリオ、お止めなさい!」
「母上・・・しかし・・・」
王妃はアルセリオの目を見て静かに、そして威厳のある喋り方で話し始めた。
「アルセリオ、貴方はこの状況が解らないのですか?ミレイアの下に置かれたクッション、それに私達が立っていた所にも、そしてコップが三つと暖かそうな食事まで・・・そして、何より私達を命掛けで逃がすのを手伝ってくれたベルナルドがこんなにも信頼を寄せる方達なのですよ、この方達が何かをするなんて事は無いでしょう、それに何かをするのであれば、とっくに私達もどうにかなっている筈です。」
流石は王妃である、最初こそ訳が分からずオロオロしていたものの、短時間で辺りを見回し状況判断、ベルナルドの様子でタケル達の事を信頼している事を感じとっていたのである。タケルはそんな王妃を見て感心していた。
「わ、判りました、母上。すまなかったな、ベルナルド。」
「アルセリオ様、謝るのは私にではありません、そちらのタケル殿にであります。」
そう言ってベルナルドがタケルの方を見ると、アルセリオもタケルの方を見た。
「タケルと言ったか、先程はすまなかったな。」
アルセリオはベルナルドに諌められ、仕方なくという感じでタケルに謝罪した。
「別に気にしてませんよ。アルセリオ王子。突然の事で戸惑うのも仕方有りません、立ち話もなんですので、座って話ましょうか。」
タケルがそう言うと、王妃とアルセリオは並んで椅子に座った。
「クシーナ、悪いんだけど紅茶を淹れてくれるかい、アルミス、王女様に毛布を掛けて上げてちょっと見ててあげて。」
「はーい。タケるん。」
「はい、判りました。タケル様。」
タケルはアルミスとクシーナに指示を出すと王妃とアルセリオの対面に座った。
王妃とアルセリオはゆっくりと辺りを見回している。
「紅茶が入ったよ~ん。」
クシーナが紅茶をテーブルに持ってきて、王妃とアルセリオの前にカップを置き紅茶を注ぎ始めると、王妃とアルセリオはクシーナの格好に目を開き驚いていた。特にアルセリオはクシーナの胸元に目が釘付けになっていた。
「どうぞ、紅茶です、お飲み下さい。」
タケルは王妃とベルナルドに紅茶を勧めると自分も一口紅茶を飲んだ。
「タケルさん・・・かしら?頂くわ。」
王妃はタケルが紅茶を飲んだのを確認すると、にっこりと微笑むとカップを手に取り紅茶を一口飲んだ。
「あら、美味しい。」
アルセリオはジッと目の前に置かれた紅茶を見ていたが、王妃の声を聞き王妃の方に一瞬視線を移すとまたカップに視線を戻し紅茶を一口飲んだ。その時一瞬だが顔が綻んだのをタケルは見逃さなかった。
「美味しいでしょ、この紅茶、大精霊テルサス様に頂いた物なんですよ。」
タケルは王妃達を安心させる為にわざとテルサスの名を出した。
「て、テルサス様にお会いした事がお有りなのですか?タケルさん。」
「母上、そんな事有るわけ有りません。大精霊に会った事が有るなどと言う話は聞いた事が有りません。」
アルセリオの言葉を聞き、クシーナやアルミスの顔付きが変わり何かを言おうとしたが、、タケルが無言で制した。
「まあ、信じられないのも無理は有りません、その内判るでしょうから。それよりも王妃様達の現状をお話ししなければいけません。」
タケルがそう告げると王妃とアルセリオは少し真剣な顔付きになり、紅茶のカップを置いてタケルの方をジッと見つめていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
漸く王妃達を復活させる事が出来ました。
上手く行けばあともう少しでシーバムの大森林編が終わります。
引き続き宜しくお願い致します。
(お風呂のシーンは別の話で書きます。)
「皆でお風呂楽しかったにゃ~ん、また皆で入ろうね~。」
クシーナは散々はしゃいだ挙げ句、早々に自室へと入って行った。
「そ、そうであるな。たまには良いかも知れませんな!」
ベルナルドは余程楽しかったのか未だにニコニコと笑みを浮かべている。
サビオとアルバはソファーで並んで静かに紅茶を飲んでいたが、二人の手はしっかりと握られていた。
