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2章 少年期 1部シーバムの大森林編
19話 嘆息
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ドラゴンを無事に聖獣に戻すサビオの願いを叶えたタケルはドラゴンをアルバと名付け、アルバは人化出来ることも判明し、サビオとも恋人同士と言う事も判った。アルバはサビオの髭が気に入らないらしく、キスをしている間に髭を切ってしまった。そして今は切られて短くなった髭のサビオと人化したアルバを連れてセーフゾーンの小屋のリビングに戻って来ていた。
「はい、紅茶だよ、アルバ。」
「あら、これは美味しそうな紅茶ね、主。」
「あ、そうか、長く生きてるから紅茶を良く知ってるんだね。」
「そうよ、主。人間が英雄王と呼ぶ彼にも会った事もあるわ。」
アルバが英雄王と会った事が有ると聞いてアルミスの目の色が変わった。
「アルバさん!今の話本当ですか?え、英雄王に会った事が有るって!」
「ほっほっほ。アルミス殿は英雄王の話が大好きであったの。」
アルミスは本当に英雄王の話が好きであった、心が折れて山に籠っていた頃、女神にタケルが英雄王を越える可能性のある存在と聞き、そしてそんなタケルに仕える事が出来ると知り立ち直った経緯があり、今では英雄王とタケルを重ねて見ている程であった。
「そうなの?じゃあ彼の事を少し話してあげる。」
アルバはアルミスの方を向くと、ニコッと笑い英雄王の事を話始めた。
「そうねえ、何から話そうかしら。」
アルバはそう言うとカップを手に持ち紅茶を一口飲んだ。
「あら、美味しい紅茶。やっぱり主は紅茶を淹れるのが上手ね。」
「ん?あ、ああ、ありがとう、アルバ。」
タケルはアルバの言葉に違和感を感じたが気のせいだと思い、誉められた事にお礼で返した。アルミスとサビオは特に気にしてはいないようであった。
「私が彼に初めて会ったのは彼がまだ少年の頃だったわ。そうね丁度今の主と同じくらいかしらね、その頃の彼は村を出て旅を始めたばかりだったかしらね、まだ少年なのに妙に大人びた所が有ってね、実力もかなりのものだったわね、それに色々とこの世界に無い物を発明したりもしてたわね。」
アルバの話を聞いていたアルミスがふと呟いた。
「英雄王って何だかタケル様みたいですね。」
アルミスの呟きに気付いたアルバはタケルの方を見て微笑んだ。
「そうね、確かに似てるわね、主と彼は姿は違うけど纏う雰囲気や、妙に大人びた所とか、魔力の質なんかそっくりね。」
アルバの話にタケルは焦っていた、このままでは自分が英雄王の生まれ変わりだとバレてしまうと思ったからだ。いつかは話そうと思ってはいたが、まだその時期ではないと思っていた。
(オイオイ、マズイな。可笑しな空気になって来たぞ。)
その時、アルバがタケルの方をみてクスッと笑った、アルミスとサビオは気付いていなかったが、タケルはアルバと目が合い気が付いた。同時に先程のアルバの発言の違和感の原因も理解した。
(アルバは俺が英雄王の生まれ変わりだと気付いているのか!だからさっきやっぱり紅茶を淹れるのが上手いと言ったのか!)
