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2章 少年期 1部シーバムの大森林編

9話 ロマン

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遺跡の地下の部屋でヘルハウンドとミノタウロスを倒し財宝の眠る部屋に向かっていたタケルとアルミスは大きく頑丈な部屋の前に立っていた。

「これは・・・今までの結界とは違うな。」

タケルは目の前の扉の向こう側に財宝が眠っているのは判っていた。しかし今までの物とは違う種類の結界が施されていた。

「タケル様。解除するのは難しいのですか?」

扉を前にし、色々調べていたタケルに対しアルミスが心配そうに声を掛けてきた。

「いや、多分難しくはないよ。ただ他と違うから色々確認してただけだよ、例えばホラ、この魔石なんだけど、この魔石によってこの扉を開ける事が出来る人を限定してるみたいだね。ちょっと違うけど俺のセーフゾーンの仕様と似てるよね。1000年も昔にこの技術が確立されていたなんて凄いと思ってね。」

宝物庫の扉は他の結界と違い使用者を限定出来る鍵の役割も果たしていたようで、タケルは自分が作ったシステムと似ている仕様の物を1000年も前に作り上げていたこの国の技術力の高さに感心していた。

「まあ、それでも俺には通用しないけどね。」

タケルは《アンチプロテクション》を発動し、宝物庫の扉の結界を解除した。魔石による使用者限定の仕様も同時にクリアされていた。

「解除出来たよ、アルミス。じゃあ本当のお宝と御対面といこうか。」

「はい、タケル様。一体どんな財宝が眠っているのか楽しみですですね。」

出でよいでよ財宝!」
(なんちゃって。)

タケルはそう言って宝物庫の扉を押すと扉はゆっくりと静に動き開いていった、タケルとアルミスは扉を通り宝物庫の中に入って行くと明かりの魔石を見つけ魔力を流した。

「おおおお!」

「た、タケル様。凄いですね、これは・・・」

タケルは宝物庫の中に沢山の貴金属が有るのはマップの標示で判っては居たが、実際に財宝を目にすると驚きの声をあげた、アルミスも驚いているようだ。
タケルは入ってすぐに有る金貨や白金貨は無視し、奥の方に有る武器や鎧に興味が有り宝物庫の奥へと進んで行った。アルミスも同様でまずは武器を見てみたいようである。武具が集められた一角でタケルとアルミスは幾つか手にとり確かめていた。

聖属性の宝剣

雷、水、その他各属性の剣

様々な鎧

盾も幾つも有る。

この宝物庫の武具を使うヒマが無かったのか。使っても勝てないと覚り結界を張って持ち出されないようにしたのか、何れにしても、宝物庫のなかは様々な物で溢れていた。

「どれも凄いね、アルミス、あ、この剣なんてどう?」

タケルが手にしたのはアルミスがのグラディオと同じバスタードソードで水の属性とグラディオには劣るが各種ステータス補正の有る剣であった。

「悪く無いですね、しかしどれも素晴らしい物で目移りしてしまいますね。」

宝物庫にはアルミスの白雷剣グラディオを越えるような物は無かったが、どれも国宝級以上の物ばかりであった。

「さて、ここで見ていてもキリが無いから一旦全部持って行って、宝物庫を作ってからじっくり考えようか。」

「そうですね、タケル様♪」

アルミスはご機嫌であった。強さを求めるアルミスにとって、様々な武具が手に入る事は嬉しい事なのである、まして今回手に入ったそれらのどれもが国宝級以上だったのであるから、アルミスは終始機嫌が良く、普段は余り動かないアルミスの耳と尻尾が良く動いていた、特に尻尾は外套の上からでも動いているのが判るほど上下していた。

「よし、急いで回収しよう、じゃないと宝物庫と書庫を作る時間が無くなっちゃう。」

タケルとアルミスは前回の財宝同様アルミスが纏めてタケルが回収と手順を繰り返しながら手早く回収して行った、前回よりも最初から箱や容器に予め入っている物が多かったというのもあり、二時間程で全ての財宝を回収し終えた。

「凄い量だったね、アルミス。」

「本当ですね、タケル様。」

タケルは転位魔法を使い一旦宮殿の外に出た、それからセーフゾーンの鍵を使い扉を出現させ、扉の中へと入って行った。

「よし、それじゃあこのまま書庫と宝物庫も作っちゃうかな。あ、書庫は木造でも良いけど宝物庫は石造りの方が良いかな。」

タケルは宝物庫の材質を石にするかどうかで悩み始めた、タケルの考える宝物庫のイメージが堅牢な作りの部屋と頑丈な扉だったからである。そんなタケルを見てアルミスがタケルに話しかけた。