タケルは楽しかったが、明日の事も有るので静かに紅茶を飲み、王妃達の事を考えていた。
アルミスはお風呂に入る前から今まで終始笑顔であった。
「ふう、確かに楽しいけど、明日から王妃様達が増えるからね、暫くは無理だろうね。」
タケルがそう言うとベルナルドはタケルの方を向き頭を下げた。
「タケル殿。明日は宜しくお願い致します。」
「いやいや、そんなに畏まらないでくださいよ。明日からが大変だと思うんで、何せ王妃様達はベルナルドさんと違って気が付いたら千年も時間が過ぎてる訳ですからね。」
ベルナルドはそう言われハッとした、どうやら自分と同じように考えていたらしい、ベルナルドは急に深刻な顔付きになり俯いてしまった。
「ベルナルドさん、大変でしょうが、俺達も協力しますから、一緒に頑張りましょう。」
「タケル殿。ありがとう、宜しく頼む。」
ベルナルドはそう言うとタケルの手をガッチリと握り握手をした。
「ええ、判りました。とにかく明日頑張りましょう。」
「ああ、そうですな。では私も明日に備え寝るとします、では。」
ベルナルドはそう言って部屋へ入って行った。
「じゃあみんな、俺もそろそろ寝るよ。」
「では私も寝ます、タケル様。」
「うん、おやすみ、アルミス。サビオさん、アルバもおやすみ。」
タケルは最後に念話を使いサビオと会話を始めた。
『サビオさん、遮音を忘れないで下さいね。』
『おお。そうだったな。そうする。』
(やっぱりその気だったんか!)
タケルは一人でツッコミを入れつつ部屋に入るとすぐにベッドに入り眠ってしまった。
翌朝、外とリンクさせてる景色に朝日が昇った頃にタケルは目が覚めた。
「いよいよか、アルバの時程じゃないけど緊張するな。顔でも洗ってスッキリするか。」
タケルは洗面所に行き、魔石で水を貯めて顔を洗った。
「ぶは!あ~。気持ちいい・・・よし、朝食はクシーナが作ってくれるから時間有るし、朝風呂に入ろう。」
タケルは気分を入れ替える為に朝風呂に入る事にした。通常の風呂は通りすぎ、露天風呂に行くと、ベルナルドが浴槽の浅い部分に座り、目を瞑ってジッとしていた。
タケルは掛け湯をして湯船に入るとベルナルドに声を掛けた。
「ベルナルドさん、早いですね。」
声を掛けられたベルナルドはスッと目を瞑り開きタケルの方を見た。
「タケル殿。いよいよですな。」
ベルナルドは静かにしゃべり始めた。
「そうですね。俺も少しだけ緊張しちゃって、気分を入れ替える為に朝風呂にと思いまして。」
「タケル殿、この風呂と言うのは良いですな。我々普段行水か、クリーンで済ましていましてな。こうして湯に浸かっていると心が安らぎますな。」
「そうですね。」
タケルは静かにベルナルドの話に返事をした。
「タケル殿、私は今まで王妃様達が復活するのをずっと待ち望んで来ました、しかしいざ封印が解除されるとなり、その時が近付くにつれて怖くなって来てな、王妃様達に王の事は何と説明すれば良いか、国が無くなった事、千年もの時間が過ぎてしまった事、王妃様達が知ったらどうなってしまうか、順応出来るのか、考え始めたらキリが無くなって怖くなってしまったんだ。」
タケルは黙ってベルナルドの話を聞いていた。そして静かにベルナルドに語り掛けた。
「ベルナルドさん。ベルナルドさんは優しいんですね、怖いと言いましたが、自分の事では無く、王妃様達の事を案じて怖いと言いました、でもそんなベルナルドさんが王妃様達には付いてるんです、大丈夫ですよ、俺達も協力しますから。それにベルナルドさんはオーガをも倒す実力者なんですよ、その実力が有れば王妃達を守ることも出来るし、大丈夫ですって。」
「タケル殿・・・タケル殿には助けられてばかりてすな、しかし、初めて会ってから今日までは驚きの連続でしたな、そして楽しかった。王妃様達が復活したら楽しむ事も難しいでしょうからな。」
ベルナルドがそこまで話した時、アルミスがお風呂へタケルを呼びに来た。
「タケル様、お風呂も良いですが、そろそろ朝食の準備が出来ます、早めに上がって下さいね。」