タケルが動揺するのを見てアルバはサビオやアルミスには判らないようにイタズラっ子のようにタケルの方を見て笑った。
(む。アルバ、ワザとやってるな、そう来るならこっちだって。)
「へえ、英雄王は小さい頃からやっぱり凄かったんだね、ところでアルバ、ところで瘴気を大量に取り込んでしまったの?教えてよ。」
タケルはアルバのイタズラのような行為を止めさせる為、同時にこれ以上自分が英雄王の生まれ変わりだと言うのがバレる危険を無くすた為に、最後の言葉にアルバの主としての気を込めて命令をした。口調は優しく話したのでサビオとアルミスは気付いてはいなかったが、従魔であるアルバだけは気付き少しやり過ぎたとタケルにだけ判るように肩を竦めた。
「あ、瘴気の事ね、それが自分でも判らないのよね、何時ものように山で昼寝をしていて、気が付いたら自分の意思とは裏腹に国々を破壊して回っていたの。それでサビオに自分を殺して貰って今に至る訳ね。」
「うーん。そうか、何かをしたとかじゃ無くて、気が付いたら・・・・か。もしかしたら悪意ある何者かの手によって邪竜にされてしまったのかもしれないな。」
するとタケルの話を聞いたサビオが短くなった髭を触りながら口を開いた。
「やはりタケル殿もそう思うかの。ワシはアルバを聖獣に戻す事もだがの、同時にその原因も調べておったんだがの。結局見付ける事は出来なかったんだの。」
アルバが聖獣からある日突然邪竜になると言う異常をサビオが不思議に思わない訳がなかった、しかしその原因は大賢者となったサビオでも突き止める事は出来なかったのである。
「取り敢えずその件は引き続き調べる必要が有りそうだけど、今考えても答は出ないから、また今度ね。」
「そうですね、そろそろベルナルドさんも戻ってくるでしょうし。夕食の準備をしますか?タケル様。」
タケルはアルミスに言われハッとした、どうやら完全に忘れて居たようである。
「ベルナルドさんか、完全に忘れてたよ、アルバの事はどう説明しようか。」
「それならタケル様。シルヴァちゃんの事は見てるから、アルバさんのドラゴンの姿を見せて、その後人化して貰ったらどうですか?人からドラゴンになるよりもショックは少なそうですけども。」
「確かにそうだね、じゃあ一度異空間に行ってベルナルドさんを呼ぼうか、今帰って来たら面倒だからね。」
タケルがベルナルドが帰ってくる前にと異空間の扉を出現させた瞬間、 ベルナルドがセーフゾーンの鍵を使い扉をくぐりリビングに戻ってきた。
「いや~。魔物に全然出会えなくて1日歩き回ってしまいました。」
タケルは手で目を覆い上を向いて声を上げその後項垂れた。
「何てタイミングの悪い・・・」
「おや、どうしました?タケル殿、何か落ち込んでるようですが。」
タイミング悪く戻って来たベルナルドだが、タケルの落胆が自分のせいだとは知るよしも無く、ただ笑っていた。
「いや、どうもしませんよ、ベルナルドさん・・・1人での狩りはどうでしてたか?」
タケルは気を取り直してベルナルドに狩の感想を聞いていたが、既に結果は分かっていた。
「いや~。それが、全然魔物に出会えず仕舞いでしてな、一体今日はどうしたんでしょうな。」
ベルナルドが笑っていると、アルバが突然話始めた。
「そんなに魔力を垂れ流してたら魔物なんか寄って来る訳が無いじゃない。そこそこ実力が有るようだけど、結構抜けてるのかしら?」
突然知らない声に話しかけられ驚いたベルナルドは、声のした方を見て目を奪われたのか、動きを止めていた。
「なにかしら?人の顔をじっと見つめて。」
漸くベルナルドが復帰して言葉を発した。
「これはなんとお美しい。お嬢さん、お名前をお伺いしてもよろしいかな?」
どうやらアルバの美しさに見とれていたようだ、アルバに話しかけている声色もいつもと少し違う。
「あら、ありがとう。でも、名前を訪ねるにはまず自分から名乗るべきではなくって?シーバム王国の近衛騎士団さん。」
「これは失礼いたしました、美しいお嬢さん、私はシーバム王国近衛騎士団のベルナルドと申します、お名前を伺って・・・・何故近衛騎士団だと判ったんです?」
ベルナルドはアルバに言われ普通に自己紹介をした後に漸くアルバが何故自分が近衛騎士団だと知っているのか疑問に思った。
「そうか、タケル殿達に聞いたのですな?」