「タケル様、ここはタケル様のセーフゾーンですから、小屋と同じ木造で良いのではないですか?」

「あっ!そっか。そうだよね、アルミス。ここなら木造でも大丈夫だったね。防犯対策必要無いしね。」

先程まで宝物庫は石造りの堅牢な作りじゃないとと思っていたタケルだが、アルミスに言われ小屋と同じ木造にする事にした。

「木造で良いならまだ材料は余ってるし、サクッと作っちゃおう。」

タケルは小屋を作るときに斬り倒した木を庭に並べて《メイクハウス》の魔法を使った。すると小屋を作った時と同様に並べた木が光って消え、タケルがイメージした宝物庫と書庫がボウっと姿を現し、やがて完全に姿を現した。タケルは現れた書庫と宝物庫を、女神の小屋に有った扉の並ぶ廊下のようになるように配置した。

「うん、こんな感じかな。アルミス、中を確認しに行こう。」

「はい、タケル様。」

タケルはアルミスと一緒に新たに設置した宝物庫と書庫の中身を確認しに行くと、既にサビオが書庫の中におり、髭を触りながら中をキョロキョロと見回していた。 

「あ、サビオさん、見に来てたんですね。」

書庫を見渡していたサビオにタケルが声を掛けるとサビオは髭を触りながら振り向いた。

「ほっほっほっ。タケル殿、出来たんだの、もう本を置くのかの?」

「え、ええ。一応棚なんかは多目に作ったんですが、何か不都合でも有りましたか?」

「ほほ。いやそういう訳では無いがの、出来れば少しユッタリと本を読んだり、調べ物をしたり出来る場所が欲しいと思っての。」

どうやらサビオはこの書庫を只の書庫としてではなく、書斎やリビングで寛いで読むような感じのスペースが欲しいらしい。

「成る程、確かにその方が良いですね。イチイチ本を持っていくのも面倒ですからね。かと言ってアイテムボックスに入れたままだと他の人が好きな時に読めませんもんね。」

「ほほ、そうだの、そう思っての。書庫が有るのは素晴らしい事なんだがの。」

「じゃあ、ちょっと作り直しますか。」

そう言ってタケルは《メイクハウス》の魔法を使い書庫のレイアウトを変更し、読書スペースを作った。ロックウールハウンドのウールを使いクッションと絨毯も作りそこで寝転がって本を読めるようにした。
魔法での改装を終えた書庫を確認したサビオは満足そうにし、髭を触りながら笑っていた。

「ほっほっほっ。素晴らしい出来だの。タケル殿、手間を掛けさせたの。」

「いえいえ、大した手間なんか掛かってませんので気にしないで下さい。」

二人のやり取りをそこまで黙って見ていたアルミスがふいにタケル殿に問いかけた。

「タケル様、そう言えば本はどうやって棚に並べるんですか?かなりの量がありましたけど、大変ではありませんか?」

タケルはアルミスのことばに固まってしまった。確かにアルミスの言う通りであった、回収する時はとにかく回収していた、それでもかなりの時間が掛かったのであった、ただ棚に並べるだけならまだしも、種類毎に並べるとなるとかなりの時間が掛かってしまう。タケルは勿論サビオも髭を触りながらどうしたものか悩んでいるようであった。

「誰か雇ってやって貰えれば良いんだけどな、こんな所に人が居る訳無いし・・・」

「私達の他にはサビオ爺とタケル様のゴーレム位しか居ないですしね。」

「ほっほっほっ。確かにそうだの。」

「ハハハ。アルミス、確かにそうだね、ゴーレムじゃ雇えないもんね・・・ゴーレム・・・」

そこでタケルとサビオは顔を見合わせた、そして二人同時に声を上げた。

「ゴーレムだ!」
「ゴーレムだの!」

二人はサビオの作業用ゴーレムを数体召喚すると、その場でアレコレと二人で話ながらゴーレムを弄り始めた。

「ほほほ、なるほどの。しかしこっちの方が・・・」

「あ、そうですね、じゃあここをこうして・・・」

そのやり取りはアルミスを放置し暫く続いた、アルミスはそんな二人を優しい笑顔で見つめていた、何故なら二人とも少年のような顔付きで熱中しており、アルミスはそんな二人のやり取りが好きであったからだ、何より普段は大人びてるタケルだが、こういった時のタケルは年相応の少年らしい表情になるからであった。