「判った、すぐに上がるよ。ベルナルドさん、朝食を食べて元気を出して、備えましょう!」
「そうですな!」
タケルは手を差し出しベルナルドを立たせ一緒に風呂からあがり、体をクリーンで乾かし、服を着てリビングへ向かった。
「ふう、朝風呂も気持ちいいね。」
「もう、タケるん気持ちいいのは良いけど、食事が冷めちゃうよ!ほら座って!」
クシーナが腰に手を当て、頬を膨らませて怒っていた。
「ゴメンゴメン、つい気持ちよくてね。さて、改築後初の食事を頂きますか、いただきます!」
昨夜手狭になった小屋を大改築し、同時に設置された大きなテーブルには幾つかの料理が小分けされ人数分並んでいた。
「うん、旨い!クシーナ、新しいキッチンの使い心地はどう?」
「うん、とっても使いやすくてステキだよ、ありがとうタケるん。」
「ハハハ、どういたしまして。」
「タケル殿、ワシとアルバの部屋も二人部屋となって使いやすかった、ありがとう。」
「私は部屋は違いますけど、タケル様の、近くで寝られて嬉しいです。」
「そっか、皆気に入ってくれたみたいだね。」
タケル達は改築後の小屋の感想を言いながら朝食を楽しんだ。食事を食べ終わるとタケルが紅茶を淹れて、ソファーやテーブルで思い思いに寛いでいた。
「この感じなら王妃様達が増えても広さ的には問題ないね。」
「そうですね、タケル様。きっと王妃様達も気に入って頂けますよ。」
「そうだね、気に入って貰えると良いな。」
タケルは少しだけ心配していた、広くなったとはいえ、相手は王妃様達である、あの広い宮殿に住んで居た人達である、ここでも狭く感じるかも知れないと思っていたのである。
「さて、心配ばかりしていても始まらない、ベルナルドさん。そろそろ始めましょうか。」
タケルは紅茶を飲み干すとベルナルドに向かいそう言って立ち上がった。
「一応万が一の為に色々出しておこう。」
そう言ってタケルはクッションや水、食料をアイテムボックスから取りだし、床に並べた。
「よし、じゃあ。王妃様達をここへ置いてっと。」
タケルは王妃達が封印された封印石を取りだし床に並べた。
「ルシアナ様、もうすぐです・・・」
ベルナルドが跪き一番大きな魔石を触り呟いた。
「じゃあ、ベルナルド、離れて。始めるよ。」
タケルはベルナルドが退いたのを確認すると封印解除の魔法を封印石に使った。すると魔石が強く光り輝き、光が魔石から溢れて光の塊を作り出した、光の塊は徐々に人の形を成していき、王妃達の姿が見えてきた、光が収まると王妃達が姿を現した。王妃は状況が飲み込めないのか、辺りをキョロキョロと見渡していた。
「ここは・・・?」
その時ベルナルドが突然駆け出した。
「ミレイア様!!」
ベルナルドの声にアルセリオがハッとし、声を上げた。
「ベルナルド?・・・ハッ!ミレイア!!」
続いて王妃もミレアの異変に気付き声をあげた。
「え?ミ、ミレイア!!」
アルセリオと王妃はミレイアの元に駆け寄った。
「そんな、封印の解除は成功していた筈・・・」
タケルも驚きミレイアに駆け寄る。
「ベルナルド!ミレイアはどうしたんだ!」
アルセリオは訳が分からずベルナルドに焦った様子で尋ねた。
「ああ、ミレイア!ミレイア!」
王妃はミレイアの様子を伺うベルナルドの後ろでただオロオロとしていた。
「ベルナルド!ちょっと見せてくれ!」
タケルがベルナルドに声を掛けミレイアの近くに座り鑑定を行った。
「大丈夫だ、気を失っているだけだ。極度の緊張と突然の場面変化によるものだね。」
そう言った時、突然タケルの肩をアルセリオが掴んだ。
「なっ!動かない・・・おい!貴様は何物だ!貴様がミレイアに何かしたんじゃないのか!それに、ここはどこだ!ベルナルド!」
アルセリオはタケルを引き倒そうとしたが、まるで岩のようでビクともせず驚き、そしてタケルがミレイアに何かをしたんじゃないかと疑っていた。
「アルセリオ様!タケル殿に何て事を!彼が!タケル殿がルシアナ様やアルセリオ様の封印を解いて下さったんですぞ!」