「何を言ってるのかしら?貴方のその鎧はシーバム王国の近衛騎士団のものでしょう?まだあの国は残っていたのかしら?」
そこで初めてタケルがベルナルドをアルバに紹介し、ベルナルドと王妃の話をアルバに説明をした。
「そうだったのね。大変だったわね、ベルナルドさん。では改めて自己紹介をするわね、私の名前はアルバ、主のタケル様に付けて頂いた名前よ。」
「アルバさんですか、素敵なお名前ですね、その名前はタケル殿が付けてくれたんですか、それは素敵な名前を貰い・・・・えっ?そ、それはどういう意味ですか?」
ベルナルドはまだ理解出来ていないようである、それも当然で目の前にいる白髪の美しい女性がドラゴンだなどと思うわけが無かった。
「私は聖獣ホーリードラゴンで邪竜となった私を元に戻してくださったのが主であるタケル様なんですよ。」
タケルはまたも目を覆い上を向いたかと思うと項垂れた。そしてベルナルドはアルバの言っている話の意味が理解出来ていなかった。
「ああーベルナルドさん、アルバの言ってる事は本当です、驚きを少なくするために準備をする所だったんですが、ベルナルドさんが帰って来てしまったんですよ。」
「そ、そうで、ありましたか、これは済まなかったな。」
「いやいや、謝る必要は無いですよ、それよりも理解して貰う為にちょっと異空間に行きましょう。」
タケルは少し疲れた感じで扉を出現させ、全員で異空間へと入って行った。
タケルの異空間でアルバを1人離れた場所に立たせ、他のメンバーはアルバの方を向きアルバの事を見つめていた。
「さて、じゃあアルバ、ベルナルドさんに見せてあげてよ。」
「判りました、主。」
アルバがそういうとアルバの体は光り出し、光が強くなると光球へと変わりアルバの姿は見えなくなり、光球が大きくなっていった、そして光球の形が次第にドラゴンの形へと姿を変えていくと、光が収まっていき完全にドラコン姿となったアルバの姿が現れた。
「おおお、これは何とも神々しい美しさのドラゴンなのだ。して、アルバ殿はどちらに行かれたのかな?光りと共に姿が見えなくなったのだが。」
そう言ってベルナルドはアルバの姿を探しキョロキョロと辺りを見回していた。そんなベルナルドの様子を見てタケルはガックリと肩を落とした。
「ベルナルドさん、今目の前に居るドラゴンがアルバなんですよ。」
「ハハハハ。タケル殿も冗談がお好きですな、あのお嬢さんがこのように大きなドラゴンの訳」
「本当よ、何言ってるのかしら?」
相変わらずなサビオの言葉を遮るようにアルバが声をあげた。聞き覚えの有る声に反応したベルナルドだが、声の主が見当たらずにまたもキョロキョロとするベルナルドであった。
「もう。ちゃんと見なさい!私はここよ!」
アルバが身振り手振りでベルナルドに向かって声を張り上げる。
「な、なんと・・・いや、まさか・・・」
ベルナルドは未だに信じられないという感じであった、そんなベルナルドを見てアルバは呆れたようで、嘆息し頭を振っていた。
「もう良いわ!信じなくても。」
呆れたようにアルバは言うと、また体が光だし、人の姿になった。人の姿に戻ったアルバはまた全裸になっていた。
「あ、アルバ!さっきの服は?!」
「服?そのまま元の姿になる時に破れちゃった。」
「じゃあ破れた服は?」
「何処かに消えてしまったわね。」
それを聞いたタケルは黙って素材を取り出し、再度ワンピースと靴を作り、もうひとつ魔石を使いネックレスを作った。出来上がったワンピースと靴をアルバに渡し、ネックレスも着けて貰った。
「アルバ、このネックレスを着けていれば、今度元の姿に戻る時に服を脱がなくても破れたりしないからさ。」
「服が伸びるのですか?主。」
「いやいや、違うよ、アルバが変身する時の魔力を感知して服を魔石に収納してくれるんだよ。服は登録すれば何着か登録して収納もしておけるから、好きに着替えも出きるよ。」
タケルはアルバが変身する度に服を作らなくてはいけなくなったら面倒だと思い、変身時に着ている服を魔石に収納出来るようにしたのであった。
「まあ、それは素敵ね。主」
「それとアルバ、その主っての何とかならない?名前で呼んで欲しいんだけど。」
「主がそう望むのならそうするわ。タケル様。」
「様付けはアルミスだけで十分だよ、もう少し軽くても良いよ。」
タケルがそう言うと、アルバは頬に指を当てて少し考えていた。
「じゃあ、タケルさんで良いかしら?」