「ほほ、ではこんな感じかの。」

「そうですね、後はここをこうすれば。」

段々完成に近づいているようで、二人はゴーレムをウロウロ歩かせたり本を持たせてたりしていた。そして暫くそういったやり取りが続き、暫くしてまたも二人が同時に声を上げた。

「完成だの。」
「完成だ。」

タケルは腕を組んでゴーレムを満足そうに眺め、サビオは髭を触りながらゴーレムをにこやかに見ていた。
 タケルとサビオがゴーレムに施したのは、ゴーレムの体にマジックポーチの機能を付与し、その中に回収した本や文献を
移動させ、ゴーレムに本を並べさせるという機能を付けた、勿論種類別に並べるようにしてある。どこに何を置いたか記憶するようにし、読みたい本をゴーレムに言えば持ってきてくれる、勿論自分で探して読むことも可能である、その際は読み終わった本をゴーレムが戻してくれる。宝物庫に関しても同じような機能を持ったゴーレムに管理させる事にした。
 一通りの説明をアルミスにすると、アルミスは顎に指を当て首を傾げていた。

「タケル様、1つ聞きたいのですが、それならゴーレムが居れば書庫は要らないのでは?」

タケルとサビオはアルミスにそう言われると顔を見合せ、その疑問を予想してたかのように怪しく笑い始めた。

「フッフッフッ。アルミス、これはロマンなんだよ、ゴーレムにこのような機能を付けられるという事、そして、書庫を持つという事、何よりここに本が並んでいれば壮観じゃないか、本を読む時に本に囲まれて居た方がカッコイイじゃないか。」

「カッコイイ・・・ですか、タケル様。」

「ほっほっほっ。アルミス殿、アルミス殿も武器を並べた部屋が有ったら素敵だと思わんかの?」

タケルの話にはピンと来なかったアルミスだが、サビオの話を聞いてアルミスはその場面を思い浮かべて居たのか、暫くすると、ニヤニヤと笑いだした。

「タケル様!判りました、ロマンですね!確かに並べてあった方が良いですね!」

「そうなんだよ、宝物庫に武具を揃えた一角を作るからね。楽しみにしていてよ、アルミス。」

アルミスは満面の笑みを浮かべていた、余程楽しみなのか、耳がピクピクと動き尻尾も上下していた。

三人は宝物庫に移動すると、回収した財宝をゴーレムに渡し、ゴーレムが財宝を棚に並べて行くのを暫く見ていた、問題なく作業が進むのを確認すると、タケルが口を開いた。

「よし、あとはゴーレムに任せておけば大丈夫だね、ちょっと夕食には少し早いしお茶にしようか。」

「はい、タケル様、今日は私が紅茶を淹れますよ。」

アルミスの言葉を聞いたタケルがまた怪しく笑いアルミスに話掛けた。

「フッフッフッ。アルミス、何故ゴーレムが三体居ると思う?あのもう一体のゴーレムはお茶を淹れたり、食事の用意をする為に作ったんだよ、言わばメイドゴーレムなのさ。」

タケルは腕を組んで、ドヤ顔をしていた。
 三人はリビングのテーブルでゴーレムがお茶を淹れるのを待っていた。

「自分で淹れるのも良いけど、ゴーレムにお茶を淹れて貰うのも何だか良いね。」

タケルがそう言うとゴーレムが紅茶の準備を済ませ、リビングに紅茶セットを運んで来た。カップに紅茶を注ぎ3人の前にカップを置いていく。

「さて、じゃあゴーレムが淹れたお茶を飲もうか。」

そう言って3人はカップを手に取り口をつけた。

「・・・・・」

「タケル様・・・」

「ほほ、これは・・・の」

3人は同時にカップを置き、タケルは項垂れてうなだれていた。ゴーレムの淹れた紅茶はぬるく、味もイマイチであった。

「何故だ・・・紅茶の淹れ方は問題無い筈なんだけど・・・」

その後ゴーレムの改良が何度も行われたが、何故か何度やってもゴーレムの淹れた紅茶は美味しくなる事は無く、このメイドゴーレムは使わない事になった。

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