ベルナルドは声を荒げてアルセリオを諌めた、ベルナルドの呪いを解き、オーガを一人で倒せるまで強くしてくれ、王妃達の為に部屋まで用意してくれたタケルに向かって酷い物言いをアルセリオがしたからだ。
「ベルナルド、しかしこんなどこの馬の骨とも判らん奴の事を信用など出来ん!」
声を張り上げるうちに興奮してきたアルセリオに王妃が近付きアルセリオを諌めた。
「アルセリオ、お止めなさい!」
「母上・・・しかし・・・」
王妃はアルセリオの目を見て静かに、そして威厳のある喋り方で話し始めた。
「アルセリオ、貴方はこの状況が解らないのですか?ミレイアの下に置かれたクッション、それに私達が立っていた所にも、そしてコップが三つと暖かそうな食事まで・・・そして、何より私達を命掛けで逃がすのを手伝ってくれたベルナルドがこんなにも信頼を寄せる方達なのですよ、この方達が何かをするなんて事は無いでしょう、それに何かをするのであれば、とっくに私達もどうにかなっている筈です。」
流石は王妃である、最初こそ訳が分からずオロオロしていたものの、短時間で辺りを見回し状況判断、ベルナルドの様子でタケル達の事を信頼している事を感じとっていたのである。タケルはそんな王妃を見て感心していた。
「わ、判りました、母上。すまなかったな、ベルナルド。」
「アルセリオ様、謝るのは私にではありません、そちらのタケル殿にであります。」
そう言ってベルナルドがタケルの方を見ると、アルセリオもタケルの方を見た。
「タケルと言ったか、先程はすまなかったな。」
アルセリオはベルナルドに諌められ、仕方なくという感じでタケルに謝罪した。
「別に気にしてませんよ。アルセリオ王子。突然の事で戸惑うのも仕方有りません、立ち話もなんですので、座って話ましょうか。」
タケルがそう言うと、王妃とアルセリオは並んで椅子に座った。
「クシーナ、悪いんだけど紅茶を淹れてくれるかい、アルミス、王女様に毛布を掛けて上げてちょっと見ててあげて。」
「はーい。タケるん。」
「はい、判りました。タケル様。」
タケルはアルミスとクシーナに指示を出すと王妃とアルセリオの対面に座った。
王妃とアルセリオはゆっくりと辺りを見回している。
「紅茶が入ったよ~ん。」
クシーナが紅茶をテーブルに持ってきて、王妃とアルセリオの前にカップを置き紅茶を注ぎ始めると、王妃とアルセリオはクシーナの格好に目を開き驚いていた。特にアルセリオはクシーナの胸元に目が釘付けになっていた。
「どうぞ、紅茶です、お飲み下さい。」
タケルは王妃とベルナルドに紅茶を勧めると自分も一口紅茶を飲んだ。
「タケルさん・・・かしら?頂くわ。」
王妃はタケルが紅茶を飲んだのを確認すると、にっこりと微笑むとカップを手に取り紅茶を一口飲んだ。
「あら、美味しい。」
アルセリオはジッと目の前に置かれた紅茶を見ていたが、王妃の声を聞き王妃の方に一瞬視線を移すとまたカップに視線を戻し紅茶を一口飲んだ。その時一瞬だが顔が綻んだのをタケルは見逃さなかった。
「美味しいでしょ、この紅茶、大精霊テルサス様に頂いた物なんですよ。」
タケルは王妃達を安心させる為にわざとテルサスの名を出した。
「て、テルサス様にお会いした事がお有りなのですか?タケルさん。」
「母上、そんな事有るわけ有りません。大精霊に会った事が有るなどと言う話は聞いた事が有りません。」
アルセリオの言葉を聞き、クシーナやアルミスの顔付きが変わり何かを言おうとしたが、、タケルが無言で制した。
「まあ、信じられないのも無理は有りません、その内判るでしょうから。それよりも王妃様達の現状をお話ししなければいけません。」
タケルがそう告げると王妃とアルセリオは少し真剣な顔付きになり、紅茶のカップを置いてタケルの方をジッと見つめていた。
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漸く王妃達を復活させる事が出来ました。
上手く行けばあともう少しでシーバムの大森林編が終わります。
引き続き宜しくお願い致します。
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