「うん、それで良いよ。アルバ、改めて宜しく。」
タケルはアルバに手を差し出すと、アルバは両手でタケルの手を包み込み、タケルの目を見て微笑んで首を少し傾けた。
「こちらこそ宜しくお願い致しますわ、タケルさん。」
その姿は非常に可愛らしく、仕草も本当に人間っぽく、タケルは少しドキッとしてしまった。
セーフゾーンに帰ろうと扉を出現させると、ベルナルドがいきなり声をあげた。
「はっ!ドラゴンが人に・・・アルバ殿は本当にドラゴンであったか。」
ベルナルド以外の全員がその場で嘆息し、呆れ返っていた。
「今更かよ!」
「ベルナルド殿」
「・・・・」
「ふふ、面白い人ね。」
微妙な空気のままセーフゾーンの小屋に戻った時、再びベルナルドが声を上げた。
「サビオ殿!髭はどうされたのだ?!」
再び全員が嘆息し、ベルナルドに呆れた声が小屋に響いた。
「はい、紅茶だよ、アルバ。」
「あら、これは美味しそうな紅茶ね、主。」
「あ、そうか、長く生きてるから紅茶を良く知ってるんだね。」
「そうよ、主。人間が英雄王と呼ぶ彼にも会った事もあるわ。」
アルバが英雄王と会った事が有ると聞いてアルミスの目の色が変わった。
「アルバさん!今の話本当ですか?え、英雄王に会った事が有るって!」
「ほっほっほ。アルミス殿は英雄王の話が大好きであったの。」
アルミスは本当に英雄王の話が好きであった、心が折れて山に籠っていた頃、女神にタケルが英雄王を越える可能性のある存在と聞き、そしてそんなタケルに仕える事が出来ると知り立ち直った経緯があり、今では英雄王とタケルを重ねて見ている程であった。
「そうなの?じゃあ彼の事を少し話してあげる。」
アルバはアルミスの方を向くと、ニコッと笑い英雄王の事を話始めた。
「そうねえ、何から話そうかしら。」
アルバはそう言うとカップを手に持ち紅茶を一口飲んだ。
「あら、美味しい紅茶。やっぱり主は紅茶を淹れるのが上手ね。」
「ん?あ、ああ、ありがとう、アルバ。」
タケルはアルバの言葉に違和感を感じたが気のせいだと思い、誉められた事にお礼で返した。アルミスとサビオは特に気にしてはいないようであった。
「私が彼に初めて会ったのは彼がまだ少年の頃だったわ。そうね丁度今の主と同じくらいかしらね、その頃の彼は村を出て旅を始めたばかりだったかしらね、まだ少年なのに妙に大人びた所が有ってね、実力もかなりのものだったわね、それに色々とこの世界に無い物を発明したりもしてたわね。」
アルバの話を聞いていたアルミスがふと呟いた。
「英雄王って何だかタケル様みたいですね。」
アルミスの呟きに気付いたアルバはタケルの方を見て微笑んだ。
「そうね、確かに似てるわね、主と彼は姿は違うけど纏う雰囲気や、妙に大人びた所とか、魔力の質なんかそっくりね。」
アルバの話にタケルは焦っていた、このままでは自分が英雄王の生まれ変わりだとバレてしまうと思ったからだ。いつかは話そうと思ってはいたが、まだその時期ではないと思っていた。
(オイオイ、マズイな。可笑しな空気になって来たぞ。)
その時、アルバがタケルの方をみてクスッと笑った、アルミスとサビオは気付いていなかったが、タケルはアルバと目が合い気が付いた。同時に先程のアルバの発言の違和感の原因も理解した。
(アルバは俺が英雄王の生まれ変わりだと気付いているのか!だからさっきやっぱり紅茶を淹れるのが上手いと言ったのか!)
タケルが動揺するのを見てアルバはサビオやアルミスには判らないようにイタズラっ子のようにタケルの方を見て笑った。
(む。アルバ、ワザとやってるな、そう来るならこっちだって。)
「へえ、英雄王は小さい頃からやっぱり凄かったんだね、ところでアルバ、ところで瘴気を大量に取り込んでしまったの?教えてよ。」
タケルはアルバのイタズラのような行為を止めさせる為、同時にこれ以上自分が英雄王の生まれ変わりだと言うのがバレる危険を無くすた為に、最後の言葉にアルバの主としての気を込めて命令をした。口調は優しく話したのでサビオとアルミスは気付いてはいなかったが、従魔であるアルバだけは気付き少しやり過ぎたとタケルにだけ判るように肩を竦めた。
「あ、瘴気の事ね、それが自分でも判らないのよね、何時ものように山で昼寝をしていて、気が付いたら自分の意思とは裏腹に国々を破壊して回っていたの。それでサビオに自分を殺して貰って今に至る訳ね。」
「うーん。そうか、何かをしたとかじゃ無くて、気が付いたら・・・・か。もしかしたら悪意ある何者かの手によって邪竜にされてしまったのかもしれないな。」
するとタケルの話を聞いたサビオが短くなった髭を触りながら口を開いた。
「やはりタケル殿もそう思うかの。ワシはアルバを聖獣に戻す事もだがの、同時にその原因も調べておったんだがの。結局見付ける事は出来なかったんだの。」
アルバが聖獣からある日突然邪竜になると言う異常をサビオが不思議に思わない訳がなかった、しかしその原因は大賢者となったサビオでも突き止める事は出来なかったのである。
「取り敢えずその件は引き続き調べる必要が有りそうだけど、今考えても答は出ないから、また今度ね。」
「そうですね、そろそろベルナルドさんも戻ってくるでしょうし。夕食の準備をしますか?タケル様。」
タケルはアルミスに言われハッとした、どうやら完全に忘れて居たようである。
「ベルナルドさんか、完全に忘れてたよ、アルバの事はどう説明しようか。」
「それならタケル様。シルヴァちゃんの事は見てるから、アルバさんのドラゴンの姿を見せて、その後人化して貰ったらどうですか?人からドラゴンになるよりもショックは少なそうですけども。」
「確かにそうだね、じゃあ一度異空間に行ってベルナルドさんを呼ぼうか、今帰って来たら面倒だからね。」
タケルがベルナルドが帰ってくる前にと異空間の扉を出現させた瞬間、 ベルナルドがセーフゾーンの鍵を使い扉をくぐりリビングに戻ってきた。
「いや~。魔物に全然出会えなくて1日歩き回ってしまいました。」
タケルは手で目を覆い上を向いて声を上げその後項垂れた。
「何てタイミングの悪い・・・」
「おや、どうしました?タケル殿、何か落ち込んでるようですが。」
タイミング悪く戻って来たベルナルドだが、タケルの落胆が自分のせいだとは知るよしも無く、ただ笑っていた。
「いや、どうもしませんよ、ベルナルドさん・・・1人での狩りはどうでしてたか?」
タケルは気を取り直してベルナルドに狩の感想を聞いていたが、既に結果は分かっていた。
「いや~。それが、全然魔物に出会えず仕舞いでしてな、一体今日はどうしたんでしょうな。」
ベルナルドが笑っていると、アルバが突然話始めた。
「そんなに魔力を垂れ流してたら魔物なんか寄って来る訳が無いじゃない。そこそこ実力が有るようだけど、結構抜けてるのかしら?」
突然知らない声に話しかけられ驚いたベルナルドは、声のした方を見て目を奪われたのか、動きを止めていた。
「なにかしら?人の顔をじっと見つめて。」
漸くベルナルドが復帰して言葉を発した。
「これはなんとお美しい。お嬢さん、お名前をお伺いしてもよろしいかな?」
どうやらアルバの美しさに見とれていたようだ、アルバに話しかけている声色もいつもと少し違う。
「あら、ありがとう。でも、名前を訪ねるにはまず自分から名乗るべきではなくって?シーバム王国の近衛騎士団さん。」
「これは失礼いたしました、美しいお嬢さん、私はシーバム王国近衛騎士団のベルナルドと申します、お名前を伺って・・・・何故近衛騎士団だと判ったんです?」
ベルナルドはアルバに言われ普通に自己紹介をした後に漸くアルバが何故自分が近衛騎士団だと知っているのか疑問に思った。
「そうか、タケル殿達に聞いたのですな?」
「何を言ってるのかしら?貴方のその鎧はシーバム王国の近衛騎士団のものでしょう?まだあの国は残っていたのかしら?」
そこで初めてタケルがベルナルドをアルバに紹介し、ベルナルドと王妃の話をアルバに説明をした。
「そうだったのね。大変だったわね、ベルナルドさん。では改めて自己紹介をするわね、私の名前はアルバ、主のタケル様に付けて頂いた名前よ。」
「アルバさんですか、素敵なお名前ですね、その名前はタケル殿が付けてくれたんですか、それは素敵な名前を貰い・・・・えっ?そ、それはどういう意味ですか?」
ベルナルドはまだ理解出来ていないようである、それも当然で目の前にいる白髪の美しい女性がドラゴンだなどと思うわけが無かった。
「私は聖獣ホーリードラゴンで邪竜となった私を元に戻してくださったのが主であるタケル様なんですよ。」
タケルはまたも目を覆い上を向いたかと思うと項垂れた。そしてベルナルドはアルバの言っている話の意味が理解出来ていなかった。
「ああーベルナルドさん、アルバの言ってる事は本当です、驚きを少なくするために準備をする所だったんですが、ベルナルドさんが帰って来てしまったんですよ。」
「そ、そうで、ありましたか、これは済まなかったな。」
「いやいや、謝る必要は無いですよ、それよりも理解して貰う為にちょっと異空間に行きましょう。」
タケルは少し疲れた感じで扉を出現させ、全員で異空間へと入って行った。
タケルの異空間でアルバを1人離れた場所に立たせ、他のメンバーはアルバの方を向きアルバの事を見つめていた。
「さて、じゃあアルバ、ベルナルドさんに見せてあげてよ。」
「判りました、主。」
アルバがそういうとアルバの体は光り出し、光が強くなると光球へと変わりアルバの姿は見えなくなり、光球が大きくなっていった、そして光球の形が次第にドラゴンの形へと姿を変えていくと、光が収まっていき完全にドラコン姿となったアルバの姿が現れた。
「おおお、これは何とも神々しい美しさのドラゴンなのだ。して、アルバ殿はどちらに行かれたのかな?光りと共に姿が見えなくなったのだが。」
そう言ってベルナルドはアルバの姿を探しキョロキョロと辺りを見回していた。そんなベルナルドの様子を見てタケルはガックリと肩を落とした。
「ベルナルドさん、今目の前に居るドラゴンがアルバなんですよ。」
「ハハハハ。タケル殿も冗談がお好きですな、あのお嬢さんがこのように大きなドラゴンの訳」
「本当よ、何言ってるのかしら?」
相変わらずなサビオの言葉を遮るようにアルバが声をあげた。聞き覚えの有る声に反応したベルナルドだが、声の主が見当たらずにまたもキョロキョロとするベルナルドであった。
「もう。ちゃんと見なさい!私はここよ!」
アルバが身振り手振りでベルナルドに向かって声を張り上げる。
「な、なんと・・・いや、まさか・・・」
ベルナルドは未だに信じられないという感じであった、そんなベルナルドを見てアルバは呆れたようで、嘆息し頭を振っていた。
「もう良いわ!信じなくても。」
呆れたようにアルバは言うと、また体が光だし、人の姿になった。人の姿に戻ったアルバはまた全裸になっていた。
「あ、アルバ!さっきの服は?!」
「服?そのまま元の姿になる時に破れちゃった。」
「じゃあ破れた服は?」
「何処かに消えてしまったわね。」
それを聞いたタケルは黙って素材を取り出し、再度ワンピースと靴を作り、もうひとつ魔石を使いネックレスを作った。出来上がったワンピースと靴をアルバに渡し、ネックレスも着けて貰った。
「アルバ、このネックレスを着けていれば、今度元の姿に戻る時に服を脱がなくても破れたりしないからさ。」
「服が伸びるのですか?主。」
「いやいや、違うよ、アルバが変身する時の魔力を感知して服を魔石に収納してくれるんだよ。服は登録すれば何着か登録して収納もしておけるから、好きに着替えも出きるよ。」
タケルはアルバが変身する度に服を作らなくてはいけなくなったら面倒だと思い、変身時に着ている服を魔石に収納出来るようにしたのであった。
「まあ、それは素敵ね。主」
「それとアルバ、その主っての何とかならない?名前で呼んで欲しいんだけど。」
「主がそう望むのならそうするわ。タケル様。」
「様付けはアルミスだけで十分だよ、もう少し軽くても良いよ。」
タケルがそう言うと、アルバは頬に指を当てて少し考えていた。
「じゃあ、タケルさんで良いかしら?」
「うん、それで良いよ。アルバ、改めて宜しく。」
タケルはアルバに手を差し出すと、アルバは両手でタケルの手を包み込み、タケルの目を見て微笑んで首を少し傾けた。
「こちらこそ宜しくお願い致しますわ、タケルさん。」
その姿は非常に可愛らしく、仕草も本当に人間っぽく、タケルは少しドキッとしてしまった。
セーフゾーンに帰ろうと扉を出現させると、ベルナルドがいきなり声をあげた。
「はっ!ドラゴンが人に・・・アルバ殿は本当にドラゴンであったか。」
ベルナルド以外の全員がその場で嘆息し、呆れ返っていた。
「今更かよ!」
「ベルナルド殿」
「・・・・」
「ふふ、面白い人ね。」
微妙な空気のままセーフゾーンの小屋に戻った時、再びベルナルドが声を上げた。
「サビオ殿!髭はどうされたのだ?!」
再び全員が嘆息し、ベルナルドに呆れた声が小屋に響いた。
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